第40話 空けておいた荷台
雨季の満タン便は、分割配送へ切り替わった。
一度に全部を運ばない。
その判断で生まれた荷台の余裕が、思わぬ緊急事態を救うことになる。
その日の満タン便は、いつもより軽かった。
分割便にしたからだ。
リーベル行きの布は三分の一。
北砦の包帯も半分。
漁村の魚は保冷区画に入る分だけ。
荷台には、まだ空きがあった。
田村誠司はその空間を見て、少し落ち着かない気分になった。
「空いてると、もったいなく感じるな」
ロウグが笑う。
「商人なら埋めます」
「配送屋は空けておく」
そう言いながらも、誠司自身まだ慣れていなかった。
だが、その空きが役に立った。
昼前、北砦補給路の中継所に着いた時だった。
カイルが泥だらけで駆け込んできた。
「避難民! 子ども、熱!」
中継所の奥に、親子連れがいた。
雨で道に迷い、昨夜からここに避難していたらしい。
子どもは高熱を出していた。
水車町の薬師まで運ぶ必要がある。
荷台に空きがなければ、すぐには乗せられなかった。
誠司は即座に毛布を敷いた。
薬箱を寄せ、荷留め具を外し、人が横になれる場所を作る。
「空けておいてよかった……」
子どもと母親を乗せる。
カイルも付き添う。
荷物は一部、中継所へ置いていく。
今日運べなくてもいい。
命が先だ。
雨道を慎重に戻る。
速度より揺れを抑える。
子どもが苦しそうに息をするたび、誠司はハンドルを握る手に力を込めた。
水車町に着くと、薬師が待っていた。
処置はすぐ始まった。
夕方、子どもの熱は少し下がった。
母親は何度も頭を下げた。
誠司は首を振った。
「空きがあったから運べただけだ」
ロウグがそれを訳し、静かに笑った。
「その空きを作ったのは、あなたの判断です」
夜。
帳面に文字が浮かんだ。
分割配送による緊急対応余力を確認
運行安定度 上昇
さらに、第一配送者の記録。
私は荷台を常に満たした。
空きは損だと思った。
だが、空きがなければ救えない荷がある。
誠司は長くその文を見つめた。
満タン便なのに、荷台を空ける。
矛盾しているようで、今なら分かる。
満タンであることと、満載であることは違う。
翌朝。
集荷所に新しい札が掛かった。
雨季中、荷台余裕を確保します
緊急搬送のため、通常荷物は分割される場合があります
不満は出た。
だが、昨日救われた親子の話が広がると、多くの人は黙って頷いた。
誠司は運転席に乗り込む。
荷台には今日も空きがある。
それは無駄ではない。
誰かのために残した余白だった。
「満タン便、出発」
トラックは雨の道へ走り出した。
満タンの荷台に、空きを積んで。
第40話では、分割配送で生まれた荷台の余裕が命を救いました。
“満タン”と“満載”は違う。
次回は、雨季の山道でその余白を狙う者たちが現れます。




