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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
89/135

85話 指輪

 濃縮毒の小瓶の欠片を踏んでしまい、ミウがに死にかけたが、なんとか助かった。

 私は今回ほど自分の無力さを悔いたことはない。

 

 更に強くならなければ。

 そうでないと恐らく誰も、自分さえも助けることはできないだろう。


 濃縮毒という言葉を何故かギャレスが囁いたのが気になる。


 外のアジトで、盗賊を何も聞きださずに処刑したこともあり、行動が怪しい。


 部下の獣人女リコアも今まで見た衛兵とはまるで違うしな。


 ゼラと話しておく必要があるかもしれない。

 彼は大丈夫な筈だ。


 レガリアと二人共、魔法薬を出してくれてたな、嬉しく思う。

 アリエスタにソニーに神父も、他の皆も。


 あと、どっかに居る筈のガストンにも見つけたら相談してみよう。



 外に出ると、通れないように立っている衛兵の向こうに、何人か街の人々が中を見ようと集まっていた。

 とても賑やかだ。


 やはり、この地区の人々は大通りの街民とは違うな。

 着ている服があまり良いものではない。


 街民「あ、出て来たぞ!」「やっぱりこっちだ、神父様!」「神父様ー!」

「エルフの魔術士がいるぞ?」「ばかっ、魔道師様だ」「魔法協会長よ!」「セレナール様ー」「サインくださーい!」

「レガリア隊長ー何があったんですー?」

「あっ、副長のノーデント卿もいるぞ」

「あの獣人は、ギルドのモードか?」「ああ、あのギルドの影のリーダー?」


「4大組織全員そろってるじゃないか」


「やっぱここが現場の入口だったんだ!」「何があったんですー?」「きゃあ! ゼラ様~」


 マイケル神父が人気、のようだな。


「うわっもう一人エルフがいる!」「かわいい女の子よ!」

「フェアリーが飛んでるぞ? 使い魔か?」「おい、例のエルフ様だゾ」

「ホントに竜眼じゃないか! 蜥蜴でも獣人でもないよなあれ?」

「猫屋のチビ達もいるじゃねえか」「ゼラ様~」「神父様!」「ソニーちゃあ~ん」

「モードさん素敵~」


 ゼラが手を上げると少し歓声が上がったな。

 アリエスタが早く進めと足を蹴った。


 ギャレス「ええい! 臭い連中だ! どけどけい! 邪魔だ!」


 マイケル神父「やめなさいギャレス隊長、いい加減うんざりです……皆さん、ここいらは崩落の危険があります、大変危険なのであまり近づいては行けませんよ、ここもそうですし、あっちの崩落現場には絶対に近づかないでくださいね、私と水神様との約束ですよ、水神様のご加護を」


 また例の儀式か。

 マイケル神父をまねて祈りの仕草をする中で、彼らの視線はおのずと私達に集中していた。


 誰だこいつら?

 と言う感じだろうか。


 衛兵達の中に冒険者の私達が混じってるからだろうか。


 戸口を出る私達に、蜥蜴族の衛兵達が敬礼した。

 む?


 隊長たちはもう通り過ぎたが、、私にしてるのか?

 もしかして、ミウの解毒騒ぎを覗いていたのだろうか。


 ビクター「今回は間に合わなかったけど、最後に凄いのが見れたな~」

 フィン「姉ちゃん、ホントに大丈夫かにゃ?」

 ソニー「ルーナさん平気ですか?」


「大丈夫だ、腹が減ったがな」

 ミウ「ごはんたべよ?」

 彼女と手を繋いで階段を上り古い下水溝から出た。


 ミウが小さいから最大に伸ばした小さな腕の、指先しか握れない。

 気を付けて昇るんだぞ、階段。


 まぁ、足腰は丈夫だから平気なようだが、治したばかりだからな。


 排水溝を上がると、家々から、住民達が出て来て集まっていて、こちらを見ていた。


 む?

 今走って逃げてったのは、“あのごろつき達”の一人か?


 ゼラ「ルーナさん、おすすめのおいしい麺料理の店があるんですよ」

 めん料理……あぁ、あの糸みたいなやつだな。


 アリエスタ「何でもいーよ、あー腹減ったー」

 ベル「ハラヘッター♪ ハラヘッター♪」

 子供たち「「はらへったーはらへったー」」


 ギャレス「うおいゼラ副長! 貴様らも! こっちだ! 団長に報告に戻るぞっ、第三中隊!」

 レガリア「あ、ギャレス隊長、崩落現場について、追加人員の話を団長に……」

「む? ああ、儂の隊は出さんからなっ、また今晩も外に哨戒任務で……」


 なんだか大変そうだな。


 ゼラ「はぁ、お呼びがかかっちまった。ルーナさん、また今度必ずご飯行きましょうね」

「ああ、救助と、ミウに薬をありがとうゼラ、レガリアも」


「はは、きっとあなたならどんな困難も打ち破りますよ、僕と一緒なら尚更なおさらにネ! それじゃあ! チュッ!」

 それを言われると辛いな、実際は助けられてばかりなんだ。

 アリエスタ「さっさとどっかいけ!」


 レガリア「いえいえ、お役に立てズ、悔シいばかりでス。今回もまた素晴らシい活躍でシたルーナ様、お疲れ様でス」

「私はルーナでいいぞ」


 あ、無視された。

 二人は敬礼してこの騒ぎの対処に取り掛かって行った。


 最後に、苦い顔をしてその様子を見ていた髭が喋った。

 ギャレス「フンッ、大変な騒ぎを起こしおって、冒険者風情が、あまり我々に手間をかけさせるなよ!」


 皆、基本的にギャレスのことは無視している。

 今が、蹴っ飛ばす機会だろうか、いや。


 フィンとルッコが目をキラキラさせて真似して、お互いに敬礼し合って遊んで騒いでいる。


 ギャレスに一つ聞きたいことがあった。

「おいギャレス、隊長。リコアとやらは一緒じゃないのか」


「フンッ! 気安く話しかけるな! 敬語も使えぬ野蛮人めが!」

 むう。

 一緒じゃないようだな。


 衛兵の皆は行ってしまった。

 ああ、向こうの民家と壁の奥がずいぶん騒がしいな、位置的に、あそこに崩落現場があるのだろう。


 マイケル神父とモードと、セレナールの三つの組織の面々が、何か話し込んでるな。

 こちらをチラチラと見てるのはなんだろう。


 いつにも増して視線を多く感じる。


 アリエスタ「はぁ~面倒くせぇのがやっと終わったぜ! さぁっ、さっさと昼飯食いに行こうぜ! ってああーっ!!」

 ビクター「ええ!? な何ですか?」

「戦利品回収し忘れた……ちくしょ~」


 アリエスタが恨めしそうに振り返ると、衛兵達が入口を封鎖していて、レガリア達抜きでは戻れそうにないな。

 ん?

 戦利品?

「おい、盗品は戦利品ではないぞ、衛兵が預かって、持ち主に返して、後に分配するとかじゃなかったか」

 ビクター「おおっ、ルーナさん、学習してる!」

 ソニー「偉いですルーナさんっ」


 ベル「そーなんだ? わかんない、拾った子のものじゃないの?」

 アリエスタ「そう! そーだよ、バレなきゃいーんだよ!」


 フィン「それは悪者と一緒にゃアリ兄ちゃん!」

 ソニー「先輩っ、壊した杖弁償してください!」

 アリエスタ「なっ!」


 ルッコ「だめだよー」

 ミウ「わるいこ!」

 ベル「ふーん、じゃあアリが悪い!」

「あっ、この裏切りもん!」

 皆から大非難、されているな?


 それと青い鳥が近くの家の屋根からお前を見ているぞ。

 いつの間にやら飛んで来て止まっていた。

 アリエスタ「い、言ってみただけ! 言ってみただけだし!」

 

 ベル「悪い子はこうだ! えーい」

「ひょえっ、ばっばかっ、やめろ! うおおおお」

 おお、ベルがアリエスタのローブの首の後ろら辺に飛んだと思ったら、持ち上げたぞ。

 どんどん高くなっていくな。落とすのか? いや、くるくると回ってる。


 人々「「おおっ?」」


 子供達はキャッキャッと喜んでるな。

 ミウ「つぎはみう!」



 セレナール「何をやっとるんじゃ一体」

 モードとセレナールがこちらに来た。


 向こうに見える、去ってゆくマイケル神父とは別れたようだ。

 あちらは、港の方角か、何か騒ぎがあったと言っていたな。


 その後ろ姿を、フィンが傍に立っているソニーのローブから隠れて見ているな。

 ふむ?


 セレナールは一瞬、上空を周っている弟子を見て眉をぴくぴくとさせていたが無視して、私の前に来た。


 突然、見たこともないすごく丁寧なお辞儀をしたぞ。

「?」


 セレナール「……“わかりませぬか”、やはり。コホンッ、ルーナ殿と言ったかの、儂はエルフ氏族の“楓衆”が一枝、セレナール・エルクフィーラと申す者ですじゃ」

 氏族、楓衆。わからないとは、今のお辞儀の作法? のことか?

「他の種族からは、俗に森エルフと呼ばれる一族で、ここ数年は魔法協会会長を務めておるものですじゃ、ここまではよろしいですかの?」


 よろしいも何も、よくわからんな。


 モード「あらまぁ、ですネ」

 彼女も驚いているな。

 気付けば、周りの皆も同様だった。


 セレナール「ケンウッド殿に今日にでも面会を取り付けてもらい、場を用意してお会いするところでしたが、どういう運命の因果かわかりませぬがこのようなことになってしまいましたのぅ。二度も無下にするわけには行きませぬので、この場を持ってご挨拶させて頂きまする」


 ソニーが口をあんぐり開けているな。

 知り合いのようだが、こういう感じをしてるのは初めて見た、ということか?


「こんにちはセレナール。私はルーナだ。」

 む、セレナールとモードが固まったな。


 モードの方が早く動き出した。

「まぁ、こういう感じで記憶が失われていましてネ。至らないところもありますが、とっても優秀で良い子なのですよセレナール様。大事なうちの組合員ですからネ」


 セレナール「記憶喪失じゃと……わかっとるわい、協会に入ってはならんわけではないじゃろうが、それにちょっと動揺しただけじゃ、まだ邪魔せんでくれ」

 む、動き出した。


 ああ、挨拶が甘かったので驚かせてしまったのか。


 それとこのやりとり、ちょっと覚えがあるな。

 勧誘、だな?


 アリエスタ「だぁーっ、悪かったっ、悪かったって! ごめんって! 降ろせえええ!」

 上がちょっとうるさいな、セレナールの眉間の血管、が浮いて出たぞ。


 ビクター、ソニー、フィンにルッコはこちらを驚いて見てるな。

 喜んで飛び跳ねて彼を見上げてるのはミウだけだ。

 キャッキャッ!


 周りの人々もだ。

 セレナールは人気のようだし、エルフが二人もいると聞こえてくるしな。


 セレナール「ルーナ殿、まずは、我が弟子を盗賊共から救出して下さり、誠に有難うございます。つきましては、こちらのお礼の品を是非受け取ってくだされ……もたもたしてるとまた危機に陥りそうですからの、早急にお渡ししておきますぞい」


 後半に礼どころじゃない焦りが含まれていたぞ。


 何かくれるのか。

 指輪?

 右手の、確か人刺し? 指に嵌めてくれた。


 セレナール「一番“発動体”が収束しやすいのがこの指ですじゃ、この“魔道環”は“杖”と同様の効果を持つ指輪でですな、魔術を操る上で魔力の収束、安定、発動を維持する、魔術士になくてはならない、発動体と言われる、呪具ですじゃ」

 ふむふむ。


 要するに杖だな。

 見ればセレナールの指にも同じ様なものがしてあるし。


 アリエスタ曰く、なくてもいいらしいやつだ。

 そして、私には不要なものだ。


 その腰に差した魔法の剣の方が欲しいのだがな。

 間近で見ると、かなり湾曲した曲剣、らしいが、妙に細い剣だな。


 なんというか、懐かしい気がする、その剣に。


「ありがとう、だが私は魔法を使えない。習いたいと思っているが」


「のお? ふぉっふぉっふぉっ、見た所、随分と使われてるようですがの?」

 ?


 モード「補足していいですかネルーナさん? ずばりあなたは“妖術使い”、ソーサレスの類ですネ。簡単に言えば、習わずとも自然と魔法を身に付け扱う、天然の魔術士ですネ」


 ビクター「わあー」

 ソニー「うんうん!」


 セレナール「そうじゃ、咆哮・魔力譲渡・魔眼、ちと不確定かつそなたも覚えておらなんだが魔法の歌――魔術歌等……実に豊かに扱われておりますぞ」


 おお、一度に聞くと何かすごい感じに聞こえるな?


 全部魔法だったというのか?

 この眼も?


 あと、咆哮を知ってるのは、蜂との戦いを使い魔で見ていたのか。

 魔眼とは魔力を見ることだろうか?

 魔術歌というのはわからないな。


 ソニー「えええ!」

 ビクター「すごい!」

 フィン「ルーナ姉ちゃん、魔法使いだったにゃ!?」


 ルッコ「魔法剣士様だー!」

 魔法剣士?

 なんかそれ、いいな。


 セレナールもそれを聞いて、腰の剣をルッコに見えるような仕草をしたが、そっちを見ていないな。


 ベル「とうちゃーく!」

 アリエスタ「ぜえ、ぜえ、なっ、長ええよ!」

 ミウ「キャハハハハ」

 あ、降りて来たな。


 丁度アリエスタの頭が近くにある。

 解毒を使ってみよう。


 これは杖だ、さんざん見た解毒の流れを再現、する。お、お、流れが良い。

 指輪にすぐさま魔力が集まる。

 そこに魔力が固まって強くなっているな。

 これなら……。

 

 アリエスタ「はぁ、はぁ、ん? なんで俺に解毒を使ってんの? 別に毒じゃないんですけど! 治療かけてくれよ治療!」

 ほのかに青い光が指輪から放たれ、手の平内に球体の様に淡く光り、汗だくのアリエスタの頭を、解毒の魔法が意味もなく放射された。


 セレナール「……見事じゃ」


 ソニー「すごいすごいお兄ちゃん! ルーナさんが解毒の魔術を! しかも無詠唱で!」

 ビクター「いや、でもさっき、もっとすごいの見たからなぁ……」


「もうっ、お兄ちゃん全然わかってない! 普通の時で、普通の魔法を使ったのはこれが初めてなんだよ! これは記念すべき第一歩だよ魔術士ルーナさんの!」

 なに。


 一同「「!」」


 アリエスタ「え? あ! お前、無詠唱で普通に初めて自分で魔法かけたのか? まじかよこいつ」

 詠唱を知らんからな。

「あ! てかその指輪! ちょっと師匠? ひいきじゃないすか? かわいい弟子には厳しいくせに」


「じゃかましいっ、黙っとれっ。ルーナ殿、まずは初歩の水球の手ほどきをして進ぜよう、別に無理に水を作り出さずともええのですじゃ最初は」

 そう言って彼は近場の水を操りこちらに水球に変化させて持ってきた。


 アリエスタ「ああっ、俺の水が!?」

 近場の水は、喉をうるおそうとローブから出したアリエスタの水筒の水だった。


 口を上に開けて水筒を逆さにして落とすように飲もうとしていた所だったが、全てセレナールの魔術によって引き寄せられていた。


 私の眼の間に水の球が浮かんでいる。


 セレナールは懐から椀を取り出し、球をそこにゆっくり降ろして、球を作り出す魔力を解き放った。

 球は崩れて椀に水が落ちた。

 パシャッ。


「見ましたかの? さぁ、持ち上げるくらいはやってみなされ」

 何。


 突然、魔法の授業? が始まったな。


 恐らく、彼の予定が狂いに狂ったせいだろう。


 そうだ、組合で待ち合わせして、道具屋に行くはずが、とんだ冒険になってしまったな、もしかしたらガストンに怒られるかもしれない。


 それと、何故偉い人物のはずのセレナールが妙に私に敬語なのなのだろうか

 同族とはいえ私は立場、も年齢も目下の者なのだがな。


 そこからただ彼は、私を黙って見ている。

 周りのみんなも。


 アリエスタ「なぁソニー、水くれよ」 ソニー「先輩しぃっ」

 ざわざわと集まっていた確か、やじ馬? の人々もだ。

 仕方ない。


 指輪を杖だと思って、目の前の椀に溜まっている水に手をかざし、水球になるように意識した。

 魔力が指輪に集まる。よし。

 あれ?


 このまま下の水を……どうするのだろう?


 セレナールは答えを言わず、自分で考えて見ろと目で言っているような感じだ。


 あ、アリエスタが巨大毒スライムを引き寄せた魔法、魔力が縄になってるのを私は見たな。あれをやってみよう。

 魔力の縄を落として、水を捕まえて、底に魔力を流し込んで、水球を作り出してみよう。

 お、指輪から魔力が出て来た。細く、長く、落ちろ。

 できた。

 よし、水にまで降ろして、水に魔力が触れたぞ。

 チャプッ。


「ほう、よいぞ」

 確実にセレナールの視線が魔力の縄を視ているな。

 やはり“魔眼”というやつで魔力が見えているようだ。

 

 次は、魔力が触れた水を持ち上げてみる。

 先ほどから魔力が面白いぐらいに動かしやすい。


 最初は曖昧あいまいだったものの、コツをつかみ、魔力が触れた水を徐々に持ち上げることができた。


 だが、椀の水全ては難しいな。

 「全部とは言わず、その捕えておる小さい球からでも十分じゃぞ」

 ん、ああ。


 魔力で掴んでいる水のみを、持ち上げて見た。

 できた。

 こちらに引き寄せ、かざした手を裏返しその上に持って来ても、紐なしで浮かばせられているな。

 水球に私の魔力が十分含まれているからだろうか。


 ベル「おー」

 彼女が飛び寄る目の前に、小さな水の球がふわふわと浮かんでいる。

 はむっ。ごくんっ!

「あっ」


 アリエスタ「あー! 俺の水だぞ!」

 ベルが食いついて飲み込んでしまった。

 魔力が途端に霧散、したな。


「ごくんっ、おいしー!」

 アリエスタ「はぁ? ただの井戸水だぞ?」


 セレナール「ふぉっふぉっふぉっ、上出来じゃ、これを常に浮かばせておれば、おのずと上達するぞい。今後更に扱いを意識する際は、”ウンディーネ”と唱えるがよかろう、復唱してみよ」


 よく水魔術を使う際にソニーが唱えていた呪いだ。


「ウンディーネ」


 ――♪


 ?


 誰だ?


 唱えた途端、体の魔力が口元から急に流れ、指輪に急激に集まって突然周囲に放射された。

 一瞬の事だった。


 セレナールの持つ椀の水が振動したと思ったら、弾け飛び散った。


 チャプッ――バシャアンッ!


 一同「「わあっ!?」」

 モード「ひゃっ! 水はダメですネ!」

 彼女は瞬時に、風の丸い壁を作り出し防いだ。

 ベル「きゃっ!」

 皆に水渋きが多少、飛び散る。


 ジャポウンッ!

 アリエスタ「ぶぼっ!?」

 ソニー「うわっ! 先輩!?」

 彼がソニーから受け取って飲んでいた水筒の水も弾けたらしく、盛大に顔にかかっていた。


 私が唱えた呪文の影響なのだろうか。

「すまん」


 キャッキャッ、と周りで誰かが笑っていた。


 セレナール「これは……」

 直ぐ近くで濡れてないのは彼だけだな。

 彼は“何かに守られ”、飛び散る水が手前で止まって垂れていた。


 そこには魔力の壁が生まれていた。

 魔道具だろうか?


 アリエスタ「ぶへっ、何だ今の!? さっきから俺らの教わり方と全然違うじゃないすか師匠! 最初は“式呪”を嫌ってほど叩き込むんでしょ? 手かざして動かせるルーナがおかしいのはいいとして、最後に何で“源呪”だけ? しかも暴走してるしよ」

 しきじゅ? げんじゅ?


 セレナール「剣術を知るものに、鞘から剣の抜き方を教えても無駄だと言うことじゃ」

 アリエスタ「よけいわかんねー!」


 ビクター「! なるほど」


 セレナール「ルーナ殿、そなたの“言霊”は強すぎるから、まじないを唱えるときは、優しく囁くようにした方がよいですな」

 む。

「そして明確に働きかける水を意識し、どうしたいか願うように心をしっかり持つことですじゃ」

 モード「イメージ、創造力ですネ」

 ふむふむ?


「うむ、そして魔術とは“支配することではなく”、“願う”ものなのですじゃ。どうもそなたはそれをよくわかっておられるとみえる」

 おお。


 まるで、生き物のように表現するな。


 迷宮門と同様に。


 そして、使い魔 (青い鳥)でそこまで見ていたようだな。

 

 なんとなくだが、わかる気がする。


 それと、魔法の向こう側に、“何か”があると思う。


「わかった。セレナール……魔法とは、何だ?」


「ほう……儂が答える前に、皆はどう思うかの?」


 アリエスタ「はぁ? 魔法は魔法だろ? 便利な技だろ」

 ソニー「は、はいっ、四大神様がもたらされるお力をお借りしてるんです、多分……お兄ちゃんて」


 ビクター「うぇ!? あ、あっはいっ、魔法は強力な武器だと思いますっ」


 モード「一説には、魔法は扱う者全てひっくるめてですけど、それそのものが“一つの大きな恩寵”だと言われていますネ」


 ふむふむ。

 一人一人に必ずある、というものでもないのか。


 ビクター「あ、あと、“継承する恩寵”もあるらしいですね」

 継承? 継ぐとかの意味だな。

 子供とかにだろうか?


 ベル「はいはーい! 魔法はねー、花をさかせるんだよ! おいしい実も作るの、甘酸っぱい木苺とか!」

 ミウ「きいちごたべたい」


 フィン「はいっ、悪者を探したり、音を消したり、鍵を開けるってママが言ってたにゃ、ローグにゃ」

 レイアはやはり元冒険者なようだな。


 ルッコ「体を洗ってきれいにするのー」

 色々あるな。


 全部がそうだと思うな。


 セレナールがこちらを見ている。あ、私もか。


 うーむ、魔法とは何か?


 魔力だろうか?

 まじないで紡ぐ魔法は、水や火や、土や風を生み出すな。


 その力は魔法使いにあるし、魔物にもあって、魔石を作り出していたりもする。


 作ると言えば、ワンドや武器にも宿っている、あれらは作った後に宿ったのだろうか? 身に付けている何でもない短剣にも、魔力はないが、鍛えれば宿るのだろうか?


 それを言うのなら、強くなった人に多く宿る。

 更に言うのなら、あらゆる命や物に元々小さくあるのかもしれない。

 あの透明なスライムの集団のように。


 そもそも聞いた理由の、大魔法のときに聞こえてくるあれは何なんだろうな。

 あれは小さい声のような、


 あ、アリエスタやソニーが呪いの中で言っていたあれか?


「……精霊?」

 魔法とは、精霊か?


 セレナール「ほう!」

 モード「まぁ!」


 アリエスタ「おお、なんか核心っぽいな!」

 ソニー「ルーナさんすごいです!」


 ビクター「精霊? (って、あの?)」

 子供達「「?」」


 ソニー「会長様、どれが正解なのでしょうか」


 セレナール「んん? どれも正解じゃぞ、魔法とは曖昧なものじゃからなのぉ、フォッフォッフォ」

 ベル「当たり? やったー!」

 アリエスタ「何だよ! 結局かよ!」


 ふむ、魔法とは、曖昧なものである、か。

 どうも煙に巻かれた? ような感じだな。

 精霊とやらではなかったか、当たった気がしたが。


 そもそも精霊とは何だ? 皆知らないようだが。


 セレナール「……やれやれ、最近は忘れられし存在となっているようじゃのぉ」

 モード「まぁ、こればっかりはしょうがないですネ、教会も増えましたから」

 何の話だろうか? 二人が密かに話していた。

 少し寂しそうに。


 セレナール「さて、ルーナ殿、あなたの氏族に関してあまり多くは知りませぬが、後日、正式に茶の湯を開き話を交わしたいと存じまする」

 ?

 ベル「何てー?」

 何を言ってるのかまったくわからん。

 

 ソニー「あ、あの~セレナール様」


 モード(セレナール様、失礼して、はっきりいいますが、ルーナさんには簡単に分かりやすく内容を話さないと、通じませんよ。まだ)

(……うむ、感謝するモード殿)


 聞こえてるぞ?

 すまんなモード。


 セレナール「ルーナ殿、今度ゆっくり茶でも飲みながらお話をしましょうぞ」

 そう言って彼はモードにこれでよいか確認する視線を向けた。モードは頷いている。

「わかった、ありがとう」

 ベル「あたしも飲みたい!」

 彼は頷いた。


 アリエスタ「あ~、いつも飲んでる苦いやつ? げえ~、茶菓子は出るんかね?」

 ベル「……やっぱいらない! ルーナが飲んで! あたしはお菓子もらうから」


 セレナール「これアリエスタよ、言いつけた仕事は終わらせたかの?」

「え!? あ、ああ、終わりましたよ? ……本当ですって! (おかげで超寝不足だし!)」


「よかろう、誓約は成された」


 なんだ? いきなりセレナールとアリエスタの間に“魔力の線”が現れて、ちぎれた。


 まるで元々あったみたいだったな。


「は~、やっと安心したぜ、今の今まで忘れてたけど」

 ソニー「誓約? 先輩~また何か罰を受けてたんですか?」

「いや、もう終わったから」


「盗品の奪取も、よくぞ気付き賊を追い取り戻したのう。見事じゃ」

「いや、たまたま隣で物音がしたもんで、へへへ(便所裏をぶっ壊したことは黙っとくか)」

 私に聞こえてるぞアリエスタ。


「そうそう、これを持ってゆくがよい」

 そう言い彼がローブから出したのは、昨晩までアリエスタが持っていた杖と、見慣れぬ平たい形をした、衣服の裏にでも取りつけられそうな袋だ。


 なんでもなさそうなものに見えるが、わかるぞ。

 それは魔道具だ。


 もしかしてアリエスタが懐に忍ばせていた、魔法袋らしき何かなのだろうか?

 少ししか見えなかったが魔術っぽい文字が描かれているのが僅かに見えた。


「アリエスタよ、儂はお主の修行内容を一部変更する。これより暫くの間、冒険者として修練するがよい。期限は……そうじゃな、ルーナ殿が街に滞在する間までじゃ」


「な! ええ!?」


 驚きつつも、めちゃくちゃ嬉しそうだな。多分自由に金が稼げるからだろう。

 それともしかしたら、彼の修行はとても厳しいものなのかもしれない。


 しかし、私が滞在する間までとは、どういうことだろう?


「ただし、弟子の証であるあの杖を盗賊共から取り戻さない限り、依頼で得た報酬の、半分は協会への“寄付”とする、誓約!」


「はあああえええ!? そんなぁー! 絞り取られるぅ~!!」


 まただ。

 今度は魔力の線がセレナールからアリエスタに飛んで、結びついたと思ったら消えた。


 ? 本当に消えたのか?

 よく視てみる。


 あった。

 薄く線が見える。


 始まりと終わりの点がよく視える。

 セレナールとアリエスタの体内にあるな。


 この誓約とやらの魔法が、解けるまでずっと続くのだろうか。


 私がそれを視ているのを、セレナールはわかっている、という感じの目で、こちらに片方だけつぶって見せた。


 返却? をされた袋の中身をアリエスタが確認してる。


「あれと、これと、こっちは硬貨袋で……よしっ、全部あるぜ! ししし、一杯にしてやっかんな!」

 失われたものがないか見ているようだな。

 皆も興味津々でのぞいてるな。

 ベル「誰と話してんのー?」


 ミウ「あれ? なんでこれよりいっぱいあるの?」

 彼女は不思議そうに袋の下を見て、また中を見て、また下を見て首を傾げている。


 アリエスタ「すげぇだろ~」

 ベル「ねえ、食べ物が全然ないよ?」

「なんで? 俺別に遠出しねえし」

「?」

 彼の言ってることがわからないとばかりに首を傾げている。


 私の鞄とあまりに中身が違ったからだろうか。

 あと、入ってた食べ物ならほとんど私が食べたぞ、昨日。


「さて、どうやらここまでの様じゃな、ケンウッド殿が来たぞい。ではルーナ殿、またの再開を心待ちにしております、水球は常に練習なされよ、きっとあなたの力となりましょうぞ」

 また、丁寧に挨拶された。

 わかったと頷く。

 練習しよう。


 アリエスタ「何だ今の仰々しいの?」

 モード「……エルフ族の伝統の礼ですネ(何故か最敬礼ですがネ)」

 ふむ? よく聞こえなかったな。


「ありがとう、ございます。セレナール」

 ぎこちなくも、彼の真似をした。


 セレナールはにこにこと笑顔で頷いた。


 モード(さんをつければもっと良いですが、出過ぎた真似はやめておきましょうかネ、なんとなくルーナさんはこのままでよい気がしますし)


 ソニー「! ル、ルーナさんが敬語を! お兄ちゃんっ、聞いた?」

 ビクター「え? 何?」

 彼は袋をのぞき込む顔を上げこちらを見た。

「もうっ、知らない!」


 アリエスタ「つっても師匠の名前タメ口だけどな、ははは! あ痛ぇっ!?」

 笑う彼の後頭部に、どこからともなく、小さな石ころが飛んで当たったな。

 よい使い方だなモード。


「ソニー、水筒の水を少しくれないか?」

「はいはい、練習ですね、あれ? 先輩っ、水筒返してくださーい」


「くれたんじゃねーの?」

「あげてません! 自分のがあるじゃないですかっ……ああ! 売る気でしたね!?」

「は? ちげーし」



 ケンウッド「あ! いた! みなさーん!」


 モード「さあ、組合に戻りましょうかみなさん、お昼にしましょうかネ」

 フィン「いいのにゃ!? やったにゃ!」

 ルッコ「ごはんー」

 ミウ「おなかへった」

 ベル「ごっはん♪ ごっはん♪ ぺっこぺっこ♪ ~~~♪」


 ん? 最後の、何か、聞いたことのある歌だな。



 アリエスタ「……あれ? 待てよおい? ルーナも弟子になったってことか? 妹弟子ってこと?」


 読んでくださりありがとうございます。

 長くなってしまった。

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