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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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105/156

第105話 帰ってきたことを受け取る

第一配送者の音声事故報告は、最後まで受け取られました。


残る帰着条件は一つ。


北方一号が、第一配送者の帰着を受領すること。


ただし受領は、事故を許すことではありません。


事故記録を残したまま、それでも「帰ってきた」という事実を受け取れるのか。


水車町は、そのための準備を始めます。

「受領印を押したあと、何が起きるか分かりません」


朝。


水車町運行者一時帰着所。


誠司は、床に引かれた三色の線を見ながら言った。


白。


人員受入。


青。


記録受入。


黄。


形状未確認。


第一配送者の帰着を受け取るために作った場所。


昨日までは、その三つで足りると思っていた。


だが。


北方一号が帰着を受領したあと。


第一配送者の身体が現れなければ。


新しい救援予約が有効になる。


救援対象――第一配送者

実行地点――未登録

受入先――水車町運行者一時帰着所

命令発行者――北方一号


適用条件――第一配送者の降車後、身体所在を確認できない場合


「“身体所在を確認できない”を、どう判断しますか」


ロウグが尋ねた。


「運転席にいなければ?」


「それだけでは足りません」


誠司は答えた。


満タン便の運転席に。


人の姿が出なかった。


だから不明。


では雑すぎる。


第一配送者が。


人として現れるのか。


記録として現れるのか。


車外へ移されるのか。


別の受入区画へ送られるのか。


まだ分からない。


「確認範囲を先に決めます」


誠司は一枚の板へ書いた。


第一配送者・降車後所在確認


一、運転席

二、助手席

三、荷台

四、車体周囲

五、運行者一時帰着所

六、返送受入所

七、補給網登録位置


ガランが腕を組む。


「車体の下も入れろ」


「入れます」


八、車体下部


「車体内部を分解するのは?」


「その場ではしません」


また同じだった。


見つからないからといって。


すぐに座席を外す。


床を剥がす。


配線を切る。


それでは、別の異常を作る可能性がある。


「外から確認できる範囲を先に調べます」


「見つからなければ?」


「十五分待ちます」


ロウグが顔を上げる。


「十五分?」


「降車処理に時間がかかる可能性があります」


帳面の表示だけが先に変わり。


人員転送が遅れて起きるかもしれない。


あるいは。


第一配送者自身が、どこかの受入地点を選ぶ時間が必要かもしれない。


「待っている間も、何もしないわけではありません」


十五分。


五分ごとに。


補給網位置。


車両状態。


受入所の状態。


確認。


十五分後も身体所在が確認できない。


そこで初めて。


救援予約の適用条件を満たしたと判断する。


「北方一号が、すぐ予約票へ署名しないようにするためでもあります」


リアが言った。


事故報告を受け取った直後。


感情のまま。


すぐ迎えに行かなければ。


そう考える可能性がある。


「選ぶ時間を作ります」


誠司は言った。


「救援予約が出ても、署名は本人の判断です」


*


北方一号は。


その手順を、返送受入所で聞いた。


今日は移乗椅子へ座っている。


昨日より背もたれを一段起こせる。


足は床につけない。


まだ長く歩けない。


「十五分」


北方一号が確認する。


「はい」


「その間に見つかったら?」


「救援予約は出しません」


「身体ではなく……記録だけだったら?」


「人員所在は未確認とします」


誠司は答えた。


第一配送者の事故報告。


差出担当記録。


音声。


それらが全部降りても。


本人の所在とは別。


「記録が帰ったことと、人が帰ったことを混ぜません」


北方一号は、静かに頷いた。


机には。


第一配送者の帰着票がある。


運行者――第一配送者

車両――満タン便


事故報告――提出完了

安全受付――受領完了


帰着受取人――北方一号

受領意思――未確認


リアが北方一号へ尋ねる。


「今日、受領しますか」


「はい」


「理由を聞いても?」


北方一号は、すぐには答えなかった。


長く眠っていた人。


事故を起こされた側。


第一配送者の帰着を受け取る人。


その三つを。


同じ返事にまとめないように。


誠司たちは待った。


「事故を許したからではありません」


北方一号が言った。


「事故は……事故として残します」


サーラが安全受付帳を開く。


休眠解除事故。


第一配送者本人の報告。


北方一号の報告。


どちらも保存されている。


消さない。


「でも」


北方一号は続けた。


「帰ってきた人に、事故を起こしたから帰ってくるなとは言いたくありません」


誰かが失敗した。


だから。


戻る場所をなくす。


それでは。


事故報告を出せなくなる。


第一配送者自身が、音声記録で言っていた。


帰れない者は、事故を報告できません。

報告すれば、居場所を失うと思うからです。


「帰着を受け取ります」


北方一号が言った。


「ただし」


右手を帰着票へ置く。


「受け取ったあと、何をするかは本人に選んでもらいます」


「はい」


誠司が答えた。


「水車町に残ることも」


ロウグが言う。


「別の場所へ行くことも」


「何も話さず休むことも」


リアが加える。


「帰ることも」


北方一号が、小さく言った。


どこへ。


とは誰も聞かなかった。


*


受領手続きは、満タン便の運転席で行わないことにした。


第一配送者の帰着は。


運転席から降りるためのもの。


受領印を押すために。


北方一号を再び助手席へ乗せる必要はない。


「帰着票は一時帰着所で受け取ります」


サーラが言う。


満タン便は。


車両返却所の決められた位置。


エンジン停止。


鍵は保管箱。


現運行者なし。


誠司自身も、運転席へ座らない。


現在の運行と。


第一配送者の古い運行を混ぜないためだった。


帰着所には。


必要な者だけ。


北方一号。


リア。


サーラ。


ロウグ。


ガラン。


管理人。


誠司。


エレナは記録室から補助。


そのほかは、外で待つ。


満タン便の運転席側の扉は開けてある。


座席は空。


助手席箱は閉じている。


荷台。


空。


荷台扉。


開けた状態。


車体下。


見える範囲に異常なし。


帰着所の三つの区画。


空。


受入準備。


完了。


「時刻」


ロウグが言う。


「第一配送者帰着受領、開始」


北方一号の前へ。


帰着票を置く。


サーラが読み上げる。


「運行者、第一配送者」


「はい」


「最終運行、北方一号回収便」


「はい」


「事故報告、提出済み」


「はい」


「事故記録、保存継続」


「はい」


「帰着受領は、事故責任の免除を意味しない」


北方一号が頷く。


「はい」


「帰着受領後、本人の行き先は本人が選ぶ」


「はい」


最後。


「第一配送者の帰着を受け取りますか」


北方一号は。


満タン便の空の運転席を見た。


長い時間。


この席に。


誰かが残り続けていた。


世界中へ荷物を届け。


水車町まで戻り。


それでも。


降りられなかった人。


北方一号が答える。


「受け取ります」


サーラが。


帰着票の受取人欄を示す。


北方一号は。


名前を書かなかった。


まだ。


自分の登録名を明かしていない。


代わりに。


青黒い助手席箱の鍵を。


確認板へ触れさせる。


本人確認――北方一号


その下へ。


指を置く。


帰着受領意思――確認


最後に。


サーラが。


運行者一時帰着所の受領印を渡した。


家へ戻る矢印。


それを受け止める二本の手。


北方一号は。


両手で印を持った。


力は弱い。


サーラが台の下だけを支える。


押す力は。


北方一号自身。


ごん。


帰着票へ。


受領印が押された。


誰も動かなかった。


配送帳面が。


光る。


第一配送者・帰着受領――完了


続いて。


第一配送者・帰着完了条件


一、北方一号による帰着受領――完了

二、休眠解除事故報告の提出――完了

三、事故報告受取人による確認――完了


三つ。


すべて。


完了。


その下。


旧運行責任者・第一配送者

乗車状態――終了処理中


満タン便の運転席で。


小さな音がした。


かちり。


誰も近づかない。


ガランが外から見る。


「鍵は動いてない」


運転席。


無人。


座席。


変化なし。


ハンドル。


変化なし。


足元。


何もない。


乗車状態――終了


第一配送者が。


運転席から降りた。


だが。


姿は現れなかった。


ロウグが時刻を記す。


「降車処理完了」


誠司が言う。


「所在確認を始めます」


*


第一確認。


運転席。


空。


座席下は外から見える範囲だけ。


異常なし。


助手席。


空。


助手席箱。


閉。


新たな表示なし。


荷台。


空。


床。


棚。


固定具。


異常なし。


車体周囲。


人影なし。


車体下。


ガランが長い点検棒で。


車輪の内側。


車軸付近。


床下。


触れずに確認する。


異常なし。


運行者一時帰着所。


白区画。


空。


青区画。


第一配送者の音声事故報告札。


黄区画。


空。


返送受入所。


新規到着なし。


補給網登録位置。


管理人が照会する。


第一配送者

乗車状態――終了

帰着状態――受領済み

身体所在――照合中


「まだ不明ではありません」


管理人が言った。


「照合中です」


五分。


待つ。


その間。


北方一号の体調。


問題なし。


水を一口。


受領後。


質問はしない。


「大丈夫ですか」


リアが聞く。


「はい」


「横になりますか」


「もう少し、ここにいます」


本人の希望。


移乗椅子のまま待つ。


五分。


補給網。


身体所在――照合中


十分钟。


変化なし。


ガランが満タン便の周囲をもう一度見る。


人はいない。


荷台にも。


運転席にも。


新しい物は出ていない。


「車体内部を開けるか?」


ガランが尋ねる。


誠司は時計を見る。


「まだです」


決めた十五分。


途中でルールを変えない。


待つ。


十三分。


北方一号が、運転席を見つめる。


何も起こらない。


十四分。


配送帳面が一度だけ淡く光った。


だが。


文字は変わらない。


十五分。


ロウグが時刻を記録する。


「所在確認待機、十五分経過」


管理人が最後の照会を出す。


第一配送者

帰着受領――完了

降車――完了

身体所在――確認不能


一時帰着所の空気が。


静かに変わった。


予想していた表示。


準備していた条件。


それでも。


実際に出ると重かった。


続けて。


先行救援予約・適用条件成立


昨日生成された。


第一配送者の救援予約。


有効になった。


救援対象――第一配送者

受入先――水車町運行者一時帰着所


命令発行者――北方一号

発行状態――未署名


予約票が。


運転席の始発照会口ではなく。


運行者一時帰着所の青区画に。


静かに現れた。


薄い紙。


二つ折り。


サーラが位置と時刻を記録する。


すぐには触らない。


外装。


破損なし。


人員救援予約票


差出予定。


北方一号。


対象。


第一配送者。


「署名しますか」


誠司は尋ねなかった。


先に。


サーラが内容を確認する。


北方一号本人が読むため。


大きな字で写す。


適用条件


第一配送者の帰着および降車が完了していること。

身体所在が十五分以上確認できないこと。


救援対象の生命状態を確認できない場合でも、探索照会を先行すること。


回収地点を確認せず、人員転送を実行してはならない。


「すぐ迎えに行く票ではありません」


ロウグが言った。


「先に、どこにいるか探す」


誠司が頷く。


「場所が分からない人を、無理に引っ張らない」


さらに。


救援対象本人の拒否が確認された場合――中止


意思確認不能かつ生命危険あり――緊急救援可


意思確認可能――本人意思優先


北方一号を救援したとき。


誠司を救援したとき。


作ってきた仕組みが。


第一配送者にも使われている。


「署名する前に」


北方一号が言った。


「場所を探せますか」


「予約票に署名しなくても?」


管理人が確認する。


探索照会――発行前実施可能


「できます」


「なら、先に探してください」


北方一号は言った。


「見つからない人を、どこから運ぶのかも分からずに署名したくありません」


誠司は頷いた。


「その順番でいきましょう」


*


第一配送者。


名前。


未登録。


身体情報。


未登録。


顔。


記録なし。


普通なら。


探しようがない。


だが。


物流では。


名前以外にも追えるものがある。


便名。


車両。


引継地点。


荷札。


時刻。


記録番号。


「人を名前だけで探さない」


誠司は探索票を作った。


第一配送者所在照会


個人名――未登録


確認情報

・満タン便旧運行責任者

・第二配送単位差出担当

・第一配送者音声事故報告作成者

・田村誠司緊急救援便実行者

・北方一号旧回収便運行者

・帰着受領完了時刻――本日


「これだけあれば、記録上は一人に絞れます」


ロウグが言う。


「身体の特徴がなくても」


「仕事の履歴はあります」


一人が何を運んだか。


どの便を担当したか。


どこで引き継いだか。


それも本人確認の一部になる。


照会先。


まず。


水車町の補給網。


見つからない。


北方中枢。


該当人員なし


返送不能品保管区画。


該当人員なし


返送庫。


現在の預かり手へ照会。


該当人員なし


西。


東。


南。


北。


現行配送網にも。


登録なし。


残るのは。


始発線。


日本側。


「日本側へ送ります」


誠司は言った。


「第一配送者が最後に俺を救援した場所です」


満タン便の始発照会口。


今日は運行しない。


照会だけ。


作業票。


二人確認。


残す控え。


水車町始発照会第三号


照会内容――第一配送者所在確認


氏名による検索を行わない。

上記運行履歴との一致で照合すること。


人員を発見した場合、本人へ無断で転送しないこと。

生命状態のみ確認。

意思表示可能な場合、連絡希望の有無を確認。


「向こう側でも、勝手に送らせない」


サーラが確認する。


「はい」


救援予約がある。


だからといって。


発見した瞬間、強制転送しない。


まず所在。


次に状態。


そのあと意思。


順番。


「送信します」


始発照会口。


紙送り車輪。


からり。


照会票が吸い込まれる。


日本側配送所へ送信中


十二。


三十三。


五十九。


八十七。


百。


送達完了

照合待ち


「返事が来るまで」


誠司は言った。


「通常業務へ戻ります」


北方一号は。


救援予約票へ署名していない。


一時帰着所の青区画。


二鍵保管箱へ入れる。


一つ。


サーラ。


もう一つ。


北方一号自身。


本人が持てるよう。


小さな革紐で鍵を首元へ掛ける。


「重くないですか」


リアが尋ねる。


「大丈夫です」


「疲れたら外します」


「はい」


第一配送者の帰着は。


受け取った。


でも。


次の救援は。


まだ出していない。


一つ終えてから。


次を判断する。


*


午後。


水車町の循環共同便は。


いつもどおり動いた。


東方から。


豆。


修理済みの軸受け。


風見村の手紙。


南方から。


薬草。


乾燥布。


雨量記録。


西方から。


水樽。


塩。


隊商の車輪。


北方から。


氷晶石。


雪道の状態札。


返送庫の在庫票。


第一配送者の所在が分からなくても。


街の物流は止めない。


サーラは西方の返送樽。


ロウグは東方引継帳。


ガランは南方荷車の車輪。


リアは薬草保冷。


それぞれの仕事へ戻る。


北方一号も。


返送受入所で休む。


本人の希望で。


救援予約票の控えだけを寝台横へ置いた。


「見ていると疲れませんか」


リアが尋ねる。


「見ていないほうが……考えます」


だから。


見える場所へ。


ただし。


手の届かない高さには置かない。


自分で伏せることも。


別の場所へ移してもらうこともできる。


待つ環境も。


本人が選べるようにする。


*


夕方。


南方循環便の荷降ろしが終わったころ。


車庫から。


からん。


始発照会口の返却音。


今度は。


サーラが受信当番。


エレナと二人で確認する。


誠司を呼ぶ。


返答票。


日本側。


一枚目。


第一配送者所在照会

照合結果――候補一名


「いる」


ロウグが言った。


誠司は読み進める。


氏名――確認不能

身分証――なし


発見地点――日本側配送所

運転者仮眠室


全員が黙る。


第一配送者。


日本側にいる。


さらに。


発見時期――田村誠司緊急救援便実行後


状態――睡眠継続

外傷――確認されず

呼吸――安定


意思確認――不能


所持品――一件


二枚目。


所持品記録。


赤色配送車両の鍵 一個


満タン便の鍵。


水車町にある満タン便にも。


鍵はある。


では。


日本側の人物が持つ鍵は。


何の鍵なのか。


その下。


鍵札表示――満タン便・予備


ガランが息を吐く。


「予備鍵が向こう側にあったのか」


さらに。


本人照合情報


第二配送単位差出担当記録――一致

田村誠司救援便実行記録――一致

第一配送者音声記録識別――一致


候補一致率――百パーセント


第一配送者。


身体。


日本側配送所。


運転者仮眠室。


眠っている。


生命状態。


安定。


「いつから眠っているんです」


エレナが返答票を見る。


日本側の時刻。


誠司救援便実行後。


約四時間。


水車町側では。


何十日も。


いや。


もっと長い出来事が積み重なっている。


日本側では。


まだ。


数日。


第一配送者の身体は。


満タン便で誠司を送り出したあと。


日本側配送所へ入り。


仮眠室で眠ったまま。


「なぜ、こちらでは運転席に乗車中だったんでしょう」


ロウグが尋ねる。


管理人は、しばらく考えた。


「身体と運行責任が、別の場所にあったからでしょう」


身体。


日本側。


運行記録。


満タン便の運転席。


帰着受領。


未完了。


だから。


身体は休んでいても。


運行だけは終わっていなかった。


今日。


北方一号が受領し。


初めて。


運行が閉じた。


返答票には。


追加確認。


第一配送者と思われる人員は、現在も覚醒していません。


通常の呼びかけへの反応なし。

医療的緊急性――現時点では確認されず。


強制覚醒は行っていません。


「起こしていない」


北方一号の事故報告が。


日本側にも生きている。


起きないからといって。


急がない。


名前を照会しない。


無理に起こさない。


待つ。


第一配送者自身が失敗した手順を。


今度は。


第一配送者へ適用している。


最後に。


日本側帰着当番からの問い。


水車町側で人員受入可能な場合、救援予約を発行しますか。


なお、本人の生命状態が安定しているため、緊急転送の必要はありません。


覚醒を待ち、本人意思を確認してからの転送を推奨します。


誠司は。


すぐに答えなかった。


北方一号へ持っていく。


判断するのは。


救援予約の差出人本人。


*


返送受入所。


北方一号は。


日本側の返答票を最後まで聞いた。


第一配送者。


日本側配送所。


仮眠室。


眠っている。


生命状態安定。


緊急性なし。


本人意思確認不能。


日本側は。


起きるまで待つことを推奨。


「予約票へ署名しますか」


誠司は尋ねた。


今度は。


問いかけられる条件がそろっている。


どこにいるか。


状態。


受入先。


緊急性。


全部分かっている。


北方一号は。


青区画の保管箱を見た。


鍵は。


首元にある。


「署名します」


リアが彼女を見る。


「今すぐ転送するため?」


「いいえ」


北方一号は首を振った。


「迎えに来られる道を、先に作っておくため」


誠司が少しだけ目を細める。


北方一号は続けた。


「起きたら、本人に聞いてください」


帰るか。


水車町へ来るか。


日本側に残るか。


別の場所へ行くか。


「本人が水車町へ来ると言ったときだけ使います」


救援予約票を出す。


しかし。


発動条件を変える。


救援対象――第一配送者

回収地点――日本側配送所・運転者仮眠室

受入先――水車町運行者一時帰着所


緊急転送――禁止


発動条件――本人覚醒後、水車町への移動意思を確認


例外――生命危険発生時のみ緊急救援へ切替


「これなら」


北方一号が言う。


「起こさずに待てます」


待つだけではない。


道だけは先に準備する。


いつ本人が起きても。


移動したいと言えば。


そのとき便を出せる。


「受入側も準備しておきます」


サーラが言った。


人員区画。


寝台。


水。


医療確認。


プライバシーの仕切り。


第一配送者がどんな状態で来ても。


大勢で囲まない。


名前を求めない。


事故について。


すぐ謝罪や説明を求めない。


「到着後の最初の案内も、北方一号と同じです」


リアが確認する。


現在地。


安全。


急いで話さなくてよい。


水分と体調。


本人の希望。


「事故報告の本人ですよ」


ロウグが言った。


「到着した瞬間、聞きたいことが多いですね」


「だから手順にしておきます」


誠司は答えた。


知りたいことが多いときほど。


先に何を聞かないかを決める。


北方一号が。


救援予約票へ指を置く。


本人確認。


青黒い鍵。


差出人――北方一号


署名の代わりに。


本人認証。


さらに。


発動条件。


本人意思優先。


確認。


サーラ。


受入責任者。


確認。


リア。


医療受入。


確認。


誠司。


運行側。


確認。


四つそろう。


第一配送者救援予約――発行


始発照会口へ。


予約票を送る。


今回は。


人を今すぐ動かさない。


道だけを登録する。


回収地点――日本側配送所

受入地点――水車町運行者一時帰着所


状態――本人覚醒待ち


補給網の表示が変わった。


救援経路――確保

人員転送――待機


満タン便の燃料は。


増えなかった。


荷物はまだ動いていない。


それでいい。


準備だけで。


補給を得ようとしない。


第一配送者が。


自分で来ると選んだとき。


初めて便が動く。


*


夜。


日本側へ。


受入準備完了票を返す。


第一配送者と思われる人員へ


水車町側に受入先があります。


覚醒後、移動希望を本人へ確認してください。

水車町への移動を希望しない場合、転送しないでください。


急いで起こす必要はありません。


誠司は。


最後に一行だけ加えた。


こちらでは、あなたの帰着を受け取りました。


誰が読むか分からない。


第一配送者本人か。


日本側帰着当番か。


それでも。


帰ったという事実は。


すでに受領されている。


もう。


事故を報告したからといって。


帰る場所を失うことはない。


送信。


*


夜遅く。


配送帳面が開いた。


第一配送記録・帰着第一便

帰着を受け取られた瞬間、私は満タン便から降りた。


だが。

目を開けた場所は水車町ではなかった。


白い天井。

知らない灯り。

窓の外を走る、黒い道。


日本側配送所の仮眠室だった。


私は、長いあいだ水車町へ戻ろうとしていた。


それなのに。

身体だけは、とっくに始発側へ帰っていた。


帳面だけが。

運転席だけが。

約束だけが。

水車町へ残っていた。


誠司は。


その文を読む。


第一配送者は。


身体まで異世界で失ったわけではなかった。


帰着できなかったのは。


身体ではなく。


運行。


役目。


約束。


それらだった。


記録は続く。


北方一号が帰着を受け取れば。


私は、ようやく自分の身体へ戻れる。


そう思っていた。


一行。


空く。


だが、目を覚ました私は。


自分の名前を思い出せなかった。


誠司の手が止まる。


日本側からの返答では。


第一配送者は、まだ眠っている。


この記録は。


これから起きることなのか。


過去に一度起きたことなのか。


最後に。


現在の第一配送者救援予約が表示された。


第一配送者

身体所在――日本側配送所

生命状態――安定

覚醒状態――睡眠中


個人名――未登録


その下。


新しい項目。


覚醒時本人確認方法――未登録


氏名がない。


身分証もない。


顔の記録もない。


本人が目を覚まして。


「自分が第一配送者だ」と覚えていなければ。


日本側は。


その人物が本当に救援対象本人なのか。


意思確認できない。


さらに。


所持品照合――一件不足


日本側で見つかった所持品は。


満タン便の予備鍵だけではなかった。


本来。


もう一つ。


本人確認に使う品が登録されている。


未確認所持品――個人札


第一配送者は。


名前を始発線へ返したと音声で言っていた。


だが。


名前の代わりに自分を示す個人札を。


どこかへ残していた。


所在表示。


最終確認地点――水車町・第一配送者宛白糸内封。


誰にも開けられず。


二鍵保管箱に残っている。


北方一号が書いた。


第一配送者本人宛ての白い手紙。


その中に。


第一配送者の個人札が入っていた。

北方一号は、第一配送者の事故記録を残したまま、その「帰ってきた」という事実を正式に受領しました。


これにより第一配送者は、補給網上で満タン便から降車。


しかし身体は水車町には現れず、日本側配送所の運転者仮眠室で眠っていることが確認されています。


北方一号は救援予約を発行しましたが、緊急転送は行わず、第一配送者本人が目を覚まし、水車町への移動を希望した場合にのみ便を動かす条件としました。


ただし新たな問題があります。


第一配送者には名前がなく、覚醒後の本人確認方法も未登録。


本人を識別する「個人札」は、水車町で保管されている第一配送者宛ての白糸の手紙の中にあるようです。

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