84話 歌
リンリンリンリンリンリン!
――アリエスタ「っうるせえな! あれ?」
うおっ!?
師匠!?
師匠が立って、“魔力散らしの鈴”を鳴らしまくっていた。
おお?
歌が止まった?
うげっ、ウインクなんかしやがって。
何なんだ。
鳥と入れ替わったのかよ。
何か、高そうな薬を持ってこいとか、“ごうつく神父”の奴に言われてたな。
多分、もう必要ないと思うけど。
猫娘、ルーナがなんかしたら治っちまった。
驚きすぎて考える余裕がねぇや。
奇跡だな。
は~、良かった。
全員鈴の音でハッと我を取り戻したな。
魔力持ちのほとんどが嫌な顔してやんの。
しっかし、いいおっさん共が並んで泣いてやがるぜ。
気持ち悪っ。
この時、無意識にだがアリエスタはそれとなく目元をローブで拭いていた。
レガリアにゼラに、いや、クソ髭は呆けてるだけだな。
緑兄妹も大号泣じゃねえの。
フィンとルッコは元々か。
神父の奴が一番重傷だなこりゃ、鼻水汚ったねぇな!
ベル「~♪ ~~♪」
こいつだけは鈴が平気で、未だにご機嫌に歌ってんな。
さすが妖精族。
てかこいつだけずっと一緒に合わせて歌ってたよな?
さっきの歌の曲を真似してんのか?
てゆうかこいつ若干音痴だな~。
なんだか夢みたいだったな。
いやー驚いたのなんのって。
解毒多重掛けで神父の中級でも治らないからあせったわ。
そしたら上級の浄化魔法を知らねえはずのルーナが掛けだし始めやがって、それでも治らねえんだもんな。
ヤバすぎだろあの毒。
一体なんだっていきなり毒にかかったんだチビは。
破片が落ちてたのか? 通路から離れたここに? ああ、あの盾かな? 亀裂があるし、毒瓶投げられた時、あれで受け止めてたから破片が食い込んでたのかもな?
破片をちゃんと始末しておかねぇと。
お、チビが起きたぞ。
ミウ「? ふにゃ~、おなかへった」
寝てたみたいに欠伸して伸びてやんの、死にかけたってのに。
フィン「ミヴ~~~!! ズズ、よがっだにゃああああ」
「? やー、びちょびちょ、にゃんで?」
ルッコ「よかったねぇ、よかったねぇ」
ルーク「……グスッ、よかったっス」
あれ、あいつひょっとしてこいつらの兄貴だな? 似てるし。
ベル「あ! 起きた? やっほー!」
「にゃんでみんなないてる?」
なんだあんま覚えてねえのか? その方がいいな。。
ったく、ホント無事でよかったぜ。
あせったわ。
チッ、孤児院のチビ達元気してっかな。
大金稼いで、必ずたらふく飯食わせてやっからな。
それにしても、器用に座ったま寝てんなこいつ。
「おいっ、ルーナっ、起きろおい!」
「はっ! な? む……むぅ」
ガシャ。
トランス状態で妙な魔術歌を放っていたルーナが覚醒し気が付くや否や、力を失いよろめき、横に倒れる。
レガリア「ルーナ様!」
近くにいた彼がとっさに肩を抱き留める。
「マジか? 無茶しやがって」
アリエスタが気怠そうにしつつも彼女の元に来て、額についた、杖の破片がぶつかった傷跡に手を当て、治療術で癒す。
ルーナを知る者は、あの彼女がかなり消耗し、力尽きていることに驚きを覚えた。
ビクター「ル、ルーナさん! 大丈夫ですか!?」
ソニー「ああ! 今度はルーナさんが?」
ゼラ「大丈夫ですかルーナさん! こっ呼吸は!? 口づけが必要かもしれない!? なら俺が――」
アリエスタ「――アホうっ、魔力切れだボケ! こっち来んな!」
バキッ!
「ぐえっ!」
ベル「ルーナ! ちょっと疲れちゃった? ご飯食べよう?」
モード「あらあら」
ギャレス「フンッ、なんだなんだちょっと妙な魔法を使った如きで軟弱な冒険者だ。
やはり専門家にはかなうまいな」
アリエスタ「何だとてめ――『マイケル神父「ギャレス隊長、彼女の魔法の効果は素晴らしいものでしたよ。黙ってなさい』――ちっ」
マイケル神父「……皆落ち着きなさい、魔力切れもそうですが、恐らく無理に身の丈以上の魔法を連続行使した反動が出たのでしょうね。魔法使いの方々は身に覚えがあるでしょう。しかし、セレナールは役に立ちませんでしたね」
モード「“真眼”が開きすぎたんですネ」
ビクター「?」
ミウ「るーな? ここでねちゃだめだよ?」
アリエスタ「そりゃお前だろ!」
ルッコ「ルーナ姉ちゃん?」
フィン「にゃ! 姉ちゃん起きたにゃ!」
ルーナが意識を失ったのは一瞬の事だった。
肩を支えるレガリアを睨むゼラと、共に彼女を囲んでいる皆の前でその竜眼を開き、呆けて何度か瞬きする。
いつもの勇壮な容姿が今は力なく、気だるげで、いくつもの武装が重荷のようだ。
その真っ白な肌も、いつにもまして蒼白であった。
滅多にかかぬその肌の汗をソニーが心配そうに布で拭っていた。
「……む、大丈夫だ、ミウ、ミウは?」
アリエスタ「大丈夫だ、治った。まだ座ってろ、これ食え」
むが……んむ?
塩気が強くてうまいな、この干し肉。
バキンッ。
「……んもむ」
ゴリッ、ボグ、モグムグ。
「は? それめっちゃ固いんだけど、今噛み砕いたそれ?」
ベル「おいしい?」
硬うまい。
ソニー「先輩そいうのを食べさせたんです?」
アリエスタ(いやいやとりあえず塩気かなって、しゃぶらせるつもりだったんだっての)
「……んぐ、はぁ、ふう」
一体、何が起きた?
何か魔法のような、咆哮のようなものが出た気がするが、必死になり過ぎててよくわからん。
おまけに一瞬意識を失って……覚えていないぞ?
なんだか腹の奥が熱くて、身体中がムズムズして背中が痒いぞ。
そして喉が痛い。
「すまんが、水をくれないか」
ビクター「よかったら僕の水筒、どうぞ」
ありがとう。
ゼラ「ああっ、出遅れたっ」
ソニー「とっても素敵な歌でしたよルーナさんっ、あたし歌で解毒するなんて初めて見ました」
アリエスタ「多分皆そうだと思うぜ」
「ぷはっ……歌?」
水を飲んで、すっきりした。
まだ痛いが。
ベル「あれー? 覚えてないの? 一緒に歌ったよ? ~~♪」
む、なんだか聞き覚えが……だめだ、わからん。
ミウ「るうな、みうもにくちょーだいっ」
とりあえずは、この子が無事でよかった。
本当に。
「んむみゅう」
優しく、ミウを抱きしめる。
モード「ふふふ、どうなることかと思いましたよ、平気ですか? 診せてください」
ミウに全部口に入りきらないの手で齧り取っていた干し肉を、少し割って分けてあげた。
アリエスタ「あー、やめとけっ! あーあ」
ミウ「はむ、むぐ、っ! しょっぱかたい!」
ぺっと吐き出したので即座に受け止めて、自分の口に放り込んだ。
一同「「うおっ」」
ソニー「こらっ! ミウちゃんっ、ってルーナさん!?」
彼女が大げさに反応してる。
何かいけないことしただろうか? 食べ物は大事にせねばな。
フィン「こらミウ! もらったものぺってしちゃだめにゃ!」
む、殴るのか? 止めるぞ? 殴らなかった。
ゼラ「なんてうらやましい!」
?
レガリア「!?」
彼はゼラを信じられない顔で見たな。
ギャレス「うえっ、ばっちいな! 獣か!」
ああ、そういうことか、嫌がられてるのだな。
今度はもっと素早くやるか。
先程からモードがミウを調べているな。
「にゃはは、おなかくすぐったい」
モード「うーん、毒の再発や広がりもありません、完治したようですネ、ミウちゃんは無事治りましたネ、ルーナさんも、はぁ~、一安心ですネ。ですが神父様、一体今の歌は……あ、セレナール様っ」
ソニー「え? うわ! セレナール様!」
ギャレス「むぅ? なんだ――ひょえっ!」
空気同然に突っ立っていたギャレスのすぐ後ろにその男は立っていた。
驚きの連続の中、一行は突然そこに出現した、魔法協会会長にして、(ついこの間までは)街で唯一のエルフにして、魔道師であるセレナールの存在に驚いて見つめた。
手に持つ鈴を懐に仕舞っているな。
うるさかったのはそれか。
しかし、相変わらずすごい魔力だな。
昨日見た時より、不思議とそれほど怖くない。
慣れたからだろうか。
代りに、青い鳥が見当たらないな。
あと、今回は本物の姿で来たようだ。
セレナール「……皆、よく頑張ったの」
アリエスタ「結局、無駄足だったな師匠?」
ソニー「ちょっと先輩!」
「やかましいわい。すまんなマイケル、棚の戸を壊してしまったわい」
マイケル神父「構わないですよ、後で協会に請求しておきますから」
「なんという言い草じゃ、お主が取ってこいと言うから大急ぎで持ってきたのじゃぞ」
と言って、懐から薬の瓶らしきもの何本か、近くまで来たマイケル神父に手渡した。
どうやら、マイケル神父が叫んで頼んだ品か。
「ご苦労様でした。もう必要ないですが」
セレナールが初めて悔しそうな顔をした。
神父との話し方でわかったが、仲が悪くて、良いように見える。
妙な話だが。
その薬の一つの瓶から、強力な魔力を感じる。
多分、私が何かしなくてもちゃんと間に合っていたのかもしれない。
セレナール「請求はするでない、こいつを持って来てやった手間賃じゃろうが、逆に儂をこき使った派遣料金でも頂いておきたいくらいじゃ」
私「……師匠も金にうるさいんだな」
アリエスタが金金言うのは、彼の癖が移ったのではないだろうか。
ついでに言うとマイケルも同じ種類な気がする。
あっ。
今声に出してしまった気がする。
いかん、疲れているのか、しっかりしないと。
アリエスタ「あー! おまっ、言ったな!」
「うぉ」
やめろ、身体をガクガク揺らすな。
ソニー「ル、ルーナさん!?」
ビクター「え? 今のルーナさんが言ったの?」
セレナール「……」
恨めしそうに睨まれたぞ。
マイケル神父「はっはっはっ! おもしろいことを言いますねぇ彼女は。当たってます」
その日、街中でどこからともなく遠くから歌声が響き渡った。
それは誰にも聞こえた。
室内に、地下室に、夢の中に、仕事中や、痛みや、苦しみの中で、それはわずかに、少しずつ何かを癒したといいう。
それは空気を通してというより、空間自体に響いたようだった。
落ち着いた後、今度こそ本当に私たちは下水道から出たのだった。
ギャレス(しかし、“濃縮毒”の威力はすさまじいものがあるな、ふふん)
「……」
私は奴のささやきを聞き逃さなかった。
あの毒の名を聞いたのは、スライムプールにいた私達だけのはずだ。
読んでくださりありがとうございます。
干し肉(荒塩仕上げ)値段は張ります。




