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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第53話 第一配送網の地図

第一配送者が残した「最初の配送記録」。


そこには失敗ではなく、異世界で初めて人へ荷物を届けた日の喜びが綴られていました。


そして翌朝、帳面はさらに新しい秘密を見せ始めます。


それは、第一配送者が築こうとしていた"配送網"そのものでした。

翌朝。


水車町は穏やかな朝を迎えていた。


パン屋から焼きたての香りが流れ、川沿いでは子どもたちが水遊びをしている。


長かった雨季が終わり、人々の表情にも少し余裕が戻っていた。


田村誠司は、いつものように荷台を確認する。


缶飲料は満タン。


ペットボトルも満タン。


ガソリンも満タン。


そして荷台の隅には、第一配送者の名札が丁寧に布へ包まれて置かれていた。


「今日も頼むぞ。」


トラックのダッシュボードを軽く叩く。


エンジンが静かに唸った。


その時だった。


帳面が、これまでよりも強い光を放ち始めた。


誠司は慌ててページを開く。


すると文字ではなく、一枚の地図が浮かび上がった。


「……地図?」


ロウグも身を乗り出す。


「これは今まで見たことがありません。」


地図には現在の配送路が青い線で描かれている。


水車町。


北砦。


リーベル。


山の集落。


川下漁村。


西方大森林。


それらを結ぶ道。


しかし、そのさらに外側に、薄い銀色の線がいくつも描かれていた。


まだ繋がっていない道。


帳面には文字が現れる。


第一配送網


復元率 31%


「三十一……?」


誠司は思わず声を漏らした。


今まで作ってきた配送路は、全体の三割ほどしかなかったのだ。


ロウグも驚きを隠せない。


「まだ、こんなに残っているのですか……。」


銀色の線は遠くまで続いていた。


西の砂漠。


南の湿地。


東の高原。


そして北の雪山。


まだ見ぬ土地が、この世界には数多く存在していた。


誠司は静かに息を吐く。


「広いな……。」


その時、地図の西側が淡く光った。


新しい文字が浮かぶ。


未接続地域反応確認


西方乾燥地帯


配送途絶推定 二十八年


「二十八年……。」


第一配送者が姿を消してから、それだけの時間が流れているということなのだろう。


その地域では、長い間配送そのものが途絶えている。


荷物だけではない。


情報も。


人の交流も。


帳面はさらに続ける。


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誠司は地図を見つめた。


未知の土地。


未知の人々。


そして、二十八年間忘れられていた配送路。


胸が少しだけ高鳴る。


だが同時に、不安もあった。


今ある配送網ですら、ようやく安定したばかりだ。


新しい土地へ向かけば、現在の配送に影響が出るかもしれない。


「焦る必要はない。」


誠司は自分へ言い聞かせるように呟いた。


「まずは今の道を守る。」


ロウグは微笑んだ。


「あなたらしい答えです。」


その日の配送は通常便だった。


北砦へ包帯。


漁村へ保存瓶。


山の集落へ布。


西方大森林へ薬草。


どれも特別な荷物ではない。


だが、それぞれの町では人々が満タン便を待っていた。


北砦ではカイルが笑顔で迎える。


「今日は橋、大丈夫。」


「本格補修も順調だ。」


漁村では干物の出来が良く、子どもたちが元気に走り回っている。


山の集落では保存食作りが進み、冬への備えが始まっていた。


森では泉の水が以前より澄んでいた。


年長の女性が静かに頷く。


大きな言葉はない。


だが、その表情だけで十分だった。


水車町へ戻る途中。


誠司はふと気付く。


以前は毎日どこかで問題が起きていた。


橋。


雨。


盗難。


誤配送。


灰牙狼。


今日は違う。


何事もなく、一日が終わろうとしている。


「普通の日だな。」


ロウグが笑う。


「それが一番難しいのですよ。」


誠司も笑った。


本当にそうだった。


普通の日を守るために、これだけ多くの仕組みを作ってきたのだから。


夕方。


受付所へ戻ると、ミナが帳面を見つめていた。


銀色の線。


まだ繋がっていない配送路。


彼女はその一本を指差す。


西方乾燥地帯。


「行く?」


誠司は少し考えた。


そして首を横に振る。


「まだだ。」


「今は行かない。」


ミナは少し残念そうだったが、すぐ頷いた。


焦らない。


それも満タン便の規則だった。


夜。


帳面に第一配送者の記録が浮かぶ。


私は、新しい道ばかり作った。


振り返らなかった。


だから、最初の道から壊れていった。


新しい道は希望だ。


だが、続いている道は約束だ。


誠司は静かにページを閉じた。


新しい道へ行きたい。


その気持ちはある。


だが今は違う。


今ある道を守る。


それができて初めて、次の一歩を踏み出せる。


翌朝。


帳面には新しい予定が表示されていた。


仮橋 本復旧完了予定 三日後


第一配送網復元率 31%


その下には、小さな文字が一行だけ追加されていた。


新規配送路は、既存配送路が安定してから。


誠司は小さく笑う。


「帳面まで同じことを言うようになったな。」


ロウグも笑った。


「第一配送者も、最後にそれを学んだのでしょう。」


誠司はエンジンを始動する。


今日も荷台は満タン。


ガソリンも満タン。


そして、目の前には守るべき道がある。


その先には、まだ見ぬ世界が広がっている。


だが、急がない。


満タン便は今日も、一本一本の道を確かめるように、ゆっくりと異世界を走り始めた。

第53話では、「第一配送網」の全体地図が初めて明らかになりました。


しかし誠司はすぐに新天地へ向かうのではなく、「今ある道を守る」という選択をします。


次回はいよいよ仮橋本復旧完了。雨季を乗り越えた配送網が、新たな節目を迎えます。

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