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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第45話 討伐隊支援便

北砦周辺に現れた灰牙狼。

討伐は兵士たちの役目。

満タン便の役目は、戦うための水と薬、そして戻るための道を届けることだった。

北砦から届いた木札には、短くこう書かれていた。


灰牙狼討伐隊、明朝出発。補給支援を求む。


田村誠司は、その一文を何度も読み返した。


討伐。


その言葉は、満タン便の仕事から少し離れているように感じた。


満タン便は戦わない。


魔物を倒すわけではない。


剣も槍も扱えない。


だが、討伐隊が水を切らせば動けない。


包帯がなければ負傷者を助けられない。


正しい道が分からなければ、戻ってこられない。


「支援便だな」


誠司は帳面を開き、必要品を書き出した。


水。


スポーツドリンク。


缶コーヒー。


包帯。


薬。


干し肉。


炭酸缶。


赤布。


黒蔓札。


盾形札。


そして、灰牙狼の通り道を描いた地図。


ロウグが横から覗き込んだ。


「炭酸缶も持っていくのですか?」


「音で追い払えるかもしれない。討伐用じゃなくて、撤退用だ」


「撤退用」


ロウグはその言葉を気に入ったように頷いた。


「良い考えです。勝つ準備だけでなく、逃げる準備も必要です」


北砦へ向かう道は、雨で重かった。


だが前回調査したおかげで、危険な沢沿い区間は避けられる。


帳面に表示された赤線と青線。


灰牙狼の通り道と、満タン便の迂回路。


誠司はそれを頭に入れながら走った。


中継所に着くと、すでにカイルが待っていた。


兵士たちも数人いる。


皆、普段より緊張していた。


荷台を開けると、彼らの視線が飲み物ではなく、地図と札に向いた。


以前とは違う。


満タン便が運ぶものは、物資だけではないと彼らも分かっている。


誠司は地面に大きく地図を描いた。


中継所。


沢。


灰牙狼の足跡。


北砦本道。


迂回路。


退避地点。


さらに、炭酸缶を置く位置も示した。


「戦う場所じゃなくて、逃げる道を先に決める」


カイルが通訳すると、若い兵士の一人が少し不満そうな顔をした。


討伐に向かうのに、逃げ道の話をするのが嫌なのだろう。


だが隊長は違った。


片目に古傷のある隊長は、地図をじっと見てから頷いた。


「生きて戻る道がある者だけが、前へ進める」


カイルがそう訳した。


誠司は少しだけ安心した。


隊長は分かっている。


討伐隊は中継所を拠点にすることになった。


満タン便は北砦と中継所を往復し、補給品を運ぶ。


討伐隊が森の奥へ入りすぎないよう、黒蔓札で危険境界を示す。


負傷者が出た場合は、中継所まで運び、そこから満タン便で水車町へ搬送する。


役割が決まると、兵士たちの動きは早かった。


カイルは若い兵士たちと一緒に、赤布を木に結んでいく。


ミナが作った狼の注意札も、中継所の周辺に立てた。


ガランが鍛冶町から持たせてくれた鉄杭は使いやすかったが、森側の道には使わない。


森の民の領域に近い場所では、木杭と蔓を使う。


文化配慮配送。


こんな場面でも、その規則は生きていた。


昼過ぎ。


討伐隊が出発した。


誠司はトラックを中継所の横に停め、エンジンを切った。


静かになる。


雨が葉を叩く音。


遠くの沢の音。


そして、時折聞こえる低い遠吠え。


待つ時間が一番長く感じた。


戦っているわけではない。


だが、何もできないわけでもない。


誠司は荷台の中を何度も確認した。


負傷者用の空き。


毛布。


水。


包帯。


揺れ止め。


緊急搬送の準備はできている。


荷台を満載にしていなかったことが、今日も意味を持つ。


夕方近く。


森の奥から、短い角笛が鳴った。


一回。


二回。


カイルが決めていた合図だ。


負傷者あり。


誠司はすぐエンジンをかけた。


中継所の前に、兵士たちが戻ってくる。


一人が肩を負傷していた。


もう一人は足を引きずっている。


そして、その背後。


木々の間に灰色の影が見えた。


大きい。


誠司は息を呑んだ。


普通の狼ではない。


馬ほどもある体。


雨に濡れた灰色の毛。


長い牙。


灰牙狼は兵士たちを追って、森の縁まで出てきていた。


「下がれ!」


言葉が通じなくても声は届いた。


誠司はクラクションを鳴らした。


バァァァン!


灰牙狼が足を止める。


だが逃げない。


黄色い目が、トラックを見ている。


誠司は炭酸缶を掴んだ。


一本、強く振る。


地面に転がす。


兵士が合図通り、槍の先で缶を弾いた。


ブシュッ!


泡と音が雨の中で弾ける。


灰牙狼が後ずさる。


さらに二本。


音。


泡。


未知の匂い。


灰牙狼は唸り、森の奥へ消えた。


追い払っただけだ。


倒してはいない。


だが十分だった。


負傷兵を荷台へ乗せる。


肩の兵士には包帯。


足の兵士には冷やした布。


隊長は悔しそうな顔をしていた。


討伐は成功していない。


灰牙狼はまだいる。


だが、犠牲は出なかった。


誠司はそれを成功だと思った。


「今日は撤退だ」


カイルが訳す。


若い兵士たちは不満そうだったが、隊長は頷いた。


「道と命を失ってまで狩る獣ではない」


その日は中継所で一泊することになった。


夜間運行禁止の規則は守る。


誠司はトラックのライトを中継所の外へ向け、最小限だけ点けた。


燃料は朝に戻る。


だが、無駄に使いすぎない。


夜の森では、灰牙狼の遠吠えが何度か聞こえた。


近づいてはこなかった。


翌朝。


負傷兵を北砦へ送り届けると、隊長は新しい方針を出した。


討伐ではなく、誘導。


灰牙狼を補給路から遠ざける。


沢沿いに誘導し、森の奥へ戻す。


殺すのではなく、道を分ける。


誠司はその方針に賛成した。


満タン便の仕事も同じだ。


すべてを排除するのではない。


通る道を分ける。


危険と安全を分ける。


人と獣の距離を作る。


帳面が光る。


灰牙狼対応方針変更:討伐支援から誘導支援へ


評価:運行安定度上昇


誠司は小さく笑った。


「倒さない方が評価高いのか」


ロウグが隣で言った。


「商売でも同じです。敵を潰すより、衝突しない道を作る方が長続きします」


その日の午後、満タン便は新しい荷物を積んだ。


強い匂いの干し肉。


炭酸缶。


赤布。


黒蔓札。


灰牙狼を誘導するための道具だ。


満タン便は戦わない。


だが、戦わずに済む道を作ることはできる。


雨の中、誠司はハンドルを握った。


次の仕事は討伐ではない。


棲み分けのための配送だった。

第45話では、灰牙狼討伐隊の支援を描きました。

結果として討伐ではなく、補給路から遠ざける「誘導支援」へ方針転換します。

次回は、灰牙狼と人間の道を分けるための作戦です。

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