87話 昼食
一同「「わぁー!」」
ガストン「……あれ? なぁ、俺の分は?」
アリエスタ「頼んでねぇじゃん」
「……親父さぁーん、軽めの野菜汁ひとつー! 肉団子入りで!」
水だけ飲むガストン以外は昼食に取り掛かった。
ミウ「もうっ、がすとん、あーん」
「ぱくっ、~~おいちいっ、ありがとねぇ? おいちぃでしゅねぇミウちゃん!」
本当にこいつはガストンか?
何だ今の。
わかった。
ミウが弱点なんだな? さっきも私を守ってくれた感じでこの子が彼に強く言ったら“くらっていた”しな。
ビクターのガストンを見る顔がさっきから少しがっかりしてるのがおもしろいな。
「むぅ、みうはもうあかちゃんじゃないっ」
モード「ふふふ、そうですか~」
ソニー「かわいいですね~」 膨れたミウの頬を突いている。
「もうっ、みうはいまおこってるの!」
アリエスタ「うおぉっ、ミウっ、ナイフ振り回すなっ、付いてる食い物を飛ばすなっ、ねえーケンウッドさん、席代わってくんない?」
「ははは、え? 嫌です」
フィンとルッコとビクター「はぐはぐはぐ、うまいにゃ」「んぐんぐ、おいしー」「ガッガッガッ」
ベル「ぷはあっ、これ、おかわりー!」
アリエスタ「マジかよ!」
もう一皿平らげてしまった。
しかし、この肉は何の肉だろうか?
オークや狼や蛙と違って、妙にシャキっとした歯ごたえで肉汁が豊富でうまい。
タレとすごく合っているが、全体的に緑色をしてるな。
“辛いの”と同じだったから、間違えて塊を食べてしまったときは噴きそうになったが。
ベル「なにこれ辛い!」
あ、彼女も食べてしまった。
アリエスタ「ぎゃはははばっかでー、そりゃ“辛根”だっての」
ガストン「“わさび”だよそりゃあ」
ふむ?
ソニー「ルーナさん、これ巨大芋虫、“キャリオン”の肉ですよ」
ベル「あ、これ“山幼虫”だったの? こんな味だったんだ」
モード「あら、古い呼び名を良く知ってますネ、ベルちゃん」
ビクター「モードさん、田舎でもまだそう呼びますよ」
アリエスタ「ええ? この肉、虫なの!? うめえけど」
彼だけだな、ちょっと引いているのは。
ガストン「ああ、守護都市だと毛嫌いされてんのか?」
「虫なんか食わねぇし、そもそも寒いからこんなでかい虫の魔物はいねえ!」
「そうか? “ワーム”をあっちで食った気がするけどな」
「あれはいーの! 蛇みてえなもんだろ」
「いや、ありゃミミズの……ありゃ? そうか?」
ふぅん?
おもしろそうな魔物が居るらしい。
ソニー「ルーナさん、お願いですからもうちょっとお淑やかに食べてください、あっ、タレが服にこぼれちゃってます、あぁあ~」
拭けば問題ない。
ガストン「ははは、ルーナ! 真似するなら俺達みたいなムサ苦しいのじゃなくて、ケンウッドさんみたいに上品に食えよ、モードさんもいいな」
「え? いえいえ、普通ですよ?」
モード「あら、お手本にされちゃいましたかネ」
「そうなのか?」
ガストン「ああ、特にモードさんの食べ方はいいぞ、そのクセを身に付ければ敵から隠れてる時でも食事をとれるからな」
モード「おやおや」
ほう、確かにモードはほぼ音をさせずに食べている。種族的なものだと思っていたが違うようだな。
ソニーがガストンに例の親指立ての仕草をした。
アリエスタ「そんな状況で飯食う必要なんか、ぜってーならねぇし嫌だかんなっ!」
バリィッ!
豪快に食べたな。
ふむ、食べ方にも気を付けた方が良いようだな。
ギャハハハ、と周囲で冒険者達が酒瓶を壁に投げて笑っている。
汁を口にかきこんで辺りにまき散らす者もいる。
……ケンウッドのような食べ方をする者は周りに全くいなかったから、彼だけ大人しいものだと思っていたが、違ったようだ。
そしてモードは食べる時に全く音を立てない。
そもそも彼女は最初からずっと、あらゆる仕草に音を出さないように動いていた。
一つ一つの動作が洗練? されている。
ベル「ぱくんっ! おいしい~」
「ミウもっ」
しまった、また浮かべていた水を飲まれた。
(……ウンディーネ)
しょうがない、ミウの杯の水を、持ち上げ、ミウの目の前に浮かべてやる。
「あむっ、んふふ~」
モード「あらあら、もう距離を伸ばしましたネ」
ソニー「ちょっと自分の目が信じられません……」
アリエスタ「まだまだだなっ! そんぐらいで調子乗んじゃねえぞ」
ビクター(ええぇ、いや、魔法はよくわかんないけど、すごい速さで上達してるよ!?)
また水玉を浮かべて、また食いつこうとするベルと追いかけっこが始まった。
ガチャンッ!
ビクター「冷たいっ」
ソニー「もーっ、ルーナさん、ベルちゃんっ、食事中はやめてくださいっ」
ガストン「え? え? ほんとにそれルーナが動かしてんのか? でもよ、さっき覚えたばっかだって」
アリエスタ「いやーまぁちっとは才能あるぜこいつ、だって魔力が見えてんだもんよ」
ソニー「もー、偉そうに先輩は」
そのことに、知らなかったものは驚いて私の竜眼を改めて見た。
モード「不思議なヒトですネぇ、ルーナさんは」
ガストン「はぁ~、あの水爆弾の爺さんに魔法の手ほどきをねぇ~」
彼は驚いて私の着けている発動体の指輪を見た。
「大毒スライムやプールの戦いもすげえし、崩れ落ちて助かったのも驚いたしよ、だけど俺はミウがすげえ強い毒で死にかけたってとこでまだ驚いてる状態なんだけどね……」
「なに? はぐ、あむ」
撫でたミウが見もせずに答えた。
カチャカチャ、大きな肉の塊にてこずっているようだ。
フィン「ミウ、全然覚えてにゃいにゃ!」
ルッコ「よかったねーミウ、無事でー」
「?」
どれ、肉を細かく切ってやろう。
ソニーもそうしろと言う目で向こうから見ている。
ガストン「その、神父さんとアリエスタとソニーの多重解毒でだめで? しまいにゃルーナが見様見真似で、高度な解毒魔法を唱えたって? そんで、決め手の歌……ってのがまったくわからねえんだが……歌と言えば、なんか寝てる時に誰か歌ってた気がするな?」
モード「そうですかネ?」
背後の護衛達が頷いている。
護衛同士達が頷き合っているな。
元々組合に居た仲間同士で頷き合っている。
なんだ?
部下の一人がモードの大きな耳に何かささやいているな。
護衛 (ごにょごにょ……)
「え? ……はっきりしませんネ、こほん、未確定ですが、どうやら街のあちこちで歌が聞こえたという騒ぎが起きていたようですネ」
なに。
ケンウッド「ああ、歌の話ですか? 商人宿でも皆驚いてましたよ、競り中にどこからか、歌声が響いて来たのですよ」
一同「「ええ?」」
アリエスタ「まじかよおい」
モード「あら……“室内に”ですか?」
ケンウッド「え、ええ、話から察するに……ルーナさんの仕業なんですか?」
半信半疑? の彼も含め、ビクター達が歌の顛末、を説明した。
むぅ、不思議だな。
アリエスタ「おいおい歌った本人が首傾げてんぞ」
ガストン「ん? え? ルーナの解毒の歌ってのが街中に聞こえてたってのか? なんだそりゃ?」
アリエスタ「なんだ解毒の歌って」
ソニー「ガストンさん、あれは解毒なんてものじゃないです」
「はあ?」
アリエスタ「う~ん、目の前で見た俺も信じられねぇんだよな~」
ベル「お歌ー? ~~♪ ~~♪」
ミウ「にゃ~にゃにゃ~♪」
フィン「ミウ、ご飯食べてからにするにゃっ」
ルッコ「ら~ら~♪」
聞き覚えがあるな、やはり、話しを聞くに、そうなのか?
「私が歌ってたのか? 歌でミウは治ったのか?」
アリエスタ「お前が聞くの!?」
モード「やっぱり、ルーナさんは深い瞑想状態だったようですネ」
ソニー「! ああっ、あれが」
アリエスタ「あーそうだな、そう言われてみれば」
ガストン「ああ、“トランス”とか言うやつだったってのか?」
アリエスタ「そうそう! それそれ」
?
モード「えとですネ、ルーナさん。強力な魔法や、長い呪文等、厄介な魔術の中には、意識が高まり……そうですネ、寝てる時の様な状態になる魔法があるのですよ、それになってたんだと思われますネ」
ほう。
ソニー「もーっ、消耗して倒れそうになったんですよ?」
心配そうな顔をされた。
そこら辺は覚えがある。
塩漬けの干し肉がうまかった。
しかし、そうなのか。
アリエスタ「なんで満足げな顔してんだよ」
ガストン「あ、後はあれだ、海の魔物で、セイレーンだったっけな? 魔術歌ってのを歌ってきて俺らの心を操って溺れさせる魔術を使ってくる敵が居るぜ」
ほう。
魔物の魔法を真似したのだろうか?
もしかしたら、記憶のどこかから引き出したのかもしれないな。
アリエスタ「なぁほんと。あれよくやったよな! 何だったんだ?」
「うーん、わからん。覚えてないぞ」
「だよな! 寝ぼけてたようなもんだからな! 聞くんじゃなかった!」
ビクター「は~、ルーナさんってすごいや」
ソニー「うん。あそうだルーナさんっ、その前にやってた高度な解毒魔法は覚えてますか?」
「青いやつか? 覚えているが……アリエスタなしではできそうにないな」
魔力譲渡からの、アリエスタが魔力を気にせず思い切り魔法を使う手だな。
青いやつは途中で私が引き継いでやったようなものだと思う。
アリエスタ「ふふん、しょうがねぇな、まだまだだなっ」
ガストン「どういうこった? いや待て、でかい氷の時と同じか? 地下ではでかい炎も出して穴開けたっていう、合体魔法だな?」
フィンとルッコとビクター「「合体魔法!!」」
モード「……何ですかその呼び名?」
ソニー「そんな魔法ないですよ?」
アリエスタ「いや、ある! 合体魔法はあるぜ!」
ケンウッド「ええ? 本当ですか?」
ベル「歌もあたし頑張ったよ! 歌合体魔法!」
アリエスタ「いや、お前はただ歌ってただけだろ」
モード「あの強い青は、解毒魔法の上級の、浄化魔法だと思いますネ。毒以外にも麻痺や病気、瘴気に、一部の呪いにも効果がありますネ」
ガストン「……」
ほう。
彼が呪いのとこで、何か含んだ顔になったな。
ベル「すごーい、じゃあビリビリベリーも食べ放題だね!」
アリエスタ「なんだそれ?」
「おいしいんだよ? 痺れて動けなくなってその間にビリビリベリーの蔓に捕まって溶かされちゃうけど」
「なんだその怖え実は!? 俺はぜってー近づかねぇからな!」
モード「ああ、霧の森の魔物ですかネ? なつかしいですネぇ」
ああ、ベルのいた泉の奥地だったな。知ってるのか。
アリエスタ「へへっ、まぁ、そういうわけで俺様とルーナの合体魔法さえありゃあ、どんな難題もいちころ、稼ぎ放題だな!」
いちころ?
ガストン「おっ、言うねぇ」
ビクター「おお!」
フィン「アリ、すげえにゃ!」
ルッコ「すごいねー」
ミウ「にゃんで?」
ソニー「えーと……」
モード「……ルーナさんの魔力を借りれば、魔術士なら誰でもよいと思いますがネ?」
あ。
ベル「おつかれアリ!」
「何だおつかれって!」
だいぶ食事が落ち着いて来た。
ガストンも頼んだものが来たので食事をとり、ベルもまだお代わりを食べている。
ミウは寝ながら食べているな?
チリン。
食べ物をよそったままの匙を持ったまま、鈴の付いた頭が倒れては起きてを繰り返し、口をもぐもぐしている。
ルッコが全然食べてないな、パンを残していた。
「ルッコ、食べ切れないのか?」
アリエスタ「持って帰んだろ」
「うん、持って帰って、ばあちゃんと姉ちゃんにあげるの」
ほう?
「ほらこれ食えよ、遠慮すんじゃねえって言ったろ? この袋に入れて持って帰れよ」
モード「これも持って帰るといいですネ」
アリエスタや彼女がパンを渡した。
というか、真ん中の大皿に幾つも置いてあったのだ。
ルッコ「わぁ~っ」
ビクター「おぉ、面倒見がいい……」
ソニー(うふふ)
ルッコ「ありがと!」
「俺の金じゃねえからなっ、どんどん持ってけ!」
ソニー「はぁ……」
私はそれを眺めながら、貧民地区と大通りの違いを思い出していた。
ガストン「……(まぁ、色々と学んだ見てえだな、うぅ頭痛ぇ)」
その後も、モードは酒瓶を頼みケンウッドと飲んでいた。
ケンウッドも、ガストンと同じようにパイプを取り出してタバコを吸っているのを始めて見たな。
外の時は、警戒して吸わなかったんだろうか?
彼のパイプより色んな装飾があって、違いがあって面白いな。
食後が一番うまいと話し合っている。
煙だぞ?
ガストンも一杯だけもらっている。
なんでも迎え酒と言って二日酔いとやらが治りやすいそうだ。
アリエスタ「それ、嘘だからな? 酔い覚まし飲んだから治ってるっつーの! うちの協会の魔法薬の一種なんだかんな!」
そうだったのか。
ガストン「いや、気持ちの問題ってもんがあってだな」
アリエスタ「だーっ、うぜえ酔っ払い! この後俺の依頼手伝うの忘れてねーだろうな?」
ガストン「……え?」
ビクター「あっ!」
ソニー「何それ? お兄ちゃん」
「ああ、そうだったな、店に寄った後でもいいか? 剣が折れたから見てもらうんだ」
それが巨大な酸スライム退治を手伝ってくれる条件だったな。
ガストン「そ、そうだったな、いや? 忘れてないぜ? これは気付けの一杯だしな」
アリエスタ「ったく、店? ……その槍で十分じゃねえの? 全然使いこなせてたし、それ魔法の武器だろ」
ガストン「ん? 何だ? 魔法の武器って」
「ああ」
キン。
鞄と一緒に背もたれにかけてあるのを取り出して見せた。
槍を得て、使って戦った話をした。
ガストン「見せて見ろ……おお? こりゃあいい槍だなー。魔法うんぬんはわからんが、槍もいけるのかルーナ? じゃあこれで、短剣、長剣、大剣、投げ斧、槍斧、弓、を制覇か? 他にもまだまだ扱えそうだな」
せいは? ふむ。
そういえば使えてるな。何故か。
アリエスタ「何だよ! 全然驚いてねーし! すごかったんだぜ?」
自分の事のように話すなアリエスタは。
不満げだが。
「いや、すげえのは知ってるんだよ。その場を俺も見たかったな~」
ビクター「僕もです」
ソニー「何で使えるんでしょうね?」
ガストン「じゃあ、なおさら、道具屋に行かなきゃな、鑑定してもらおうぜその槍」
鑑定?
「まぁ、行けばわかるぜルーナ」
ソニー「先輩、冒険者業に集中するなら、ちゃんと道具を揃えておきましょうよ」
冒険者業か、それなら彼女は先輩になるのだろうか?
魔術士は後輩のようだが。
フィン「冒険者は準備が大事にゃ! 母ちゃんも言ってるにゃ!」
ルッコ「そうだよー、準備だよー」
ミウ「……むにゃ、かあちゃん……」
アリエスタ「うん? しょうがねえな、じゃあ、ちょっとだけだぞ? ミウっ、飯残ってんぞっ。だめだこりゃ、フィンっ、代りに食ってやれよ」
フィン「うわっ残し過ぎにゃミウ」
ルッコ「僕も食べていいー?」
残したらだめだぞ、と子供達に言っているな。ほんとに面倒見のいいやつだ。
モード「こほん、その前に、ルーナさんとアリエスタさんには事務所でお話があります。それと子供達を家に帰さないとですネ」
フィンとルッコ「「ええ~!」」
ソニー「しょうがないよ、行方不明だったんでしょ? 君」
ビクター「フィンたちも女将さんたちに叱られるよ? 早く帰らなきゃ」
ルッコ「うん、じゃあ僕、ばあちゃんちに帰るねー。姉ちゃん、帰って来たかなぁー?」
フィン「お仕事からまだ帰って来てないにゃ?」
「わかんない、ずっと落ちてたからー」
「きっと帰って来てるにゃよ」
どうやらルッコには祖母? と姉が居るようだな。
飯を食い終わり、奢ってくれたモードに礼を言って、子供達と別れた。
モードとの話はケンウッドとガストン、ビクターも同席、することになった。
ソニー「子供達はあたしが送ってきますね、お兄ちゃん後で話聞かせてね?」
ルッコも一緒か?
「猫屋の裏から家が近いんだよー」
ふむ。
裏からあの下水道入口にすぐ出られるそうだ。
フィン「ご飯をごちそうさまでしたにゃモードさん。ルーナ姉ちゃん、アリ兄ちゃん、ありがとにゃ、またにゃ!」
ルッコ「じゃあねー姉ちゃん達ー、ありがとねー」
「ああ、また後でな」
アリエスタ「もうあぶねえ奴をローグごっこすんじゃねえぞ」
ミウは寝てるのでソニーが抱いている。
かわいい寝顔だ。
助かって本当に良かった。
ミウ「……みゅむにゅ」
頬を指で撫でると、小さな手が指を掴んだ。
ゴロゴロと喉から低い音がしているのは、なんなんだろうか。
アリエスタ「いやー、やったよな俺達」
「うむ」
かろうじて、だがな。
ベル「ばいばーい!」
子供達を救い、帰して、朝の冒険は終わった。
読んでくださりありがとうございます。
そうです、芋虫だって調理して食べるんです。




