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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第16話 川下の漁村と銀鱗の朝

保冷区画が解放され、満タン便は新たな可能性を手に入れた。

次の配送候補は川下の漁村。

これまで遠くへ運べなかった魚を届けるため、誠司は新しい道へ向かう。

翌朝。


帳面を開くと、昨日と同じ文字が残っていた。


第四配送候補:川下の漁村。保冷輸送試験。


田村誠司はコーヒーを一口飲みながらため息をついた。


「また新しい場所か」


最近は慣れてきた。


新しい依頼。


新しい町。


新しい問題。


そして新しい配送路。


最初は帰る方法を探していたはずなのに、気付けば配送網を広げている。


ロウグは楽しそうだった。


「魚ですよ」


「嬉しそうだな」


「商人が魚を嫌う理由はありません」


確かにそうだ。


魚は売れる。


だが傷みやすい。


だから価値がある。


保冷区画がなければ成立しない輸送だった。


ミナは朝からそわそわしていた。


漁村という言葉だけで興味津々らしい。


山育ちなのだから当然かもしれない。


誠司は受付所の棚を確認した。


北砦便。


鍛冶町便。


第一配送路。


通常配送。


問題なし。


今日は半日ほどなら新しい道へ行ける。


「試験運用だ」


帳面に書く。


魚は少量。


優先は薬。


利益目的の大量輸送は禁止。


ロウグは少し残念そうな顔をした。


「分かっています」


「本当に?」


「半分くらい」


誠司は苦笑した。


午前中。


満タン便は川下へ向かった。


今回はロウグも同行する。


商人としての興味が強いらしい。


川沿いの道を下る。


水車町よりさらに下流。


流れは穏やかになり、空気が少し湿っている。


途中から、風に独特の匂いが混じり始めた。


魚の匂いだ。


ミナは窓から顔を出しそうになり、誠司に止められた。


「落ちるぞ」


ミナは不満そうに頬を膨らませる。


だが目は輝いている。


昼前。


漁村が見えた。


川辺に建つ木造の家々。


岸には小舟。


網を干す台。


魚をさばく作業場。


人々は忙しく動いていた。


だが表情は明るくない。


漁師たちはトラックを見るなり集まってきた。


ロウグが話を聞く。


しばらくして振り返った。


「予想以上です」


「何が?」


「魚が余っています」


漁村では魚が獲れる。


だが遠くへ運べない。


近くの村だけでは消費しきれない。


余った魚は干物にするか、捨てるしかなかった。


誠司は保冷区画を見た。


小さい。


全部は無理だ。


「試験だ」


ロウグが頷く。


まずは一番傷みやすく、一番高く売れる魚だけ。


漁師たちは相談し、銀色に光る魚を持ってきた。


細長い川魚だ。


名前は分からない。


だが新鮮だった。


保冷区画に木箱を入れる。


冷気が魚を包む。


漁師たちは目を見開いた。


箱の中から冷気が漏れる。


この世界では見慣れない光景だ。


一人の老人が震える声で何か言った。


ロウグが訳す。


「冬を持ち歩いているみたいだ、と」


誠司は少し笑った。


確かにそんな感じだった。


積める量は少ない。


木箱二つ。


それだけ。


だが試験としては十分だ。


漁師たちは代金よりも結果を知りたがっていた。


本当に町まで鮮度を保てるのか。


売れるのか。


それが重要だった。


帰路。


ミナは何度も保冷区画を見ていた。


魚が気になるらしい。


「開けるなよ」


言うと、慌てて手を引っ込めた。


水車町へ着いたのは夕方だった。


魚を見た人々が集まる。


薬師。


パン屋。


宿屋。


商人。


皆が興味を示した。


魚はまだ新鮮だった。


目も濁っていない。


匂いも少ない。


宿屋の主人が購入を希望した。


薬師も栄養食として欲しがる。


結果は上々だった。


漁村では安かった魚が、水車町では数倍の価値になった。


ロウグは計算しながら目を輝かせている。


「これは成功です」


「まだ試験だ」


「分かっています」


「本当に?」


「今回は八割くらい」


誠司はため息をついた。


その夜。


漁村へ結果を伝えるための木札を書いた。


魚は売れた。


鮮度も保てた。


次回も少量から。


そして利益の一部は漁村へ返す。


満タン便は仲介料を取りすぎない。


それが誠司の方針だった。


翌朝。


帳面を開く。


新しい文字が浮かんでいた。


第四配送路:仮登録


川下漁村―水車町


さらに、その下。


保冷区画利用率上昇


そして。


次段階条件の一部達成


誠司の眉が動いた。


まただ。


運行安定度の時と同じ。


何かが進んでいる。


トラックが成長しているようにも見える。


「嫌な予感がするな」


ロウグは楽しそうだった。


「私は良い予感しかしません」


「商人だからな」


「ええ」


ミナは帳面を覗き込みながら首を傾げている。


当然、読めない。


だが雰囲気で何かを感じているらしい。


その時だった。


受付所へ一人の男が走ってきた。


北砦の伝令だった。


息を切らしながら木札を差し出す。


赤い紐。


緊急便。


ロウグが読む。


そして表情を変えた。


「どうした?」


「北砦ではありません」


「じゃあどこだ?」


ロウグはゆっくり答えた。


「リーベルです」


誠司は息を呑んだ。


商都リーベル。


まだ未接続のはずの場所。


木札には短く書かれていた。


至急。リーベル商会より正式依頼。


誠司は空を見上げた。


どうやら。


足元を固めている間に。


向こうから道が伸びてきたらしい。

第16話では川下の漁村を訪れ、保冷区画を使った初めての魚輸送を行いました。


これにより第四配送路が誕生し、満タン便は食料流通にも関わり始めます。


そして最後には、これまで名前だけだった商都リーベルから正式依頼が到着。


次回からは新章「商都リーベル編」が始まります。

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