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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第2話 初配送は隣村まで

異世界で最初の仕事は、隣村への配送。

冷たい飲み物だけでなく、「頼んだ物が届く」という当たり前が、この世界ではまだ珍しい価値になります。

翌朝、田村誠司は荷台の前で腕を組んでいた。


水、緑茶、缶コーヒー、スポーツドリンク、炭酸飲料。


昨日、村人に渡した分はすべて元通りになっている。


ガソリンも満タン。


「本当に、毎朝補充されるんだな……」


怖さはある。


だが今は、それ以上に使い道を考えるべきだった。


村長は朝早くから誠司を待っていた。


地面には簡単な地図が描かれている。


ここが昨日助けた村。


そこから川沿いに進んだ先に、隣村があるらしい。


村長は小さな袋を差し出した。


中には手紙らしき木札と、乾いた薬草の束。


どうやら隣村へ届けてほしいらしい。


誠司はそれを見て、ゆっくり頷いた。


「配送依頼、ってことか」


言葉は完全には通じない。


それでも、依頼の形は分かる。


荷物を預かる。


届ける。


対価を受け取る。


元の世界でやっていたことと、根本は同じだ。


違うのは、自動販売機ではなく村へ届けること。


そして道路ではなく、土の道を走ること。


誠司は荷台の隅に薬草を積み、動かないように段ボールで固定した。


木札は助手席に置く。


村長が心配そうにそれを見ていたので、誠司は胸を叩いてから、隣村の方向を指差した。


「届ける。ちゃんと」


村長は深く頭を下げた。


少年を含む村人たちが見送ってくれる。


昨日まで見知らぬ異世界だった場所に、もう仕事の出発地点ができていた。


誠司は運転席に乗り込み、エンジンをかける。


低い振動が足元から伝わる。


「一件目、隣村。荷物は薬草と木札。ついでに飲料の試験販売」


自分に言い聞かせるように呟き、トラックをゆっくり発進させた。


川沿いの道は、想像より悪かった。


道というより、荷車が何度も通ってできた轍だ。


石が多く、穴もある。


スピードを出せば荷台のケースが崩れる。


誠司は慎重にハンドルを切りながら進んだ。


「こりゃ、定期便をやるならルート確認からだな」


元の世界では、道が整備されているのが当たり前だった。


だがこの世界では違う。


橋があるか。


ぬかるむ場所はどこか。


魔物が出る区間はどこか。


それもすべて、配送の重要情報になる。


昼前、川辺で休憩を取った。


誠司はスポーツドリンクを一本開ける。


冷たい液体が喉を通る。


「……うまい」


ただの市販品なのに、今は贅沢品に思える。


その時、川の向こうから声が聞こえた。


見ると、荷車がぬかるみに車輪を取られて動けなくなっている。


男が二人、必死に押しているが、びくともしない。


誠司は少し迷ったが、トラックを近づけた。


男たちは鉄の車体を見て慌てたが、誠司が両手を上げると少し落ち着いた。


彼はロープを取り出し、荷車に結ぶ。


トラックでゆっくり牽引する。


エンジンが唸り、荷車がぬかるみから抜けた。


男たちは目を丸くした。


そして、何度も頭を下げた。


誠司は水を二本渡した。


男たちは冷たさに驚き、また頭を下げる。


代わりに干し芋のような保存食をくれた。


「こういうのも、仕事になるか」


荷物を運ぶだけではない。


困っている人や物を動かす。


それも物流だ。


午後、隣村が見えてきた。


昨日の村より少し大きい。


川に近いためか、畑も広い。


だが村の入口には、厳しい顔の見張りがいた。


誠司が木札を見せると、見張りの顔色が変わった。


すぐに村長らしき女性が呼ばれる。


女性は木札を読み、薬草の束を受け取ると、ほっと息を吐いた。


どうやら急ぎの品だったらしい。


奥の家から咳き込む子どもの声が聞こえた。


薬草は薬だったのだ。


女性は誠司の手を握り、何度も礼を言った。


言葉は分からない。


だが、間に合ったのだと分かった。


誠司は胸の奥が熱くなるのを感じた。


自販機補充の仕事では、誰かの顔を見ることは少なかった。


売り切れランプを消す。


棚を満たす。


それで終わりだった。


けれど今は違う。


届けた相手がいる。


届いたことで助かる誰かがいる。


「配送って、こういうことだったんだな」


女性は対価として、硬貨と野菜を差し出した。


誠司は受け取り、代わりにミネラルウォーターを数本並べた。


村人たちが集まってくる。


昨日の村と同じ反応だった。


冷たい。


透明。


清潔。


飲みやすい。


さらに誠司は、スポーツドリンクを小さな木の杯に少しずつ分けた。


甘さに村人たちが驚く。


子どもが目を輝かせる。


だが、誠司は売りすぎない。


今日の目的は配送だ。


商売はおまけ。


「初回は十本まで」


地面に線を十本引き、そこで終わりだと示す。


もっと欲しがる声もあったが、村長の女性が止めてくれた。


誠司はほっとした。


この村にも、また来ればいい。


一度に全部出す必要はない。


帰り際、女性は別の木札を差し出した。


今度は、昨日の村へ返す手紙らしい。


さらに、小さな袋。


中には乾燥豆が入っていた。


「返信と荷物、か」


誠司は思わず笑った。


配送は片道では終わらない。


行きがあれば、帰りがある。


村と村を繋げば、物も情報も動き出す。


誠司は荷物を積み、運転席に戻る。


夕方の光が川面に反射していた。


トラックはゆっくり走り出す。


助手席には木札。


荷台には乾燥豆。


そして、満タンに戻る飲み物たち。


誠司はハンドルを握りながら呟いた。


「まずは定期便だな」


この村と、あの村。


週に一度でも繋げば、薬も手紙も食料も届く。


困った時だけではなく、普段から届く仕組みを作る。


それができれば、この世界は少し便利になる。


元の世界では当たり前だったこと。


だが、この世界では革命になるかもしれない。


日が沈む前に、誠司は最初の村へ戻った。


村長は返信の木札を受け取り、驚いた顔をした。


こんなに早く戻るとは思っていなかったのだろう。


誠司は荷台から乾燥豆を下ろし、さらに隣村でもらった野菜を見せた。


村人たちがざわめく。


一日で隣村と往復した。


それだけのことが、この世界では大きな意味を持つ。


村長は地面に、二つの村を結ぶ線を描いた。


誠司はその線を見て、頷く。


「配送ルート、一号だ」


翌朝には、また荷台は満タンになる。


けれど今日運んだ木札と薬草と豆は、自動では補充されない。


それらは人から人へ渡った本物の荷物だ。


だからこそ、価値がある。


その夜、誠司はトラックの荷台で眠りながら、明日の予定を考えた。


村と村を繋ぐ。


荷物を運ぶ。


飲み物を少し売る。


困っている人がいれば助ける。


単純だ。


だが、悪くない。


異世界での二日目にして、田村誠司には仕事ができた。


そして翌朝。


荷台は満タンだった。


だが、助手席に置いていたはずの地図の端に、見覚えのない赤い印が増えていた。


「……誰が、書いた?」


誠司は息を呑む。


赤い印は、まだ行ったことのない山道の先を示していた。

第2話では初配送と定期便の可能性を描きました。

最後に、補充トラックの謎につながる赤い印を出しています。次回は、その印の先にある「届け先不明の荷物」へ向かいます。

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