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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第46話 棲み分けの配送

灰牙狼の討伐は失敗に終わった。

だが満タン便は、戦うためではなく、戦わずに済む道を作るために走る。

人と獣の通り道を分ける、新しい配送が始まる。

灰牙狼を倒すのではなく、遠ざける。


その方針を聞いた時、北砦の若い兵士たちは複雑な顔をした。


敵を倒さなければ危険は残る。


そう考えるのは自然だった。


だが田村誠司は、隊長の判断に賛成だった。


灰牙狼は道を襲いたくて出てきたわけではない。


雨季で住処や餌場が変わり、人の補給路と重なった。


なら、必要なのは排除ではなく分離だ。


「人の道と、狼の道を分ける」


カイルが通訳すると、隊長は深く頷いた。


作戦は単純だった。


灰牙狼が好む匂いの強い干し肉を、沢沿いの奥へ少しずつ置く。


人の補給路側には、炭酸缶の破裂音と黒蔓札で近づきにくい印を作る。


中継所周辺には食料を置かない。


匂いの出るゴミも必ず持ち帰る。


「餌付けにならないか?」


誠司は確認した。


ロウグが隊長に伝える。


隊長は首を振った。


「一度だけ道を変える。継続して与えない」


それならいい。


満タン便は、誘導用の荷を積んだ。


干し肉。


炭酸缶。


赤布。


黒蔓札。


匂いを閉じ込める木箱。


そして、注意札。


ミナが描いた狼の絵が役に立った。


人が見ても、森の民が見ても、兵士が見ても分かる。


この先、灰牙狼注意。


沢沿いへ迂回。


補給路へ近づけるな。


雨の森で、作業は慎重に進んだ。


誠司はトラックを中継所の手前に停める。


そこから先は兵士たちと徒歩だ。


カイルが先導し、誠司は黒蔓札を持つ。


ミナは今回は水車町で留守番だ。


危険すぎる。


沢沿いに着くと、獣の匂いがした。


濡れた毛のような、土のような、重い匂い。


隊長が手で合図する。


全員が静かになる。


遠くに灰色の影が見えた。


一匹。


前回見たものより少し小さい。


若い個体かもしれない。


兵士が干し肉を沢の奥へ投げる。


風向きを見る。


匂いが補給路ではなく、森の奥へ流れるように。


灰牙狼はしばらくこちらを見ていた。


やがて鼻を動かし、干し肉の方へ歩いていく。


成功した。


だが、安心した瞬間にもう一匹が現れた。


今度は大きい。


前回の個体だ。


黄色い目が、こちらを見ている。


誠司は息を止めた。


戦えば危ない。


逃げても追われる。


隊長が槍を構える。


誠司は炭酸缶を一本取り出した。


強く振る。


地面に置く。


兵士が槍の石突きで缶を弾いた。


ブシュッ!


音と泡。


灰牙狼が足を止める。


もう一本。


今度は補給路側ではなく、沢の奥へ転がす。


音が奥で弾ける。


灰牙狼の視線がそちらへ向く。


干し肉の匂い。


炭酸の音。


人間のいない方向。


灰牙狼は低く唸り、やがて沢の奥へ消えた。


誰も声を出さなかった。


しばらくして、隊長が小さく息を吐く。


「今日は成功」


カイルがそう訳した。


誠司も頷いた。


ただし、これは一回の成功にすぎない。


道が完全に分かれたわけではない。


その日のうちに、補給路側の危険地点には黒蔓札を追加した。


沢沿いには赤布ではなく、森側の葉札を立てる。


森の民にも知らせるためだ。


水車町へ戻ると、帳面が光った。


灰牙狼誘導支援:初回成功


補給路接触リスク低下


さらに新しい規則が浮かぶ。


満タン便規則十一:危険は消すだけでなく、離すことも考える。


誠司は静かに頷いた。


その夜、第一配送者の記録が浮かんだ。


私は危険をすべて敵にした。

敵にすれば、倒すしかなくなった。

だが、道を分ければ済むものもあった。


誠司はその言葉を長く見つめた。


満タン便の仕事は勝つことではない。


道を続けることだ。


翌朝、北砦から木札が届いた。


灰牙狼、沢奥へ移動傾向。補給路昼便、限定再開可。


誠司は小さく笑った。


完全解決ではない。


でも、道は少し戻った。


満タン便は今日も走る。


人の道と、獣の道。


その間に、消えない線を引くために。

第46話では、灰牙狼を倒すのではなく、補給路から遠ざける誘導作戦を描きました。

次回は、灰牙狼の移動先が西方大森林の領域に近づき、森の民との調整が必要になります。

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