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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第5話 商人、第一配送路を買いに来る

三つの村を結ぶ第一配送路が動き始めた。

そこへ現れたのは、荷馬車を連れた商人。

彼が欲しがったのは飲み物ではなく、誠司が作り始めた「道」そのものだった。

商人は、よく笑う男だった。


年は四十前後。


小綺麗な外套を着て、腰には革袋をいくつも下げている。


馬車の荷台には、大きな樽と木箱。


護衛らしき男が二人、少し離れて立っていた。


村人たちは警戒している。


誠司も、すぐには近づかなかった。


商人は胸に手を当て、丁寧に頭を下げる。


そして、片言の共通語で言った。


「あなた、鉄の車。冷たい水。速い運び手」


誠司は眉を動かした。


話が早い。


つまり、この男は噂を聞いて来たのだ。


「商人か?」


男はにこりと笑う。


「はい。名はロウグ。塩、布、油、酒、薬、何でも運ぶ」


ロウグと名乗った商人は、トラックを見上げる。


その目は飲み物よりも、車体と荷台の構造を見ていた。


誠司は直感した。


この男は、冷たい水を買いに来たわけではない。


「何が欲しい?」


誠司が尋ねると、ロウグは嬉しそうに笑った。


「道です」


「道?」


「あなた、三つの村を一日で結ぶ。普通の馬車、三日。雨なら五日。山なら十日」


ロウグは地面に三つの丸を描き、線を引いた。


第一配送路。


商人はすでに知っている。


「その道、私も使いたい」


誠司は黙った。


道は誰のものでもない。


だが、誠司が整え始めた情報――危険な場所、橋の補強、山道の抜け方、村ごとの荷物の需要。


それらは確かに価値だった。


ロウグは革袋から銀貨を取り出す。


「私の荷を、あなたが運ぶ。高く払う」


分かりやすい依頼だ。


誠司は一瞬考えた。


商人の荷を運べば収入になる。


塩や布、薬など、村に必要な物も増える。


だが商人の都合で配送路を動かせば、村の荷物が後回しになる可能性がある。


それは嫌だった。


「村の荷物が優先だ」


誠司は地面に三つの村を描き、そこへ荷物の絵を置く。


次に、商人の荷物を横に描く。


順番を示す。


村。


村。


村。


そのあと商人。


ロウグは少しだけ目を細めた。


「金、多く払っても?」


誠司は頷かない。


「村が先」


ロウグはしばらく黙り、それから笑った。


「面白い。普通は逆です」


「普通じゃないからな」


トラックを指差して言うと、ロウグは声を出して笑った。


交渉は、村長の家の前で行われた。


最初の村の村長も同席する。


ロウグは樽の中身を見せた。


油だった。


灯りに使う油。


それから塩、布、簡単な鉄器。


どれも村には必要な物だ。


誠司は考える。


商人を完全に排除するのは損だ。


村だけでは手に入らない物がある。


だが、商人に支配されるのも危険だ。


そこで、誠司は条件を三つ出した。


一つ。


第一配送路では、村同士の荷物を優先する。


二つ。


商人の荷物は空きスペース分だけ運ぶ。


三つ。


飲み物の独占販売は認めない。


ロウグは三つ目で笑顔を薄くした。


「冷たい水、私が街で売れば、大きな金になる」


「だから駄目だ」


「なぜ?」


「値段が壊れる。村が買えなくなる」


誠司は地面に硬貨をたくさん描き、その横で困る村人の顔を描いた。


ロウグは絵を見て、今度は本当に感心したように頷いた。


「あなた、商人ではない。でも商売を壊さないことを知っている」


「元の仕事も、在庫を切らさない仕事だったからな」


言葉は完全には伝わらない。


だが、ロウグは意味を汲んだらしい。


「では、私はあなたから水を買わない。代わりに、空き場所を買う」


「空き場所?」


「あなたの鉄の車の荷台。村の荷物を積んでも、まだ少し空く。そこに私の小さな荷を積む。代金を払う」


それなら悪くない。


誠司は荷台を確認する。


飲料ケースは多いが、端に作った配送スペースには余裕がある。


商人の小荷物なら積める。


「量を決める。危険物は駄目。壊れ物は自己責任」


ロウグは通訳を交えながら理解し、嬉しそうに頷いた。


「契約成立です」


ロウグは手を差し出した。


誠司は握手した。


異世界で初めての商業契約だった。


その日の配送は、少し賑やかになった。


最初の村から隣村へ、豆と毛布。


隣村から山の集落へ、薬草と塩。


その隙間に、ロウグの小さな木箱を二つ積む。


中身は針と糸、火打ち石、薬瓶。


軽くて高価な品だ。


ロウグ自身は馬車で後から来るという。


誠司のトラックは先に走る。


「速達便か」


思わず呟く。


山道では、ロウグの荷物が動かないように何度も確認した。


飲料は補充されるが、商人の荷は補充されない。


壊せば信用を失う。


隣村に着くと、女性村長が驚いた顔をした。


村の荷物だけでなく、商人の小箱も届いたからだ。


中の針と糸を見た女性たちは歓声を上げた。


針は貴重品らしい。


小さな物でも、必要な人には大きな価値がある。


山の集落では、火打ち石が喜ばれた。


少女が誠司の荷下ろしを手伝いながら、目を輝かせる。


彼女は荷物が村を変える瞬間を見ているのだ。


飲み物を配る時とは違う喜びが、そこにあった。


夕方、最初の村へ戻ると、ロウグが馬車で到着していた。


普通の馬車では、やはりかなり時間がかかるらしい。


ロウグは誠司から配送完了の木札を受け取り、満足そうに笑った。


「速い。壊れていない。素晴らしい」


そして、約束の代金を差し出した。


銀貨数枚。


それから、もう一つ。


小さな帳面だった。


「これは?」


「商人の帳面。荷物、送り主、受取人、代金を書く。あなたに必要」


誠司は帳面を受け取った。


紙は粗いが、使える。


ペン代わりの炭筆もついている。


誠司は胸が高鳴るのを感じた。


配送業らしくなってきた。


伝票がある。


ルートがある。


顧客がいる。


そして、守るべき優先順位もある。


その夜、誠司は荷台の明かりの下で帳面を開いた。


一ページ目に、ゆっくりと文字を書く。


読める日本語で。


第一配送路。


最初の村。


隣村。


山の集落。


村の荷物優先。


空きスペースのみ商人荷。


飲料独占禁止。


書き終えると、不思議と心が落ち着いた。


ルールがあれば、迷いが減る。


迷いが減れば、続けられる。


翌朝。


荷台は満タン。


ガソリンも満タン。


地図の青い線は、さらに濃くなっていた。


そして帳面の次のページに、誠司が書いた覚えのない一文が浮かんでいた。


第二配送候補:川下の水車町。至急。


誠司は帳面を見つめ、息を呑んだ。


「……今度は帳面に出るのかよ」


村の外では、ロウグがその言葉を聞きつけたように、にやりと笑っていた。


「水車町ですか。あそこは今、困っていますよ」


誠司は顔を上げた。


「何があった?」


ロウグは笑顔を消し、真面目な声で言った。


「水車が止まり、小麦が挽けない。パンが消えます」

第5話では商人ロウグが登場し、主人公の配送路に商業の要素が加わりました。

ただし主導権は村優先。

次回は第二配送候補「川下の水車町」へ向かい、飲み物ではなく物流と輸送力で町の危機に挑みます。

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