↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/97

第84話 氷晶石の保冷便

北方第一便は無事に雪の集落へ届いた。

そこで誠司が受け取ったのは、冷たさを保つ不思議な石――氷晶石。

その小さな結晶は、満タン便の物流をまた一つ変える可能性を秘めていた。

翌朝。


雪の集落は、白い静けさに包まれていた。


夜の間にさらに雪が積もり、トラックの屋根にも厚い白が乗っている。


誠司はまず雪下ろしから始めた。


北方では、出発前の点検が今まで以上に大切になる。


屋根の雪。


タイヤ周り。


チェーン。


荷台の扉。


ひとつ確認を怠れば、帰り道で動けなくなる。


「寒いな……。」


吐く息が白い。


ロウグは厚い毛皮をまとい、震えながら笑った。


「南方が恋しいです。」


「極端すぎるんだよ、この世界。」


そう言いながら、誠司は荷台を開けた。


そこには、昨日受け取った氷晶石の小箱が置かれている。


青白い透明な石。


触れると、手のひらにひんやりとした冷気が伝わる。


冷たい。


だが氷のように溶けない。


帳面を開くと、文字が浮かんだ。


氷晶石


冷却素材


保冷区画との相性あり


「やっぱりか。」


保冷区画はこれまでも薬や魚を運ぶのに役立ってきた。


だが容量は小さい。


もし氷晶石を使えば、普通の木箱でも簡易保冷ができるかもしれない。


集落の長老が近づいてきた。


「昔、赤い荷車の人も、それを大切にしていた。」


ロウグが訳す。


誠司は顔を上げた。


「第一配送者も?」


長老は頷く。


「雪の薬を南へ運びたい、と言っていた。」


雪の薬。


つまり、寒冷地で採れる薬草や鉱石を、南や水車町まで品質を保って運ぶ計画があったのだろう。


誠司は小箱を見つめた。


北方は、ただ支援を受けるだけの場所ではない。


北方からも、必要な物を送り出せる。


それが本当の物流だった。


その日の午前。


誠司は氷晶石を使った保冷試験を始めた。


まず木箱の底に布を敷く。


その上に氷晶石を置く。


さらに薄い板で仕切りを作り、直接荷物へ触れないようにする。


その中へ、北方の薬草を入れる。


長老が持ってきた白銀色の葉だった。


熱に弱く、暖かい場所へ持っていくとすぐ香りが飛んでしまうらしい。


「これが南方の薬師に届けば、強い熱冷ましになる。」


リアの顔が思い浮かぶ。


南方の薬草と北方の薬草。


それが水車町で合わされば、新しい薬ができるかもしれない。


ロウグが記録を書く。


氷晶石保冷箱 一号


誠司は頷いた。


「まず水車町まで持つか試す。」


帰路は慎重だった。


雪道を下る方が難しい。


登る時より滑る。


ブレーキを踏みすぎない。


速度を落とす。


目印柱を確認する。


途中の避難小屋で一度休憩を取る。


中には、昨日補充した薪がそのまま残っていた。


代わりに、誰かが乾燥肉を一切れ置いていた。


使った礼なのかもしれない。


誠司は微笑み、帳面へ書く。


避難小屋 相互利用確認


施設は使われ始めている。


それが嬉しかった。


北砦に着く頃には、夕方近かった。


カイルが保冷箱を覗き込み、驚いた顔をする。


「冷たい。まだ冷たい。」


誠司も確認する。


薬草の香りは残っていた。


氷晶石も冷たいまま。


「いけるな。」


北砦の薬師が白銀葉を少し受け取り、目を輝かせた。


「高熱の兵に使えるかもしれない、と言っています。」


少量だけ置いていく。


残りは水車町へ。


これも分割配送だ。


全部を一度に渡さない。


まず試す。


水車町へ戻ると、薬師リーナが待っていた。


氷晶石保冷箱を開けた瞬間、冷気がふわりと漏れる。


リーナは目を丸くした。


「これは……。」


白銀葉を手に取り、香りを確かめる。


「使えます。」


その一言で、誠司は大きく息を吐いた。


北方から水車町まで、品質を保って薬草を運べた。


それは大きな一歩だった。


帳面が光る。


氷晶石保冷便 成功


北方薬草輸送 可能


保冷物流 拡張


さらに、保冷区画の横が淡く光る。


荷台の奥から、また小さな音がした。


カチリ。


誠司は嫌な予感と期待が混ざった顔で荷台を開ける。


保冷区画の隣に、新しい金具が現れていた。


氷晶石を固定するための受け皿のようだった。


帳面に文字が浮かぶ。


保冷補助枠 解放


「また増えたな……。」


ロウグは楽しそうに笑う。


「便利になりますね。」


「便利になるほど、規則が増える。」


誠司はすぐ帳面に書いた。


氷晶石保冷便は医療・食品優先。贅沢品の冷却輸送は禁止。


文字は静かに染み込んだ。


リーナが笑う。


「誠司さんらしいです。」


その夜。


北方集落から持ち帰った氷晶石の一つを、東補給庫の中継器へ近づけた。


すると中継器の光が強くなる。


カチ……。


カチン。


帳面に新しい文字が浮かぶ。


氷晶石反応確認


補給網中継器 稼働率 48%


一気に上がった。


誠司は目を見開く。


「氷晶石が中継器にも関係してるのか。」


ロウグも真剣な顔になる。


「補給網の素材かもしれません。」


第一配送者が北方を重要視していた理由が、少し見えた。


北方は寒いだけの場所ではない。


補給網そのものを支える素材を持っている。


だから最後まで繋ぎたかったのかもしれない。


その時、帳面に第一配送者の記録が浮かんだ。


北へ行きたかった理由は、


人を助けるためだけではなかった。


氷晶石があれば、


補給網を安定させられる。


そう信じていた。


でも私は辿り着くのが遅すぎた。


雪は待ってくれなかった。


誠司は静かにページを見つめた。


第一配送者は、補給網を直そうとしていた。


ただ配送を続けるだけではなく、満タンになる仕組みそのものを安定させようとしていたのだ。


翌朝。


荷台はいつものように満タンだった。


だが保冷区画の横には、氷晶石を固定する新しい枠がある。


そこに青白い石を一つはめ込むと、荷台の空気が少しだけ澄んだ。


帳面には新しい配送分類が浮かんでいた。


氷晶石保冷便


そして、その下。


北方定期便 準備段階


誠司はハンドルを握る。


北方は遠い。


雪も危険だ。


けれど、そこには待つ人がいて、世界を巡らせる素材がある。


満タン便は今日も走る。


冷たさを運び、温かな暮らしを支えるために。

第84話では、北方の特産品氷晶石を使った保冷便が成功しました。


これにより、医療品や食品の輸送範囲が大きく広がります。


また氷晶石が補給網中継器にも反応し、第一配送者が北方へ向かおうとした理由が明らかになり始めました。


次回は、北方定期便の準備と、雪道で安全に往復するための冬季中継所作りに進みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。