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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第85話 冬季中継所

北方の雪の集落で見つかった氷晶石。


その力は薬草や食料を安全に運ぶだけでなく、補給網中継器にも反応を示した。


第一配送者が最後まで辿り着こうとした理由が、少しずつ明らかになっていく。


しかし、どれほど優れた荷物があっても、届ける道がなければ意味はない。


誠司たちは、北方配送路を「続けられる道」にするため、新たな拠点づくりへ取り掛かる。

冬の朝。


北砦では、薄く積もった雪が朝日を受けて輝いていた。


誠司はトラックのエンジンを暖めながら、荷台を見回す。


今日は配送が目的ではない。


荷台いっぱいに積まれているのは建築資材だった。


丸太。


厚い板。


石材。


断熱用の羊毛。


鉄製の薪ストーブ。


保存食。


そして、氷晶石を二つ。


ガランが荷締めを確認しながら笑う。


「宿でも建てるのか?」


誠司は首を振った。


「宿じゃない。」


「吹雪でも生き残れる場所を作る。」


北方では、それだけで十分価値がある。


北砦を出発し、雪道をゆっくり進む。


途中の目印柱は昨夜の雪で半分ほど埋もれていた。


誠司は止まるたびにスコップで雪を払う。


柱が見えるだけで安心する。


それは自分のためだけではない。


あとから来る旅人のためでもある。


ロウグが帳面へ書き込む。


目印柱 除雪完了 三基


青い線が少しだけ明るくなった。


昼前。


避難小屋へ到着する。


前回補充した薪は減っていた。


代わりに新しい薪が積み直されている。


乾燥肉も増えていた。


机の上には、小さな木札。


助かった。ありがとう。


名前は書いていない。


誠司は嬉しそうに微笑む。


「使われてるな。」


施設は使われて初めて価値が生まれる。


第一配送者の言葉が、少しずつ形になっていた。


避難小屋からさらに一時間。


山道が少し開けた場所へ出る。


風が比較的弱く、雪崩の心配も少ない。


近くには湧き水もある。


誠司は辺りを歩き回る。


地面を踏み固める。


風向きを確かめる。


「ここだ。」


皆も頷いた。


ここなら、北砦と雪の集落のほぼ中間。


万が一吹雪になっても、どちらからでも逃げ込める。


建設が始まる。


まず雪を踏み固める。


その上へ石を敷く。


丸太を組み、壁を立てる。


屋根は急勾配。


雪が積もりにくい形だ。


壁の間には羊毛を詰める。


最後に薪ストーブを据え付ける。


リアが持ってきた耐寒薬草を乾燥棚へ吊るした。


北砦の兵士は水樽を運び込み、ガランが煙突を取り付ける。


誰も指示されなくても、自分の役割を理解して動いていた。


夕方。


小さな建物が完成する。


広さは十人も入ればいっぱいになる。


豪華ではない。


だが暖かい。


誠司はストーブへ火を入れる。


パチッ。


薪が燃え始める。


しばらくすると部屋全体がじんわり暖まった。


皆が思わず息をつく。


「生き返る……。」


ロウグが笑う。


外は氷点下。


だがこの小屋だけは、春のような暖かさだった。


入口へ木札を掛ける。


冬季中継所


その下へ、小さくもう一行。


吹雪の時は遠慮なく使ってください。


ガランが嬉しそうに笑う。


「いい名前だ。」


「満宿みたいに育つといいな。」


誠司も頷いた。


建物は完成した。


だが、本当の始まりはここからだ。


その時。


外から鈴の音が聞こえた。


チリン。


チリン。


雪の向こうから、一台のそりが近づいてくる。


犬によく似た大きな獣が引いていた。


荷台には薪と干し魚。


乗っていたのは、北方集落で会った若者だった。


「ここ……。」


若者は中継所を見ると、驚いた顔になった。


「もう出来たの?」


誠司は笑う。


「今日から使える。」


若者は何度も頭を下げる。


「助かる。」


「吹雪の日、帰れないことがある。」


誠司は扉を開けた。


「中で温まって。」


若者は恐る恐るストーブへ手をかざす。


しばらくすると表情が緩み、小さく笑った。


「暖かい。」


その笑顔だけで、建てた価値は十分だった。


帰り際、若者はそりから小さな木箱を下ろした。


「これ。」


中には乾燥させた白身魚がぎっしり入っている。


「お礼。」


誠司は一箱だけ受け取った。


「全部はいらない。」


「残りは集落で食べて。」


若者は驚いたあと、大きく笑った。


「赤い荷車。」


「本当に同じだ。」


「昔の人もそう言った。」


誠司は少し照れくさそうに笑う。


第一配送者も、必要以上には受け取らなかったのだろう。


夜。


東補給庫へ戻る。


補給網中継器がゆっくりと光る。


カチ……。


カチ……。


帳面へ新しい表示が浮かぶ。


冬季中継所 登録完了


北方配送路 安全度向上


補給網中継器 稼働率 52%


「半分を越えた。」


ロウグが静かに呟く。


誠司は数字を見つめる。


ここまで来るのに、たくさんの人と出会った。


西の井戸。


東の風車。


南の雨。


北の雪。


その全部が、この数字へ繋がっている。


その時。


中継器の青い光が氷晶石へ流れ込む。


部屋が一瞬だけ明るくなった。


帳面へ、新しい文字。


補給網中枢 位置を特定中……


進行率 12%


「中枢?」


誠司は眉をひそめる。


今まで出てこなかった言葉だ。


第一配送者が探していたものなのか。


それとも、さらに昔から存在する何かなのか。


まだ答えは出ない。


その夜。


第一配送者の記録が浮かぶ。


私は補給庫を作った。


でも、本当に守りたかったのは、


補給庫ではない。


帰れる場所だった。


どんな吹雪でも、


「あそこまで行けば大丈夫」


そう思える場所が一つあるだけで、


人は前へ進める。


配送屋は、


荷物だけじゃなく、


安心も運ぶ仕事なんだ。


誠司は静かに帳面を閉じた。


冬季中継所には、今日もう人が立ち寄った。


明日は別の旅人が来るかもしれない。


やがて薪を足し、水を補充し、次の誰かを助けるだろう。


そうして道は育っていく。


物流もまた、人の手で育っていくのだ。

第85話では、北方配送路の要となる冬季中継所が完成しました。


これまでの「満宿」「給水所」「東補給庫」「南休所」と同じく、今度は雪国で人々を守る拠点が生まれます。


また、補給網中継器の稼働率が**52%となり、新たに「補給網中枢」**という存在が示されました。


次回、第86話では、北方集落に残されていた第一配送者の古い荷車小屋から、「補給網中枢」へ繋がる地図の断片が発見され、物語はついに配送網誕生の秘密へ近づいていきます。

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