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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第32話 雨季、最初の通行止め

雨季前の防災配送を進めた満タン便。

黒蔓札、補強材、中継所の屋根、仮橋の補修。

準備はした。だが自然は、いつも予定より少し早くやってくる。

雨は、夜明け前に降り始めた。


最初は細い雨だった。


だが朝になる頃には、トラックの屋根を叩く音がはっきり聞こえるほど強くなっていた。


田村誠司は運転席で目を覚まし、フロントガラスの向こうを見た。


水車町の道が濡れている。


集荷所の屋根から雨が流れ落ちている。


「来たか……」


雨季の始まりだった。


荷台は今日も満タン。


ガソリンも満タン。


だが、道は満タンではない。


ぬかるみ、崩れ、増水する。


それを思うと、いつもの安心感は半分ほどしかなかった。


帳面を開く。


すぐに文字が浮かんだ。


雨季運行開始


推奨:全路点検


警告:川下漁村路、一部通行困難


「早いな」


ロウグが傘代わりの外套を被ってやってきた。


「漁村路ですか?」


「たぶん、昨日補強したところだ」


ミナも黒蔓札を抱えて走ってくる。


雨に濡れた耳を震わせ、不安そうにしている。


誠司はすぐに決めた。


「今日は漁村路の点検から行く。通常便は遅延札を出してくれ」


受付係が頷き、木札を掛ける。


雨季点検のため通常便遅延


こういう知らせを出せるようになっただけで、以前とは違う。


待つ側に理由が伝わる。


それは信用を守る。


満タン便は川下へ向かった。


道は予想以上に悪かった。


土が柔らかくなり、タイヤが滑る。


誠司は速度を落とし、慎重に進む。


ミナは助手席で森札と黒蔓札を握っている。


ロウグは荷台側で荷物の固定を見ている。


漁村路の中ほどで、問題の場所に着いた。


昨日敷いた板の一部が流されかけていた。


小さな水路ができ、泥水が道を横切っている。


このまま通ればタイヤを取られる。


「通行止めだ」


誠司は即座に言った。


ミナが黒蔓札を差し出す。


誠司は道の手前に札を立てた。


黒蔓札。


通るな、危険。


漁村へは行けない。


だが、それで終わりではない。


「迂回路を探す」


少し戻り、丘側の細い道を確認する。


荷車用の古い道があった。


草に埋もれているが、地面は高く、水が溜まりにくい。


トラック一台なら、枝を払えば通れるかもしれない。


ロウグが言った。


「遠回りになります」


「安全ならそっちがいい」


「商人なら時間を惜しみます」


「配送屋は荷物を失う方を嫌う」


ロウグは笑った。


「良い答えです」


三人で枝を払い、赤い布と白札で迂回路を示す。


誠司は帳面に書く。


川下漁村路:本線一部通行止め。丘側迂回路を暫定使用。


すると帳面に地図が浮かび、青い線が少し曲がった。


迂回路が登録されたのだ。


漁村へ着いたのは、予定より一時間以上遅れた。


だが無事だった。


漁師たちは不安そうに待っていた。


魚の保冷輸送は雨季こそ重要だ。


けれど道が危険なら、走れない。


誠司は漁村のまとめ役に説明した。


本線は通行止め。


迂回路を使う。


魚の量は半分。


雨が強い日は運休。


ロウグが訳すと、漁師たちはざわめいた。


不満もある。


当然だ。


魚が余れば収入が減る。


だが、誠司は譲らなかった。


「無理に走ってトラックが止まったら、全部止まる」


ロウグが訳す。


漁村の老人が頷いた。


そして若い漁師たちを叱るように言った。


「道を失うより、半分でも届く方がいい」


その言葉で場が落ち着いた。


帰り便では、魚は少量だけ積んだ。


保冷区画に入る分だけ。


他の魚は干物に回すことになった。


満タン便が運べない分、漁村も自分たちで工夫する。


それでいい。


水車町へ戻る途中、雨はさらに強くなった。


迂回路は通れた。


ただし、慎重に走る必要がある。


水車町に着く頃には、全員ずぶ濡れだった。


だが魚は無事。


荷物も無事。


通行止めの判断も間違っていなかった。


帳面に文字が浮かぶ。


雨季対応:初回成功


通行止め判断:適切


迂回路登録:仮


誠司は少し息を吐いた。


その夜。


第一配送者の記録が浮かんだ。


私は通行止めを出せなかった。

走れると言われたかった。

走れないと言えば、信用を失うと思った。

違った。

無理に走った時に、信用は失われた。


誠司は長くその文を見つめた。


通行止めは敗北ではない。


続けるための判断だ。


翌朝。


雨はまだ降っていた。


受付所には、また新しい札が掛かっている。


川下漁村路、本線通行止め。迂回路運行中。魚便は半量。


町の人々はそれを見て、少し不満そうにしながらも受け入れていた。


理由が分かるからだ。


誠司は運転席に乗り込む。


今日の点検先は北砦補給路。


雨の森は危険だ。


だが、中継所を確認しなければならない。


ミナが盾形札と赤布を抱えて乗り込む。


ロウグは依頼表を閉じる。


雨の中、満タン便は静かに走り出した。


運ぶだけではない。


止める。


迂回する。


減らす。


知らせる。


それもまた、雨季の配送だった。

第32話では雨季が始まり、初めて本格的な通行止め判断を描きました。

無理に走らないこと、迂回路を示すこと、輸送量を減らすことも物流の大切な仕事です。

次回は北砦補給路。雨の森で中継所が試されます。

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