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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第31話 雨季前の防災配送

西方大森林で見つかった黒い汚染区域。

雨が降れば、その影響は水路を伝って広がるかもしれない。

満タン便は雨季を前に、各地の道と受渡所を守る準備に動き出す。

雨季が近い。


それは、水車町の空気で分かった。


朝の風に湿り気が混じり、遠くの雲が重くなっている。


川の水位も、少しずつ上がっていた。


田村誠司は帳面を開く。


そこには新しい予定表が浮かんでいた。


雨季前点検推奨


対象:北砦補給路、中継所、森入口受渡所、川下漁村路、仮橋


「全部じゃないか……」


思わず呟く。


ロウグは隣で肩をすくめた。


「物流網が広がった証拠です」


「広がると点検も増える」


「商売とはそういうものです」


まずは西方大森林。


黒蔓札を追加で二十枚。


それから土留め用の木杭、蔓縄、木板。


鉄は使わない。


森の民が扱える形にする。


ミナは張り切っていた。


葉形札と黒蔓札の管理は、彼女の担当のようになっている。


森入口では、年長女性が待っていた。


黒蔓札を受け取ると、すぐに若者たちへ配る。


誠司は汚染区域の地図を地面に描き、雨水の流れを指差した。


「雨が降ったら、ここから広がる」


ミナが訳す。


森の民たちは真剣に頷く。


土留めを作る場所。


近づいてはいけない場所。


水を汲まない場所。


それぞれに札を立てる。


道を守るために、今日は荷物ではなく注意を運んでいる。


帳面が光る。


森路防災整備:進行中


次は北砦補給路。


中継所の屋根が傷んでいた。


雨が降れば、置いている包帯や水が駄目になる。


誠司は鍛冶町から運んだ金具と、水車町の板材で屋根を補修した。


カイルも手伝う。


「雨、ここ、危ない」


「だから直す」


中継所の棚には、水と包帯、干し肉を置き直す。


湿気に弱いものは上段へ。


薬は密閉箱へ。


ついでに、赤い布の目印も新しくした。


雨で色が落ちれば意味がない。


カイルが盾形札を入口に打ち付ける。


「北砦補給路、中継所」


片言でそう言った。


誠司は頷いた。


「いい標識だ」


次は川下漁村路。


ここが一番厄介だった。


雨季になると道がぬかるみ、魚の輸送が難しくなる。


保冷区画があっても、トラックが動けなければ意味がない。


漁村の人々は、すでに困った顔をしていた。


毎年、雨季は魚が余るらしい。


「道が悪くなるから運べない。水車町へも届かない」


ロウグが訳す。


誠司は地面を見た。


ぬかるみやすい場所は限られている。


そこへ板を敷く。


完全な道路にはならない。


だが、満タン便が通る分には助けになる。


漁師たちは板材を出し、水車町の大工が設置を手伝うことになった。


満タン便はその大工たちを運び、道具を運び、食料を運ぶ。


配送屋というより、現場監督のようだった。


夕方。


最後に向かったのは、リーベルへ続く仮橋だった。


橋はまだ仮のまま。


雨季の増水に耐えられるか怪しい。


ガランが橋の下を覗き込み、うなった。


「補強が要る」


ロウグが訳すまでもなく、顔で分かった。


リーベル商会も作業員を出す。


北砦も兵士を出す。


水車町から木材。


鍛冶町から金具。


満タン便は、それらを日ごとに運ぶ計画を立てた。


一度に全部はできない。


だが雨季前に最低限は間に合わせる。


その夜。


水車町の集荷所には、防災用の札が新しく並んだ。


黒蔓札。


赤蔓札。


盾形札。


橋補強用札。


森路封鎖札。


ミナはそれらを真剣に仕分けている。


誠司は帳面に今日の記録を書いた。


雨季前防災便、一日目。


すると帳面に文字が浮かんだ。


運行方針確認:災害前配送


評価:有効


誠司は少し笑った。


「災害前配送、か」


起きてから助けるだけでは遅い。


起きる前に運ぶ。


板を。


札を。


薬を。


食料を。


情報を。


それができれば、被害は減る。


第一配送者の記録が、短く浮かぶ。


私は、壊れてから走った。

だが本当に必要だったのは、壊れる前に走ることだった。


誠司は静かにページを閉じた。


翌朝。


空はさらに重くなっていた。


遠くで雷が鳴る。


雨季は近い。


満タン便は今日も満タンだった。


だが今日運ぶのは、奇跡の水だけではない。


雨に備えるための、当たり前の準備だった。


誠司はエンジンをかける。


「防災便、二日目。出発」


ミナが受付所から黒蔓札を抱えて走ってくる。


ロウグが依頼表を持って乗り込む。


空は暗い。


それでも、走る理由ははっきりしていた。


雨が降る前に、届ける。


それが今日の満タン便の仕事だった。

第31話では、雨季前の防災配送を描きました。

災害が起きてから動くのではなく、起きる前に備える。

満タン便は、救援だけでなく予防の物流へ成長しています。

次回はついに雨季入り。準備した道と標識が試されます。

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