第137話 使い切らない満タン
満タン便の床下に残る、二本目の補修用平鋼。
K2D-RS 2/2
一度も使われず。
倉庫にも入らず。
満タン便と一緒に世界を巡り。
必要がなければ、そのまま再び初回納車便へ載っていく一本です。
そして、その鉄に付けられていた注意書き。
「帰り道で必要になるまで使わないこと」
「必要にならなければ、使わないこと」
未来の原文作成者候補は――佐伯澪。
さらに記録には。
満タン便が最終再出発するとき、
「使わずに残してよいもの」が全部で七つある
と表示されました。
けれど。
未来に七つあるからといって。
現在の水車町が、七つを無理に探してはいけません。
余白は。
埋めるためにあるのではないからです。
「澪さんは呼びません」
朝。
水車町配送所。
机の上。
昨日の表示。
満タン便・最終再出発時
「使わずに残してよいもの」一覧
項目数――七
原文作成者候補――佐伯澪
本人意思――未確認
ガランが。
尋ねる。
「本人に聞かないのか」
「照会はします」
「同じだろ」
「来てもらうようには言いません」
未来側に。
名前。
出た。
だから。
仕事。
お願いします。
ではない。
本人限定照会。
佐伯澪本人へ。
あなたが将来、満タン便の「使わずに残してよいもの」一覧の原文作成候補として表示されています。
現在、作成依頼ではありません。
既存記録について、
一、説明のみ受ける
二、後日
三、確認しない
を選べます。
回答は原文作成への同意と扱いません。
送信。
それで。
終わり。
「七つの方は?」
ロウグが尋ねる。
「未来記録から探しません」
「じゃあ?」
「今日の運行から探します」
*
西方共同便。
出発前。
荷車。
積荷。
水車町から。
水場用。
乾燥食。
陶器。
修理済み。
小型ポンプ部品。
荷台。
まだ。
少し空いている。
市場の商人が。
袋を二つ。
持ってきた。
「西まで行くんだろ」
穀物。
二袋。
急ぎ。
ではない。
次便。
明日。
「空いてるなら」
商人が言う。
「載せてくれないか」
積載重量。
計る。
一袋。
可能。
二袋。
重量も。
許容内。
容積も。
入る。
若い仕分け係が。
言う。
「二つとも載ります」
誠司は。
荷台を見る。
「帰り荷は?」
西方側。
予定。
空樽。
二。
修理依頼品。
なし。
「なら大丈夫では?」
「予定では」
サーラが。
すぐ気づく。
「予定外の返送品」
「はい」
共同便。
往路。
荷台を。
ぴったり。
埋める。
帰路。
何も。
なければいい。
でも。
壊れた道具。
急な返送。
誤配回収。
そうした物が。
出た場合。
載せる場所。
ない。
「じゃあ一袋?」
商人が尋ねる。
誠司。
運転者。
積載担当。
相談。
一袋なら。
帰路用。
一枠。
残る。
西方共同便
積載可能残――一枠
「一袋なら」
「頼む」
もう一袋。
明日。
商人も。
問題なし。
出発。
*
西方。
荷下ろし。
正常。
そして。
帰路。
予定外。
発生。
第二水場。
手押しポンプ。
取手基部。
割れ。
水は。
別設備。
使える。
緊急ではない。
でも。
壊れた金具を。
水車町へ戻せば。
ガランが。
寸法。
確認。
修理品。
作れる。
「今日の便に載る?」
西方担当。
荷車を見る。
空いた。
一枠。
ちょうど。
入る。
予定外返送――ポンプ金具一式
固定。
帰路。
水車町。
到着。
「二袋載せてたら」
若い仕分け係が言う。
「明日でした」
「明日でも大事故ではありません」
誠司は答えた。
「でも、空きが役に立った」
空いていた。
イコール。
無駄。
ではない。
積載余力――使用一件
*
しかし。
誠司は。
すぐ。
「毎便一枠空ける」。
とは。
決めなかった。
小さい荷車。
大きい荷車。
道。
距離。
帰り荷。
違う。
「一律二割?」
ロウグが尋ねる。
「それも決めません」
必要なのは。
比率。
ではなく。
帰路。
代替。
あるか。
もし。
往路で。
ほぼ満載にするなら。
帰路の臨時品を。
次便へ回せるか。
別便。
あるか。
修理品。
急ぐか。
それで。
決める。
新しい欄。
積載余力
記入。
必要/不要
必要なら。
理由――返送・回収・緊急積替・その他
容量。
一枠/重量○○/容積○○
「空欄を」
サーラが言う。
「荷物として予約する感じですね」
「余力として」
荷物。
ではない。
でも。
勝手に。
埋めない。
*
次。
燃料。
満タン便。
最終返却準備。
燃料槽。
現在。
十分。
「工場までなら」
ガランが言う。
「余る」
「余らせます」
「工場で抜くかもしれんぞ」
「それは工場の判断です」
到着時。
ほぼ空。
にする理由。
ない。
必要量。
最終返却区間。
走行。
停止。
再始動。
経路変更。
待機。
車両返却所内。
移動。
そこまで。
含める。
「何割残す?」
また。
固定比率。
ではない。
必要走行量
+代替経路分
+安全待機分
+受入後構内移動分
これを。
最低帰着燃料。
とする。
それ以上。
残っていても。
「余った」。
ではない。
帰着燃料余力
一つ。
*
飲料水。
雪板。
最終帰還便。
運転。
世界間。
どれだけ。
かかるか。
時間比。
固定ではない。
車載。
飲料。
本人分。
工場側。
受入水。
ある。
それでも。
水車町。
出発時。
飲料。
余分。
一回分。
残す。
「飲み切って着く必要は?」
「ありません」
人員飲料余力
二つ目。
救急箱。
使用。
なし。
が。
理想。
救急余力
三つ目。
毛布。
雪板。
寒さ。
なし。
でも。
車両停止。
待機。
人員転送。
遅延。
その場合。
使える。
保温余力
四つ目。
K2D-RS 2/2。
車両補修余力
五つ目。
積載余力。
帰路積載余力
六つ目。
「六」
ロウグが。
書く。
誰も。
七を。
探さない。
*
午後。
本人限定照会。
返答。
澪。
一、説明のみ受けます。
サーラが。
尋ねる。
「来てもらいます?」
誠司は。
澪へ。
もう一度。
説明場所を選べます。
一、本人限定文書
二、水車町配送所
三、満宿
四、その他希望
返答。
二。
夕方、散歩のついでに行きます。
仕事のために。
呼び出さない。
本人が。
来る。
*
それまで。
七つ目。
出ない。
ガランが。
少し。
そわそわ。
「気になるな」
「探しません」
「分かってる」
「本当に?」
「その言い方、最近多くないか」
*
第一最終帰還便。
準備。
車両点検。
今日は。
制動灯。
灯火。
ワイパー。
鏡。
座席。
ベルト。
運転席下RF0。
異常。
なし。
そして。
運行予定票。
雪板。
出発。
休憩。
車両引渡。
人員帰着。
書く。
「到着時刻」
若い記録係。
空欄。
「時間比が読めないので」
「予定幅は?」
日本側工場。
受入可能幅。
広い。
始発線。
同期。
ただ。
雪板。
出発前。
体調。
悪い。
なら。
延期。
する。
途中。
異常。
なら。
停止。
する。
「遅れたら」
雪板が尋ねる。
「何分まで?」
「決めません」
「工場が待ってる」
「工場側は待機可能です」
「でも完成予定」
「車より先に予定を届けません」
雪板。
少し。
笑う。
運行票。
下。
時間余力
ロウグの。
筆が止まった。
全員。
見る。
「七つ目」
若い仕分け係が。
言いかける。
誠司は。
首を横に振る。
「まだです」
今。
必要だから。
書いた。
七つ目に。
合わせた。
ではない。
運行時間余力
出発延期――可
途中停止――可
休息延長――可
到着予定超過――受入側へ連絡後可
「これ」
雪板が。
読む。
「使わなくてもいい?」
「はい」
定刻。
安全。
体調良好。
そのまま。
到着。
なら。
余力時間。
一度も。
使わない。
でも。
ある。
「使わずに残っても」
「問題ありません」
七つ。
揃った。
ただ。
誰も。
未来記録を。
開かなかった。
*
夕方。
佐伯澪。
来る。
役目札。
なし。
普通の服。
配送所入口。
立入。
記録区画。
許可。
椅子。
座る。
「未来に」
誠司が言う。
「澪さんが注意書きを作る候補として表示されています」
「はい」
「今、作る必要はありません」
「はい」
「本人意思を確認する前に、こちらで今日の運行から見つかったものがあります」
誠司。
七つ。
見せる。
一、帰着燃料余力
二、人員飲料余力
三、救急余力
四、保温余力
五、車両補修余力
六、帰路積載余力
七、運行時間余力
澪。
静かに。
読む。
「七つですね」
「結果として」
「未来の一覧は?」
「まだ照合していません」
澪が。
顔を上げる。
「どうして?」
「そっちに合わせたくなかったので」
澪。
少しだけ。
笑った。
「田村さんらしいです」
*
「私が書くことになっている文章」
澪が言う。
「見せてもらえますか」
「候補になっている事実だけなら」
未来原文。
現在。
非表示。
本人説明前――原文非開示
本人が。
説明。
受領。
そして。
希望。
なら。
開ける。
「見たいです」
本人意思。
原文候補表示――本人希望
開く。
しかし。
全文。
ではない。
見出し。
満タン便・余力七項
一。
帰着燃料
二。
飲料
三。
救急
四。
保温
五。
車両補修
六。
積載余白
七。
運行時間
ロウグが。
息を吐く。
今日。
水車町で。
独立して作った。
七つ。
同じ。
「同じですね」
サーラが言う。
澪は。
すぐには。
喜ばない。
「同じだから、書かなきゃいけない?」
「いいえ」
誠司が答えた。
「同じだから、今の手順として採用できます」
未来原文を。
澪に。
書かせる必要。
ない。
今日の。
運行。
実績。
そこから。
作った。
水車町車両帰着余力標準・第0版
として。
採用できる。
「原文作成は」
誠司が言う。
「別です」
澪が。
七項。
もう一度。
見る。
*
「満タンって」
澪が。
言った。
「全部あることじゃないんですよね」
「はい」
「全部使えることでもない」
「はい」
「使わずに帰ってきてもいい」
「はい」
澪。
K2D-RS。
札。
読む。
必要にならなければ、使わないこと。
「これ」
「はい」
「今の私なら、書けます」
部屋。
静か。
誠司は。
確認する。
「未来記録にある原文を書く役目を引き受けますか」
澪。
首を横に振った。
「それはまだ」
「分かりました」
「今の水車町の標準に、一文を足すだけなら」
「それは?」
「やります」
分ける。
未来の役目。
受任。
しない。
現在の。
一文。
本人が。
書く。
澪。
筆。
取る。
少し。
考える。
余力は、余ったものではない。
帰ってくるために、使わずに残してよいものとする。
その下。
もう一行。
使わなかったことを、運行不足として数えない。
澪。
筆を置く。
「これで」
「十分です」
水車町車両帰着余力標準・第0版
補足文――佐伯澪
本人意思――確認
未来原文。
ではない。
今の。
標準。
*
この標準を。
まず。
満タン便最終返却準備へ。
適用。
七つ。
一項ずつ。
現在値。
確認。
帰着燃料。
基準以上。
飲料。
必要量+予備。
救急。
封印正常。
保温。
毛布。
正常。
車両補修。
K2D-RS 2/2。
正常。
積載。
最終返却貨物を載せても。
緊急回収余力。
確保。
時間。
出発延期。
休息。
工場待機。
全部。
可能。
満タン便M-001
帰着余力――七項確認
しかし。
最終出発判定――まだ実施しない
準備。
途中。
だから。
*
この標準。
他便にも。
使う。
東方便。
荷車。
帰着燃料。
該当なし。
馬。
水。
飲料。
必要。
救急。
小。
保温。
季節。
不要。
補修。
車輪楔。
縄。
積載余力。
必要。
時間余力。
あり。
「全部七つ必要じゃない」
ロウグが言う。
「はい」
車両。
経路。
季節。
人。
違う。
満タン便の七つを。
全便へ。
機械的に。
コピーしない。
一般標準では。
該当余力を設定
だけ。
残す。
満タン便。
七つ。
それは。
この車。
この便。
この帰路。
のため。
*
「では」
サーラが。
未来側を見る。
「澪さんが書く予定の原文は?」
澪本人。
まだ。
いる。
誠司は。
勝手に。
開かない。
「見ますか」
「今は見ません」
澪が答える。
「今日書いたものは、今日必要だったから書きました」
「はい」
「未来で必要なら」
一度。
考える。
「そのときの私に聞いてください」
「そうします」
未来記録。
原文作成者候補――佐伯澪
本人意思――未確認
変わらない。
それで。
いい。
*
夜。
通常運行。
終了。
西方から。
返送された。
ポンプ金具。
ガラン。
修理。
可能。
明日。
返送。
空けた。
一枠。
役に立った。
でも。
明日も。
必ず。
一枠。
空ける。
とは。
決めない。
予測。
確認。
その便ごと。
決める。
「余白を標準化するのに」
ロウグが言う。
「余白の大きさは固定しない」
「固定したら」
誠司が答える。
「余白じゃなくて、別の満載基準になります」
*
深夜。
配送帳面。
第一配送記録。
開く。
第一配送記録・満載第一便
私は。
荷台に空きがあると。
不安だった。
三浦直人。
古い記録。
水。
食料。
工具。
燃料。
毛布。
まだ入る。
入る。
なら。
載せる。
西へ行くなら、西で使う物を。
北へ行くなら、雪で必要になる物を。
満タン便。
文字どおり。
満載。
私は、それを。
「満タン」と呼んだ。
ある日。
佐伯澪。
荷台。
見る。
「これは満タンじゃありません」
直人。
腹を立てる。
「空きがないくらい積んでる」
「だからです」
「何が足りない」
澪。
指を。
折る。
「帰る燃料」
一本。
「飲む水」
二本。
「怪我した時の物」
三本。
「寒くなった時の物」
四本。
「壊れた時に直す物」
五本。
「帰りに何かを載せる場所」
六本。
最後。
少し。
考えて。
七本目。
「止まってもいい時間」
直人。
笑った。
「時間は荷台に載りません」
澪。
答えた。
「だから一番、積み忘れます」
一行。
空く。
私はその日。
荷物を二つ降ろした。
そして。
予定より一時間遅く出た。
それでも。
帰着は早かった。
途中で急がなかったからだ。
第一配送記録。
最後。
後になって。
私は分かった。
満タンとは。
使い切ることではなかった。
帰ってこられるだけ。
残しておくことだった。
第一配送記録。
終了。
*
現在。
配送帳面。
満タン便・余力七項
七項。
すべて。
今日の水車町標準と。
一致。
その下。
今まで。
なかった。
欄。
一つ。
開いた。
満タン判定
七項確認だけでは成立しない。
ロウグが。
眉を寄せる。
「まだある?」
余力項目数――七
数は。
増えない。
別枠条件――一
ガランが。
腕を組む。
「八個目じゃない?」
「別枠です」
詳細。
満タン判定・第零条件
全員。
黙る。
運転者本人が、
「この便のあとに帰る場所」を登録していること。
雪板が。
ゆっくり。
表示を見る。
自分。
最終帰還便。
帰る先。
水車町運行者一時帰着所
登録済み。
だから。
彼女は。
満たしている。
しかし。
次。
初回納車便運行者候補――高瀬圭介
状態。
帰着先――日本側特装工場
登録。
済み。
ように見える。
なのに。
判定。
第零条件――未成立
「なぜ?」
サーラが。
詳細を開く。
帰着地点登録――あり
本人帰着手段――確保済み
帰着受入――準備可能
それでも。
未成立
理由。
「この便のあと、どこを現在生活拠点とするか」
本人選択――未確認
誠司の手が。
止まる。
高瀬は。
日本側工場で。
働いている。
現在。
住んでいる場所も。
日本側。
普通なら。
それで。
足りる。
でも。
初回納車便は。
普通の配送ではない。
水車町へ。
世界を越えて。
満タン便を届ける。
そのあと。
人だけ。
日本側へ帰る。
未来記録は。
高瀬が。
帰る先。
だけではなく。
帰ったあと、どこを自分の生活拠点として選ぶのか
まで。
本人確認を要求していた。
誠司は。
自分の。
救援後本人選択を。
思い出す。
日本へ。
永遠に帰る。
水車町へ。
永遠に残る。
そういう二択ではない。
現在。
どこで暮らすか。
選ぶ。
将来の移動権は。
残す。
あの票。
同じ考え方。
だった。
最後。
第零条件。
補足。
初回納車便運行者へ、
出発前に生活拠点選択を強制してはならない。
そして。
本条件の説明担当――未登録。
未来の満タン便を。
本当に「満タン」として。
最初の水車町へ送り出すには。
車の燃料でも。
荷台の空きでも。
鉄の予備でもなく。
運転者自身が。
仕事のあと、どこへ帰って暮らすのかを、自分で選べる状態
でなければならない。
その説明を。
高瀬へする人は。
まだ。
決まっていなかった。
水車町では、未来記録に七項あるからではなく、現在の運行から必要な余力を一つずつ確認しました。
その結果、満タン便に必要な「使わずに残してよいもの」は、
帰着燃料
飲料
救急用品
保温用品
車両補修材
帰路積載余力
運行時間余力
の七項。
未来記録と一致しました。
佐伯澪は、未来の原文作成役そのものはまだ引き受けていません。
ただし、現在の水車町標準として、
余力は、余ったものではない。
帰ってくるために、使わずに残してよいものとする。
という一文を、自分の意思で追加しました。
そして新たに判明したことがあります。
満タン便が本当に「満タン」と判定されるには、七つの余力だけでは足りません。
別枠の――第零条件。
それは、
運転者本人が、この便のあとに帰る場所を自分で選んでいること。
雪板はすでに満たしています。
しかし、初回納車便運行者候補である高瀬圭介は、まだ満たしていません。
日本側へ戻る経路はあります。
受入口もあります。
けれど。
その便を終えたあと。
高瀬自身が、どこを「現在の生活拠点」として選ぶのか。
その本人確認は、まだ行われていません。




