第115話 役目を持たない乗客
返送庫の七代目預かり手――雪板は、ついにその役目を次の三人へ引き渡しました。
第三配送者候補として表示されている彼女には、満タン便を日本側工場へ返す未来の記録があります。
けれど本人の返事は、まだ「保留」。
そんな雪板から、水車町へ一通の連絡が届きます。
一度、水車町へ行きたいです。
ただし。
第三配送者としてではなく、ただの乗客として。
荷物を運ぶ網はできました。
怪我人や救援人員を運ぶ手順もできました。
けれど、「仕事を持たない一人の人が、普通に行きたい場所へ移動する仕組み」は、まだありません。
「満タン便では迎えに行きません」
朝。
水車町配送所。
誠司は、北方返送庫から届いた連絡票を机へ置いた。
七代目返送庫預かり手
個人識別――雪板
返送庫役目引継ぎ――完了
希望
水車町への移動
移動目的
第三配送者候補の判断前確認
休養
水車町配送網の見学
備考
「候補として運ばないでください」
ロウグが最後の一行を読み返す。
「かなりはっきり書いてありますね」
「だから満タン便を出さない」
北方まで。
赤い車で迎えに行けば早い。
雪板一人を載せ。
水車町まで戻る。
これまで作った北方経路なら可能だった。
だが。
それをすれば。
第三配送者候補だから特別に迎えた。
という形になる。
「本人は普通の移動を希望しています」
サーラが言った。
「普通の移動って」
ガランが腕を組む。
「今の配送網に、人を普通に運ぶ便なんてあったか?」
なかった。
救援便。
医療便。
人員回収便。
どれも。
特別な理由がある。
生命危険。
休眠者。
事故。
救助。
「荷物と一緒に乗る人はいます」
ロウグが言う。
隊商。
共同荷車。
雪そり。
運転者の家族や。
現地の案内人が同乗することはある。
だが。
一人の乗客が。
北方返送庫から。
複数の中継地を乗り換え。
水車町まで来る。
そのための正式な手順はない。
「作りましょう」
誠司は白紙を置いた。
表題。
――人員共同便。
ガランが眉を上げる。
「人を荷物みたいに書くのか」
「だから荷札とは分けます」
*
最初に作ったのは。
乗客票。
荷札ではない。
人員共同便・乗客票
本人呼称
出発地
希望到着地
本人意思――移動希望
予定経路
乗継地点
休息地点
代替宿泊地点
体調上の注意
荷物個数
到着連絡先
到着確認者
「受取人欄がありません」
若い仕分け係が言う。
「人は受け取られる荷物ではありません」
誠司は答えた。
帰着。
救援。
休眠者。
そうした特殊な場面では。
受取人という言葉を使う必要もあった。
だが。
普通に街へ来る人まで。
誰かの荷物として扱わない。
「では、中継地点では?」
「乗継確認です」
一台目から。
二台目へ。
人を“引き渡す”とは書かない。
乗継前体調――確認
次便説明――実施
本人乗車意思――確認
荷物――本人確認
次便出発――本人同意
「毎回、乗るか聞くんですか」
「はい」
出発時に。
水車町へ行きたい。
と答えた。
だからといって。
途中で。
今日はここまで。
と言ってはいけないわけではない。
疲れた。
天候が悪い。
景色を見たい。
誰かに会いたい。
理由がなくてもいい。
「乗り継ぎごとに」
サーラが言う。
「本人へ続けるか聞く」
「はい」
荷物なら。
予定どおり次便へ載せる。
人は。
毎回。
本人が乗る。
*
次。
乗客の安全条件。
既存の北方物流経路は。
荷物には使える。
だが。
荷物なら。
多少寒くても。
防寒布で包めばいい。
人には。
休憩。
食事。
排泄。
睡眠。
必要。
「北方返送庫から冬季中継所まで」
カイルが地図を見る。
「そりで半日」
「そのまま北砦まで行かせない」
誠司は区切る。
第一日。
返送庫。
冬季中継所。
宿泊。
第二日。
冬季中継所。
雪原集落。
北砦。
宿泊。
第三日。
北砦。
温暖域中継所。
水車町。
「三日?」
ガランが言う。
「荷物なら二日で来るぞ」
「乗客便です」
荷物の速さへ。
人を合わせない。
休息。
食事。
天候待ち。
余白を入れる。
「予定三日」
ロウグが書く。
「最短?」
「書きません」
「最長?」
「天候次第」
予定時間が。
締切になる。
第一配送者の事故で。
何度も学んだ。
到着予定――三日前後
到着予定は期限ではない。
天候、体調、本人希望により延長可。
「遅れた場合」
「連絡票」
北方各中継所には。
すでに短文連絡網がある。
荷物の遅延。
道の異常。
救援。
そこへ。
乗客項目を追加。
人員共同便
出発済み
到着済み
宿泊
本人休息希望
天候待機
経路変更
理由を。
必要以上に書かない。
「本人が疲れたから宿泊」
それで十分。
なぜ疲れた。
何をしていた。
体調の詳細。
必要な医療情報以外は送らない。
*
持ち物にも。
上限を決めた。
「雪板さんの荷物は?」
返送庫からの事前申告。
個人荷物――一包
個人札――雪板
防寒具――一
返送庫役目物品――なし
返送庫の鍵。
在庫帳。
温度札。
全部。
次の担当へ置いてきた。
個人印だけ。
持ってくる。
「役目の荷物を持ったまま旅をしない」
ロウグが言う。
「はい」
それだけでも。
今回の移動の意味がある。
以前なら。
返送庫の預かり手が移動するなら。
返送庫の帳面。
鍵。
未配達品。
全部。
一緒に動いたかもしれない。
今は。
役目を残して。
人だけが来られる。
*
雪板へ。
人員共同便の計画票を送る。
北方循環便。
満タン便ではない。
翌日。
返答。
経路確認しました。
三日予定――了承。
冬季中継所宿泊――希望。
北砦到着後、その日の体調で三日目出発を判断します。
さらに。
到着時。
返送受入所ではなく、普通の入口から入りたいです。
誠司は。
その一行で手を止めた。
「普通の入口」
ロウグも読む。
今の水車町配送所には。
荷物口。
車両返却所。
返送受入所。
医療搬入口。
いろいろな入口がある。
だが。
旅人が。
共同便に乗って。
普通に到着するための場所。
正式にはない。
「作るか」
ガランが言った。
「大きなものは要りません」
配送所の南側。
共同荷車が。
人を降ろすことのある小さな広場。
屋根。
長椅子。
水。
荷物置き。
そこへ。
新しい札を付ける。
――水車町乗継所。
「乗継?」
サーラが尋ねる。
「ここが終点の人もいます」
「でも」
誠司は答えた。
「次へ行く人も使える場所にします」
水車町へ到着。
ここに住む。
別の街へ行く。
宿へ行く。
配送所へ用事。
全部。
一度ここで降りる。
人を。
返送品。
救援人員。
貨物。
どれにも分類しない。
「到着口、でもよかったんじゃないか」
ガランが言う。
「出発にも使います」
乗る。
降りる。
待つ。
休む。
次便を探す。
人のための中継点。
最低限。
長椅子。
雨よけ。
水。
時刻板。
地域別の便札。
西。
東。
南。
北。
そして。
乗客は荷物口へ並ばなくてよい
ガランが笑う。
「それ、書く必要あるか?」
「最初は必要です」
今まで。
共同荷車へ乗せてもらう人は。
荷物の受付で。
誰かに頼んでいた。
新しい仕組みができても。
場所が分からなければ。
昔のやり方へ戻る。
案内も。
物流設備だった。
*
雪板の第一日。
朝。
返送庫。
出発確認。
新しい三担当制の受領担当が。
乗客票を確認する。
「七代目預かり手」とは書かない。
本人呼称――雪板
本人印。
雪板。
一包。
防寒具。
体調。
問題なし。
本人意思。
出発。
最初の便。
北方そり。
運行担当。
雪原集落の運び手。
出発。
水車町へ。
第一報。
雪板――返送庫出発
数時間後。
冬季中継所到着
本人希望――予定どおり宿泊
誠司は。
その札へ。
確認印だけを付ける。
「明日出るかは?」
ロウグが尋ねる。
「明日の本人が決めます」
今日の雪板が。
三日で行く。
と同意しても。
明日の雪板へ。
その同意を強制しない。
*
翌朝。
北方から。
体調――問題なし
本日移動――本人希望あり
出発。
冬季中継所から。
雪原集落。
途中。
風が強くなる。
荷物便なら。
走れる程度。
だが。
乗客便担当が。
速度を落とす。
雪原集落へ。
予定より遅れて到着。
そこで。
北砦行きの次便。
まだ出発できる時間だった。
雪板本人。
判断。
本日北砦までの移動――希望せず
雪原集落宿泊――希望
「一日遅れる」
若い仕分け係が言う。
「予定の範囲です」
誠司は答えた。
三日前後。
期限ではない。
理由。
強風後。
疲労。
それ以上は書かない。
水車町。
到着予定。
一日後ろへ。
共同荷車側も。
席を翌便へ移す。
追加料金のような仕組みは。
今はない。
将来。
人員共同便が増えれば。
宿代。
運賃。
予約。
考える必要がある。
だが。
最初の便。
まず安全運用。
「雪板さん、予定を守らなかったって思わないかな」
ロウグが言う。
誠司は首を横に振る。
「予定どおりです」
「一日遅いのに?」
「疲れたら止まれる計画にしました」
止まれた。
だから。
計画が機能した。
*
第三日。
雪原集落。
北砦。
問題なし。
北砦で。
カイルが。
雪板へ会った。
「第三配送者候補」
とは呼ばなかった。
事前通知。
本人呼称。
雪板。
それだけ。
北砦から。
水車町へ向かう便。
通常は。
荷車。
途中の温暖域で。
北方用そりから。
車輪荷車へ乗り換える。
人員共同便も。
そこで乗継。
問題が出た。
乗客が。
そりから降り。
荷物を持ち。
二十歩ほど離れた荷車へ。
自分で移動する必要がある。
雪板は歩ける。
だが。
雪解け。
地面。
ぬかるみ。
「荷物なら人が持って運べます」
ロウグが報告を読む。
「人は?」
「歩ける人なら歩いてもらう」
「歩けない人なら?」
今後。
高齢者。
怪我の回復者。
子ども。
旅人。
利用するかもしれない。
「乗継路を作ります」
北砦から。
現地へ指示。
板を二枚。
地面へ。
簡単な歩板。
幅。
荷車輪より。
人の足。
二人が並べる程度。
片側。
手すり縄。
泥へ沈まない。
「人員共同便のためだけに、道を作る?」
ガランが言う。
「荷物運搬にも使えます」
荷車同士。
小箱。
手押し車。
人。
全部。
乗継地点の足元が良くなる。
雪板の移動。
十五分待つ。
板設置。
本人。
歩く。
問題なし。
乗継地点改善――完了
たった二枚の板。
それでも。
次の人の道になる。
*
第四日。
夕方。
水車町乗継所。
共同荷車。
北方便。
到着。
満タン便は。
迎えに行かない。
返送受入所から。
大勢も来ない。
誠司。
ロウグ。
サーラ。
三人。
乗継所当番。
それだけ。
荷車から。
先に荷物。
北方の氷晶石箱。
冬季中継所の工具。
返送札。
降ろす。
最後。
一人の女性が。
自分で荷車から降りた。
灰色の外套。
手に。
小さな一包。
足元には。
使い込まれた雪板を。
二枚。
紐でまとめている。
返送庫で見た。
七代目預かり手。
若い姿の女性。
雪板。
彼女は。
満タン便を見に来た。
候補者としてではなく。
ただの乗客として。
水車町へ着いた。
「水車町です」
誠司が言った。
雪板は。
周囲を見る。
返送受入所。
車両返却所。
仕分け場。
共同荷車。
遠くの水車。
「はい」
「移動便を終了しますか」
人員共同便。
最後の確認。
雪板は頷く。
「ここで降ります」
サーラが。
乗客票へ。
到着確認。
水車町乗継所――到着
本人意思――移動終了
受領印ではない。
到着印。
小さな道標の印。
人員共同便・北方第一号
完了
配送帳面が光る。
人員共同便――試験運行完了
乗継四回
宿泊二回
本人希望による延泊一回
運行事故――なし
さらに。
通常人員移動――配送網へ追加可能
これまで。
荷物。
救援。
医療。
返送。
そこへ。
新しい線。
人が。
用事がなくても。
仕事でなくても。
行きたい場所へ行ける線。
満タン便配送網に。
加わった。
*
「荷物は?」
ロウグが尋ねる。
「一包です」
雪板自身が持っている。
「預かりますか?」
「自分で持ちます」
「宿は?」
「満宿を使ってみたいです」
西方から始まった。
旅人と運び手のための宿。
水車町にも。
同じ方式の共同宿ができている。
「返送受入所ではなく?」
雪板が。
少し笑う。
「返送品ではないので」
「そうですね」
誠司も。
少し笑った。
サーラが。
満宿の空き札を確認する。
一部屋。
空き。
一泊。
翌日以降。
本人が決める。
「第三配送者候補の話は」
誠司が言う。
「今日はしません」
雪板が。
少し驚いた。
「見に来たのに?」
「四日移動しています」
「二泊余計にしました」
「それも含めて」
今日は。
宿。
食事。
風呂。
休み。
候補者の面談。
しない。
「満タン便を見るだけなら」
誠司が言う。
「通り道から見えます」
赤い車は。
車両返却所。
屋根の下。
白い文字。
満タン便。
雪板が。
そちらを見る。
一瞬。
立ち止まる。
「……あれが」
返送庫で。
何度も記録を見た車。
第一配送者。
佐伯澪。
田村誠司。
多くの荷物。
多くの帰着。
それを運んだ車。
雪板は。
近寄らなかった。
「明日にします」
「はい」
そのまま。
満宿へ向かった。
候補だから。
最初に車を見る。
ではない。
まず。
旅を終える。
*
その夜。
三浦直人は。
雪板が水車町へ来たことだけを聞いた。
「会いますか」
誠司が尋ねる。
「向こうが希望したら」
直人は答えた。
もう。
自分から。
候補者へ仕事を説明しに行かない。
「俺は再出発担当候補なんですよね」
「はい」
「まだ引き受けてません」
「はい」
直人は笑う。
「候補って、楽ですね」
「何も決まっていませんから」
「昔は、候補と言われたら」
直人は。
少し考える。
「もう仕事が始まった気がしていました」
「今は始まりません」
候補。
ただ。
可能性がある。
それだけ。
直人も。
雪板も。
まだ。
引き受けていない。
第三配送単位は。
未来側では。
形が見えている。
現在では。
まだ作っている途中。
*
翌朝。
雪板は。
満宿で朝食を取った。
普通の旅人と同じ。
パン。
温かい汁。
薄い茶。
食事のあと。
水車町乗継所へ。
自分で。
今日の予定を聞きに来た。
「満タン便を見たいです」
「分かりました」
「それと」
雪板が言う。
「第三配送者について、説明を受けたいです」
「今から?」
「はい」
本人から。
希望。
初めて。
候補の説明を始める。
場所。
運行者一時帰着所の隣。
会議室。
満タン便を。
見える窓がある。
誠司。
ロウグ。
サーラ。
雪板。
四人。
直人は。
呼ばない。
候補者同士。
同時に説明しない。
雪板へ。
雪板の仕事だけ。
*
説明する。
まず。
未来側の先行完了記録。
第一最終帰還便
車両――満タン便・車両M-001
運行者――雪板
日本側工場受領――完了
運転者水車町帰着――完了
「これは」
誠司が言う。
「現在のあなたの同意ではありません」
「分かっています」
次。
現在。
返送庫役目。
引継ぎ済み。
帰着先希望。
水車町運行者一時帰着所。
工場側。
受取拒否時。
待機場所。
あり。
休息。
あり。
車両ごと返送。
可能。
正式受領後。
人員帰還線。
可能。
「ここまで」
ロウグが言う。
「あなたが保留した三条件のうち」
一。
返送庫引継ぎ。
完了。
二。
本人帰着先。
登録可能。
三。
工場受入拒否時対応。
完了。
すべて。
揃った。
雪板は。
黙って票を読む。
「だから、今なら引き受けられる」
サーラが言う。
「でも」
「引き受けなくてもいい」
誠司が続ける。
雪板が。
窓の向こう。
満タン便を見る。
「運転方法の確認は?」
「まだです」
ロウグが答える。
「候補者として、満タン便の運転資格があると表示されています」
「表示だけ?」
「はい」
誠司が言う。
「あなた自身が、運転できると思っていますか」
雪板は。
少しだけ。
眉を寄せた。
「動かしたことがあります」
三人が。
雪板を見る。
「返送庫で?」
「いいえ」
「どこで?」
雪板は。
ゆっくり首を横に振った。
「分かりません」
「記憶がない?」
「場所が分からないんです」
雪板は。
手を。
ハンドルを握るように。
前へ出した。
「クラッチ」
「はい」
「変速」
「はい」
「制動」
「はい」
「始動手順」
一つずつ。
正しい。
ガランがいれば。
驚いただろう。
満タン便の操作。
誠司が使っているものと。
同じ。
「誰に教わりました」
雪板は。
長く考えた。
「それが」
首を振る。
「思い出せません」
誠司は。
そこで止めた。
記憶を掘らない。
本人が。
答えられないなら。
記録で確認する。
「運転資格表示を見てもいいですか」
「はい」
雪板。
本人同意。
個人印。
雪板。
満タン便。
車両記録。
照合。
第三配送単位
車両帰還担当候補――雪板
車両M-001運転技能――確認済み
ロウグが。
次を読む。
実車確認――完了
教習記録――一件
雪板自身が。
目を細める。
「教習?」
詳細。
教習車両――満タン便・車両M-001
教習場所――水車町車両返却所
教習担当――田村誠司
誠司は。
表示から目を離せなかった。
「俺?」
雪板も。
誠司を見る。
「教わった記憶はありません」
「俺も教えた記憶がありません」
ロウグが。
時刻欄を開く。
教習実施時刻――未到来
やはり。
未来。
それなら。
先行記録として。
説明はできる。
だが。
その下。
別の欄。
初回教習受講――完了
実施回数――二回中一回
「また二回?」
サーラが言う。
第二回。
教習担当――未登録
教習場所――日本側特装工場
満タン便を。
水車町で一度。
日本側工場で一度。
雪板は。
二回。
運転教習を受けることになっている。
一回目。
誠司。
二回目。
未登録。
そして。
一番下。
日本側車両運転認証
状態――有効
「有効……」
ロウグが呟く。
雪板は。
異世界の返送庫で。
長く荷物を預かってきた人。
日本側へ行った記憶は。
ない。
それでも。
日本側工場では。
すでに。
満タン便を運転できる者として。
認証されている。
認証発行者。
表示。
発行――日本側特装工場
認証立会人――三浦直人。
雪板。
田村誠司。
三浦直人。
まだ誰も。
その教習を。
現在では行っていない。
それでも未来側には。
三人で作った運転引継ぎが。
すでに記録されていた。
その夜。
配送帳面に。
新しい第一配送記録が現れた。
第一配送記録・第三配送前便
第三配送者候補へ、私は満タン便を渡そうとした。
彼女は運転席へ座った。
私は言った。
「動かせますか」
彼女は言った。
「動かせます」
私は鍵を渡そうとした。
彼女は受け取らなかった。
「帰る練習をしていません」
私には意味が分からなかった。
続く。
「運転の練習ではありません」
彼女は言った。
「車を置いたあと、自分が帰る練習です」
私は答えられなかった。
だから、その日も鍵を渡せなかった。
最後。
現在の記録が。
一行だけ追加される。
雪板・第三配送者登録
本人意思――未確認。
運転できる。
未来では走っている。
条件も。
ほとんど揃った。
それでも。
最後の一行は。
まだ。
未確認のままだった。
雪板は、返送庫の預かり手でも第三配送者でもなく、「一人の乗客」として北方から水車町へ移動しました。
そのため、水車町では新たに「人員共同便」と「水車町乗継所」が整備されています。
人員共同便では、各乗継地点で本人が移動継続を選び直し、予定時刻を期限とせず、休息や延泊も正式な運行として扱います。
雪板は途中で一日延泊しながら、満タン便を使わず水車町へ無事到着しました。
そして本人の希望によって、初めて第三配送者候補としての説明が始まります。
返送庫の引継ぎ。
本人の帰着先。
工場受入拒否時の代替手順。
保留していた三条件は、すべて整いました。
さらに雪板には、満タン便の運転経験らしき記憶があります。
車両記録でも運転技能は「確認済み」。
しかし、その教習記録はまだ現在では実施されていません。
一回目の教習担当は――田村誠司。
そして日本側での運転認証には、三浦直人が立ち会ったことになっています。
未来の記録は揃っています。
けれど最後に必要なのは、今ここにいる雪板本人の返事です。




