第44話 灰牙狼の通り道
北砦補給路の中継所で、灯が消えていた。
原因と思われるのは、雨季に山から下りてきた大型の魔獣、灰牙狼。
満タン便は北砦兵と協力し、その行動範囲を調べることになる。
灰牙狼の足跡は、中継所の裏手から森の奥へ続いていた。
田村誠司は泥に残った巨大な足跡を見下ろし、思わず息を吐いた。
「でかいな……」
カイルが頷く。
「普通の狼、違う。群れ、危険」
今回の目的は討伐ではない。
満タン便は魔物退治の仕事ではない。
やるべきことは、灰牙狼がどこを通り、どこが危険で、どこなら避けられるのかを調べることだった。
荷台には水、包帯、赤布、黒蔓札、そして炭酸缶。
炭酸缶は飲み物ではなく、緊急時の音出し用だ。
ミナは狼の絵を描いた注意札を抱えている。
中継所から少し進むと、足跡は二方向に分かれていた。
一つは北砦方面。
もう一つは沢沿い。
カイルは沢を指差した。
「雨で、獣、こっち来る」
水場を求めているのかもしれない。
誠司は帳面に記録する。
灰牙狼足跡:沢沿い多発。北砦本道は一部接近。
すると地図に薄い赤線が浮かんだ。
灰牙狼の通り道。
満タン便の青い配送路と、ところどころ重なっている。
「まずいな」
重なっている場所に黒蔓札を立てる。
通行注意。
単独禁止。
夜間禁止。
さらに、迂回できそうな場所には黄色札を置く。
森の中で、道は一つではない。
少し遠回りでも、安全な道を選ぶ。
調査中、灰牙狼そのものには出会わなかった。
だが遠吠えは何度も聞こえた。
近い。
ミナが怯えるたび、誠司は足を止めた。
無理に進まない。
見つけることより、戻ることが大事だ。
昼過ぎ、中継所へ戻った時には、全員泥だらけだった。
カイルは地図を見て言った。
「ここ、危ない。ここ、昼なら通れる」
誠司は頷き、運行規則を書き換える。
北砦補給路:雨季中は昼便のみ
沢沿い区間、迂回推奨
灰牙狼警戒札を確認すること
水車町へ戻ると、受付所に新しい注意板が立った。
ミナが描いた灰色の狼の絵。
大きな牙。
黒蔓札。
子どもでも分かる危険表示だ。
その夜、帳面が光る。
危険生物行動範囲:暫定登録
迂回路設定:有効
第一配送者の記録も、短く浮かんだ。
私は危険を地図に書かなかった。
知っている自分だけが避ければいいと思った。
だが、道は一人で使うものではなかった。
誠司は静かに頷いた。
危険を知ったなら、共有する。
それが、道を守るということだ。
翌朝。
北砦から木札が届いた。
灰牙狼、砦北側に接近。補給路は昼便維持。討伐隊準備中。
誠司は帳面を閉じた。
討伐は砦の仕事。
満タン便の仕事は、討伐隊に必要な物を届けることだ。
水、包帯、缶コーヒー、炭酸缶。
そして、正確な地図。
「満タン便、討伐支援便だな」
エンジンが雨の中で低く唸った。
満タン便は今日も、戦うためではなく、戦う人を支えるために走り出した。
第44話では灰牙狼の行動範囲を調査し、危険を地図と札で共有しました。
次回は北砦の討伐隊支援。満タン便は補給と撤退路確保を担当します。




