88話 裏切り
子供達をソニーが送ってくれ、他の皆でモードに言われ重要な話を事務所で話すことになった。
前も入った組合長室に入る。
お茶はいらないと受付に彼女が言っていた。
モード「ふふふ、さて、邪魔者はいませんネ、重要な情報を知ってしまったあなた方の冒険は、ここまでですネ!」
ベル「うっそー!?」
ビクター「えええ!?」
ガストン「あちゃ~、ちょっと出来上がっちゃったか?」
ケンウッド「ははは、いやはや……」
アリエスタ「はあ? 何言ってんだモードさん」
「? ロムガルはいないのか?」
また座ってなかった。
モード「……こほん、三者三様の反応ですネ。さて、おふざけはやめましょうネ。皆さんくつろいでください。あと、あれぐらいじゃ酔いませんよ。組長は団長との“会合”で留守中です」
かいごう、会ってるんだなとにかく。
「さてガストンさん、迷宮門のことは知ってますね? 先程は濁しましたが、実はルーナさんが落っこちた下水道の水底に、休眠状態の門が発見されたのですネ」
ベル「え? 何だったの今の?」
「何でもないみたいだ」
ちょっとびっくりしたな。
アリエスタ「冗談だよ冗談、真に受けんなっての」
一瞬、敵だと思ったが、声の感じでふざけてるのがすぐに分かった。
酒の匂いもしていたし。
酔うと気が緩むのは散々あちこちで見ているからな。
緩むと言うか、酒瓶を投げて喧嘩を始める。
「……包む……渦巻く……護りを……」
モードはそう言いながら念入りに風の魔法を周囲にかけた。
卓に置いてある書類がカサカサと揺れる。
ガストン「……はあああ!? 迷宮!?」
思い切り驚いているな、多分迷宮の話で一番驚いてるのが彼だ。
ベルとガストンの大声は魔法で阻まれ、外には届いていないようだ。
「目撃者は今のところルーナさんとアリエスタさん、ゼラ副長様ですネ」
口を港に積んでいた魚みたいにパクパクしてるガストンとは逆に、モードは落ち着いて淡々と喋る。
ビクターとっくに知ってるはずだが迷宮と言う言葉に少し興奮している。
ケンウッドは道中で聞いていたので驚いてはいないが、うんうんと頷いている。
ガストン「まじか、まじか……え? ゼラの奴も見たんですか? てゆうかまだ入ってないよなルーナ!? “あれはやばい”から駄目だぞ!」
む?
駄目と言われた。
アリエスタ「おっさんおっさん落ち着け、休眠状態だって言ってんだろ。ちなみに俺は知らずに入ろうとしてゼラのおっさんに止められたけどね」
ビクター「だめじゃないですかっ」
光る文字の事を話そうとしたら、モードが話を変えた。
モード「ガストンさん落ち着いて下さいネ、今は迷宮なんてどうでもいいのですネ。ルーナさん、誰が裏切者か見当がついてるのですかネ? ……ギャレスですか?」
アリエスタ「どうでもよくねえから! って、はあ? 裏切り者だぁ?」
ケンウッド「ええ?」
ビクター「!?」
モードの空気が変わったな、表情、眼鏡の奥の瞳が、一瞬殺気を帯びたものになったが、すぐ消えた。
眼が鋭いのはそのままだが。
ビクターは良く気が付いたな。
ガストンはそれを感じ取って落ち着きを取り戻した。
ケンウッドは体の毛がバァッと逆立ったぞ。
ベルは私の皮鎧のポケットに入りうとうとしている。
ガストン「え、どうでもいいって……何だルーナ? 裏切者って?」
ケンウッド「いやはや……」
ギャレス、じゃなく、私はフィンから聞いたマイケル神父がリゾットと共にいた話をした。
モードは内緒で聞いたそれを聞きつけていたようだしな。
ガストンには迷宮門は休眠状態らしく入れなかったとビクターが説明してくれた。
アリエスタ「はあ? 髭じゃなくてか!?」
モード「草の匂いですか?」
この部屋には花が飾られてて、それを見て言った。
壁にぶら下げて枯れているが、よい匂いが漂っている。
多分花瓶に入ってる咲いてるのとは違う、ああいう乾かしたものなんだと思う。
ケンウッド「ああ……水教会の祭祀、儀式に使用される“お香”のことでしょうかね? ルーナさん、水教会の者なら皆マイケル神父のような匂いを着ている教会の長衣から嗅ぎとれるはずです」
ふむ。
香っていたな確かに。
アリエスタ「……マジかよ、師匠と悪口言い合ってても、なんだかんだ仲は良いと思ってたぜ?」
嫌いなようだったが彼も衝撃を受けてるな。
ガストン「それが本当なら、じゃあ、下水道をリゾット達が使ってたのは、マイケル神父が用意したってことか? 教会の管理下だもんな……もしそうならよ? ロッカ湖の浄水場も怪しいんじゃねえのか」
ビクター「ええ、神父様が? ソニーが信じるかなぁ……あの、証拠とかはあるんですか?」
モード「ビクターさんの言う通りですネ、フィン君には悪いですが、現状怪しいってだけです。子供と神父じゃ立場も違いますしネ。私はギャレス隊長が怪しいと思ってたんですけどネ」
アリエスタ「チッ、なんだよ、やっぱ髭だろ?」
ケンウッド「もしそうだとしても、動機は何でしょうね?」
どうき?
モード「はい、それが謎ですネ」
ガストン「街で偉い立場のよ、不満も何もないはずの神父が何でこの街を裏切るのか、理由が見当たらないってことさ」
アリエスタ「借金でもあんじゃねえの?」
「黒衣の男にマイケルは従ってるのか?」
一同「「マイケル!?」」
アリエスタ「あぁ、じゃあ脅されてるとかか? 魔族なんだっけ? 俺そいつまだ見てねえんだよな、全身魔道具で固めてて、剣も弾くんだって?」
うむ。
ビクター「あの目で見られた時、僕生きた心地がしませんでしたよ」
ガストン「ああ、そいつの企んでる悪事に巻き込まれてるってことか?」
モード「そうですネ、脅しの線はありそうですネ、神父様はとてもこの街や湖を愛してらっしゃいますから、否応なく従っている可能性は高いですネ」
いやおうなく。
脅されてる?
アリエスタ「ええ? 魔法やら祈りの代金ばっか毟り取るクセに?」
ビクター「あわわ、信者に聞かれたらマズいですよアリエスタさん」
モード「あら、その収益で、水魔法の巻物の作成や、治療薬等の素材の調達をしてるのですがネ? あなたも在籍する魔法協会と共同で、世の為人の為活動してるはずですよ?」
ケンウッド「ははは、私の部下の、ダロムの治療の際は大変お世話になりましたよ、教会の施術なしでは、満足に働けなくなっていたかもしれません」
アリエスタ「ぐぬぬ」
ふむ、そんな水教会の神父が敵の一味らしいのか。
ベル「あ~、あのでっかいおっちゃんのこと? フィン達も懐いてたね? ホントに悪い人なのかな~?」
「それと、やっぱり髭も怪しいんだが」
モード「髭ですか?」
ガストン「ああ、ギャレス隊長のことですね」
アリエスタ「いや、髭野郎も神父にこびへつらってたし、唯一神父の言うことだけは聞いてたから、一味だろうなやっぱ」
ビクター「あ~」
ガストン「ギャレス隊長ね~、森のアジトでも投降した盗賊を皆殺しとか、様子がおかしかったな。それはゼラも怪しんでましたね」
えーと、そうだ。
髭が独り言をぼそっと言っていたのを思い出した。
「……確か、濃縮毒の威力がすごいと喜んでいる感じで一人で呟いていたのを聞いた」
ガストン「いい耳してるよなルーナは」
モード「あの強力な毒の事ですかネ? ふむ」
アリエスタ「ふーん、濃縮毒ねぇ、リゾットの奴が猫達を猫質にしてた時に自慢してたやつな? あれ? なんでギャレスが知ってんだよそれを? そん時に俺ら聞いたんだよな?」
「ああ」
それを言いたかったんだ。
皆「「あ!」」
ガストン「……仲間だから?」
ビクター「ええっ、衛兵団の隊長ですよ!?」
ケンウッド「成程、それは……」
モード「ふむ……彼は“闇商人”と繋がりがあるのではないかという情報を知っています。これは他言無用ですからネ?」
ケンウッド「!」
闇商人? 呪術でも使うのか?
アリエスタ「怖っ、睨まなくても、言うかよ!」
ビクター「闇商人ですか?」
ガストン「違法な、例えば盗品とか暗殺用の強い毒薬とかを扱ってる連中だな、まっとうにやってりゃ関わることはないぜ」。
モード「連中と取引した場合、組合からは追放になりますのであしからず」
アリエスタ「うーわっ、聞いといてよかったぜ」
ケンウッド「彼らは、許されない掟破りの、我々商人の汚点です!」
む、彼が嫌悪感、を剥き出しにするのを始めて見た。
商人には掟とかがあるのか。
ガストン「リゾットは闇商人からその濃縮毒を入手したのかね?」
いや、自分で作ったらしいぞ? 潰したが。
崖のやつから酸、街の地下で毒だな。
他にも拠点があれば、そこもか?
アリエスタ「あー、ギャレスがそっち界隈に詳しいって線だっけ? いや、濃縮毒はリゾットのやつの手作りですよ? この名前を知ってんのは、ベラベラしゃべったその馬鹿とぉ、聞いてた俺ら二人と、あ、あとチビ達。手下共はおっ死んだし」
ガストン「……闇商人に売っていたとしたら、連中もか?」
ケンウッド「そうですね、関りがあるというなら、濃縮毒と言う代物を知っているでしょう」
「盗賊は、奴が逃げた本拠地にまだいるだろう」
ガストン「なぁ、裏切者だとしたらマイケル神父も知ってるってことか?」
アリエスタ「でもあの神父さんさぁ、結構解毒手伝ってくれたし、知らなかったっぽいけどね?」
モード「彼らの仲間であれば知っていると……十分怪しいですネ、ギャレス隊長も、闇商人の最新の販売リストが欲しいですネ」
りすと。ええと、目録? とかか。
あ、奴が作ったものがまだあったな。
「モード、リゾットは強力な酸の入った特殊な弾を撃ち出す弩を使っていた」
「頭目の使用する新たな“機械銃”ですか、そして、濃縮酸、ですかネ。貴重な情報をありがとうございますルーナさん」
機械銃というのか。
ガストン「そのリゾットって盗賊、妙に多彩だよな、そりゃルーナから何度も逃げ切るわけだ」
「奴は罠がとてもうまいぞ、気を付けろガストン」
「おお、助かるぜその情報」
ビクター「はい!」
アリエスタ「なぁお前、下水で片っ端から引っかかってぶっ壊して進んでなかったか?」
一同「「……」」
しかし、ギャレスも神父も、何だか怪しいだけな状態だな。
ぶん殴って捕まえるのは、だめなのだろうな。
フィンが見た時に、私もそこにいればよかった。
証拠、というものが必要なのだろうな。
モード「ふむ、怪しいだけで終わってますネ。うちの部下でも付けて、監視しますかネ……ありがとうございました、引き続きよろしくお願いしますネ」
アリエスタ「なんだそりゃ、俺らは調査員か! 情報料くれよ」
ビクター「えええ!?」
ケンウッド「ははは、アリエスタさんは“物怖じ”しませんね」
「情報量? 拠点の盗品の、分配金、じゃだめなのか?」
アリエスタ「駄目だね! 足りねぇ足りねぇ、情報ってのは重要な稼ぎの一つなんだよっ」
ガストン「まぁ、言ってることは間違ってねえな」
彼は面白そうに腕を組んでふかふかの長椅子にもたれた。
モード「ふふふ、勿論ですよ、はいどうぞ」
懐から布の小袋を出して置いた。
音からして硬貨だな。
どうやら用意してあったようだ。
アリエスタ「うっひょー! さんきゅうモードさん!」
山分けだかんな、と半分くれた。
私はこれをまた半分にしてベルにやろうと思う、最後の最後で助けてくれたからな。
ベルは涎を垂らしてポケットから半分出て寝てしまった。
モード「後は、迷宮門の発見も報酬をお出ししたいのですが、まだちゃんとした調査もしてませんので楽しみにしてお待ちくださいネ。預かっている“割れ透明魔石”や例の“機械”や、大羽蛇もまだ調査ちゅうですしネ」
アリエスタ「あそうだっ、地下で思い出したけど下水蛸の素材ありますよ」
モード「ええ? あれが居たんですか? やはり魔物がいましたかネ、解体所で捌いてもらってくださいネ、ここに出しちゃダメですからネ! 話しは以上です、出てもらって構わないです、大変ご苦労様でした」
モードはあの蛸が苦手なようだな。
追い出された。
「なんだよっ……くんくん、別に俺ら下水臭くねぇよな?」
ああ、だが水の匂いは僅かにしてる。
装具や人、周囲のそれよりずっと弱いがな。
あの木の板の“駒”、前とは別の場所に動いているな。
ロムガルとモードが遊んでるんだろうか。
事務所を出て、受付内から、組合の広間に出た。
ケンウッド「いやはや、何故か私も同席してしまいましたが、どうやらこの街“も”不穏なことになってるようですね」
ふむ?
ガストン「ケンウッドさん、このあと店に行くんだけど、一緒にどうですか?」
「ああ、大屋根ですか? ふふふ、私はいない方がよいでしょう。買物を是非楽しんで来てくださいね。それではみなさん、私は商人宿に戻ります、汝の道が照らされんことを」
「ああ、またな」
彼とはまたすぐ会うことになりそうだ。
大屋根?
ケンウッドと別れ、受付脇から解体所に行き、蛸の素材と魔石も、全て売っ払った。
グンター「ぐわはは! おいおい、早速朝っぱらから仕事してきたのかぃ? モノはなんでぃ? 随分大きな、下水蛸の素材だない!」
ベル「ふにゃ!? なに?」
解体所の親父の大声に、ベルが昼寝から飛び起きた。
ガストン「ようおやっさん」
グンターの背後の吊らされたオークの肉が順調、に減っているな。
隣には巨大な芋虫の死骸が置いてある。
確かにベルにしてみれば山のような幼虫だ。
アリエスタ「うるせーなー、早く買い取ってくれよ、早く!」
バンバン受付を叩いて急かしているな。
昨日と態度が違って大きいな、握力が半端ないとか言って逃げ回ってたはずだが。
「おぃ小僧っ! ガストン達と組んだのかい!? ちゃんと仲良くしてっか? 飯食ったかい?」
「あしまった、痛ってててて! 食ってる食ってるから! 離せってぇ!」
ベル「グンターだー!」
「おう、ベル坊! 元気かい!」
「うん! お腹いっぱいだよー!」
「がっはっはっ! そりゃあいい!」
ビクター「ベル坊……」
「世話になった」
蛸の素材は特にガストンも何も言わないし、金に換える。
ここの冷気が気持ち言い様で呆けていたしな。
グンター「おぅ! また死骸持って来いよお前ら!」
アリエスタ「おう! じゃんっじゃん稼ぐぜー!」
ガストン「うん? ずいぶんやる気だなアリエスタは」
ビクター「あ、それがセレナール様から……」
彼はガストンに、師匠と弟子のやり取りを説明している。
ガストンは今後冒険者として組むことになるかもしれない彼を歓迎した。
蛸を買い取ってもらい、代金を受け取って私とアリエスタで分けた。
素材は彼の言う通り、牙、触手、それに皮も売れた。
ぬめりも売れて、グンターの部下が瓶に入れていたので、使い道があるのだろう。
ちなみに全て食用ではない、食べたら腹を壊すそうだ。
ベル「なーんだ」
アリエスタ「代わりに色々作れんだよ薬を」
ふむ。
ビクター「守護隊長さんの持ってた袋とか、便利だけど、ああいうのって買えばいいかな……」
呟いてる彼の言う通りかもしれない。
こっちから素材を持って行って加工を頼むことはないか。
もらった分け前を更に半分にしてそれをベルにと、彼女に話していたら、アリエスタから待ったがかかった。
アリエスタ「? おいっルーナっ、ベルにも分けんなら、ちょっと寄こせよその金! きっちり三等分すんぞ! 早く言えよそういうの! さっきの情報量もだぞ!」
む、そうか? 勝手に三頭分は嫌がると思い込んでいたな。
ガストン「ほぅ、ちゃっかりしてんなお前さん」
アリエスタ「金は嘘つかねえんだよ」
ビクター「おおっ、名言だ!」
アリエスタ「ベルもちゃんと言えよ? 取り分よこせって」
ベル「? そうなの?」
「そうだよっ! そんでうまいもんたくさん買うんだよっ」
「うん!」
「すまんベル、ありがとう、アリエスタ」
「水臭せぇな! いーんだよそんなの」
ビクターは勉強になると、頷いている。
ガストンの隻眼が優しい目、まなざし? でそれらを見ていた。
アリエスタ「こいつの怪力は役に立つからな、更に稼ぎが増えるぜ、くっくっくっ」
ビクター「うわぁ……」
ベル「わきゃー一杯になったね! あんがとアリ! ねぇ出店に行こルーナ!」
アリエスタ「おいっ、武器屋に行くんじゃねーの!?」
「そうだ。ただ、道具屋じゃなかったか?」
ガストン「ああ、全部一緒にあるんだよ」
?
読んでくださりありがとうございます。




