↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
106/156

第106話 名を聞かない同意票

第一配送者は、満タン便から正式に降車しました。


その身体は、日本側配送所の仮眠室で発見されています。


生命状態は安定。


けれど、本人確認に使う「個人札」は、水車町にある白糸の手紙の中。


しかも、その手紙を開けられるのは第一配送者本人だけです。


本人確認のために手紙を開けたい。


しかし手紙を開けるためには、本人だと確認しなければならない。


誠司たちは、その輪を「名前を先に決めない」ことでほどいていきます。

「白糸の手紙は、開けません」


朝。


水車町運行安全受付所。


机の中央には、二鍵保管箱が置かれていた。


中にあるのは。


北方一号が、第一配送者へ宛てた白糸の封書。


第一配送者殿

本人以外開封不可


そして配送帳面によれば。


その中には、第一配送者本人を識別するための個人札が入っている。


ロウグが難しい顔で保管箱を見る。


「個人札があれば、日本側で見つかった人を正式に本人確認できます」


「はい」


「でも、個人札を取り出すには本人が必要です」


「はい」


「本人だと確認するには、個人札が必要」


ガランが腕を組んだ。


「見事に輪になってんな」


誠司は白紙を二枚並べた。


一枚目。


――本人照合。


二枚目。


――名前確認。


「分けます」


「同じことでは?」


エレナが尋ねる。


「違います」


誠司は一枚目を指した。


本人照合。


今、日本側の仮眠室で眠っている人が。


第一配送者の運行履歴を持つ人物と同一かどうか。


確認材料はある。


第二配送単位の差出担当記録。


田村誠司緊急救援便の実行記録。


第一配送者音声事故報告。


満タン便予備鍵。


帰着記録。


日本側では、それらすべてが一致している。


候補一致率。


百パーセント。


「本人である可能性は、運行記録だけでかなり高い」


誠司は言った。


「でも、本人の名前は分からない」


個人札が必要なのは。


名前や、古い個人登録を確定するため。


日本側でその人へ話しかけ。


今後の行き先を尋ねるために。


必ずしも名前は必要ではない。


「名前が分からない人にも、意思はあります」


サーラが言った。


北方一号も。


返送庫の預かり手も。


名前を明かす前に、自分の配送について意思を示していた。


「なら、本人確認ではなく」


ロウグが新しい表題を書く。


「本人照合・仮?」


誠司は少し考えた。


「仮本人札にしましょう」


ガランが眉を上げる。


「人に仮って付けるのか」


「本人が仮なのではありません」


誠司は答えた。


「札のほうが仮です」


人は一人。


記録がまだ完成していないだけ。


だから。


仮本人札

日本側帰着者・始発一


とする。


名前ではない。


呼び名でもない。


受付番号。


水車町安全第一号と同じ。


記録を混同しないための番号。


本人へ「あなたの名前は始発一です」とは言わない。


「本人が名乗れるようになったら?」


「札を更新します」


「名乗れなかったら?」


「個人札を本人が開封してから確認する」


「それでも分からなかったら?」


「分からないと記録します」


空欄を。


勝手な名前で埋めない。


*


次に作ったのは。


日本側で目を覚ました第一配送者へ渡す同意票だった。


誠司は、最初の案を書いた。


あなたは第一配送者です。

水車町へ移動しますか。


リアがすぐに首を振った。


「その聞き方は駄目です」


「はい」


誠司も、紙を破った。


目を覚ました人が。


自分の名前も。


役目も。


過去も覚えていない可能性がある。


そこへ。


あなたは第一配送者です。


と先に告げる。


それは。


本人が思い出す前に。


こちらの記録を、本人の記憶として渡してしまうことになる。


「事実と、解釈を分けます」


新しい紙。


一行目。


あなたは現在、日本側配送所の運転者仮眠室にいます。


二行目。


身体状態は安定していると確認されています。


三行目。


あなたの所持品と運行記録に、水車町という場所との関連が確認されています。


ここまでは事実。


次。


水車町には、あなたの過去の運行記録と、本人宛ての未開封書簡が保管されています。


「第一配送者とは書かない?」


ロウグが尋ねる。


「本人から聞かれたら説明します」


「隠すことになりませんか」


「聞かれる前に役名を名乗らせないだけです」


誠司は続けた。


水車町へ移動することができます。


日本側に留まることもできます。


判断を後日に延ばすこともできます。


そして。


どれを選んでも、安全な受入れを継続します。


最後に。


三つの欄。


水車町への移動を希望する


今は移動しない


まだ決めない


「“帰る”とは書かないんですね」


エレナが言った。


「その人にとって水車町が帰る場所かどうか、本人が決める前だからです」


第一配送者という役目では。


水車町へ帰着した。


だが。


身体を持つ本人にとって。


水車町が家なのか。


仕事場なのか。


過去の場所なのか。


まだ分からない。


「移動です」


誠司は言った。


「帰ると呼ぶのは、本人がそう呼んでからにします」


*


日本側へ送る説明票には。


さらに一つ。


重要な注意書きを加えた。


覚醒後、本人へ名前を推測して提示しないこと。


「第一配送者」という呼称を、本人名として使用しないこと。


本人から名前を尋ねられた場合は、現在確認できていないと説明すること。


「かなり変な案内になりますね」


ロウグが言った。


「目を覚ましたら、“あなたの名前は分かりません”と」


「でも、本当です」


誠司は答えた。


分からない名前を。


安心させるためだけに作らない。


同時に。


本人を完全な正体不明者として扱わないよう。


確認済みのことも送る。


あなたが行ったと確認されていること


・緊急状態にあった田村誠司を救援した

・赤色配送車両「満タン便」の運行記録を持つ

・北方一号という人員に関する配送記録がある

・水車町に未完了だった帰着記録があり、現在は受領済み


「事故のことは?」


サーラが尋ねる。


「本人が聞けば伝えます」


「こちらから最初には?」


「伝えません」


隠すのではない。


目を覚ました直後に。


あなたは事故を起こしました。


と説明する必要はない。


安全。


現在地。


選択肢。


それが先。


事故報告については。


身体と意識が安定してから。


本人が聞ける状態で。


正式な記録と共に伝える。


「到着後に北方一号が会う場合も」


リアが言った。


「本人が会いたいか確認してからです」


北方一号が待っている。


だからといって。


目覚めた第一配送者の前へ。


突然連れていかない。


事故を起こした側と。


事故を受けた側。


どちらにも。


会うかどうかを選ぶ権利がある。


「北方一号にも確認します」


誠司が言った。


*


返送受入所。


北方一号は。


すでに朝の診察を終えていた。


今日は。


短い時間なら、支え付きで立てる。


リアが左右を支え。


足裏を床へ。


三秒。


五秒。


目眩なし。


それ以上は進めない。


本人も。


無理をしなくなっていた。


誠司は。


日本側へ送る同意票を見せた。


北方一号は。


ゆっくり読んだ。


「第一配送者と……書いていない」


「役目名を、本人の名前にしたくありません」


北方一号は。


少しだけ笑った。


「遅いですね」


誠司は彼女を見る。


「何がですか」


「その人はずっと……それをしていました」


「第一配送者としか呼ばなかった?」


「配送者」


「運転手」


「差出担当」


「自分のことを、役目でしか言わなくなった」


北方一号は。


白い同意票へ指を置く。


「最後は、私も名前を聞かなくなりました」


「知っていたんですか」


「最初は」


誠司は。


続けて聞かなかった。


北方一号のほうから言う。


「でも、その名前で呼ぶと……嫌そうな顔をするようになった」


「なぜ?」


「帰る場所を思い出すからだと」


彼女は答えた。


第一配送者は。


名前を失ったのではない。


自分から使わなくなった。


名前と。


帰る場所が。


結びついていたから。


「白糸の手紙には」


誠司が言う。


「個人札が入っているそうです」


「はい」


「そこに名前も?」


北方一号は首を横に振った。


「知りません」


「あなたが入れたのでは?」


「個人札を作ったのは……あの人です」


白糸の手紙。


北方一号が書いた本文と。


第一配送者自身が作った個人札。


二つを。


一つの封へ入れた。


「本人に返すため?」


「はい」


「なぜ本人宛ての手紙に、本人の札を?」


北方一号は、少し考えた。


「いつか」


息を整える。


「役目ではなく、自分を受け取れるように」


そのための札。


名前を書いた証明書とは限らない。


第一配送者が。


自分が誰だったかを。


自分で確かめるためのもの。


「日本側で目を覚ましたあと」


誠司が同意票を示す。


「水車町へ来るかどうか、本人に選んでもらいます」


「はい」


「あなたは、会いたいですか」


北方一号は。


長く黙った。


「会いたいです」


「すぐに?」


「いいえ」


彼女は答えた。


「向こうが会いたいと言ったら」


誠司は。


北方一号用の確認票にも書く。


面会希望――あり

条件――第一配送者本人の希望確認後


待つ側にも。


条件がある。


*


始発照会口へ。


覚醒後案内票。


移動同意票。


仮本人札の写し。


水車町側の受入条件。


四枚を送る。


一枚一枚。


番号を付ける。


原本は水車町へ残す。


日本側へ送るのは写し。


第一配送者の個人情報を。


必要以上に送らない。


事故報告の全文も添付しない。


白糸の手紙の内容も。


個人札の詳細も。


「送信物が多い」


ガランが言う。


「四枚は、一度に入れません」


誠司は答えた。


二枚ずつ。


一便目。


覚醒後案内票。


仮本人札。


二便目。


移動同意票。


受入条件。


始発照会口は。


以前。


紙が詰まった。


一度に多く送らない。


一便目。


送信。


百パーセント。


送達確認。


次に二便目。


同じ。


送達。


日本側の受領確認。


始発照会第四号・第五号

受領完了


第一配送者候補の覚醒後に使用します。


「候補?」


ロウグが言った。


「まだ候補扱いなんですね」


「個人札がないからです」


誠司は頷いた。


運行履歴では百パーセント一致。


それでも。


名前と個人記録の最終確認が終わるまでは。


補給網も。


候補と記している。


「それでいい」


誠司は言った。


百パーセントと表示されても。


確認していない欄まで。


確認済みにしない。


*


その日の午後。


水車町では。


別の本人照合が必要になった。


東方循環便。


風見村から戻った小型荷車。


運び手の個人札が。


雨で濡れ。


文字の一部が読めなくなっていた。


本人は目の前にいる。


顔も。


声も。


仲間も知っている。


「新しく書けばいいだろ」


運び手が笑う。


だが。


ロウグが止めた。


「本人札の再発行手順を試しましょう」


名前だけを書き直すのではない。


旧札番号。


担当便。


出発記録。


帰着記録。


本人の預託印。


帰着当番の確認。


五つを照合する。


本人確認。


一致。


旧札。


無効化。


穴を一つ開ける。


捨てない。


再発行理由と一緒に保管する。


新しい個人札。


番号は変えない。


ただし。


再発行一回目と記す。


「面倒だな」


運び手が言う。


「でも、俺じゃない奴が名前だけ書いても駄目ってことか」


「はい」


名前は。


本人確認の一部。


全部ではない。


逆に。


名前が消えても。


運行履歴。


印。


引継ぎ。


周囲の確認。


複数の情報で。


人を追える。


「第一配送者にも同じことをするんですね」


エレナが言った。


「もっと長い記録で」


「はい」


第一配送者の本人確認が。


特殊な謎解きではなく。


日常の物流手順へ落ちていく。


それが重要だった。


一人だけに使える仕組みでは。


次へ残らない。


*


夕方。


始発照会口から。


返答は来なかった。


第一配送者は。


まだ眠っている。


水車町側では。


循環共同便が一日分を終える。


西方。


帰着。


東方。


帰着。


南方。


一便遅延。


連絡済み。


北方。


氷晶石便。


冬季中継所へ到着。


満タン便。


出動なし。


燃料。


循環補給で少し増加。


白糸の手紙。


保管継続。


第一配送者救援予約。


本人覚醒待ち。


「今日も起きませんでしたね」


ロウグが言う。


「はい」


「待ちますか」


「待ちます」


誠司は、運行板へ。


第一配送者候補――変化なし


と記した。


変化なし。


それも情報。


昨日も眠っていた。


今日も。


生命状態は安定。


なら。


無理に起こす理由はない。


*


夜。


返送受入所。


北方一号は。


白糸の手紙がある方向を見ていた。


「誠司さん」


「はい」


「もし」


少し言葉を探す。


「目を覚ました人が、水車町へ来ないと言ったら」


「転送しません」


「手紙は?」


「本人が希望するなら、届ける方法を考えます」


現時点の始発線では。


記録は送れる。


人員救援経路もある。


だが。


通常の物品を自由に送れることは確認されていない。


白糸の手紙を。


勝手に分解し。


内容を写して送ることもできない。


「届けられないかもしれない」


「はい」


誠司は隠さなかった。


「でも、本人が来ないと決めたからといって、開けません」


「ずっと?」


「宛先変更を本人が求めるまで」


北方一号は頷いた。


「それでいいです」


「手紙の中の個人札がないと」


誠司は言う。


「日本側では名前確認ができない可能性があります」


「名前がなくても」


北方一号が答える。


「その人は、その人です」


そして。


少しだけ笑う。


「私も、まだ名前を言っていません」


誠司は。


そこで初めて。


同じことに気づいたように頷いた。


「そうでした」


「困りましたか」


「いいえ」


水車町では。


北方一号という呼び名で。


すでに彼女を受け入れている。


それは本名ではない。


役目でもない。


荷物番号から始まった仮の呼称。


それでも。


本人の意思を確認し。


事故報告を受け取り。


帰る場所を作り。


一緒に茶を飲んでいる。


名前がなければ。


関係を作れないわけではない。


名前は大切。


でも。


名前だけが本人ではなかった。


*


深夜。


車庫から。


からん。


小さな音。


夜間受信当番が。


すぐに誠司を呼ばなかった。


手順どおり。


まず二人確認。


サーラ。


ロウグ。


返答票の外装。


緊急表示。


なし。


生命危険。


なし。


それを確認してから。


誠司。


リア。


北方一号へ連絡が入る。


始発照会口の返答票。


日本側配送所。


第一配送者候補

覚醒を確認


北方一号の手が。


毛布の上で止まる。


誠司は。


先を急いで読まない。


まず。


状態。


呼吸、脈拍――安定

自力座位――可能

水分摂取――可能

会話――可能


緊急性――なし


安全。


次。


覚醒後案内票を本人へ提示。

現在地、安全状態、選択肢を説明済み。


その次。


氏名確認――本人回答不能


第一配送者候補は。


自分の名前を。


思い出せなかった。


予想されていたこと。


配送帳面の第一配送記録にも。


書かれていたこと。


役名提示――未実施

名称誘導――未実施


日本側は。


水車町の手順を守っている。


勝手に。


あなたは第一配送者です。


とは言っていない。


次。


所持品確認

満タン便予備鍵を本人へ提示。


本人反応――あり


ロウグが息を詰める。


本人の言葉。


そのまま記録されている。


「これ、返さないといけません」


誠司は。


満タン便の車庫を見る。


予備鍵。


本人は用途を説明される前に。


返さなければならない物だと認識した。


続けて。


日本側担当が尋ねた。


「どこへ返しますか」


回答。


「分かりません」


記憶は。


完全には戻っていない。


次。


覚醒後案内票。


水車町。


未開封書簡。


過去の運行記録。


移動可能。


日本側に残ることも可能。


決定延期も可能。


三つの選択肢。


本人は。


すぐ選ばなかった。


回答――保留


北方一号は。


小さく息を吐いた。


落胆ではない。


安心にも見えた。


「急がなかった」


「はい」


誠司が答える。


第一配送者自身が。


ようやく待てている。


返答票は続く。


本人から。


三つ質問があった。


一つ目。


「赤い車は、壊れていませんか」


日本側担当は。


水車町から受け取っている情報で答えた。


満タン便――運行可能。

水車町車両返却所で管理中。


二つ目。


「助けた運転手は?」


田村誠司――生命状態良好。

水車町で運行業務に従事。


第一配送者候補は。


それを聞いて。


長く目を閉じたという。


三つ目。


日本側担当は。


記録どおりに書いていた。


「北方一号は、起きましたか」


誰も声を出さなかった。


名前は。


思い出せない。


水車町も。


どこへ予備鍵を返すかも。


すぐには出てこない。


それでも。


北方一号を。


覚えていた。


返答には。


日本側担当からの回答。


北方一号――覚醒済み。

水車町返送受入所で回復中。

あなたの帰着を受領済み。


そして。


第一配送者候補の言葉。


「そうですか」


その一言のあと。


しばらく黙った。


次に。


移動同意票へ。


自分で印を付けた。


水車町への移動を希望する


北方一号が。


目を閉じた。


リアは。


何も言わず。


呼吸を確認する。


安定。


誠司は最後まで読む。


ただし本人より条件あり。


条件。


一つ。


「着いたら、最初に鍵を返したい」


二つ。


「手紙は、自分で開けたい」


三つ。


「北方一号には、会うかどうかを向こうに先に聞いてください」


北方一号は。


少し笑った。


「遅いですね」


以前と同じ言葉。


今度は。


声が震えていた。


「何がですか」


誠司が尋ねる。


「今になって」


北方一号は。


目元を布で押さえた。


「ちゃんと、聞くようになった」


第一配送者は。


北方一号を急いで起こした。


本人の時刻を待てなかった。


けれど今。


会うことさえ。


相手へ先に聞いてほしいと言っている。


事故報告が。


ただの反省ではなく。


行動へ変わっていた。


サーラが。


北方一号へ確認する。


「面会を希望しますか」


北方一号は。


目元の布を下ろす。


「はい」


「到着直後?」


「いいえ」


少し考える。


「鍵を返して」


「手紙を開けて」


「本人が休んで」


それから。


「会いたいと言ったら」


面会希望。


相互確認。


成立。


それでも。


今すぐ会うとはしない。


帰着して。


休んで。


本人確認を進め。


そのあと。


*


配送帳面が光った。


第一配送者救援予約


本人覚醒――確認

本人移動意思――水車町

受入先――水車町運行者一時帰着所


救援経路――発動可能


満タン便の車体で。


小さく。


赤い光が一度だけ流れた。


運転席。


助手席。


荷台。


最後に。


運行者一時帰着所の白線。


だが。


まだ人は来ない。


転送実行前確認が必要です。


項目。


日本側引渡人

水車町側受取人

乗員配置

所持品

本人状態

到着後本人確認手順


「明日ですね」


ロウグが言った。


「はい」


誠司は答えた。


「今日ではありません」


本人が。


移動を希望した。


だからといって。


その場ですぐ転送しない。


日本側で。


水分。


体調。


持ち物。


引渡記録。


水車町側で。


寝台。


受入人員。


プライバシー。


未開封書簡。


予備鍵の返却先。


全部を確認する。


帰ってくる人がいる。


そのときほど。


受け取る側が。


先に落ち着いていなければならない。


その夜。


配送帳面が新しいページを開いた。


第一配送記録・帰着第二便

目を覚ました私は、自分の名前を思い出せなかった。


だが。

鍵を見たとき、返さなければならないと思った。


田村誠司が無事だと聞いたとき。

ようやく眠っていた理由を思い出した。


北方一号が起きたと聞いたとき。

私は水車町へ行こうと思った。


名前を取り戻すためではない。


返していないものが、まだあったからだ。


その下。


救援便の積載予定が表示される。


第一配送者帰還便


人員――一名

所持品――満タン便予備鍵一個

私物――なし


未引渡品――一件


「未引渡品?」


ロウグが読む。


日本側で確認された。


第一配送者候補の。


もう一つの所持品。


満タン便予備鍵とは別。


昨日まで。


記録になかったもの。


紙片一枚


発見場所――本人の衣服内側

記載言語――日本語


宛先――田村誠司


誠司は。


表示を見つめた。


第一配送者が。


日本側で。


ずっと持っていた紙。


自分自身の名前は失っていても。


そこには。


田村誠司の名が書かれている。


内容は。


まだ開示されていない。


理由。


封書ではないが、本人より引渡希望あり。


「これは、着いてから本人に渡します」


第一配送者は。


名前を忘れても。


誰へ返すべきものかだけは。


覚えていた。

第一配送者の個人札は白糸の手紙の中にありますが、「本人確認」と「名前確認」を分けることで、個人札を開ける前でも移動意思を確認できる手順が作られました。


日本側では、第一配送者候補が自然に覚醒。


自分の名前は思い出せませんでしたが、満タン便の予備鍵を「返さなければならない物」と認識し、田村誠司と北方一号の無事を確認しています。


そして本人は、水車町への移動を希望しました。


ただし、到着後はまず予備鍵を返し、白糸の手紙を自分で開封し、休息してから北方一号との面会を判断します。


さらに、第一配送者は日本側で「田村誠司」宛ての日本語の紙片を一枚持っていました。


その紙は、水車町へ着いてから、誠司本人へ渡すつもりのようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。