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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第77話 受け継がれた満タン便

東補給庫で見つかった「補給網中継器」。


二十八年の時を越えてなお動き続ける、不思議な装置。


そして、その中継器が示した新たな行き先――南方配送路。


だが誠司は、すぐには南へ向かわなかった。


西方で学び、東方で確かめたように、物流とは新しい道へ急ぐことではない。


今ある道を、続けられる道にすること。


その仕事が、まだ残っていた。

東補給庫から戻って三日後。


風見の村では、大きな風車が今日もゆっくりと回っていた。


ギィ……。


ギィ……。


その音は、もう村の暮らしの一部になっている。


水路には水が流れ、小さな畑には若い芽が顔を出していた。


誠司は井戸の縁へ腰を掛け、その様子を眺める。


「戻ってきたな。」


ロウグも微笑んだ。


「ええ。」


「今度は本当に村ですね。」


村長の娘が、新しい帳面を持ってやって来た。


表紙には丁寧な文字で書かれている。


風見村 風車点検帳


誠司は嬉しそうにページをめくる。


一日目。


羽根点検。


異常なし。


二日目。


軸へ注油。


異常なし。


三日目。


水路清掃。


異常なし。


「いい帳面ですね。」


村長の娘は少し照れたように笑った。


「父の真似です。」


第一配送者が残した管理帳簿。


その文化は、ちゃんと受け継がれ始めていた。


その日の午後。


誠司は東補給庫へもう一度足を運んだ。


今度は配送ではない。


棚卸しだった。


工具の数。


保存食の期限。


樽の状態。


帳簿へ一つずつ書き込んでいく。


ガランは工具を磨き、


エレナは古い地図を整理し、


ロウグは木箱へ新しい札を書き直す。


誰も派手なことはしない。


だが、それが補給庫を生かす仕事だった。


奥の棚で、誠司は一つの木箱を見つけた。


蓋にはこう書かれている。


貸出用工具


開けてみる。


中には、


鋸。


金槌。


鉋。


釘抜き。


どれも一本ずつしか入っていない。


帳簿には説明があった。


必要な村へ貸し出すこと。


返却されたら整備すること。


返せない事情があれば責めないこと。


誠司は思わず笑った。


「返せない事情があれば、か。」


西方でもそうだった。


壊れた荷車。


割れた水瓶。


返せない時もある。


責めるより、次を考える。


それが物流だった。


その時、風見の村の若者が補給庫へやって来た。


「お願いがあります。」


抱えていたのは、昨日折れてしまった鍬だった。


「借りてもいいですか。」


誠司は貸出帳を開いた。


名前。


日付。


工具名。


返却予定。


全部書いてから、鍬を渡す。


若者は何度も頭を下げた。


「ありがとうございます。」


「返します。」


誠司は笑う。


「慌てなくていい。」


「畑を優先して。」


若者は驚いた顔をした。


「いいんですか?」


「畑ができなきゃ、返す物も育たないからな。」


その言葉に、若者は大きく頷いた。


夕方。


帳面が静かに光った。


東補給庫


貸出機能 再開


地域支援 開始


誠司は数字ではなく、その一文を見つめた。


補給庫は倉庫ではない。


困った時に助け合う場所。


だから「補給」なのだ。


帰り道。


風見の村の子どもたちが、赤いトラックを囲んでいた。


「おじさん!」


「今日は何を運んだの?」


誠司は少し考えて答えた。


「今日は……。」


荷台を振り返る。


工具は減っている。


保存食は少し残っている。


新しい荷物は積んでいない。


「信用かな。」


子どもたちは首を傾げる。


「信用?」


「工具を貸したんだ。」


「返してくれるって信じて。」


「だから、また次の人にも貸せる。」


子どもたちは顔を見合わせる。


やがて一人が笑った。


「それも荷物なんだ!」


誠司も笑う。


「ああ。」


「一番大事な荷物かもしれない。」


夜。


東補給庫の管理室で、補給網中継器が静かに明滅していた。


カチ……。


カチ……。


昨日より、ほんの少しだけ光が強くなっている。


帳面へ新しい表示が現れた。


補給網中継器


稼働率 21%


南方配送路との同期 進行中


ロウグが驚いた。


「上がっています。」


「補給庫を動かしたからか。」


誠司は頷いた。


使われなかった施設は眠る。


使い始めれば、また息を吹き返す。


それは人も、町も、配送網も同じだった。


その夜。


第一配送者の記録が現れる。


補給庫は、


荷物を置く場所ではない。


「困ったらここへ行こう」と思える場所だ。


私が残したかったのは建物じゃない。


安心して頼れる場所だった。


だから、どうか。


補給庫を守るのではなく、


補給庫を使い続けてほしい。


誠司はゆっくりと帳面を閉じた。


「使い続ける、か。」


西の給水所も。


東の補給庫も。


誰かが毎日使ってこそ意味がある。


それが第一配送者の願いだった。


翌朝。


いつものようにトラックの荷台は満タンだった。


飲み物も。


ガソリンも。


そして今日は、新しい荷物が一つ増えていた。


貸出用工具箱 二箱。


東補給庫だけでは足りない。


風見の村にも、小さな貸出所を作ろう。


そうすれば、人は補給庫まで来なくても助け合える。


物流は物を運ぶだけではない。


仕組みを広げることでもある。


朝日に照らされた赤いトラックは、風車の回る村をゆっくりと走り抜け、新しい一日の配送へ向かって走り出した。

第77話では、東補給庫を「発見する場所」から「使われる場所」へ変えていく様子を描きました。


第一配送者が残したのは、物資そのものではなく、「助け合いが続く仕組み」でした。


そして補給網中継器の稼働率が上昇し、南方配送路との同期が始まります。


次回、第78話では、中継器が発する信号をたどり、誠司たちは初めて南方配送路へ続く古い分岐路を発見します。新たな土地への旅は、まず「失われた道」を見つけるところから始まります。

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