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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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109/156

第109話 車を荷物にする便

満タン便には、最後の一パーセントが残っていました。


必要なのは「満タン便最終帰還便」。


荷物は、満タン便そのもの。


配送先は、日本側特装工場。


そして運行者候補として表示されたのは、返送庫を守る七代目の預かり手――雪板の印を持つ女性でした。


けれど。


候補と表示されたことは、本人が引き受けたことを意味しません。


誠司たちは、車を返す方法を考える前に。


車を返した運転者が、どうやって帰ってくるかを考えます。

「第三配送者には、まだ登録しません」


朝。


水車町配送所。


配送帳面には、昨夜の表示が残っていた。


満タン便最終帰還便


積荷――満タン便

配送先――日本側特装工場


最終帰還便・運行者候補


三浦直人――権限返却済み

田村誠司――帰還基準者のため対象外


候補者――第三配送者


その下。


第三配送者候補

個人識別――雪板

現在役目――返送庫預かり手

本登録――保留


ロウグが帳面から顔を上げる。


「システム上は、ほとんど決まっているように見えます」


「候補です」


誠司は答えた。


「本人が引き受けるとは言っていません」


第三配送者。


番号が付いている。


候補にもなっている。


未来の満タン便を完成させるために必要らしい。


それでも。


だから走ってくれ。


とは言えない。


三浦直人は。


役目だけで自分を呼び続け。


帰る先を失った。


同じことを。


今度は雪板の預かり手へしてはいけなかった。


「まず本人へ説明します」


サーラが言う。


「何を頼もうとしているか」


「それと」


誠司は白紙を一枚出した。


「帰り道です」


ガランが首を傾げる。


「帰り道?」


「満タン便を日本側工場へ運んだあとです」


赤い車を運転して。


日本側の特装工場へ到着する。


そこで満タン便を引き渡す。


完成検査へ入れる。


では。


運転していった人間は。


どうやって水車町へ帰るのか。


誰も答えなかった。


「車を返す話ばかり考えていました」


ロウグが言う。


「運転者が帰る方法を考えていなかった」


「それでは」


リアが静かに言った。


「第一配送者と同じです」


車両は帰る。


仕事は終わる。


でも。


運転した本人の帰着がない。


誠司は頷いた。


「最終帰還便は、運転者の帰還便までセットにします」


*


まず。


満タン便を「荷物」として扱う方法から考えることになった。


通常。


荷物は。


車へ積む。


荷台へ置く。


固定する。


運ぶ。


しかし今回は。


荷物そのものが車。


自分で走って配送先まで行く。


「自走返却便」


ロウグが表題を書く。


誠司は項目を分けた。


自走返却便


返却対象――車両

運転者――別記

出発地点

返却先

受取人

車両状態

燃料状態

積載物

私物残置

鍵

運行記録


引渡後の運転者帰着方法


最後の一行へ。


太い線を引く。


「ここを空欄にした便は出さない」


誠司が言った。


「たとえ車両返却が急ぎでも?」


カイルが尋ねる。


「人命に関わる緊急返却なら別です」


例えば。


危険物を積んだ車両を。


急いで隔離区域へ動かす必要がある。


そういう場合は。


現地で代替帰路を作ることもある。


だが。


満タン便最終帰還便には。


今すぐ出なければならない理由はない。


日本側工場の特装工事予定は。


十一日後。


しかも。


日本側と水車町の時間差は固定ではない。


急いでも。


安全になるわけではない。


「なら、実際に一台返してみるか」


ガランが言った。


水車町の修理場には。


ちょうど返却予定の小型荷車があった。


東方共同便から借りていたもの。


車軸受けを交換するため。


三日前から水車町で使っている。


修理完了。


本来なら。


次の東方便へ積んで返す予定だった。


だが。


自力で走れる。


「試験に使えます」


*


小型荷車。


返却対象。


東方補給庫。


運転者。


東方の若い運び手。


返却先。


東方補給庫車庫。


受取人。


補給庫管理担当。


ここまでは簡単だった。


問題は。


その運び手が。


荷車を返却したあと。


どうするか。


「そのまま次の便へ乗って戻ります」


運び手が言った。


「次の便はいつですか」


「夕方です」


「遅れたら?」


「次の日」


「泊まる場所は?」


若い運び手が止まる。


「……補給庫?」


「宿泊できる確認は?」


「してません」


これまでは。


車を返す。


そこで話が終わっていた。


帰る人については。


本人が何とかする。


そういう扱いだった。


東方補給庫へ照会を送る。


車両返却後、運転者一名の帰着方法確認


第一希望――夕方共同便

共同便遅延時――補給庫休息所一泊

翌朝――水車町方面便へ同乗


返答。


夕方便――空席一


遅延時休息所――使用可

水、寝具、食事――準備可


初めて。


返却便の「帰り」まで決まった。


役目札へ書く。


東方小型荷車返却便


車両返却――東方補給庫

運転者帰着――夕方共同便


代替――補給庫一泊後、翌朝便


「行きと帰りで別の便になる」


ロウグが言う。


「それでいいんです」


運転した車を。


そのまま運転して帰る必要はない。


車は返した。


人は。


別の交通手段で帰る。


「車両を返したあとまでが運行計画」


サーラが書き留めた。


*


試験返却便。


出発。


荷車には。


余計な荷物を載せない。


返却対象そのものの状態を確認しやすくするため。


ただし。


空で走らせる必要もない。


東方へ行く修理済みの小箱。


風見村宛ての二通の手紙。


重量の軽い物だけを載せる。


「返却車だから、荷物を載せたら駄目ではない?」


若い運び手が尋ねる。


「車両状態に影響しない範囲なら」


誠司が答えた。


「空荷にこだわって、別の車を一本出す必要はありません」


車を返すこと。


物流を止めないこと。


両方をできる形にする。


ただし。


返却先が車両検査を行うため。


泥。


積荷。


荷台内装。


確認しやすい状態にする。


油物は載せない。


粉物も避ける。


匂いが残る物も。


返却前の車両状態を。


判別しにくくするから。


「自走返却便、出発」


水車町の戻る矢印印。


運び手の個人札。


役目札。


車両札。


三つを確認。


東へ向かった。


夕方。


返答。


車両――東方補給庫到着


車軸受け――正常

車輪――異常なし

荷台――異常なし

鍵――引渡完了

車両札――返却完了


その下。


運転者――夕方共同便へ引継ぎ


さらに数時間後。


運転者――水車町帰着

個人札――受領


自走返却便――完了


車が返った時点では。


便は終わらなかった。


運転者が帰って。


個人札が受け取られ。


初めて。


完了。


配送帳面が表示する。


自走返却便方式――適合


車両返却と運転者帰着の分離――可能


「満タン便にも使えます」


ロウグが言った。


「条件が揃えば」


誠司は答えた。


まだ。


第三配送者候補本人の意思。


返送庫の引継ぎ。


日本側工場の受入。


運転者の帰着経路。


何も揃っていない。


試験が成功しただけで。


本便を出せるわけではない。


*


北方返送庫への照会票は。


その日の北方循環便へ載せた。


満タン便は使わない。


水車町。


北砦。


雪原集落。


冬季中継所。


返送庫。


複数の人が。


一つずつ先へ渡す。


照会票の表紙。


雪板印の預かり手殿


あなたが「第三配送者候補」として表示されています。


現時点で、登録も依頼も行っていません。


満タン便を日本側特装工場へ返却する最終帰還便について、運行者候補として補給網があなたを示しています。


引き受ける意思があるか。

保留するか。

拒否するか。


どれでも構いません。


二枚目。


仕事内容。


満タン便を自走返却。


日本側工場へ引渡。


製造記録原本の返却。


三枚目。


未確定事項。


運転者の帰着方法。


返送庫の後任。


工場側受入条件。


出発日。


「分からないことも書く」


エレナが言う。


「決まっている仕事のように見せないためです」


最後。


返送庫預かり手の役目を離れる必要がある場合、その引継ぎ条件も教えてください。


候補者へ。


仕事だけ聞かない。


現在持っている仕事を。


どう引き継ぐかも聞く。


「これで送ります」


サーラが封をする。


北方便。


出発。


返事は。


すぐには来ない。


*


返送庫から返答を待つ間。


水車町は。


日本側特装工場へ照会した。


満タン便最終帰還便


車両引渡後の運転者帰着方法を確認したい。


満タン便は工場受領後も、運転者帰着に使用可能か。


返答。


日本側時間では短時間。


使用不可。


あまりに短い。


その下に理由。


満タン便は工場受領時点で運行停止。


運行記録原本の回収。

車体状態照合。

特装仕様への反映。

完成検査工程へ移行。


受領後、同車両による再出庫は不可。


「やっぱり」


誠司が言う。


車を返して。


その車で帰る。


できない。


「運転者は日本側に残る?」


ロウグが尋ねる。


返答は続く。


人員帰還線は別途設定可能。


条件

一、水車町側に本人帰着先が登録されていること。

二、水車町側に帰着受取人がいること。

三、工場側で車両引渡完了後、運転者本人の移動意思を再確認すること。


誠司は。


三つ目を指した。


「出発前に一度同意しても」


サーラが言う。


「車を引き渡したあと、もう一度聞く」


「はい」


行く前に。


水車町へ戻る。


と答えていても。


日本側へ到着したあと。


考えが変わるかもしれない。


そのとき。


水車町へ強制的に返さない。


「本人が日本側に残ることもできる?」


返答。


可能。


本人が別の帰着先を指定する場合、その場で帰着計画を変更可能。


「最終帰還便の運転者にも」


リアが言った。


「最後まで選択肢が残る」


誠司は頷く。


これで。


一つ条件が決まった。


満タン便を引き渡したあと。


第三配送者候補は。


別の人員帰還線で水車町へ戻れる。


ただし。


帰着先と。


受取人を。


出発前に登録しておく必要がある。


「帰着受取人は誰にしますか」


ロウグが尋ねる。


「本人が引き受けると決めたあとです」


まだ。


雪板の女性は。


依頼すら受け取っている途中。


先回りして。


受取人を決めない。


*


翌日。


北方循環便。


復路。


小さな木筒が届いた。


返送庫。


雪板印。


水車町配送所で。


サーラ。


ロウグ。


二人確認。


封。


異常なし。


照会番号。


一致。


開く。


最初の一枚。


水車町配送所へ。


候補表示について確認しました。


返答は「保留」です。


誠司は。


そこで一度紙を置いた。


拒否ではない。


了承でもない。


保留。


そのまま受け取る。


続き。


満タン便を日本側へ返す仕事について、私は運転可能です。


ただし、次の三つが終わるまでは第三配送者登録を受けません。


一。


返送庫預かり手の役目を、次の人へ引き渡すこと。


二。


満タン便を工場へ返したあと、私自身の帰着先を登録すること。


三。


工場側で車両受領を拒否された場合の代替手順を作ること。


ガランが頷く。


「三つ目は大事だ」


工場へ着いた。


だが。


書類不足。


設備異常。


受入停止。


そのとき。


車をどこへ置くのか。


運転者はどこで待つのか。


満タン便を。


工場前へ放置するわけにはいかない。


「本人が、もう必要条件を考えている」


ロウグが言った。


照会票の次の紙。


返送庫引継条件。


返送庫在庫帳――全数確認


未配達・返送待ち――一覧化


温度基準札――引継ぎ


返送庫鍵――二本確認


北方経路の危険箇所――現地説明


現預かり手の個人記録――役目記録から分離確認


後任本人の受領意思――必要


最後。


後任に、私と同じ名前も印も必要ありません。


「名前は引き継がない」


エレナが言う。


「役目だけを引き継ぐ」


二枚札制度。


水車町で作った仕組みが。


返送庫でも使われる。


「後任候補は?」


返答。


まだ決めていません。


返送庫を知っている者ではなく、返送を待てる者から選びたいと思います。


誠司は。


その一文を。


長く見た。


返送庫を扱える技術だけではない。


届かない日にも。


勝手に中身を開けず。


宛先を変えず。


待つことができる人。


「時間がかかりますね」


ロウグが言う。


「かけます」


誠司は答えた。


最終帰還便だから。


急いで終わらせる理由はない。


満タン便の完成検査が。


未来の製造につながっているとしても。


一つずつ。


今の仕事を片づける。


*


返答には。


もう一枚あった。


短い紙。


運転者帰着について。


水車町へ戻れるなら、水車町を第一帰着先に希望します。


ただし、私が帰ってきたとき。

「第三配送者」としてではなく、雪板の個人札で受け取ってください。


サーラが。


小さく息を吐いた。


「もちろんです」


役目。


第三配送者。


個人。


雪板。


別々に受け取る。


「帰着受取人は」


紙の続き。


特定の一人を希望しません。


水車町運行者一時帰着所の当番二名でお願いします。


誠司が頷く。


第一配送者は。


受取人を一人へ背負わせた。


三浦直人の帰着受取人は。


佐伯澪。


それには。


二人の事情があった。


だが。


雪板の預かり手は。


特定の誰かではなく。


仕組みに帰りたいと希望している。


「それも、帰る場所ですね」


エレナが言った。


「はい」


帰る先は。


家族でなくてもいい。


一人の人でなくても。


当番が。


記録を確認し。


おかえりと受け取る。


それで成立する帰着もある。


*


水車町では。


新しい帳票を作った。


――車両最終返却票。


通常の自走返却便と違う。


返却後。


車両が運行から外れる場合。


必要な項目。


車両最終返却票


車両

最終運転者

最終出発地点

最終受取地点


鍵

燃料

故障

修理履歴

未解決異常

車内私物

運行記録原本


受取拒否時待機場所

受取拒否時連絡方法

受取拒否時運転者休息場所


車両引渡後運転者帰着方法


「最後だから」


ガランが言う。


「壊れたところも全部直して返すのか」


誠司は。


少し考えた。


「全部、新品にはしません」


「なぜ?」


「修理履歴も、完成検査に必要です」


何が壊れたか。


どう直したか。


どの部品が長持ちしたか。


どこが弱かったか。


満タン便は。


何百年分もの運行記録を。


未来の製造へ返す。


なら。


傷も。


修理跡も。


情報だった。


「危険な故障は直す」


「はい」


「でも、古い傷を見栄えのためだけに消さない」


「はい」


「なるほどな」


ガランは。


赤い車体の小さなへこみを見る。


西方で。


砂嵐の飛来物が当たった跡。


東方で。


枝が擦った傷。


北方で。


低温によって塗装に細い割れが出た場所。


一つずつ。


修理帳に残っている。


「傷まで荷物か」


ガランが言う。


「記録と対応づけられるなら」


誠司は答えた。


車両返却前に。


全部を綺麗にして。


履歴を消す。


それは。


完成検査に必要な情報を。


捨てることになる。


最終返却前の整備方針。


安全に関わる異常――修理


性能に関わらない使用痕――保存


保存する傷――修理記録番号を付与


満タン便の車体に。


小さな紙を貼り付けるわけではない。


車体図面に。


番号を入れる。


現物と。


帳面。


照合できる形にする。


「車そのものが、報告書になる」


エレナが言った。


誠司は頷いた。


*


午後。


三浦直人が。


車両返却所へ来た。


今日は。


杖で歩いている。


長い距離ではない。


車庫前の椅子へ座る。


満タン便を見て。


「最終返却の準備ですか」


「まだ準備の準備です」


誠司が答えた。


「運転者候補から、保留の返事が来ました」


「保留」


「返送庫の引継ぎ。自分の帰着先。工場の受取拒否時対応。それが決まってから判断するそうです」


直人は。


少し笑った。


「俺より、ずっとちゃんとしてますね」


「比べる話ではありません」


「いえ」


直人は首を横に振った。


「比べていいです」


少し間。


「俺の失敗が、役に立ってるなら」


誠司は。


否定しなかった。


事故を起こした。


帰着を失敗した。


鍵を返さなかった。


報告を隠した。


それでも。


その記録が。


次の人の手順を良くしている。


「最終帰還便に、乗りたいと思いますか」


誠司が尋ねる。


直人は。


しばらく満タン便を見る。


「思いません」


はっきりした返事。


「運転したくない?」


「今は」


直人が言う。


「鍵を返したばかりですから」


再び運転席へ。


ではなく。


まず。


三浦直人として休む。


「それでいいです」


「ただ」


直人が続ける。


「最後に見送りはしたいです」


「本人が引き受けた場合に」


「はい」


候補者が。


まだ引き受けていない。


だから。


出発式の話も。


日付の話も。


まだしない。


*


夕方。


日本側特装工場から。


受取拒否時手順への返答が届いた。


満タン便最終帰還便

工場受入不能時


工場敷地内・帰還待機区画へ駐車可能。

車両運行継続可。


運転者休息室――使用可能。

水、食事、寝具――提供可能。


受入再開まで待機。


長期受入不能の場合――水車町へ車両ごと返送可。


「戻せるんですね」


ロウグが言う。


「受け取っていない車なら」


誠司が答えた。


工場側が正式に受領する前なら。


満タン便は。


まだ運行車両。


第三配送者候補が。


そのまま水車町へ戻せる。


正式受領したあと。


工場の完成検査へ入ったら。


車両は戻らない。


「受取の境目をはっきりさせます」


車両最終返却票に。


一行追加。


工場正式受領印が押されるまで、満タン便の運行責任は水車町側に残る。


引渡し口へ着いた瞬間。


所有も責任も消えるわけではない。


相手が。


受け取ったと確認するまで。


こちらの車両。


こちらの運行。


それから。


正式受領後

運転者は車両から個人記録を分離。

人員帰還線へ移行。


車を置く。


自分の個人札を持つ。


帰着線へ。


水車町。


運行者一時帰着所。


当番二名が受け取る。


「これで二つ目も決まった」


サーラが言った。


雪板の預かり手が挙げた三条件。


返送庫引継ぎ。


未完了。


本人帰着先。


水車町として可能。


工場受取拒否時対応。


決定。


残る最大の問題。


返送庫の後任。


*


夜。


配送帳面が。


新しいページを開いた。


第一配送記録・車両第二便

満タン便を工場へ返す方法を、私は一度考えた。


車両を返し。

鍵を返し。

運行記録を返す。


それで終わると思った。


工場の担当者に尋ねられた。


「運転してきたあなたは、どう帰りますか」


私は答えられなかった。


また同じことをしていた。


荷物の帰り道は作る。

運転者の帰り道を作らない。


私はその日、満タン便を工場へ返さなかった。


記録が続く。


「車だけ帰って、人を置いていく便は返却便ではありません」


工場担当者はそう言った。


「それは、置き去りです」


誠司は。


その言葉を。


静かに読んだ。


さらに。


私は第三配送者候補へ、最終帰還便を頼もうとした。


だが、その人は言った。


「私の帰着票を先に作ってください」


私は作れなかった。


だから、その便は出さなかった。


ここまでは。


現在と似ている。


だが。


最後に。


見慣れない表示が現れた。


第三配送者候補・個人記録照合

個人識別――雪板


運行履歴――一件


「一件?」


ロウグが言った。


雪板の預かり手は。


まだ第三配送者へ登録されていない。


返送庫を離れてもいない。


満タン便を運転した記録も。


水車町側にはなかった。


運行履歴を開く。


便名――満タン便最終帰還便


運行者――雪板


出発地――水車町

到着地――日本側特装工場


車両引渡――完了

運行記録原本――受領完了


運転者帰着――水車町


状態――完了


全員が。


表示を見つめた。


「もう終わってる……?」


ガランが呟く。


日付。


日本側完了予定日――十一日後。


現在から見れば。


未来。


だが。


始発線の記録上では。


すでに完了履歴として存在している。


さらに。


返送庫から届いたばかりの雪板本人の照会票。


その末尾に。


これまで気づかなかった短い一文があった。


追記。


補給網は、私に「以前この便を運行した」と表示しています。


私には、その記憶がありません。


誠司は。


紙と帳面を見比べた。


誠司自身も。


日本で事故に遭う三日前。


自分で出した覚えのない救援予約を持っていた。


あれは。


現在の水車町から。


あとで発行したものだった。


なら。


雪板の預かり手の運行履歴も。


未来で彼女が引き受ければ。


現在の記録へ先に現れているだけなのかもしれない。


だが。


一つ違う。


誠司の救援記録は。


発行前。


「未完了」だった。


こちらは。


状態――完了


すべて。


受領済み。


帰着済み。


完了済み。


配送帳面が。


さらに一行を表示した。


第三配送者・最終帰還便


完了回数――二回中一回。


「二回……?」


満タン便を日本側工場へ返す最終帰還便。


一度しかないはずの便。


その完了回数は。


一回ではなく。


二回のうち一回。


残り。


もう一度。


同じ車両を。


日本側工場へ返さなければならない。


最後に。


二回目の積荷欄が開いた。


第二最終帰還便


積荷――未登録。


満タン便の最終帰還は。


車を返して終わりではなかった。


工場へ返したあと。


もう一度だけ。


何かを日本側へ運ぶ便が。


残されていた。

満タン便を「車両そのものが荷物となる自走返却便」として扱う仕組みが作られました。


車両を返した時点では便を完了とせず、運転者本人が帰着するところまでを一件の返却便として管理します。


第三配送者候補である雪板の預かり手からの返事は「保留」。


返送庫の後任、本人の帰着先、工場受取拒否時の手順が整うまで、本登録を受けないという条件が示されました。


本人の帰着先は水車町運行者一時帰着所。


工場側の受入不能時にも、車両と運転者を置き去りにしない手順が整っています。


しかし、雪板の個人記録にはすでに「満タン便最終帰還便を完了した」という未来の運行履歴が存在していました。


しかも。


最終帰還便は、一回ではありません。


完了回数――二回中一回。


二回目に何を運ぶのかは、まだ登録されていません。

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