第54話 橋を渡る日
第一配送網の地図が明らかになったものの、誠司は新天地へ急がず、今ある道を守ることを選んだ。
そしてついに、雨季の間ずっと制限されていた仮橋が、本復旧の日を迎える。
仮橋の本復旧が終わる日、水車町は朝から少し浮き立っていた。
リーベル方面への道が戻る。
それは商人だけでなく、町の職人、薬師、漁師、砦の兵士にとっても大きな意味を持っていた。
田村誠司は、荷台の前で帳面を開く。
仮橋本復旧:最終確認
大型通行試験:満タン便通行予定
「俺で試すのか……」
ロウグが笑う。
「一番重く、一番大事な車ですから。」
誠司は苦笑した。
荷台には最低限の荷物だけ。
水、工具、補修用ロープ。
余計な荷は積まない。
橋を試す日だからだ。
仮橋には、すでに多くの人が集まっていた。
ガランが橋脚を叩いて確認する。
水車町の大工が板の隙間を見る。
北砦の兵士が両岸に立つ。
リーベル商会のエレナも来ていた。
森の民は少し離れた木陰から見守っている。
ガランが誠司へ向かって頷いた。
「行け。」
ロウグが訳す前に、意味は分かった。
誠司は運転席に乗り込む。
エンジンをかける。
橋の前で一度止まり、深く息を吸った。
「満タン便、通行試験開始。」
トラックがゆっくり橋へ乗る。
木材が低く軋む。
だが嫌な音ではない。
橋が重さを受け止める音だった。
一メートル。
三メートル。
橋の中央。
誰も声を出さない。
誠司はアクセルを踏み込まない。
一定の速度で、ゆっくり進む。
そして。
トラックは対岸へ渡り切った。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、大きな歓声が上がった。
誠司はハンドルに手を置いたまま、静かに息を吐いた。
「戻ったな。」
ロウグが隣で微笑む。
「ええ。道が戻りました。」
帳面が光る。
仮橋本復旧完了
リーベル方面大型通行再開
第五配送路 安定化
さらに表示が続く。
第一配送網復元率 34%
誠司は少し笑った。
たった三%。
だが、その三%の重みを彼は知っている。
雨季を越え、止め、分け、知らせ、橋を守って得た三%だった。
その日、満タン便は橋を何度も往復した。
ただし、すぐに大量輸送へ戻さない。
最初は軽荷。
次に中量。
最後に通常量。
段階的に戻す。
エレナもリーベル商会の者たちへ命じた。
「一度に押し寄せないこと。」
誠司はそれを聞いて、少し安心した。
この道は、皆で学んだ道だ。
夕方。
橋のたもとに新しい看板が立った。
リーベル橋
その下に、小さな文字。
雨季は受渡方式へ切替
誠司は看板を見て頷いた。
忘れないための看板だ。
晴れの日のためだけではなく、次の雨の日のために橋はある。
夜。
水車町へ戻ると、帳面に第一配送者の記録が浮かんだ。
橋は渡るためだけにあるのではない。
止まる判断を残すためにもある。
次に渡る者が、同じ失敗をしないように。
誠司は静かにページを閉じた。
翌朝。
受付所にはリーベル行きの荷が並んでいた。
だが列は整っていた。
優先札。
分割札。
遅延札。
全部が機能している。
誠司は運転席に乗り込み、エンジンをかける。
橋は戻った。
けれど、急がない。
満タン便は今日も、守れる速度で走る。
第54話では、リーベル方面の橋が本復旧しました。
雨季で学んだ運行制限は、看板と規則として残ります。
次回は、橋の復旧を祝う小さな市と、各地の人々が初めて一堂に会する回です。




