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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
93/134

89話 大屋根

 意外とアエリエスタが金に関して身内? にはガメつかなかった。


 私はベルの扱いを、一人の戦士として見ていなかったことを少し恥じた。

 彼女は子供達とは違い、共に戦い、助け合う者と、改めて思った。

 命の恩人、じゃなくて、恩妖精だしな。


 それでもやはり、心配なんだが。


「ソニーがまだ戻って来てないな」

 子供達を猫屋に送ってったはずだ。

 アリエスタ「なー、さっさと行こうぜ? 組合に居なきゃそっちに来るだろ」


 解体所を出て大通りを南に向かう。

 街並みが少し変わり、様々な店がちらほらと増えて来た。


 しかし、出会う者、道行く人々が必ず私とベルを交互に見て驚くな。


 通りがかりのドワーフ「かっ、雷公様!? ……なんだ人違いか」

 ?


 ローブの者達「エルフ様、ごきげんよう」「こんにちはエルフ様」「エルフ様」

 マイケル神父と同じ、教会の者や、魔法使いもそうだ。


 冒険者達「よぅラーナ! 昨日はごちそうさん!」「ばーかレーナだって!」

「ルーラだろ?」

 アリエスタ「ルーナだよ!」


 唯一あまり驚かないのは、同じ冒険者ぐらいだな。

 というか前日に酒を奢ったので気軽に話しかけられる。

 そしてほぼ全員がガストンの知り合いだ。


「なぁ、あの雷と言ってたのは――」


 ベル「わぁ! おもしろいねー、あれは家具のお店でしょー、あの草ばっかは?」

 ビクター「うん、あれは魔除けや虫よけとか、大体家で使う燻し草の店だよ、教会のお香とかもかな?」


 ……ふむ、確かに、マイケル神父の香りがかすかにしているな。

 そういえばリゾットが投げて来た魔物の臭い袋は、あの店で手に入れたのだろうか?

 まだ生きてる草がこちらを向いて嗅ぐように上下している。

 

 ガストン「こっちは“職人地区”っつって、ま大体御覧の通り職人ばっかり住んでんのさ、ちなみにこの奥の地区が衛兵団詰め所や団長の屋敷とかだぜ、さ、大屋根に着いたぞ」


 到着したそこは、大きな建物だった。


 大屋根か、確かに、大きな屋根があるな。

 二階建てで、冒険者組合の吹き抜け? のように中央が空洞になっていて天井はガラスが格子の間に張り巡らされて、その独特な屋根から明りが陽が射しこんでいる。


 袋小路? のような構造のその脇には衛兵が立っている。

 背後の柱の上には、羽の生えた小鬼みたいな魔物の彫刻、が乗っていて、こちらを睨んできた。


 入ると、中庭のような石床の周りを囲むようにして、様々な店が並んでいる。

 料理に使う鍋、食器、編んだ籠等、真ん中の奥が道具屋か?

 上の階は違うようだな、住居だろうか。


 人が多く行き交い賑やかだ。店の者はほぼ、獣人の商人だな。

「いらはいいらはい、お安くしまっせー」「ただいま安売り中でっせ!」

「ガストンの旦那ー、なんか買うてってぇな~」

「あっ、エルフ様やで! こっちの品は冒険に最適でっせー!」

「早うせんと売り切れまっせ―、今ならもう一個つけてサービスやでぇ」


 ベル「食べ物屋さんがないよ?」

 ガストン「だから職人地区なんだって、武器屋はこっちだぞルーナ」


 奥の角に武器防具が山のように並んでいた。

 あ、あの入口に立てかけてある槍斧は、ゴブリン王のものじゃないか?

 ケンウッドが売りさばいたものがここに行きつくわけか。


 中に入ると、左側に様々な武器が並んでいた。

 右は全て防具か、盾や鎧が立てかけてあった。

 冒険者らしき何人かが武器と値札を見ている。

 一般の街人は見かけない。


 広さは組合の半分程度だろうか。

 棚が幾つも壁のように仕切ってあり、たくさんの品が並べられていた。

 壁も一面、様々な武器防具が飾られている。

 ガラスに覆われた見事な大剣もある、があれは多分、ただの飾りだ。


 傍には天井から大きな布が垂れている。旗というやつだろうか。

 縫ってある炎のような模様がまるで本当の火みたいに揺れている。

 そして城が燃え崩れている絵柄だ。


 ビクター「おおっ、なんか品揃えが増えてる」

 ガストン「こりゃあ、俺達が持ち帰ったゴブリンのもんだろうな、オークの武器は見当たらねぇな……」


 アリエスタ「俺には全然関係ねぇ店だな、高けぇし、前に一回短剣とか見に来たっきりだぜ」

 ベル「なんかぴかぴかしてるね! 鳥が来るよ!」

 アリエスタ「来るかっ、屋根があんだろっ」


「素晴らしいところだ」

 ずっといられるなここは。


 ガストンは大剣が並ぶ棚を見ている。

 ビクターは盾か、背中にかけている自前の中型角盾とは違う、腕に取り付ける小型の丸盾を調べている。

 アリエスタはあらゆる値札に目を走らせて、驚いたり、落ち込んだり、いろんな表情をしているな。


 進むと、奥でさっきからのかなづちを叩く音がより聞こえてくる。

「ええ~、そんなにするんですか?」

「ボソボソ……」

「はい? 嫌なら自分でやれってんですか? そんなぁ~」


 誰かと話してるな、客か。


「あら、いらっしゃい――なんだガストンかい、ビクター君に……!? エルフ!? フェアリー!?」

 棚の向こうからレイアと同じくらいの、牛らしき獣人女が現れた。


 受付のような囲いの中に座って、妙な短剣を磨いていた。

 驚いて鼻の孔が広がって固まっている。


「こんにちは、私はルーナだ」

 ベル「こんちはー!」


 ビクター「はは、こんにちは、イオさん」

 ガストン「ようイオさん、来たぜ」

 アリエスタ「俺は無視かよ!」


 イオ「来たも何もガストン、嬢ちゃんかい? 噂のエルフの女戦士ってのは!? まだ子供じゃないのかい? ソニーちゃんより幼く見えるし、大丈夫かいあんた? 重くないのかい“そんなに装備”して?」


 む、そう言われれば、鏡で自分を見た時から感じてはいたが、その通りかもしれない。


 そして私は今小剣、中剣、鉄槍と、大荷物に見えるからな。鞄に矢筒も。

 全然軽いし、屋根にも跳べるんだが。


「……大丈夫だ、問題ない」


「ええ? ちょっとガストンっ! この子、ホントに冒険者なのかい? それと、なんでこんな街中にフェアリーの子がいるんだい? この子迷子かなんかかい?」

 ベル「えへへー」

「あと、こっちの小っちゃい坊やはどっからついて来たんだい、坊や、魔法使いごっこかい?」

 アリエスタ「俺は大人だよっ! ハーフリングなの! あと本物の魔術士だっての!」


 ガストン「いや~、やっぱりそう見えるか……」


「よくわからんがこれを」

 とりあえず首にかけた冒険者認識票を出して見せた。

 ガストン「イオさん、俺が保証するぜ、こいつはちゃんとした? 冒険者だよ」

 ビクター「疑問形……」


 イオ「ふうん? あんたが言うならそういうことにしとこうかい?」

 

 ベル「迷子じゃないよ? おいしいものを食べに来たのー!」

 イオ「あらあら、ここは金物しか置いてないよ? これ食べるかね?」

「わーいっ!」

 イオとやらが受付に置いてあった皿に入っていた種をベルに食べさせている。


 む、奥から誰か出て来た。


 金づちの音は先程から貧相な音に代わり、鳴り続けているが。


 ???「……騒々しいな……エルフだと?」

 大柄な牛の獣人の男が現れた。


 古びて使い込んだ前掛けをしている。

 組合長のロムガルのような筋骨隆々とした体躯たいく? をしている。

 元冒険者だろうか。


 彼が店主か。

 ギロリとこちらを見回し、ベルと私を二度見して鋭い目つきを少し広げている。


「こんにちは、私はルーナだ、武器の修理を頼みたい」

 ベル「んぐんぐ、ふんふひふぁー!」

 イオ「これっ! 食べながらしゃべるんじゃないよ?」


 ビクター「こ、こんにちは、ミナトスさん」

 ガストン「ようおやっさん、こっちも“研ぎ”頼むわ」


 彼は大剣を、ビクターは長剣を取り出す。


 アリエスタ「……あれ? なぁ牛のおっさん! あんた(魔法)協会に居たよな?」

 ガストン「なんだ、知り合いか?」

「いや? 師匠と話してんの見かけただけだけど?」


 ビクター「アリエスタさん、ミナトスさんも魔法協会の人ですよ、ちなみに冒険者なんですよ」

 ふむ? 魔法使いか? 彼には魔力が確かにあるしな。


「なんだ、全然先輩じゃんかよ」


 イオ「あれ? あんたもしかしてセレナール様の噂のお弟子さんかね? ちっこいのがいるって話は聞いてるよ?」

「そうだよっ! なんだよちっこいって!」


 ミナトス「……見せろ」

 ?


 ガストン「ああ、ルーナ、おやっさんは無口だからな、修理する剣の破片出せよ」

 おお。

 よし、見せよう。

 鞄から破片を包んだ布巻きを取り出して受付に置き、布を開いた。

「これだ」


 イオ「あらら、バラバラじゃないのさ? 買い換えた方がいいんじゃないのかい?」

 ベル「んぐむぐ……何これ?」

 アリエスタ「なんだこりゃ?」


 ガストン「昨日の晩飯ん時に砕けた剣だよ(嬢ちゃんは見てただろうに)」

 ビクター「やっぱ買い替えなのかなぁ」


 アリエスタ「は? 晩飯食ってて何で砕けんだよ?」


 ガストン「それが……」

 彼に説明している。



 ミナトス「……」

 彼はゴツゴツの太く汚れた指で破片をつまみ、その手に比べとても小さく見える極小の槌を取り出し破片を叩いた。

 チンチン。


 ベル「チンチーン」

 ビクター「ベルちゃんっ、しい!」

 イオ「ははは! そう聞こえちまったもんはしょうがないさ」


 ミナトス「……何とった?」

「? ああ、魔法剣だ」


「……帝国の炎か」

「うむ、治るか?」

 焦げ付いた破片を見たからわかったのだろうか。

 もしくは、魔法剣自体が炎と同義どうぎ? かもしれんが。


 アリエスタ「なんでわかるんだよ」

 ビクター「職人だからかな?」


 ガストン「……てわけなのよ」


 イオ「ええ? 帝国の騎士もどきと戦ったってのかい? 滞在してる連中の……問題になったのかい?」

 ガストン「イオさん、騎士もどきって……外で言うなよ?」

 ?


 アリエスタ「お前よく生きてんな!? あいつら最強最悪なんだぞ? やったのか?」

 あれで最強?

「負けた。ベルが助けてくれた」

「まじかよっ」


 ビクター「うーん、そうかなぁ、続けてたらきっと倒してたのに……」


 ガストン「剣が折れちまったからな」

 イオ「あの連中にはそんなの通じないさね」


 アリエスタの顔が目まぐるしく変わるな、驚いて、期待に満ちた後、がっかりされた。

「お前で無理とか、やっぱ連中ばけもん揃いかよ……攻められたら滅ぶぜこの国」


 ガストン「いや、結構いい線までいったんだぜ?」

 ビクター「はい、彼がお店に黙って勝手に着てた、変なからくりみたいな鎧が動かなくなったんです」


 アリエスタ「からくり鎧だぁ? 魔道具じゃなくてか?」

 ガストン「似た様なもんだろ」


 ベル「あたしが倒したー!」

「おお! やるじゃねえか!」

 ビクター「アリエスタさんが普通に信じた!?」


 ガストン「だけどその後、一緒にいた帝国の火使いに全員殺されかけたけどな、師匠――団長が乗り込んで来て納めてくれたってわけだよ」

 イオ「ちょっと! 偉い大事じゃないかい!? 商人宿で酔っ払いの喧嘩があったってのは、それかい?」

 ベル「種ちょーだい」


 ミナトス「……」

 彼は腕を組んで、研ぎ依頼の二つの武器を眺め、私達を眺め、イオが種を食べさせて浮かんでいるベルを二度見して眺め、その後、剣の破片と私の竜眼をその黒い瞳で見つめた。


 ガストン「あ、一応おやっさんの説明するが、鍛冶は鍛冶でも、剣鍛冶専門でよ、団長の剣も手入れしてて腕は確かだぜ」

 なに?

 あれは相当な剣だぞ。


「フンッ……俺はまだ道半ばの未熟者だ」

 おお、こころざしが高いな。

 ガストン「そんなことないっておやっさん、皆あんたの腕を認めてんだよ」

 ビクター「そうですそうです!」


 ブシューッ!

 うお、ミナトスの鼻から熱風の湯気が出たぞ。

 彼の魔力が渦巻いているな、これは、火の魔法か?


 浮かべていた水球が飛び散って、蒸発、してしまった。


 ビクター「熱っ!」

 ガストン「あっちい! 悪い! わかったっ、わかったって!」

 アリエスタ「うおおっ、何だ!? 熱っちいこの湯気! やめろおっさん!」


 イオ「あれあれ、照れてんのかねこの人は?」

 私は特に熱くないな。イオもか。


 ベル「きゃー逃げろー! きゃははは」 彼女は天井まで飛んで逃げた。


 ミナトス「……槍を見せろ」

 ?

 彼はしばらく私を眺めた後、背に取り付けた鉄槍を見てそう言った。

 わかった。

 スヒュンッ。

 鉄槍を抜き放つや否や、高速で降り回して見せた。

 ブゥゥゥゥゥンンッ!


 ビクター「うわっ!」

 アリエスタ「っぶねえな! ローブに当たるっつうの!」

 ベル「ぶうううーーーん!」


 ガストン「……ルーナ、多分そういう意味じゃなくて、普通に見せるだけでいいと思うぞ」

 イオ「これっ、振り回すんじゃないよここで! 裏でやんな!」

「む?」


 ミナトス「フム……来い」


 ???「ひ~、あれ? たくさんお客さんが、ぼ、僕は店の人じゃないですよ? ってうぇ!? えええエルフ!? かっ、雷公!?」

 ミナトス「人違いだ」

 ?


 奥は工房、のようだ。熱い。

 アリエスタ「あっちいなここ!?」


 イオの座る受付のそばの通路から奥に行くと、店より少し広めの作業部屋になっていた。向こう側から裏に出られるようで、窓から庭が見える。


 右手の扉は立地、的に道具屋に繋がっている気がする。

 向こうで道具屋の者らしき接客、をする声がうっすらと聞こえている。


 左手は煌々と赤熱している炉と、雑多とした作業机や道具や棚がある。

 解体屋を思い出すな。


 あとは、新しい大きめの鋼鉄の盾が数枚、並んで立てかけてあった。

 作ったばかりだろうか。


 ここは仕事をする者の空間だ。


 さっきから槌で叩く音がしていたのは、彼がひしゃげた鎧を叩いて治している作業の音だった。

 見たことのある鎧だな。

 黒ずんだ少しぼろな鎧のひしゃげた箇所を叩き治していたようだ。

 なぜ自分で修理してるのだろうか?


 手を止めてこちらを振り向き驚いている彼は獣人、いや鳥人のようだった。


 なんの鳥かわからないが、毛並みが青い。

 髪が特徴的で、トサカのある鳥のような髪型になっていて、口元はくちばしのように少し尖っていた。


 街で見かけた別の鳥人と違い、翼はない種族のようだ。

 そして足腰がずいぶんと強そうだな。

 下履きから先の足元は強靭な爪があり、靴いらずなようだ。


 室内入り口横の壁には、蛙を倒した時に使わせてもらったモーニングスターが立てかけてあった。


 ふむ、どうやら彼があの鎧の冒険者なようだ。

「こんにちは、私はルーナだ。大蛙の時は良く戦い娘達を守ったな」

 ???「え? え!? あっ、どど、どうもです、僕はアレグサンタって言いますっ」


 ビクター「え? あ! あの時の冒険者!?」

 ガストン「おー、よくわかったなルーナ? あ、このモーニングスターと、そのボロ鎧でか……しかし、随分若いな坊主、ビクターより下じゃないか?」

 アリエスタ「お前鳥人族か、珍しいな? てゆうか何で自分で治してんの?」


 アレグサンタ「う、うぇ? い、いや手持ちがちょっとなくて……」

「蛙の時の、娘達の護衛報酬じゃ足りないのか」


「ああ、あれ、ご飯奢ってもらう約束ってだけだったから……」

 アリエスタ「なんだそりゃ! ひでえなあいつら!


「い、いやだって、ちょっと外に出て草を採取するだけだったし、安全な場所だったし、散歩みたいなものだったんですよ? ……」

 ああ、大蛙が出るのはもっと奥だったな、確か。


 アリエスタ「ふーん、なぁその鎧、素人がいじったらもっとボロになんじゃねーの?」

 ガストン「着れればいいんだよ、新人らしくていいじゃねーの」

 アレグサンタ「あはは、あ、皆さんも何か修理依頼ですか?」


 ミナトス「……槍を置け」


 彼は道具置き場らしき場所から何やら箱を持って来て、作業場らしき椅子に座り、箱を開けながら脇にある卓を、指で叩いた。


 箱からなにやら貴重品らしき、ごつごつとした眼鏡を取り出す。

 片方だけの眼鏡のようだな。

 だがガラス面が何重にも重ねてあって、筒状に長い。


 恐らく魔道具だ。

 私は槍を置いて、向かい合うように傍の樽に腰掛けた。


 アリエスタも真似をして工房、の壁ぎわから勝手に持ってきた樽に乗り、ミナトスが片眼鏡で槍を眺めているところに参加するかのように見始めた。


 アレグサンタ「え? な、何をしてるんですか?」

 ビクター「うう、熱いですねここ……」


 ガストン「あー、多分、鑑定じゃねえかな?」

 二人の若者「「鑑定?」」

 ふむ?


 ベルはいないな、イオから食べ物をもらってるのかもしれない。

 イオは多分、ここが熱いのは知ってるんだろう。


 私は別に熱くはなく、暖かい。


 アリエスタ「おっさんなんかわかんのかよ? それ鑑定の魔道具だよな? ここの魔術式の組み合わせって、明らかに“吸引”だよな? 何を吸うわけ?」

 なに?


 ああ、この文字の、組み合わせを魔術式というのか。

 看板や依頼書にあるような普通の文字ではないようだな。

 

 ミナトス「……血だ」


 アリエスタ「げっ」

 ビクター「え!?」

 ガストン「血だって?」

 アレグサンタ「うえ? え? 何て? 何で??」


 ミナトス「……見てろ」

 彼はおもむろに、卓の道具箱から鋭そうなナイフを取り出し、私の手を掴み、指の腹にナイフの刃を当て、こちらを見た。

 アリエスタ「おいっ! いーのかよ?」


 私は一瞬迷ったが、素直に従って頷いた。

 この距離なら何があってもぶっ飛ばせるからな。


 良い腕だ。

 指が少しだけ、絶妙な深さで斬られ、血が滲み、一滴だけ垂れた。

 ポタッ。


 下の、槍の、魔術式が刻まれた箇所に。


 む、垂れた箇所から、槍の魔力が反応した。

 これは、制約の魔術の時のような糸か? 私と槍がその魔力の線でうっすらと繋がった感じがする。


 ミナトス「……唱えろ、“コーマ”、と」


 カンッ。

 彼は槍を持って私達と離れ、壁際まで行って振り向き槍を打ち立ててそう言った。


 アリエスタ「え? あんだって?」

 離れた為か、炉の燻る炎の音で聞き辛かったようだな。


 魔力の線は伸びに伸びて、向こうのミナトスの持つ槍と繋がっているな。


「……コーマ」

 なんとなくどうなるかわかる、手を前にして、呪文を唱えた。

 途端に、魔力が巡り、線が強くなって槍に向かう。

 スヒュウンッ。


 バシッ!

 アリエスタ「うわあっと!!」

 皆「「うわ!?」」


 槍が突然ミナトスの手から離れ、勝手に動き、私の方に向かって飛んで来た。

 ミナトスと私の線上に座っていたアリエスタの頭上すれすれに、ぶつかりかけたので手前に咄嗟に動いてつかみ取った。


 ビクター「おお!?」

 アレグサンタ「うええ!?」

 ガストン「おー、すげえ。これが吸引か? 便利だなー」

 アリエスタ「おいおっさん! ちゃんと注意しろよ、ここに座ってると危ないぞって! ……そんでこれ幾らで売れんだ?」


「売らんっ」

 ビクター「おおっ、ルーナさんがつっこんだ!?」


 ミナトス「……溶かして剣と混ぜ、術式を刻み直す、剣は少し短くなるぞ」

 皆「「え?」」


 彼は槍の傍まで来て、持っていた剣の破片と、槍を交互に例の小さな槌で叩いてからそれだけ言った。

 ふむ、全く同じ音だな。


 槍を失い、剣を生まれ変わらせるか……・。


「それで頼む、次は折らないようにする」


 ミナトス「グッフッフッフ……剣はいつか折れるものだ」


 ビクターがぎょっとしたな。

 この牛獣人が笑うことは滅多にないのかもしれん。


「よい槍だった、そして、よい剣だった」

 剣の破片と槍に触れそう言って、槍をミナトスに引き渡した。


 彼は言葉が少ないが、気持ちは感じ取っている。


 もう言うことはない。


 ミナトス「だが……更に強くなる」


 読んでくださりありがとうございます。

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