第143話 助手席では教えない便
白いK2D-0713・車歴D。
満タン便としての役目を終え。
普通の車へ戻ったその車に。
SR-02の正式訓練を受ける前の小川健太郎が、一度だけ助手席へ乗ります。
ただし。
運転はしません。
教習でもありません。
工場で臨時の返却当番を終えた小川が。
自分の働く始発配送所へ戻るため。
たまたま同じ方向へ行く普通車へ乗せてもらうだけです。
なら。
その十数キロを。
あとから「予習だった」と呼んではいけません。
助手席から見た景色と。
運転席で責任を持つことは。
同じではないからです。
「運転者の名前は、まだ探しません」
朝。
水車町配送所。
ロウグが。
昨日の記録を開く。
K2D-0713・車歴D
高瀬圭介――本人私用返却完了後
小川健太郎――普通人員同乗
日本側特装工場
↓
日本側始発配送所
運転者――未登録
ガランが言う。
「でも誰かは運転する」
「はい」
「そいつが分かれば話が早いだろ」
「何の話が?」
ガラン。
少し。
止まる。
「……車を運ぶ話」
「小川さんが乗る話とは別です」
そこ。
最初に。
分ける。
*
一台の車。
一回の移動。
だから。
目的も。
一つ。
とは限らない。
運転者。
車を。
移す。
同乗者。
家へ。
帰る。
車両管理側。
配置を。
変える。
三つ。
同じ道。
走る。
でも。
同じ仕事。
ではない。
誠司は。
紙へ。
三つ書いた。
車両の移動目的
運転者の役目
同乗者の移動目的
さらに。
一つ。
同乗者が乗らなくても、その車は同じ経路を走るか。
「これ」
サーラが言う。
「大事ですね」
「はい」
小川を。
帰すためだけに。
K2D-0713を。
わざわざ。
始発配送所へ。
走らせる。
なら。
小川の。
人員便。
でもある。
でも。
小川が。
乗らなくても。
車は。
同じ場所へ。
移される。
なら。
小川は。
その移動へ。
相乗りするだけ。
*
今の水車町で。
試す。
東方。
共同荷車。
修理終了。
今日。
風見村へ。
返す。
空荷。
運転者。
一人。
ちょうど。
市場帰りの。
水車町住人が。
東の分かれ道まで。
行きたい。
「乗れる?」
本人が。
尋ねる。
荷台。
ではない。
小型の。
補助席。
一つ。
安全。
問題なし。
「この人が乗らなかったら」
誠司が。
運転者へ聞く。
「荷車は風見村へ行きますか」
「行きます」
「経路は変わる?」
「分かれ道、通るから変わらない」
「到着時刻」
「ほぼ同じ」
「荷重」
ガラン。
確認。
問題なし。
「なら」
普通同乗
として。
一緒に。
行く。
*
票。
新設。
運行目的分離票
車両。
東方共同荷車
車両目的。
修理完了車返送
運転者役目。
東方返送
同乗者。
普通人員一名
同乗目的。
本人移動
同乗者不在時。
車両運行――実施
経路変更。
なし
追加配送実績。
なし
同乗者役目。
なし
「荷物扱い?」
「しません」
人。
だから。
受領。
でもない。
*
出発。
分かれ道。
本人。
降りる。
普通人員同乗――終了
荷車。
そのまま。
風見村へ。
運転者。
仕事。
続く。
「同じ便だけど」
若い仕分け係が言う。
「一人は仕事で、一人はただ乗ってた」
「はい」
同じ空間に。
いるから。
同じ役目。
ではない。
*
ところが。
帰着後。
若い仕分け係が。
ぽつり。
「乗ってた人、道覚えましたよね」
誠司が。
見る。
「たぶん」
「次から、東方便の運転できる?」
「できません」
即答。
「でもずっと横に」
「横にいたことと、運転できることは別です」
座る位置。
違う。
見るもの。
違う。
責任。
違う。
運転者。
道。
だけ。
見ていない。
車輪。
音。
荷重。
動物。
歩行者。
制動。
路面。
余白。
全部。
見る。
助手席。
そこまで。
求められない。
むしろ。
普通乗客に。
求めてはいけない。
*
新しい区分。
同乗経験
と。
運転経験
と。
教習経験
三つ。
分ける。
同乗経験。
乗ったことがある。
それだけ。
運転経験。
本人が操作し、運転責任を持った。
教習経験。
教習手順に基づき、説明・実技・確認を行った。
「助手席で説明を聞いたら?」
サーラ。
「何のために説明したかで分けます」
普通に。
「ここ曲がるよ」。
は。
会話。
教習。
ではない。
一方。
教習者が。
「今の交差点では、ここを見る」。
と。
カリキュラムに基づき。
後で。
確認。
する。
なら。
教習。
「勝手に」
ロウグが言う。
「後から教習だったことにしない」
「はい」
*
普通同乗票。
注意。
同乗中に見聞きした操作・経路情報を、本人同意なく教習実績へ転用しない。
さらに。
将来同一車両の教習を受ける場合も、普通同乗経験を理由に教習項目を省略しない。
ガランが。
笑う。
「“前に横で見たから分かるだろ”禁止」
「はい」
「言いそうだな」
「言わないでください」
「俺は教習係じゃない」
「なら大丈夫です」
*
日本側。
小川へ。
本人限定照会。
将来、K2D-0713車歴Dに普通同乗する記録があります。
区間――日本側特装工場から始発配送所。
あなたは運転しません。
SR-02教習として扱いません。
後の教習項目省略にも使用しません。
内容説明を希望しますか。
返答。
希望します。
詳細。
返却当番。
臨時応援。
終了。
始発配送所へ。
戻る。
その方向へ。
K2D-0713。
普通車配置換え。
予定。
空席。
一。
だから。
同乗。
小川。
少しして。
それなら乗ります。
次。
ただし一つ。
誠司。
読む。
後で「もう一回乗ったから分かるよね」は、なしでお願いします。
ガランが。
吹き出す。
「同じこと言ったな」
「はい」
小川。
続く。
助手席に座ってた時は、帰るだけにしたいです。
返答。
その扱いにします。
*
SR-02。
初回教習票。
更新。
第一受講者――小川健太郎
教習車――K2D-0713・車歴D
教習前同乗経験――あり
詳細。
車歴B
世界間普通人員往復時・助手席系統利用
車歴D
日本側普通道路・助手席同乗
でも。
運転経験――0
教習実績――0
教習項目免除――0
教習開始――第一項から
「Bも入ってる」
ロウグが言う。
小川。
現在。
すでに。
赤い満タン便。
助手席系統で。
日本。
水車町。
往復。
している。
厳密には。
車両が。
道路を走った。
わけではない。
でも。
同じ車両の。
助手席に。
座った経験。
ある。
それも。
記録上は。
“同乗経験”。
ただし。
教習。
何も。
進んでいない。
「三回乗っても」
サーラが言う。
「運転経験はゼロ」
「はい」
乗車回数。
技能点。
ではない。
*
では。
車は。
何のために。
工場から。
始発配送所へ。
行くのか。
未来記録。
開く。
K2D-0713・車歴D
日本側特装工場
↓
日本側始発配送所
車両運行目的――普通車配置換え
「SR-01教習車として?」
ロウグ。
配置換え時点――教習用途未受任
誠司が。
頷く。
そこも。
大事。
雪板。
第零試験。
まだ。
受けていない。
だから。
車を。
教習車。
として。
移さない。
普通車。
として。
始発配送所へ。
配置する。
その後。
SR-01。
第零試験。
実施。
本人受任。
車両使用。
受入。
全部。
成立したら。
その時。
一回だけ。
教習車。
になる。
「次の役目を」
雪板が言う。
「車にも先に付けない」
「はい」
水車町。
零番。
と。
同じ。
*
始発配送所。
受入。
普通車仮受入
次用途――未登録
「零番みたいですね」
ロウグが言う。
実際。
日本側表示。
車両仮受入枠――0
ガランが。
額を押さえる。
「向こうにも零番ができた」
「使い方が必要なら」
誠司が答える。
今。
水車町で。
作った。
次用途未確定車。
仮受入。
未来。
日本側へ。
渡る。
普通車。
D。
そこへ。
入る。
K2D-0713・車歴D
始発配送所到着後――仮受入枠0
次役目――なし
*
さて。
運転者。
誰。
ここで。
ようやく。
確認。
必要条件。
普通車運転資格
K2D系通常車運転可
特装車資格――不要
工場から始発配送所までの経路確認済み
当日体調――良好
通常勤務時間内
配置換え後の本人帰着先――始発配送所側
「最後」
サーラが。
見る。
運転者自身が。
車を。
始発配送所へ。
運んだあと。
工場へ。
戻らなければならない。
人。
ではない。
始発配送所側の。
当番者が。
先に。
工場へ。
行き。
Dを。
自分の拠点へ。
持ち帰る。
形。
「どうやって工場まで?」
往路――日本側通常人員連絡便
普通。
通勤。
応援。
移動。
既存。
ある。
往路
始発配送所→特装工場
普通人員
復路
特装工場→始発配送所
K2D-0713配置換え運転
帰るために。
車を。
利用する。
でも。
車両移送の。
仕事。
でもある。
*
「で、名前は?」
ガラン。
誠司。
表示。
開く。
K2D-0713車歴D
普通車配置換え
運転者――当日車両移送当番
個人名。
なし。
事前個人指定――しない
当日勤務表から選定
「未登録って」
ロウグが言う。
「名前が失われていたわけじゃない」
「はい」
まだ。
決める必要が。
ない。
未来記録。
この人。
と。
運命みたいに。
固定する仕事ではない。
その日。
資格。
体調。
勤務。
経路。
条件。
合う人。
一人。
「当日」
決める。
「誰でもいい?」
若い仕分け係。
「条件を満たす人なら」
個人に。
固着。
しない。
それが。
正しい。
*
小川。
未来。
助手席。
でも。
車両移送当番を。
自分で。
選ばない。
「小川さんと話しやすい人を」
とか。
「後で教習できそうな人を」
とか。
入れない。
同乗者との関係――選定条件に使用しない
SR-02との関係――選定条件に使用しない
未来記録一致――選定条件に使用しない
普通の。
当番。
普通の。
配置換え。
普通の。
相乗り。
守るため。
むしろ。
未来記録を。
選考条件から。
外す。
*
日本側工場へ。
正式照会。
車歴D普通車配置換え運転者について、個人事前指定を行わず、当日通常勤務表から選定することを希望。
返答。
可能。
未来記録にも個人固定条件なし。
そして。
小川健太郎の普通同乗は、運転者選定後に空席確認を行う。
順番。
正しい。
先に。
小川を。
乗せたい。
だから。
二人乗れる車。
運転者。
選ぶ。
ではない。
K2D。
配置換え。
運転者。
決まる。
空席。
ある。
小川。
希望。
まだ。
ある。
なら。
乗る。
「その日」
ロウグが言う。
「小川さんが別の方法で帰りたいと言ったら」
「乗りません」
車。
それでも。
走る。
これで。
本当に。
同乗。
だった。
*
夕方。
水車町。
同じ仕組み。
実運用。
二件目。
北方。
空荷そり。
整備場所へ。
移動。
途中。
リア。
薬草倉庫。
近くまで。
行きたい。
「乗る?」
「今日は歩きます」
車。
予定どおり。
行く。
何も。
変わらない。
普通同乗希望――辞退
車両運行――変更なし
これも。
成立。
乗客票が。
ある。
イコール。
乗らなければ。
ならない。
ではない。
*
そして。
もう一つ。
教習。
側。
標準。
追加。
教習開始前確認
一。
過去の普通同乗経験の有無
二。
過去の本人運転経験の有無
三。
過去の正式教習経験の有無
ただし。
普通同乗経験のみを理由に、説明・操作・安全確認を省略しない。
四。
本人が「見たことがある」と言っても、理解確認なしに既習扱いしない。
五。
本人が「覚えていない」と言っても不利益扱いしない。
小川。
たぶん。
助手席から。
ハンドル。
ペダル。
変速。
見る。
それでも。
後日。
訓練。
第一項。
車から安全に降りる手順
から。
始める。
いつもの。
帰る練習。
*
「運転席より先に降り方」
ガランが言う。
「何回聞いても変だな」
雪板。
答える。
「最後に降りるなら、最初に教えておいた方がいいです」
実際に。
練習した人の。
言葉。
ガラン。
「それもそうか」
*
第一最終帰還便。
準備。
通常。
進む。
今日は。
満タン便。
動かさない。
配送網。
問題なし。
固定人員受入口。
正常。
帰路余力。
七項。
正常。
K2D-RS。
封印。
正常。
比較封印二。
本測定。
まだ。
準備率――四十九パーセント
ガランが。
表示を見る。
誠司も。
見る。
二人。
黙る。
雪板が。
「あと一で半分ですね」
と言う。
誠司と。
ガラン。
同時に。
「率が目的じゃない」
ロウグが。
笑った。
*
夜。
配送帳面。
第一配送記録。
開く。
第一配送記録・同乗第一便
私は。
助手席に座っていた人へ。
運転を教えたつもりになったことがある。
三浦直人。
古い記録。
道を説明した。
曲がる場所を説明した。
ブレーキの癖を話した。
相手。
頷いた。
だから。
次に運転席へ座った時。
私は言った。
「前に見たでしょう」
相手。
答えた。
「見ました」
直人。
「なら分かりますね」
「分かりません」
一行。
空く。
私は腹を立てた。
相手も腹を立てた。
あとで。
なぜ分からないのか考えた。
助手席では。
私がブレーキを踏む理由は見えても。
どれくらいの力で踏んだかは分からない。
ハンドルを切る場所は見えても。
手に返ってくる重さは分からない。
鏡を見たことは分かっても。
何を確認したかは分からない。
そして。
一番分からないのは。
事故を起こした時。
自分が止めなければならない責任だった。
第一配送記録。
続く。
私は。
助手席の時間を。
教習時間から引いた。
相手は。
最初から教えてもらった。
その方が。
ずっと早かった。
最後。
乗ったことがある人と。
運転したことがある人を。
同じ欄へ書かないこと。
第一配送記録。
終了。
*
現在。
SR-02。
第一受講者――小川健太郎
K2D-0713同乗経験――あり
K2D-0713運転経験――なし
SR-02教習経験――なし
教習免除――なし
正常。
その下。
車歴D。
配置換え。
運転者――当日車両移送当番
個人固定――なし
昨日までの。
「運転者未登録」。
謎。
ではなくなった。
名前を。
決めないことが。
正しい欄だった。
*
しかし。
普通車配置換えが。
正式に整理されたことで。
SR-02。
初回教習側。
一つ。
開いた。
SR-02初回帰着教育
第一受講者――小川健太郎
教習車――K2D-0713・車歴D
教習指導者――未登録
ガランが。
言う。
「今度は、本当に誰か必要だな」
「はい」
教習。
なら。
運転者と違う。
誰でも。
当日。
ではない。
資格。
指導。
安全。
必要。
条件。
開く。
普通車運転資格
帰着教育手順の理解
水車町帰着標準・第0版の九項を説明可能
K2D-0713車歴Dの通常運転経験
SR-02第一受講者との上下勤務評価関係――不可
本人受任――必要
「Dの通常運転経験」
ロウグが。
止まる。
詳細。
教習・検査以外の通常運転経験――一回以上
そして。
候補者抽出条件。
さらに。
一行。
車歴D普通車配置換え運転経験――条件適合。
部屋が。
静かになる。
つまり。
工場から。
始発配送所まで。
白いK2D-0713を。
普通車として運ぶ。
その日の。
車両移送当番。
その人は。
後のSR-02教習指導者になるための。
条件を。
一つ。
満たす。
ただし。
まだ。
誰が移送当番になるか。
決まっていない。
そして。
未来記録を知っている現在側が。
「後で教習者にしたい人」を。
配置換え運転者へ。
選んだ瞬間。
普通だったはずの一便が。
隠れた選抜試験に。
変わってしまう。
最後。
SR-02欄。
注意表示。
教習指導者候補を得る目的で、
車歴D普通車配置換え運転者を選定してはならない。
その下。
教習指導者候補――
普通車配置換え完了後に初めて抽出すること。
今度は。
助手席だけではない。
運転席に座る人の。
普通の一便を、未来の採用試験にしないための仕組みが。
必要になっていた。




