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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第20話 満タン便は万能ではない

商都リーベルに受付所ができ、満タン便は大きく成長した。

しかし成長には代償もある。

依頼が増えすぎれば、どんな仕組みも壊れてしまう。

誠司は初めて、「運ばない」という決断と向き合う。

リーベルから戻った三日後。


田村誠司は、水車町の集荷所の前で立ち尽くしていた。


木札が多い。


とにかく多い。


棚が埋まっている。


通常配送。


保冷配送。


北砦便。


鍛冶町便。


リーベル便。


さらに新規依頼。


漁村から魚。


リーベルから香辛料。


北砦から薬。


水車町から粉。


朝から晩まで走っても終わらない量だった。


ミナが一生懸命仕分けをしている。


受付係も額に汗を浮かべている。


ロウグでさえ苦笑していた。


「来ましたね」


「何が」


「成功の代償です」


誠司は棚を見上げた。


確かにそうだった。


誰も困らせたいわけではない。


誰も悪意はない。


ただ、満タン便が便利だから頼む。


それだけだ。


だが便利だからといって、全部引き受ければ壊れる。


元の世界でもそうだった。


配送員が足りない。


荷物が多すぎる。


無理な時間指定。


それを思い出していた。


帳面を開く。


文字が浮かぶ。


運行負荷上昇


推奨:配送制限設定


「やっぱり出るか」


ロウグが覗き込む。


当然読めない。


だが誠司の表情で察したらしい。


「制限ですね?」


「そうだ」


「必要です」


即答だった。


珍しくロウグが迷わない。


「断れば不満は出ますよ」


「分かってる」


「ですが、壊れるよりは良い」


誠司は頷いた。


その日の午後。


満タン便の受付所に、新しい木札が掲示された。


満タン便運行規則改訂


・緊急便優先


・医療品優先


・食料優先


・受付上限あり


・満載時は翌便へ繰越


・一人による大量依頼は禁止


町の人々がざわついた。


当然だった。


今までは受けていた依頼を断ることになる。


その日のうちに問題は起きた。


リーベルの商人だった。


大量の香辛料を運びたいという。


利益は大きい。


だが荷台を占領する。


誠司は断った。


商人は怒った。


金を積むと言った。


それでも断った。


「北砦の薬が先だ」


ロウグが訳す。


商人はさらに怒った。


だが誠司は譲らなかった。


満タン便は高い荷物を運ぶためにあるのではない。


必要な荷物を運ぶためにある。


結局、商人は不満そうに去っていった。


受付所の空気は重かった。


ミナも心配そうだ。


しかし翌日。


北砦の兵士がやってきた。


運ばれた薬で助かった人がいたらしい。


兵士は深く頭を下げた。


誠司も少し肩の力が抜けた。


間違っていなかった。


その後も断る場面は続いた。


急がない荷物。


大量のぜいたく品。


個人の買い占め。


全部は受けない。


その代わり。


受付所には新しい仕組みができた。


予約札。


翌便札。


優先順位表。


今すぐ運べないなら、次に運ぶ。


待つ仕組みを作る。


それだけで混乱は減った。


ガランも賛成した。


「良い鍛冶屋は全部の注文を受けん」


ロウグが訳す。


「納期を守れなくなるからだ」


誠司は苦笑した。


どこの世界でも同じらしい。


その夜。


帳面に新しい文字が浮かんだ。


運行負荷安定


配送網維持成功


そして。


さらに下に。


今まで見たことのない表示。


第一部運行記録 完了


誠司は眉をひそめた。


第一部?


何だそれは。


ページをめくる。


すると配送路の地図が浮かんだ。


水車町。


鍛冶町。


北砦。


川下漁村。


商都リーベル。


全ての線が繋がっている。


異世界へ来た時は一本もなかった道だ。


今では立派な網になっている。


誠司は静かに眺めた。


その時だった。


荷台の奥。


新機能の棚が淡く光る。


だが今回は扉は増えない。


代わりに、一枚の木札が現れた。


白い木札。


そこに文字が浮かぶ。


新規方面候補:西方大森林


誠司は思わず笑った。


「休ませる気ないな」


ロウグが横から覗く。


「どうしました?」


「いや……新しい道だ」


ロウグも笑う。


ミナも笑う。


受付係も笑う。


満タン便は終わらない。


道がある限り。


必要な人がいる限り。


きっと走り続ける。


翌朝。


ガソリンは満タン。


荷台も満タン。


受付所には新しい依頼。


空は快晴。


誠司は運転席に乗り込んだ。


元はただの自販機補充員だった。


今は異世界の配送屋だ。


それでもやることは変わらない。


足りない場所へ。


必要な物を。


ちゃんと届ける。


エンジンが静かに唸る。


満タン便は走り出した。


まだ見ぬ西方大森林へ続く、新しい道のために。

第20話で『毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました』第一部完結です。


誠司は異世界に来た一人の補充員から、水車町・鍛冶町・北砦・漁村・リーベルを繋ぐ配送屋へ成長しました。


そして最後に現れた新たな目的地「西方大森林」。


第二部では、さらに広い世界、新たな種族や都市、そしてトラックの秘密にも迫っていきます。


――第一部完。

――第二部『西方大森林編』へ続く。

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