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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第52話 最初の配送記録

仮橋の橋脚から見つかった「第一配送者」の名札。

それに呼応するように、不思議な帳面には新たな記録が現れ始めた。

それは失敗の記録ではなく、すべてが始まった「最初の一日」の記録だった。

翌朝。


水車町は澄み切った青空に包まれていた。


長く続いた雨季が終わり、町中では洗濯物が風に揺れている。


市場にも人が戻り、露店からは焼きたてのパンの香りが漂っていた。


田村誠司は、いつものようにトラックの荷台を開く。


缶飲料も、ペットボトルも満タン。


ガソリンも満タン。


荷台の隅には、昨日橋で見つかった真鍮の名札が布に包まれて置かれている。


誠司は名札を手に取り、小さく呟いた。


「……あんたは、どんな人だったんだ。」


その瞬間だった。


帳面が淡い金色に光り始める。


今まで見たことのない優しい光だった。


ページが風もないのにゆっくりとめくられていく。


そして、一番古いページが開いた。


そこに浮かんだ文字を見て、誠司は息を呑んだ。


第一配送記録


「第一配送記録……?」


今までは失敗や後悔ばかりだった。


しかし今回は違う。


まるで日記のような文章が現れていた。


今日、私は知らない空の下で目を覚ました。


トラックは動いた。


荷台には、昨日積み込んだ飲み物がそのまま残っていた。


水を欲しがる人に一本渡した。


ありがとう、と笑われた。


その笑顔が嬉しかった。


誠司は思わずページを撫でる。


第一配送者も、自分と同じだった。


最初は何も分からなかった。


ただ困っている人へ飲み物を渡しただけだった。


ページはさらに続く。


この世界の金は持っていない。


だから代わりに木の実をもらった。


売るつもりはなかった。


でも、その木の実を欲しい人がいた。


荷物は、人から人へ渡るだけで価値になると知った。


誠司は静かに笑った。


「物流だ。」


物を運ぶだけではない。


必要な人へ届ける。


それだけで価値が生まれる。


今、自分がやっていることと同じだった。


ロウグもページを覗き込む。


「最初は商売ではなかったのですね。」


「助け合いから始まった。」


「だから道が生まれた。」


その言葉に誠司は頷いた。


帳面はさらに光る。


新しい文章が現れる。


今日、一人の子どもが荷台を見て笑った。


『明日も来る?』


私は軽く頷いた。


あの約束の重さを、その時は知らなかった。


誠司はページを閉じられなかった。


「明日も来る。」


その一言。


配送の仕事では、当たり前の言葉だ。


だが待つ人にとっては、暮らしそのものだった。


毎朝満タンになるトラック。


毎日来てくれる配送屋。


その約束があるから、人は安心して暮らせる。


だから第一配送者は、一人で無理をしたのだろう。


約束を守りたかったから。


その日の仕事は、滞留荷の整理だった。


雨季の間に止まっていた荷物を各地へ運ぶ。


リーベルへ香辛料。


鍛冶町へ鉄材。


漁村へ保存瓶。


山の集落へ布。


森へ薬師確認済み薬草。


荷台には、いつもの余白もある。


「行こう。」


誠司はエンジンをかけた。


今日は特別な配送ではない。


普通便。


だが、その普通が何より大切だった。


最初に向かったのは山の集落だった。


崩落していた道は完全に補修され、以前より走りやすくなっている。


山道連絡箱には新しい札が入っていた。


塩受領。保存食完成。感謝。


さらに、小さな袋も置かれていた。


中には乾燥させた山菜が入っている。


対価だった。


誠司は帳面へ受領を書き込む。


すると地図の山道が淡く光った。


第一配送路 信頼度上昇


「信頼度?」


初めて見る表示だった。


ロウグも首を傾げる。


「道そのものではなく、人との繋がりを示しているのでしょう。」


「そんなことまで分かるのか。」


帳面は、ただの記録帳ではない。


道そのものを見ているようだった。


次は漁村。


干物作りが始まっていた。


雨季中に覚えた保存方法のおかげで、以前より廃棄が減ったらしい。


漁師たちは笑顔で迎えてくれた。


「今年は魚を無駄にしなかった。」


ロウグが訳す。


誠司は心から嬉しかった。


配送だけが生活を支えるのではない。


配送をきっかけに、人々も工夫する。


それが本当の豊かさなのだ。


北砦では、中継所の新しい灯が夜でも遠くから見えるようになっていた。


兵士たちは交代で点検をしている。


「毎日確認する。」


カイルはそう言って胸を張った。


以前なら満タン便任せだった仕事を、自分たちで守るようになったのだ。


最後は西方大森林。


森入口受渡所では、子どもたちが木の器で冷たい水を飲んでいた。


以前届けた器だった。


一人の子どもが誠司へ小さな花を差し出す。


ミナが笑う。


「ありがとう、って。」


誠司は少し照れながら受け取った。


その瞬間、帳面がまた光る。


配送理念更新


道とは、荷物だけでなく安心を届けるものである。


その一文を見た誠司は、思わず空を見上げた。


第一配送者も、この景色を見ただろうか。


同じように、子どもの笑顔を見ていたのだろうか。


夜。


水車町へ戻ると、帳面が最後のページを開いた。


そこには短い文章だけが浮かんでいた。


私は失敗した。


でも最初は、ちゃんと笑えていた。


どうか忘れないでほしい。


道は義務から始まったのではない。


誰かが「ありがとう」と笑った、その一日から始まったのだ。


誠司は静かに帳面を閉じた。


失敗だけを見ていてはいけない。


始まりも忘れてはいけない。


満タン便が走る理由は、義務ではない。


笑顔を届けるためだった。


翌朝。


荷台はいつものように満タンだった。


ガソリンも満タン。


そして誠司の心にも、一つ新しい言葉が増えていた。


「また明日、来ます。」


その約束を守るために。


今日も満タン便は、ゆっくりと異世界の道を走り始めた。

第52話では、第一配送者の「最初の配送記録」が明かされました。


これまでの後悔だけでなく、配送を始めた頃の純粋な喜びが描かれ、物語は新たな段階へ入ります。


次回からは新章「第一配送網編」が始まります。第一配送者が築きかけて途絶えた配送網の全貌が、少しずつ明らかになっていきます。

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