第138話 暮らす場所を仕事にしない便
満タン便が、本当に「満タン」と判定されるための第零条件。
それは。
燃料でも。
補修材でも。
荷台の空きでもありません。
運転者本人が、
「この便のあとに帰る場所」を登録していること。
初回納車便運転者候補・高瀬圭介。
日本側へ戻る経路はあります。
人員受入口もあります。
けれど記録が求めていたのは、その先。
初回納車という仕事を終えたあと。
高瀬自身が、どこを「現在の生活拠点」とするのか。
ただし。
未来に必要だからといって。
仕事を引き受ける前の人へ、住む場所まで決めさせてはいけません。
まず水車町は。
「便の帰着先」と。
「人が暮らす場所」を分けます。
「高瀬さんには、まだ聞きません」
朝。
水車町配送所。
ロウグが。
第零条件を見る。
初回納車便運行者候補――高瀬圭介
帰着地点――日本側特装工場
本人帰着手段――確保済み
現在生活拠点――未確認
「説明担当も未登録です」
「はい」
「なら、まず説明を?」
「その前に」
誠司は。
三つ。
紙へ書いた。
便の帰着先
現在の生活拠点
将来行きたい場所
「これを一緒にしないようにします」
*
ちょうど。
水車町には。
東方から来ている。
木工職人がいた。
配送所の。
新しい棚。
三日間。
修理。
今日。
仕事。
終わる。
本人。
東方の家。
ある。
ただし。
今夜は。
水車町満宿へ。
泊まり。
明朝。
共同便で。
帰る予定。
サーラが。
従来の人員票を見る。
帰着先――東方・風見村
「今日の帰着先は?」
若い仕分け係が尋ねる。
木工職人。
首を傾げる。
「今日?」
「仕事が終わったので」
「満宿だな」
「でも、ご自宅は風見村ですよね」
「家はな」
「では生活拠点は?」
職人。
さらに。
困る。
「どっちだ?」
誠司が言った。
「その質問の仕方が悪いです」
*
聞き直す。
「今夜、具合が悪くなった時」
「はい」
「誰かがあなたを探すなら、どこですか」
「満宿」
「明日の朝までは?」
「満宿」
「明日、東方便で帰ったあとなら?」
「風見村の家」
「水車町で仕事を続ける予定は?」
「ない」
「また来る可能性は?」
「ある」
それで。
整理。
現在生活拠点――水車町満宿
見直し条件――東方便で本人帰着後
見直し後予定――風見村本人宅
「予定?」
職人が言う。
「帰ったら、自動で変わる?」
「いいえ」
誠司は答えた。
帰着確認後。
本人へ。
確認。
生活拠点を風見村へ変更しますか。
そこで。
はい。
なら。
変える。
「そんな細かくいるか?」
ガランが尋ねる。
「救援や人員連絡では」
今。
どこで。
暮らしているか。
必要。
でも。
それを。
永久住所。
にしてはいけない。
*
翌朝。
職人。
東方便。
出発。
風見村。
到着。
体調。
正常。
本人。
生活拠点確認。
水車町満宿→風見村本人宅
変更希望――はい
更新。
正常。
「これなら」
サーラが言う。
「出張中の人にも使えます」
「はい」
家
と。
今暮らしている場所
違うことがある。
さらに。
今日の便の帰着地点
も。
違うことがある。
*
新しい票。
現在生活拠点票
項目。
本人呼称
現在生活拠点
登録理由――本人選択
有効開始
見直し条件
仕事場所――別記録
今回便の帰着地点――別記録
本人の故郷・所有住宅――必要時のみ別記録
将来移動希望――本票では決定しない
そして。
一番下。
現在生活拠点の登録は、永住・定住・就業継続の約束ではない。
さらに。
後から変更できる。
将来、別の場所へ移動する権利を失わない。
「田村さんの時と同じ」
ロウグが言う。
「はい」
誠司自身。
救援後。
選んだ。
現在生活拠点――水車町側
でも。
日本側将来移動申請権――保持
水車町側将来移動申請権――保持
日本へ。
二度と。
帰らない。
ではない。
今日から。
どこで。
暮らすか。
それだけ。
*
「判断延期は?」
サーラが尋ねる。
「入れます」
現在生活拠点
一、登録
二、変更
三、判断延期
ただし。
判断延期中。
人員便で。
長期滞在。
する場合。
緊急連絡先。
一時滞在先。
だけ。
必要。
「高瀬さんは?」
「初回納車便へ出る前なら」
第零条件。
必要。
でも。
今。
まだ。
その便を。
受任していない。
だから。
生活拠点を。
仕事の条件として。
今すぐ。
選ばせない。
「でも現在の生活拠点って」
ロウグが言う。
「便と関係なく、もうあるんじゃ?」
誠司は。
少し考える。
「本人が登録したいなら」
そこが。
答えだった。
高瀬。
現在。
日本側で。
暮らしている。
どこか。
ある。
それを。
通常の本人情報として。
登録することは。
初回納車受任とは。
別。
*
日本側。
高瀬へ。
本人限定照会。
現在生活拠点票について。
初回納車便とは別の、人員安全・連絡用情報として新設しました。
登録は任意です。
初回納車便の受任とは扱いません。
登録する場合でも、永住・就業継続・将来移動先を決めるものではありません。
説明を希望しますか。
返答。
希望します。
次。
可能なら田村さんから聞きたいです。
誠司が。
表示を見る。
「俺?」
ロウグ。
少し笑う。
「本人希望です」
「何で」
返答。
高瀬。
追加。
田村さん自身が、日本側へ戻る可能性を残したまま、水車町を生活拠点に選んだと聞いたので。
小川。
だろう。
誠司は。
だいたい。
分かった。
*
遠隔。
始発照会。
人員線。
使わない。
音声。
でもない。
文章。
だけ。
それで。
十分。
高瀬。
質問。
田村さんは、水車町を選んだ時、
「日本には帰らない」と決めたんですか。
誠司。
回答。
決めていません。
今、暮らす場所を水車町にしただけです。
日本へ行く必要や希望ができた時は、その時に安全な経路と双方の受入を確認して、改めて決めます。
高瀬。
では、現在生活拠点を日本側に登録しても、
水車町へ来る権利は残りますか。
残ります。
普通の訪問でも、将来の移住希望でも、それぞれその時に本人意思を確認します。
初回納車便を引き受ける義務も生まれません。
少し。
返答。
来ない。
誠司も。
送らない。
待つ。
*
二十分後。
もう一つ。
工場を辞めたら、この登録はどうなりますか。
誠司は。
すぐ。
答える。
工場勤務と生活拠点は別です。
今の生活拠点が工場近隣で、退職後に別の場所へ移るなら、その時に本人が変更します。
退職しただけで自動変更はしません。
高瀬。
工場の仕事を降りても、日本側を生活拠点にしたままでいい?
はい。
逆に、仕事を続けたまま別の場所へ移ることもできます。
はい。
長い。
間。
そして。
分かりました。
*
高瀬。
本人票。
記入。
水車町側へ。
必要最小限だけ。
届く。
詳細住所。
非表示。
高瀬圭介
現在生活拠点――日本側
詳細地点――日本側本人情報として保管
水車町側への詳細開示――不要
将来移動申請権――日本側・水車町側とも保持
初回納車便受任――保留継続
最後。
本人文。
「今は日本側で暮らします。
仕事が変わった時も、移動したい時も、その時に改めて決めます。」
本人確認――済
誠司は。
そこだけ。
確認する。
初回納車便受任――保留継続
変わっていない。
それで。
いい。
*
配送帳面。
満タン判定。
第零条件
初回納車便運行者候補・高瀬圭介
表示。
現在生活拠点――本人選択済み
将来移動権――保持
初回納車便との自動連結――なし
そして。
第零条件――成立
ガランが。
腕を組む。
「成立したら、初回納車も一歩進む?」
「条件が一つ揃っただけです」
誠司が答えた。
初回納車便受任――保留
こちら。
変わらない。
「条件を満たすことと」
雪板が言う。
今日は。
最終返却票の読み合わせ。
「仕事を受けることは別」
「はい」
*
次。
説明担当。
未登録
だった欄。
更新。
説明実施――田村誠司
誠司が。
少し。
嫌な顔をする。
「俺の役目になる?」
詳細。
初回説明者――田村誠司
恒常担当――未登録
「初回だけ」
ロウグが言う。
これも。
一人へ。
固定しない。
水車町側。
新しく。
生活拠点案内当番
を。
作る案。
出る。
しかし。
誠司は。
また止める。
「新しい専任役目を作るほどですか」
既存。
乗継所。
普通人員。
受付。
そこへ。
説明手順を。
入れればいい。
水車町乗継所・人員案内手順
追加。
現在生活拠点票の説明
説明できる。
人。
当番。
誰でも。
標準を。
読んで。
確認。
できる。
「担当を増やさない」
サーラが言う。
「今ある役目で続けられるなら」
「はい」
配送帳面。
再更新。
恒常説明担当――水車町乗継所・人員案内当番
個人名。
ではない。
誠司。
初回。
それだけ。
*
日本側にも。
同じ手順。
送る。
生活拠点選択時、以下を説明。
一、現在の生活場所であり永住決定ではない。
二、仕事場所とは別。
三、今回便の帰着地点とは別。
四、後から本人意思で変更できる。
五、将来の訪問・移動権を失わない。
六、仕事受任条件へ自動転用しない。
工場。
返答。
採用可能。
そして。
日本側普通人員受入手順にも同内容を追加予定。
また。
水車町で。
作ったものが。
日本へ。
渡る。
*
午後。
実際の。
普通人員記録。
見直す。
雪板。
水車町訪問時。
行先――水車町
でも。
当時の。
生活拠点。
北方返送庫側。
役目引継ぎ後。
変化。
今。
本人。
水車町。
滞在。
「生活拠点は?」
サーラが。
本人へ。
尋ねる。
雪板。
少し考える。
「判断延期」
「分かりました」
現在。
満宿。
滞在。
でも。
長期。
水車町。
決めた。
わけではない。
北へ。
戻る。
決めた。
わけでもない。
現在生活拠点――判断延期
一時滞在先――水車町満宿
第三配送単位・車両帰還担当――別記録
これで。
いい。
役目。
ある。
でも。
生活。
決まっていない。
「雪板さんは」
ロウグが言う。
「満タン判定の第零条件は?」
第一最終帰還便。
雪板の。
帰着先。
水車町運行者一時帰着所。
でも。
そのあと。
どこで暮らす。
判断延期。
だった。
表示。
第一最終帰還便
第零条件――成立済み
「なぜ?」
詳細。
車両最終帰還担当に必要な第零条件
便後の本人帰着先と、判断延期中の安全滞在先が登録されていること。
初回納車便。
違う。
そのあと。
日本側へ。
帰る。
初回運転者は。
“初回納車後”。
長い。
次の暮らしへ。
戻る。
だから。
現在生活拠点。
必要。
雪板。
帰って。
水車町一時帰着所。
そのあと。
満宿。
判断延期。
それで。
安全。
「全員に同じ答えを求めない」
誠司が言う。
便の性質。
違う。
条件も。
違う。
*
夕方。
高瀬から。
もう一つ。
連絡。
第零条件が成立した表示を確認しました。
初回納車便は、まだ保留でお願いします。
返答。
そのままです。
次。
生活拠点票は、初回納車便を辞退しても残りますか。
本人情報として残ります。
不要になれば変更できます。
初回納車便専用書類ではありません。
高瀬。
それなら大丈夫です。
ここ。
大事。
仕事が。
消えたら。
本人情報まで。
消える。
ではない。
逆。
仕事が。
あるから。
生活拠点が。
作られる。
でもない。
人。
先。
*
第一最終帰還便。
準備。
今日は。
大きな進展。
なし。
車両。
通常運行。
なし。
比較封印二。
保管。
帰着余力。
七項。
維持。
K2D-RS。
封印。
正常。
固定人員受入口。
日次。
正常。
準備率。
四十三パーセント
ガランが。
見る。
黙る。
誠司も。
何も言わない。
しばらく。
静か。
ロウグが。
耐えきれず。
笑った。
「二人とも数字を気にしてますよね」
「気にしてない」
二人。
同時。
答えた。
*
夜。
配送帳面。
第一配送記録。
開く。
第一配送記録・帰着先第二便
私は。
運転者に「どこへ帰る」と聞けば。
一つの答えが返ると思っていた。
三浦直人。
古い記録。
配送所へ帰る。
宿へ帰る。
家へ帰る。
全部。
同じ。
“帰る”。
だから。
直人は。
一つの欄へ。
書いていた。
ある日。
私は佐伯澪へ聞いた。
「この便が終わったら、北へ帰るんですか」
澪。
答えた。
「便は北へ帰りません」
「あなたが」
「今夜はここに泊まります」
「じゃあ水車町へ帰る?」
「私は、今、水車町にいます」
直人は。
混乱。
した。
「どこへ帰りたいんですか」
澪。
少し。
考えて。
「それを仕事の票で聞かないでください」
一行。
空く。
「便が終わる場所と。
暮らす場所は。
同じでなくていいでしょう」
直人。
その時。
初めて。
欄を。
分けた。
運行帰着先
一時滞在先
本人生活拠点
しかし。
三つ目。
空欄。
私は。
空欄を埋めようとした。
澪は言った。
「今決めていないなら、今は空欄でいいんです」
さらに。
「決めていないことも、本人の状態です」
第一配送記録。
最後。
私は。
配送の帳面に。
「判断延期」という言葉を。
初めて書いた。
第一配送記録。
終了。
*
現在。
配送帳面。
高瀬。
現在生活拠点――日本側
雪板。
現在生活拠点――判断延期
一時滞在――水車町満宿
誠司。
現在生活拠点――水車町側
日本側将来移動申請権――保持
三人。
違う。
全部。
正常。
*
その下。
第零条件。
新しく。
詳細が。
開いた。
初回納車便・満タン判定
第零条件――成立
生活拠点説明初回――田村誠司
本人選択――高瀬圭介
そして。
添付原票。
一件。
本人生活拠点選択票
原票番号――0
ロウグが。
少し。
身を乗り出す。
「ゼロ番」
乗客票。
0000。
駐車枠。
零番。
今度。
生活拠点票。
0。
でも。
偶然。
とは。
限らない。
誠司は。
先を読む。
原票用途――
「帰着先」と「暮らす場所」を分離するための基本票
初回記入者――高瀬圭介
初回説明確認――田村誠司
今日。
できた。
記録。
そのまま。
そして。
将来使用先――SR-01初回設定資料
部屋が。
静かになった。
「SR-01?」
サーラが言う。
田村誠司が。
日本で。
四千二百十八回。
帰るために。
使った。
受入系統。
三浦直人が。
これから。
未来の日本側特装工場で。
初回設定する。
その教材。
八項目。
そこへ。
今日。
水車町で作った。
生活拠点票0。
加わる。
SR-01付属原票
本人生活拠点選択票・0
ロウグが。
さらに。
下を見る。
教材用途
運行終了地点と、本人が暮らす場所を同一視しないこと。
誠司の。
目が止まる。
SR-01。
目的。
「田村誠司が、帰る方法を覚えるため」
そこに。
車を止める。
鍵を返す。
残荷。
事故。
体調。
だけではなく。
“どこへ帰る”。
を。
分ける票まで。
入っていた。
そして。
最後。
SR-01・本人生活拠点選択票
第一受講者――田村誠司
記入時点。
日本側配送員・初回帰着教育時
「俺?」
誠司が。
低く言う。
配送員になった。
最初の頃。
事故より。
ずっと前。
本人記入欄。
現在生活拠点――登録済み
だが。
内容。
非表示。
誠司は。
覚えていない。
さらに。
説明確認者――未登録
そこだけ。
空白。
高瀬が。
今日。
初めて書いた。
生活拠点票0。
それが。
未来のSR-01へ収録され。
過去の。
若い田村誠司へ。
渡される。
そして。
誠司自身も。
配送員になった最初の日に。
同じ形式の票へ。
一度。
「自分が今どこで暮らしているか」を。
書いていた。
最後の表示。
田村誠司・初回生活拠点票
開示条件――本人希望
未来の謎ではない。
過去の。
自分の記録。
誠司が望めば。
今。
開けられる。
だが。
そこに。
何を書いたのか。
誠司自身は。
まったく覚えていなかった。
水車町では、「便が終わる場所」と「人が暮らす場所」を分けるため、現在生活拠点票が作られました。
現在生活拠点は、永住先でも勤務先でもありません。
今、その人がどこで暮らしているのか。
安全確認や連絡のために、本人が必要に応じて登録・変更する情報です。
将来の訪問や移動の権利は失われず、仕事の受任にも自動連結されません。
高瀬圭介は説明を受けた上で、
現在生活拠点――日本側
を本人の意思で登録しました。
それでも、
初回納車便受任――保留
は変わっていません。
条件を満たすことと、仕事を引き受けることは別です。
また、雪板のように生活拠点そのものをまだ決めていない人は、
判断延期
を選べます。
現在安全に滞在できる場所が確保されていれば、無理に人生の答えを出す必要はありません。
そして今回作られた「本人生活拠点選択票・0」は、将来――SR-01の初回設定資料として収録されることが判明しました。
さらに。
SR-01の第一受講者だった田村誠司自身も、日本で配送員になった最初の帰着教育時に。
同じ生活拠点票へ、一度記入しています。
その内容は現在も残っています。
誠司が開示を希望すれば、読むことができます。
ただし。
本人は、自分が何を書いたのかを覚えていません。




