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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第59話 砂嵐の前に運ぶもの

西方街道の入口に、中継宿「満宿」の建設が始まった。

各地の人々が協力し、帰る場所が少しずつ形になっていく。

だが西の空から、雨季とは違う災害が近づいていた。

満宿の屋根組みが始まった日の朝、西の空は黄色く霞んでいた。


田村誠司はトラックの荷台から木材を下ろしながら、遠くの空を見つめた。


「……雲じゃないな」


ロウグも目を細める。


「砂です」


ガランが太い腕を組み、低く唸った。


「砂嵐が来る」


その言葉で、現場の空気が変わった。


雨なら、屋根をかける。


風なら、荷を縛る。


だが砂嵐は違う。


視界を奪い、喉を焼き、隙間という隙間へ入り込む。


西方乾燥地帯の洗礼だった。


誠司はすぐ帳面を開いた。


砂嵐接近


推奨:作業中断、資材固定、避難場所確保


「建設は止める」


反対する者はいなかった。


まず運ぶべきものは、完成を急ぐ資材ではない。


人を守る道具だった。


満タン便は荷台の積み替えを始めた。


水。


布。


油布。


ロープ。


目印札。


薬。


冷たい飲み物。


そして、作業員全員分の簡易覆い。


森の民が持ってきた蔓で資材を固定し、ガランたちは柱を補強する。


北砦の兵士は、作業員の人数を確認した。


リーベル商会は食料を屋内予定地へ運び込む。


まだ壁のない満宿だったが、石積みの内側だけでも風を避けられる。


誠司は入口に大きな札を立てた。


砂嵐時、外出禁止


ミナが絵を描く。


目を覆う人。


飛ぶ砂。


戻る矢印。


文字が読めない者にも分かるように。


昼前、風が変わった。


乾いた熱い風が、地面の砂を舐めるように流れ始める。


空がさらに黄色くなる。


「来るぞ!」


ガランの声で、全員が満宿の石囲いへ入った。


誠司は最後にトラックを風上へ向けて停めた。


車体を壁代わりにする。


エンジンを切り、窓を閉める。


荷台も閉める。


それでも砂は細かな隙間から入り込もうとする。


数分後、世界が消えた。


視界は黄色。


風の音が耳を叩く。


砂がトラックの外板を削るように鳴る。


満宿の中では、皆が布で口元を覆っていた。


子どもはいない。


だが若い作業員の一人が怖がって震えている。


誠司は水を小さな杯に注ぎ、順番に渡した。


一気に飲ませない。


少しずつ。


喉を湿らせるためだ。


ロウグが小声で言う。


「雨季とは逆ですね」


「ああ」


「水があるからって、飲ませすぎても駄目だ」


水は満タン便にある。


だが、砂嵐の最中に取りに出ることはできない。


手元に置いた分だけで乗り切る。


だから配り方も大事になる。


数時間、風は止まなかった。


その間、誠司は帳面に記録をつけた。


砂嵐発生時刻。


風向き。


避難人数。


消費した水。


不足した布。


固定が甘かった資材。


次に備えるためだ。


夕方近く。


ようやく風が弱まった。


外へ出ると、満宿の周囲は別の場所のようになっていた。


砂が積もり、道の跡が消えている。


資材の一部は砂に埋まり、立てた札も半分倒れていた。


だが人は無事だった。


それが何より大きい。


ガランが柱を確認する。


「残ってる」


森の民が蔓の結び目を見て頷く。


リーベルの荷役が食料袋を数える。


北砦兵が人数確認を終える。


誰も欠けていない。


誠司は深く息を吐いた。


「よし」


帳面が光る。


砂嵐初期対応:成功


満宿:避難機能確認


さらに、新しい項目が浮かぶ。


砂嵐対策備品リスト作成推奨


誠司はすぐに書いた。


水の備蓄。


口布。


目印柱。


風向き札。


資材固定具。


砂掻き道具。


そして、トラックを風よけに使う配置図。


「宿は泊まるだけじゃない」


ロウグが言った。


「災害時の避難所でもある」


誠司は頷いた。


満宿は、まだ完成していない。


それでも今日、人を守った。


夜、水車町へ戻ると、荷台の隙間から細かな砂が出てきた。


誠司はそれを見て苦笑する。


「砂漠仕様も考えないとな」


第一配送者の記録が浮かんだ。


私は砂を甘く見た。

水を積めば行けると思った。

だが砂は道を消し、目印を奪い、帰る方向を曖昧にした。

砂漠で最初に運ぶべきものは、水ではなく、帰るための印だった。


誠司はページを閉じた。


翌朝。


満宿へ向かう荷物は、昨日までと変わっていた。


木材より先に、目印柱。


飲み物より先に、口布。


建設資材より先に、避難備品。


西への道は、ただ遠いだけではない。


天気そのものが敵になる道だった。


それでも満タン便は走る。


急がず、記録し、備えながら。


砂嵐のあとに残った道を、もう一度見つけるために。

第59話では、西方乾燥地帯ならではの砂嵐を描きました。

満宿は完成前に避難所として機能し、今後の砂漠配送に必要な対策が見えてきました。

次回は、砂で消えた旧街道に「帰るための印」を立てていきます。

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