第22話 鉄を使わない納品物
西方大森林の森の民と接触した満タン便。
彼らが求めたのは、冷たい水、薬、そして「鉄を使わない道具」だった。
誠司は森との信頼作りのため、新しい納品物を探し始める。
「鉄を使わない道具、ねえ……」
田村誠司は水車町の集荷所で腕を組んでいた。
森の民から届いた依頼は、これまでのどれとも違っていた。
水。
薬。
そこまでは分かる。
だが、鉄を使わない道具。
鍛冶町のガランに頼めば早い。
しかし森の民は鉄を嫌う。
なら、鍛冶町ではなく木工職人の出番だ。
ロウグは帳面を覗き込みながら言った。
「水車町には樽職人がいます。木材加工なら得意ですよ」
「樽職人か」
「木の柄杓、木箱、木栓、簡単な器。鉄を使わない品なら作れます」
誠司は頷いた。
まずは押し売りしない。
森の民が何に困っているのかを探る。
今回は試験納品だ。
木の器。
木箱。
布紐。
薬草を包む紙。
それから水と薬。
保冷区画には薬だけ。
飲み物は少量。
誠司は帳面に書いた。
森入口仮受渡所便。少量納品。交換品は確認後。
ミナは今回も同行したがった。
誠司は少し迷った。
森の民との意思疎通には、ミナの感覚が役に立つ。
だが危険もある。
結局、条件付きで乗せることにした。
「勝手に降りない。勝手に触らない。森の奥へ行かない」
ロウグが訳すと、ミナは真剣に頷いた。
水車町の樽職人は、満タン便の依頼に張り切った。
木の器を十個。
小さな木箱を五つ。
鉄釘を使わず、木の継ぎ手と蔓で固定した道具。
見た目は素朴だが、丁寧に作られている。
誠司は荷台に積みながら感心した。
「釘なしでここまで作れるんだな」
職人は誇らしげだった。
ロウグが訳す。
「木は木だけで組む方が美しい、と」
ガランが聞いたら鼻で笑いそうだ。
だが、これはこれで技術だ。
満タン便は西方大森林へ向かった。
森の入口に近づくと、空気が変わる。
湿った土。
濃い緑。
鳥の声。
前回と同じ場所で、誠司はトラックを止めた。
森の奥へは入らない。
しばらく待つと、森の民が現れた。
前回の年長女性もいる。
彼女はトラックを警戒しながらも、以前ほど弓を構えていない。
ミナが小さく手を振ると、森の民の若者が少しだけ表情を緩めた。
誠司は荷台を開け、まず水を三本置いた。
次に薬。
最後に木の器と木箱。
鉄を使っていないことを示すため、樽職人から預かった木片と継ぎ手の見本も一緒に置いた。
森の民の女性は、木の器を手に取り、指でなぞった。
木箱を開ける。
閉める。
匂いを嗅ぐ。
やがて、仲間と短く話した。
ミナが耳を澄ませる。
「悪くない、って」
誠司は少し安心した。
すると、森の民の一人が奥から何かを持ってきた。
割れた木製の道具。
水を汲むための桶らしい。
だが縁が割れ、紐も切れている。
「修理してほしいのか?」
ミナが頷く。
「鉄なしで、直せるか」
誠司は桶を受け取った。
自分では難しい。
だが水車町の樽職人ならできる。
「持ち帰って直す。次に届ける」
地面に絵を描いて説明する。
森。
水車町。
修理。
戻す。
年長女性は少し考え、頷いた。
これは大きい。
森の民が物を預けた。
つまり、ほんの少し信頼されたということだ。
帰り際、森の民は木の実と薬草を少量渡してくれた。
ロウグが見たらまた目を輝かせるだろう。
だが誠司は売るためではなく、まず薬師に確認するつもりだった。
水車町へ戻ると、樽職人は割れた桶を見て目を輝かせた。
「これは良い仕事だ、と言っています」
ロウグが訳す。
桶の作り方が、水車町のものと違うらしい。
鉄を使わず、木と蔓だけで強度を出している。
職人同士の興味が生まれていた。
修理には一晩かかる。
その間、薬師が森の薬草を調べた。
一部は高価な薬材。
一部は扱いに注意が必要。
誠司は帳面に記録する。
森薬草は薬師確認後に扱う。無断販売禁止。
翌朝。
修理された桶は見違えるようになっていた。
元の構造を尊重し、鉄は使っていない。
蔓と木栓だけで補強している。
樽職人は誇らしげに胸を張った。
誠司は水と薬と一緒に、桶を荷台へ積んだ。
森入口へ戻る。
年長女性は修理された桶を見ると、初めてはっきり笑った。
周囲の森の民もざわめく。
彼らは桶を何度も確認し、蔓の結び方を見て感心している。
誠司は樽職人から預かった木札を渡した。
作業内容の説明らしい。
読めるかは分からない。
だが、職人から職人への敬意は伝わったようだった。
年長女性は、小さな木札を返してきた。
森の印が刻まれている。
ミナが訳す。
「入口、使っていい。森の奥はまだだめ。でも、ここは満タン便の場所」
誠司は静かに頷いた。
仮受渡所が、正式に認められた。
帳面が淡く光る。
森入口受渡所:仮登録完了
西方大森林接続率上昇
さらに。
新規分類:文化配慮配送
誠司は思わず苦笑した。
「文化配慮って……まあ、そうだな」
鉄が駄目。
入りすぎても駄目。
売りすぎても駄目。
配送はただ運べばいいわけではない。
相手の暮らしに合った形で届ける必要がある。
その日の帰り道。
ミナは窓の外を見ながら満足そうだった。
「森、少し好きになったか?」
ミナは頷いた。
そして胸を叩き、満タン便の看板を指差した。
自分も役に立った、と言いたいらしい。
「助かったよ」
誠司がそう言うと、ミナは得意そうに笑った。
水車町に戻ると、ロウグが待っていた。
誠司が森の印の木札を見せると、彼は目を丸くした。
「森の受渡許可です。これは貴重ですよ」
「売らないぞ」
「言われると思いました」
「何回目だよ」
ロウグは笑った。
その夜。
帳面に新しい依頼が浮かんだ。
森入口受渡所より依頼:冷たい水、木桶修理二件、薬師相談一件。
そして、その下にもう一文。
注意:森内部に異変あり。詳細不明。
誠司は眉をひそめた。
「異変……?」
森の民はまだ奥へ入るなと言っていた。
だが、その森の奥で何かが起きている。
満タン便は、また少しずつ深い場所へ近づこうとしていた。
第22話では「鉄を使わない道具」を通じて、森の民との信頼を少し築きました。
ただ物を届けるだけでなく、相手の文化に合わせる配送がテーマです。
次回は森内部の異変。満タン便は森の奥へ踏み込むべきか、慎重な判断を迫られます。




