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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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120/156

第120話 帰る権利を残す便

日本側で、田村誠司の事故当日の配送を引き継いだ運転者。


現在は「日本側帰着当番」として、始発線の連絡を受け取っているその人物は、自分の名前を水車町へ送りませんでした。


理由は一つ。


「名前を知ると、田村さんは帰る理由にしてしまうかもしれないので」


名前の開示条件は、


田村誠司・本人帰還意思確定後。


けれど。


日本へ帰る。


水車町へ残る。


人生をどちらか一方へ永久に固定することが、「帰還意思を決める」という意味なのでしょうか。


誠司はまず、その前提から確認します。

「名前は、まだ聞きません」


朝。


水車町配送所。


誠司は、日本側から届いた返答票を裏返した。


個人名――非開示


開示条件

田村誠司・本人帰還意思確定後


ロウグが尋ねる。


「先に決めますか」


「何を決めるのか、先に決めます」


「帰るか残るか、では?」


「そこが分かりません」


誠司は。


白紙へ三つ書いた。


今日帰る場所


当面暮らす場所


いつか行きたい場所


三つ。


「同じじゃないんですか」


若い仕分け係が言う。


「同じ人もいます」


誠司は答えた。


でも。


同じとは限らない。


旅人。


仕事人。


季節労働。


病人。


家族の看病。


修理出張。


一時避難。


今日寝る場所。


半年暮らす場所。


故郷。


全部。


一か所でなくていい。


「俺の場合」


誠司は言った。


「今夜帰る場所は、水車町です」


迷わない。


運行者帰着票。


第一帰着先。


水車町配送所。


すでに登録している。


「当面暮らす場所も?」


少し考える。


「今は、水車町です」


それも。


事実。


仕事。


部屋。


仲間。


生活。


ここにある。


「では日本は?」


誠司は。


三枚目を見る。


――いつか行きたい場所。


「分かりません」


帰りたくない。


ではない。


帰りたい。


とも。


まだ。


言い切れない。


見たいものはある。


確認したいものも。


残っている。


だが。


日本側に。


誰かが待っている。


そう聞いただけで。


帰らなければ。


と思う自分がいる。


だから。


相手も。


名前を伏せた。


「二択にしたら」


サーラが言う。


「どちらを選んでも、何かを捨てることになりますね」


「はい」


日本へ帰る。


なら。


水車町を捨てるのか。


水車町に残る。


なら。


日本へ二度と行けないのか。


本当に。


そうなのか。


「確認します」


始発照会口へ。


新しい票を出す。


*


その前に。


水車町側でも。


「暮らす場所」と「帰る場所」を分けられるか。


一件。


試すことになった。


東方から。


一人の職人が来ていた。


風見村の若い木工職。


水車町で。


車輪修理の技術を学ぶため。


滞在予定。


十二日。


今までは。


単純に。


東方所属

水車町滞在


と書いていた。


問題が起きた。


三日目。


本人が。


水車町から東方へ向かう共同便を手伝おうとした。


運行票。


帰着先。


東方。


になっていた。


「僕は水車町へ戻るんですが」


本人が言った。


家。


風見村。


でも。


十二日間は。


水車町で研修。


今日の便では。


東方へ荷物を届け。


その日の夕方便で。


水車町へ戻る。


「故郷は東方」


ロウグが言う。


「今日の帰着先は水車町」


「はい」


二つを。


一欄へ書こうとしたから。


おかしくなった。


新しい札。


生活拠点札


項目。


通常生活拠点――風見村


一時生活拠点――水車町

期間――十二日予定


別。


本便帰着先――水車町


さらに。


一時生活終了後の予定――風見村へ帰宅


「十二日後に必ず?」


本人が首を傾げた。


「仕事が延びたら十四日かもしれません」


なら。


帰宅予定――研修終了後

日付固定なし


とする。


「家が東方だから」


サーラが言う。


「毎日の帰着まで東方にする必要はない」


「逆に」


ロウグが続ける。


「水車町に十二日暮らしたからって、東方の家を捨てたことにもならない」


その日。


木工職は。


東方へ荷物を運び。


夕方。


人員共同便で。


水車町へ戻った。


本便帰着――水車町


通常生活拠点――風見村

変更なし


正常。


翌日も。


水車町で。


仕事。


「これでいいですね」


誠司は言った。


暮らす場所。


帰着先。


故郷。


全部を。


一つの欄で決めない。


*


始発照会。


水車町本人照会第一号


田村誠司・救援後選択について確認。


「本人帰還意思確定」とは、永久的な居住地選択を意味するか。


次。


水車町滞在を選択した場合、日本側への将来訪問権・帰還希望を失うか。


次。


日本側帰還を選択した場合、水車町への将来再移動権を失うか。


そして。


永続的二択を要求する場合、その根拠を回答願います。


送信。


誠司は。


始発照会口から離れた。


「返事が来るまで考える?」


ロウグが尋ねる。


「通常業務をします」


*


午前。


後継正式帳面。


照合作業。


現在。


歴史照合率。


三十一パーセント。


運用引継ぎ準備。


七十八パーセント。


一ページ。


西方水路。


一ページ。


東方石橋。


一ページ。


南方薬草棚。


青点。


照合。


現在必要な索引。


追加。


急がない。


ただ。


少しずつ。


「満タン便最終帰還までに百パーセント必要ですよね」


ロウグが言う。


「第二便までには」


第一最終帰還便。


赤い満タン便を。


日本側工場へ返す。


その時点では。


原本。


まだ水車町に残る。


雪板の帰着を。


原本へ記録する必要があるから。


その後。


後継帳面。


最終照合。


正式受領。


旧原本閉鎖。


第二最終帰還便。


「だから」


誠司は言う。


「車を返す日と、帳面を返す日は別です」


一気に。


最後までやらない。


車。


運転者。


帳面。


それぞれ。


自分の速度で。


*


昼。


三浦直人。


再出発担当候補の説明。


昨日。


本人が希望した。


小会議室。


直人。


誠司。


ロウグ。


サーラ。


そして。


机の上。


一枚だけ。


第三配送単位

再出発担当候補――三浦直人


「運転は?」


直人が最初に尋ねた。


「しません」


誠司が答える。


「鍵は?」


「運転用の鍵を持つ必要はありません」


「では何を?」


日本側工場。


満タン便。


最終返却。


完成検査。


特装終了。


車歴D。


白い通常貨物車になる。


しかし。


始発線の別時点では。


完成した赤い満タン便を。


水車町配送所設立以前へ。


初回納車として。


送り出す工程がある。


「あなたの候補役目は」


ロウグが読む。


再出発確認


完成車両照合

初回納車書類照合

受取先照合

送出許可確認


「押すだけ?」


直人が言った。


「押印だけなら、役目にする必要はありません」


誠司は答えた。


再出発担当が確認するのは。


工場が。


満タン便を。


勝手に送り返していないこと。


受取先。


水車町。


仮預かり。


三浦直人。


正式受取確認。


田村誠司。


その条件が。


揃っていること。


「つまり」


直人が言う。


「俺は受け取る側でもある?」


「過去側では、仮預かり担当でした」


「未来側では?」


「送り出す側候補です」


直人が。


少し笑う。


「自分に送るみたいだ」


「だから」


誠司は言った。


「まだ引き受けなくていいです」


直人は。


役目票を見る。


その日は。


署名しなかった。


「もう一つ確認したいです」


「何を?」


「送り出したあと」


直人が言う。


「俺は何をすればいい?」


誠司は。


昨日作った。


水車町帰着標準第0版。


九番目を。


机へ置いた。


帰着完了後、次の役目を直ちに引き受ける義務はない。


直人が読む。


「これを」


誠司が言う。


「再出発担当にも適用します」


満タン便を。


送り出す。


そこで。


役目終了。


そのあと。


直人が。


日本側に残るか。


水車町へ戻るか。


休むか。


別の便に乗るか。


その場で。


自分で決める。


「送り出した責任で」


直人が言う。


「追いかけなくていい?」


「はい」


「無事に届いたか待つのは?」


「確認業務として必要なら、別役目です」


「自動ではない?」


「はい」


直人は。


少し長く。


九番目を見る。


「なら」


役目票を閉じる。


「もう少し考えます」


候補。


継続。


それでいい。


*


午後。


始発照会口。


からん。


本人照会。


返答。


田村誠司・救援後選択


「本人帰還意思確定」は、永久居住地の選択を意味しません。


ロウグが。


大きく息を吐く。


誠司は。


続けて読む。


本件の「帰還意思」とは、救援便終了後に本人がどちら側を現在生活拠点として選ぶか、本人意思で確認する手続きです。


「現在生活拠点」


サーラが言う。


「永久ではない」


将来の移動希望、訪問希望、生活拠点変更を制限しません。


次。


水車町側を選択した場合

日本側への将来移動申請権――保持


日本側を選択した場合

水車町側への将来移動申請権――保持


「両方残る」


誠司が言った。


さらに。


ただし、移動実行にはその時点の安全な人員経路、双方受入、本人再同意が必要。


当然。


今。


行けるから。


未来も。


必ず行ける。


ではない。


道路。


人員。


帰還線。


状態。


その時。


確認する。


だが。


選択権そのものは。


失わない。


最後。


永続的二択を要求する規定――なし。


ガランが。


呆れたように言う。


「最初から二択じゃなかったのか」


「俺たちが二択に読んでいただけです」


誠司は答えた。


帰る。


残る。


言葉が。


強すぎた。


実際に必要なのは。


救援が終わった今。


どちらを。


当面の生活拠点とするか。


それだけ。


*


救援後選択票。


新しく作る。


田村誠司・救援後本人選択


現在生活拠点

□ 日本側

□ 水車町側

□ 判断延期


「延期もある?」


ロウグが言う。


「返答にあります」


判断延期――可能


ただし、救援保留状態を定期確認すること。


無理に。


今日。


選ぶ必要すらなかった。


次。


日本側将来移動申請権

保持


水車町側将来移動申請権

保持


本選択は国籍、所有、所属、永久居住を確定しない。


そして。


本人は後日、生活拠点を変更可能。


誠司は。


票を見る。


これなら。


選べる。


日本を。


捨てる票ではない。


水車町を。


永遠に選ぶ票でもない。


今。


どこで暮らすのか。


それだけ。


「今日決めますか」


サーラが尋ねる。


誠司は。


窓を見る。


水車。


荷車。


乗継所。


満タン便。


返送受入所。


仕事をする人。


休んでいる人。


三浦直人。


佐伯澪。


雪板。


ここで。


続けなければならないから。


ではない。


未来の記録が。


そうなっているから。


でもない。


「決めます」


*


夕方。


運行者一時帰着所。


大きな会議にはしない。


本人選択。


誠司。


立会。


サーラ。


記録。


ロウグ。


それだけ。


誠司が。


一つ目に印を付ける。


現在生活拠点

水車町側


次。


日本側将来移動申請権

保持


次。


水車町側将来移動申請権

保持


備考。


誠司は。


自分で書いた。


当面、水車町で暮らす。


日本へ行くかどうかは、必要と希望ができた時に改めて決める。


ロウグが読む。


「“帰る”ではなく?」


「今は」


誠司が答えた。


「暮らす場所を決めました」


日本。


故郷かもしれない。


以前の生活。


仕事。


道路。


人。


それが。


なくなったわけではない。


でも。


今の生活は。


水車町。


田村誠司・本人選択――確認


印。


ごん。


始発線。


静かに光る。


緊急救援便

田村誠司


救援後保留――終了


続いて。


現在生活拠点――水車町側


日本側移動権――保持

水車町側移動権――保持


さらに。


田村誠司・救援便

全処理――完了


誠司の。


日本側からの救援便。


事故の日から。


ずっと。


「一時的に預かった選択」。


それが。


ようやく。


本人へ返った。


*


何も。


大きく変わらなかった。


誠司は。


消えない。


日本へ。


飛ばない。


満タン便も。


動かない。


水車町の夕方。


荷車が来る。


荷物を降ろす。


普通。


「これでいいんですね」


ロウグが言う。


「はい」


大きな選択ほど。


決めた瞬間。


雷が鳴る必要はない。


明日。


起きる場所が。


決まった。


それだけ。


*


始発照会口。


からん。


一枚。


自動返答。


日本側個人情報接続

保留条件――解除


誠司は。


少しだけ。


手を止める。


「開けますか」


サーラが尋ねる。


今なら。


名前を知る。


だから。


水車町を選んだわけではない。


日本側の誰かへ。


申し訳ないから。


帰ると決めたわけでもない。


自分で。


先に。


選んだ。


「開けます」


二人確認。


誠司。


ロウグ。


封。


開く。


日本側帰着当番


個人名――小川 健太郎


誠司が。


目を止めた。


「知っていますか」


ロウグが尋ねる。


「はい」


短い返事。


小川健太郎。


日本側配送拠点。


誠司より。


少し年下。


同じ営業所。


同じ方面を。


何度も代走した。


忙しい日は。


誠司の積み込みを。


黙って手伝う。


誠司が。


休みの人の便を。


代わろうとすると。


「予定が埋まってる人が、さらに予定を足すな」


と言った男。


事故の日。


誠司の残りの配送を。


引き継いだ人。


「……小川か」


誠司が。


小さく言う。


名前を知った。


胸の奥に。


日本側の営業所が。


少し。


近くなる。


だが。


帰らなければ。


とは。


ならなかった。


それで。


よかった。


*


小川から。


本人名開示後の伝言。


長くない。


田村さんへ。


水車町を選んだとのこと、了解しました。


誠司は。


読む。


「帰ってこない」とは受け取っていません。


今いる場所を決めた、と受け取りました。


誠司の手が。


少し止まる。


こちらは通常勤務です。


田村さんの便は引継ぎ済み。


車も返却済み。


未配達もありません。


次。


だから、こっちの仕事を理由に戻らなくて大丈夫です。


ロウグは。


黙っている。


戻りたくなったら、その時に戻る手順を確認しましょう。


戻らなくても、こちらの便は回ります。


誠司は。


ゆっくり息を吐いた。


それが。


一番。


知りたかったのかもしれない。


自分がいなくても。


荷物が。


届いている。


日本側も。


止まっていない。


水車町と。


同じ。


誰か一人が。


いなければ。


壊れる仕組みではない。


最後。


それと。


SR-02の帰着教習、受けます。


九番目は、いいですね。


田村さんに教わっていたら、たぶん守らなかったと思いますけど。


誠司が。


少し笑う。


小川らしかった。


*


だが。


紙は。


もう一枚あった。


小川本人から。


水車町への申請。


人員移動事前照会


サーラが。


眉を上げる。


「人員?」


内容。


申請者――小川健太郎


現在地――日本側始発配送所


希望先――水車町乗継所


「こっちへ来たい?」


ロウグが読む。


まだ。


申請。


ではない。


事前照会。


行けるかどうか。


安全経路があるか。


調べたい。


希望時期――未定


緊急性――なし


業務命令――なし


個人希望――あり


さらに。


希望する移動区分


「普通の乗客」


雪板と。


同じ。


第三配送者でも。


救援対象でも。


荷物でもない。


普通の人として。


日本側から。


水車町へ。


訪問したい。


「理由」


誠司が読む。


田村誠司の帰還確認ではない。


水車町配送所の見学でもない。


SR-02業務でもない。


三つ。


全部。


違う。


その下。


私物返却のため。


「私物?」


誠司が。


紙を見る。


預かり品――一件


所有者――田村誠司


事故当日、車両回収時に日本側で保管。


誠司は。


記憶を探す。


財布。


鍵。


携帯。


仕事端末。


それらは。


日本側の事故処理記録に。


すでに載っていた。


会社物品。


返却。


個人物。


保管。


だが。


一件。


始発線記録では。


内容が。


非表示。


預かり品名称――本人対面返却希望


開封――未実施


保管者――小川健太郎


「本人対面?」


ロウグが言う。


小川が。


自分で水車町へ来て。


返したい物。


さらに。


注意書き。


本品は、田村誠司事故前日に本人より小川健太郎へ預託されたもの。


誠司の表情が。


変わる。


事故の日。


ではない。


前日。


自分で。


小川へ渡している。


覚えていない。


最後。


小川の短い備考。


「帰る場所を決めたら返す」と、田村さん本人に言われています。


誠司は。


紙を見つめた。


未来の自分が作った救援予約。


始発点のSR-01。


満タン便。


すでに何度も。


自分の知らないところで。


自分の選択が。


先回りしていた。


そして今度は。


事故の前日の自分が。


小川へ。


何かを預けていた。


ただし。


小川は。


始発線で送らない。


誰かに託さない。


本人に。


直接返したい。


人員移動事前照会


日本側始発配送所→水車町乗継所


乗客――小川健太郎


積荷――本人私物一件


内容――未登録


水車町で始まった「普通の人員共同便」。


その次の路線は。


世界を越えて。


日本側から。


一本。


伸びようとしていた。

田村誠司は、「日本へ帰るか、水車町へ永久に残るか」という二択そのものを見直しました。


始発線への照会で判明したのは、「本人帰還意思確定」とは永久的な居住地決定ではなく、救援終了後の現在生活拠点を本人が選ぶことだったという事実です。


日本側と水車町側、どちらへの将来移動権も失われません。


そのため誠司は、


当面の生活拠点――水車町

日本側への将来移動権――保持


を自分の意思で選択。


これにより、事故の日から続いていた田村誠司の緊急救援便は、正式に全処理を完了しました。


そして選択を終えたことで、日本側帰着当番の名前も開示されます。


彼の名は――小川健太郎。


誠司の同僚であり、事故当日の残りの配送を引き継いだ運転者でした。


しかし小川は、日本側で待つだけではありません。


「普通の乗客」として水車町を訪れるための事前照会を提出しました。


目的は、事故前日に誠司本人から預かった私物を、直接返すこと。


誠司には、その物を小川へ預けた記憶がありません。


小川が保管している“預かり品”が何なのか。


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