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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第3話 赤い印の先へ

初配送を終えた翌朝、地図に謎の赤い印が増えていた。

それは誰かの悪戯か、それとも補充トラックが示す新しい納品先なのか。誠司はまだ知らない道へ向かいます。

翌朝、田村誠司は助手席の地図を何度も見返していた。


昨日、隣村への配送を終えて戻ってきた時までは、こんな印はなかった。


村と村を結ぶ線。


川。


森。


山道。


その山道の先に、赤い丸がひとつ。


インクのようなものではない。


紙の繊維そのものが赤く染まっているように見えた。


「誰かが書いた……わけじゃなさそうだな」


トラックの荷台は今日も満タン。


ガソリンも満タン。


そして地図には、見知らぬ印。


誠司は腕を組んだ。


行くべきか。


無視するべきか。


正直、無視したかった。


昨日ようやく配送ルート一号ができたばかりだ。


まずは二つの村を定期的に繋ぎ、信用を積み重ねるべきだろう。


だが、赤い印は妙に気になる。


まるで、そこに「届けるべき何か」があると言っているようだった。


村長に地図を見せると、老人の顔色が変わった。


老人は山の方を指差し、首を横に振る。


危険。


そういう意味だ。


身振りで伝わってくる。


だが、老人はしばらく迷ったあと、村の倉から小さな布袋を持ってきた。


中には干し肉と硬いパン。


それから古びた木札。


木札には、山道の途中にある集落の名前らしき文字が刻まれていた。


「……そこに人がいるのか?」


老人は頷いた。


だが、表情は暗い。


通じる言葉は少ない。


それでも分かる。


その集落は孤立している。


道が悪いのか。


魔物が出るのか。


あるいは、もっと別の理由か。


誠司は荷台を開け、水とスポーツドリンクを多めに取り出し、手前に積み直した。


「行くだけ行ってみる。危なそうなら引き返す」


言葉は通じないが、村長は誠司の目を見て、ゆっくり頷いた。


トラックは朝の光の中、山道へ向かった。


最初はまだ道らしきものがあった。


荷車の轍が残り、草も低い。


だが進むにつれ、道は細くなり、石が増えた。


車体が何度も揺れる。


「こりゃ普通の配送車なら絶対来ないな……」


誠司は慎重にハンドルを切る。


タイヤが大きな石に乗り上げ、荷台のケースが鳴った。


途中、倒れた木が道を塞いでいた。


誠司はトラックを止め、ロープとバールを取り出した。


木を完全にどかすのは無理でも、通れる幅を作ることはできる。


汗をかきながら作業していると、森の奥から視線を感じた。


獣か。


人か。


誠司は手を止め、耳を澄ます。


枝が折れる音。


低い唸り声。


黒い影が、木々の間を動いた。


昨日見た狼に似た獣より大きい。


「……勘弁してくれよ」


誠司は急いで運転席に戻り、クラクションを鳴らした。


バァァァン!


山に音が反響する。


黒い影は一瞬怯んだ。


だが逃げない。


昨日の獣より肝が据わっている。


誠司は荷台から炭酸飲料の缶を一本取り出した。


強く振る。


そして、獣の手前に投げた。


缶が石に当たり、派手に破裂する。


白い泡が噴き上がり、甘い匂いが広がった。


獣は驚いて飛び退き、ようやく森の奥へ消えた。


「炭酸、便利すぎるな……」


誠司は苦笑しつつ、急いで倒木をずらし、トラックを進ませた。


山道を抜けた先に、小さな集落があった。


家は十軒ほど。


柵は壊れかけ、畑は荒れている。


煙は細く、生活の気配は弱い。


誠司がトラックを止めると、家の陰から人々が顔を出した。


痩せた老人。


やせ細った子ども。


疲れ切った女たち。


彼らの視線は、警戒というより諦めに近かった。


誠司は木札を掲げる。


村長から預かったものだ。


すると、集落の中から一人の少女が駆けてきた。


年は十代前半くらい。


茶色の髪を後ろで結び、服は継ぎはぎだらけ。


少女は木札を見て、誠司の顔を見上げた。


そして、震える声で何かを言った。


意味は分からない。


だが、涙が浮かんでいた。


誠司は荷台を開けた。


まず水。


次にスポーツドリンク。


子どもと老人を優先するよう身振りで示す。


少女はすぐに理解した。


集落の人々を並ばせ、一本ずつ配っていく。


冷たい水を飲んだ老人が、目を閉じて震えた。


子どもがスポーツドリンクを飲み、驚いて笑った。


その笑顔を見た瞬間、誠司は赤い印の意味を少しだけ理解した気がした。


ここは、届け先だったのだ。


誰かが呼んだのか。


トラックが選んだのか。


それは分からない。


だが、この集落には確かに配送が必要だった。


少女は誠司を一軒の家へ案内した。


中には、寝込んでいる男がいた。


足を怪我している。


腐りかけているわけではないが、熱がある。


昨日隣村へ届けた薬草を思い出す。


「薬が必要なのか」


少女は必死に頷いた。


誠司は考える。


隣村には薬草があった。


ここには病人がいる。


道は悪い。


普通の荷車では時間がかかる。


だがトラックなら往復できる。


「……分かった」


誠司は地面に簡単な図を描いた。


この集落。


昨日の隣村。


薬草。


戻る。


少女はじっと見て、理解した瞬間、深く頭を下げた。


誠司は水を数本置き、干し肉とパンも分けた。


そしてトラックへ戻る。


山道をもう一度走るのは怖い。


だが、配送とはそういうものだ。


必要なところへ届ける。


誠司はエンジンをかけた。


帰り道、赤い印のことを考えた。


もしこの印が、困っている場所を示すなら。


このトラックはただ飲み物を補充するだけではない。


届け先を示すのかもしれない。


便利だ。


だが、少し怖い。


「俺は、選ばされてるのか?」


答えはない。


夕方前、隣村へ到着した誠司は、村長の女性に事情を伝えようと身振りで説明した。


山の集落。


怪我人。


薬草。


急ぎ。


女性はすぐに理解し、薬草師らしき老人を呼んだ。


薬草と包帯、塗り薬が用意される。


さらに、女性は木札を書き、誠司に渡した。


誠司はそれを受け取り、荷台に積む。


日が傾いている。


山道を夜に走るのは危険だ。


だが、病人の熱は待ってくれない。


「今日中に届ける」


誠司はそう呟き、再び山道へ向かった。


帰りよりも慎重に。


だが、急いで。


ヘッドライトが木々を照らし、夜の森を切り裂く。


途中、また獣の気配があった。


誠司はクラクションを短く鳴らしながら進む。


ようやく集落に着いた時、空は暗くなっていた。


少女が飛び出してくる。


誠司は薬草と包帯を渡した。


薬草師の指示が木札に書かれているのだろう。


少女は近所の女性たちと一緒に、すぐ処置を始めた。


誠司は外で待った。


長い時間に感じた。


やがて少女が出てきた。


泣きながら笑っていた。


間に合った。


誠司はその場に座り込みそうになった。


仕事で、こんなにほっとしたことがあっただろうか。


少女は小さな布包みを差し出した。


中には、山で採れるらしい赤い実が入っていた。


対価のつもりだ。


誠司は受け取った。


そして、水を一本だけ少女に渡す。


少女はそれを胸に抱え、また頭を下げた。


その夜、誠司は山の集落の外れで眠った。


荷台の中で横になりながら、彼は地図を見た。


赤い印は、薄くなっていた。


完全には消えていない。


だが、朝よりも色が淡い。


「届けたら、消えるのか……?」


誠司は眠れないまま、地図を見つめ続けた。


翌朝。


荷台は満タン。


ガソリンも満タン。


そして地図には、新しい青い線が浮かび上がっていた。


最初の村。


隣村。


山の集落。


三つを結ぶ、細い配送ルートの線だった。

第3話では、赤い印を「困っている届け先」として描きました。

これで主人公の配送業に、ただの商売ではなく“必要な場所を見つける”要素が加わります。次回は三つの村を結ぶ定期便作りです。

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