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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第26話 第一配送者の記録

西方大森林で見つかった、満タン便と同系統の古い部品。

帳面はそれを「第一配送者」の痕跡だと示した。

補充機能暴走――その言葉は、誠司にとって他人事ではなかった。

田村誠司は、荷台の中で帳面を開いていた。


ページには、昨日から同じ記録が残っている。


第一配送者。

西方大森林にて運行不能。

補充機能暴走。

拠点喪失。

運転者記録、不明。


何度読んでも、意味は重かった。


第一配送者。


つまり、自分の前に誰かがいた。


しかも、その誰かは失敗した。


誠司は荷台を見回す。


満タンの飲料。


保冷区画。


配送拠点札。


隔離輸送箱。


便利になっていく機能。


それがもし、どこかで暴走するなら。


「俺も同じになるのか……?」


答えはない。


ロウグは記録を聞いて、真剣な顔になった。


「補充機能暴走、とは?」


「分からない。ただ、たぶん出しすぎたんだと思う」


「荷物を?」


「飲み物か、機能か、依頼か。何かを増やしすぎた」


誠司は第20話のことを思い出していた。


依頼過多。


運行負荷上昇。


断る仕組み。


あの時に制限を作らなければ、満タン便も危なかったのかもしれない。


ミナは心配そうに荷台の飲み物を見ていた。


彼女にも、ただならぬ空気は伝わっている。


その日の午後。


誠司はガラン、ロウグ、水車町の薬師、森の民の年長女性を集めた。


旧配送者の部品を見せるためだ。


隔離箱の中の外殻片。


小さな破片。


錆びた車輪。


ガランは腕を組み、唸った。


「壊れ方がおかしい」


ロウグが訳す。


「普通に壊れたのではなく、内側から弾けたようだ、と」


薬師も言った。


「周囲の流れを乱す力が残っている」


森の年長女性は、車輪を見て静かに目を閉じた。


ミナが訳す。


「昔、森が一度病んだ。たぶん、これ」


誠司は背筋を伸ばした。


第一配送者の事故は、森に長く影響を残していた。


便利な力が壊れると、土地まで傷つける。


その事実は重い。


帳面が淡く光る。


旧配送者記録、追加解析可能


ページに新しい文字が浮かんだ。


第一配送者は、拠点を急速に拡大。

補充要求が供給許容量を超過。

自動補充処理が不安定化。

余剰物資発生。

物流網崩壊。

最終地点、西方大森林。


誠司は唇を結んだ。


急速な拡大。


供給許容量超過。


余剰物資。


物流網崩壊。


身に覚えがありすぎた。


リーベル受付所を作った直後、依頼は爆発した。


もし制限しなければ。


もし全部受けていたら。


満タン便も同じ道を辿ったかもしれない。


ロウグが低く言った。


「つまり、広げすぎると壊れる」


「そういうことだな」


「では、西方大森林への拡大は危険です」


誠司は頷いた。


「だから、森は受渡所だけにする。奥へは入らない。定期便も小規模」


森の年長女性も静かに頷いた。


それでよい、という表情だった。


誠司は帳面に新しい規則を書いた。


満タン便規則七:新配送路は、既存路が安定してから接続すること。


文字は紙に染み込んだ。


そして帳面に表示が出る。


暴走危険度 低下


全員が意味は分からなくても、空気が少し軽くなったのを感じた。


その夜。


誠司は一人でトラックの運転席に座っていた。


フロントガラスの向こうには、水車町の灯り。


満タン便受付所。


集荷棚。


人々が作った看板。


全部、自分一人ではできなかったものだ。


第一配送者は、なぜ暴走したのか。


一人で抱えすぎたのか。


広げすぎたのか。


それとも、断れなかったのか。


誠司はハンドルを握る。


「俺は、同じことはしない」


翌朝。


荷台は満タンだった。


だが帳面には、珍しく新しい依頼は出ていなかった。


代わりに一文だけ。


休整日推奨


誠司は思わず笑った。


「休めってか」


ロウグが覗き込み、意味を聞いて笑った。


「車に休めと言われる配送屋ですか」


「悪いか」


「いいえ。長く続く商売には、休みが必要です」


その日、満タン便は走らなかった。


水車町で荷台を掃除し、棚を直し、受付の整理をした。


ミナは集荷所の札を並べ替えた。


ロウグは依頼の優先表を改訂した。


ガランは荷留め具を調整した。


森の民からは、泉の水が澄み始めたという知らせが届いた。


走らない一日。


それでも満タン便は進んでいた。


夕方、帳面に新しい文字が浮かぶ。


運行安定度 上昇


第一配送者記録:一部封印解除


記録断片:

「届けることをやめられなかった」

「求められるたび、積んだ」

「満タンは、限界ではないと思っていた」

「違った。限界は荷台ではなく、道にあった」


誠司は静かにページを閉じた。


それは、第一配送者からの警告だった。


そして、満タン便が進むべき方向を示す言葉でもあった。


限界は荷台ではなく、道にある。


ならば道を守る。


人を育てる。


拠点を整える。


そして、必要なら断る。


誠司は荷台を見た。


満タンの飲み物は、もう万能の象徴ではない。


使い方を間違えれば壊れる力。


だからこそ、正しく運ぶ。


翌朝から、満タン便はまた走る。


けれど以前とは違う。


速く広げるためではなく、長く続けるために。

第26話では、第一配送者の失敗が「急速な拡大」と「断れなかったこと」にあったと判明しました。

満タン便は、拡大よりも安定を重視する方針へ進みます。

次回は休整日明け、森の泉の回復と、新しい小さな依頼を描きます。

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