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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第19話 商都リーベルと満タン便支店

崩落した橋を復旧し、商都リーベルへの道がつながった。

その直後、荷台に現れた新機能「配送拠点登録機能」。

満タン便はついに、大きな商都へ足を踏み入れる。

仮橋を渡った先の道は、これまでのどの道より広かった。


馬車の轍が何本も重なり、道端には石の標識まで立っている。


商都リーベルへ続く街道。


田村誠司はハンドルを握りながら、少しだけ緊張していた。


水車町とも鍛冶町とも違う。


リーベルは大きな町だ。


商会があり、金が動き、人も多い。


満タン便の名前が広がれば、便利になる反面、面倒も増える。


助手席のロウグは楽しそうだった。


「緊張していますね」


「してる」


「正直ですね」


「大きい商売は苦手なんだよ」


「まだ商売人ではなく配送屋ですからね」


ロウグはそう言って笑った。


荷台には、リーベル商会へ返す空箱と木札。


避難村からの礼状。


水車町からの魚の試供品。


鍛冶町ガランからの金具見本。


そして、新しく現れた小棚に置かれた木札。


配送拠点登録機能


使い方はまだ分からない。


だが誠司は何となく理解していた。


水車町に集荷所ができた。


北砦に中継所ができた。


今度は、商都に満タン便の拠点を置け、ということなのだろう。


「支店みたいなものか……」


「支店?」


ロウグが首を傾げる。


「本拠地以外の受付所だ」


「良い響きです。満タン便リーベル支店」


「勝手に決めるな」


そう言いながらも、誠司は否定しきれなかった。


リーベルの門が見えた。


石壁に囲まれた大きな町。


門の前には馬車の列。


商人、旅人、荷運び、兵士。


トラックが近づくと、列がざわめいた。


当然だ。


馬のない鉄の車。


しかも大きな荷台。


門番が槍を構える。


ロウグがリーベル商会の通行証を掲げる。


以前エレナから受け取った木札だ。


門番はそれを見ると、急いで中へ使いを走らせた。


しばらくして、エレナが現れた。


以前、中継所で保護した商会主の娘。


彼女は誠司を見ると、深く頭を下げた。


ロウグが訳す。


「橋の件、避難村への輸送、心より感謝する、と」


誠司は軽く頭を下げた。


「必要な荷を運んだだけだ」


エレナは微笑んだ。


その後、満タン便はリーベルの中へ入った。


町は圧倒的だった。


石畳の道。


二階建て、三階建ての建物。


市場の声。


馬車の音。


香辛料の匂い。


革、鉄、焼き菓子、魚、酒。


あらゆるものが混ざった匂いがする。


ミナがいたら大騒ぎしただろう。


今日は留守番だ。


連れてこなくて正解だった。


リーベル商会の倉庫は、町の南側にあった。


巨大な木造倉庫。


荷物の量は、水車町の集荷所とは比べものにならない。


誠司は荷台を降りて、思わず口を開けた。


「これは……多すぎるな」


ロウグも真面目な顔で頷く。


「満タン便一台では到底さばけません」


エレナが倉庫の一角へ案内する。


そこには、すでに空けられた小さなスペースがあった。


机。


棚。


木札置き。


水車町の受付所に似せて作られている。


エレナは言った。


ロウグが訳す。


「ここを満タン便のリーベル受付所として使ってほしい、と」


誠司は即答しなかった。


便利だ。


だが危険でもある。


リーベル商会の敷地内に受付所を置けば、満タン便がリーベル商会のものだと誤解される。


独占に近づく。


それは避けたい。


「条件がある」


エレナは静かに頷いた。


誠司は指を立てる。


「一つ。満タン便はリーベル商会専属ではない」


ロウグが訳す。


エレナは頷く。


「二つ。緊急物資、薬、食料、公共の荷を優先する」


エレナはまた頷く。


「三つ。飲み物の大量販売はしない」


ここでエレナは少し驚いた顔をした。


ロウグも苦笑する。


「やはりそこですか」


「そこだ」


冷たい飲み物は、商都なら高く売れる。


だがそこで荒稼ぎを始めれば、満タン便は配送屋ではなく奇跡の商品屋になる。


それは違う。


エレナはしばらく考え、やがて微笑んだ。


「満タン便は、物を売るためではなく、道を繋ぐためにある。そう理解した、と」


ロウグが訳した。


誠司は少し驚いた。


話が早い。


エレナは商人だが、ロウグとは違う鋭さがある。


帳面を開く。


配送拠点登録機能の木札を取り出す。


受付所の机に置く。


すると木札が淡く光った。


机の上に、薄い線が浮かぶ。


水車町。


北砦。


鍛冶町。


川下漁村。


そしてリーベル。


帳面にも文字が現れる。


リーベル受付所:仮登録


本登録条件:独立性の確保、担当者配置、運行規則掲示


「条件付きか」


誠司は頷いた。


悪くない。


むしろ当然だ。


リーベル商会の中に置くなら、独立性を明確にしなければならない。


エレナはすぐに、商会の若者を一人呼んだ。


受付担当にするという。


だが誠司は首を横に振った。


「リーベル商会だけの人間じゃ駄目だ」


ロウグが訳すと、周囲がざわついた。


エレナは少し考え、納得したように頷いた。


「では、町の荷運び組合からも一人。薬師組合からも一人。三者で受付を管理する」


「それならいい」


ロウグが感心したように呟く。


「本当に支店作りですね」


誠司は苦笑した。


午後、リーベル受付所の準備が始まった。


看板を作る。


規則を書く。


荷物の優先順位を掲示する。


水車町と同じく、木札の色分けを導入する。


赤は緊急。


黒は危険路。


青は保冷。


白は通常。


リーベルの職人たちは仕事が早かった。


夕方には、立派すぎる看板が完成した。


満タン便 リーベル受付所


誠司はその看板を見て、複雑な気持ちになった。


嬉しい。


だが怖い。


自分が思っていたより、満タン便は大きくなっている。


その夜。


リーベル商会の食堂で、簡単な歓迎の席が用意された。


豪華な料理。


香辛料の効いた肉。


白いパン。


甘い菓子。


誠司は落ち着かなかった。


ロウグは平然と食べている。


エレナは向かいに座り、静かに言った。


「あなたは、この町で大きな富を得られる」


ロウグが訳す。


誠司は答えた。


「富が欲しいなら、最初から飲み物を売りまくってる」


エレナは笑った。


「だから信用できる、と」


その言葉に、誠司は少しだけ黙った。


信用。


それを守るために、ここまで来た。


翌朝。


リーベル受付所の机に帳面を置くと、文字が浮かんだ。


リーベル受付所:本登録完了


第五配送路:商都リーベル―水車町―北砦方面


配送拠点登録機能:有効化


その瞬間、荷台の小棚が淡く光った。


中に新しい木札が三枚現れる。


白木の札。


何も書かれていない。


帳面には説明が浮かぶ。


拠点札:登録済み拠点に設置可能。依頼情報を同期。


誠司は固まった。


「同期……」


つまり、水車町とリーベルの受付で、依頼情報を共有できるということか。


ロウグが説明を聞いて、目を輝かせた。


「これは革命です」


「また大げさな」


「いいえ。離れた受付同士で依頼が共有できるなら、空荷が減る。無駄が減る。荷物の流れが見える」


誠司も理解していた。


これはただの便利機能ではない。


物流網の中枢になる。


使い方を間違えれば、大混乱を招く。


誠司は新しい規則を書いた。


満タン便規則五:拠点札は、信頼できる受付所にのみ置くこと。


文字は紙に染み込んだ。


帰り際、エレナは一つの依頼を出した。


リーベルから水車町へ、薬師組合の薬。


水車町からリーベルへ、川魚の試供品。


鍛冶町からリーベルへ、金具見本。


逆方向の荷物が同時に動く。


これが拠点化の力だ。


誠司は運転席に乗り込んだ。


商都の門を出る時、門番たちがもうトラックを見ても槍を構えなかった。


代わりに、ひそひそと名前を呼ぶ。


満タン便。


道がまた一本、太くなった。


しかし、リーベルを出てしばらく走ったところで、帳面に新しい文字が浮かんだ。


注意:過剰依頼発生の兆候


運行負荷上昇


誠司は顔をしかめた。


「やっぱり来たか」


便利になれば、依頼は増える。


拠点が増えれば、期待も増える。


満タン便は、次に「断る仕組み」を作らなければならない。


そうしなければ、いずれ自分も、トラックも、道も壊れる。


誠司はハンドルを握り直した。


大きくなることより、続けること。


満タン便の次の課題は、そこにあった。

第19話では商都リーベルに満タン便受付所ができました。

新機能「拠点札」によって、離れた受付所同士で依頼情報を共有できるようになります。

しかし便利になった分、依頼過多の兆候も発生。

次回は「断る勇気」と運行制限の回です。

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