73話 プール
スライムの湖に落ちた。
リゾット「くっくっくっ、ざまあみろ!」
まんまと罠にかかったか。
あんなに強力な酸の蒸気銃? を出してくるとは、油断できないやつだな。
濃縮毒とやらみたいに“この池《毒スライム》”いや、あの崖の巨大スライムから採取したのかもしれない。
酸だったから。
左太腿に食い込んだ球から血が流れ、緑一色の毒の湖の中にかき消えてゆく。
ドポドポンッドポオンッ!
ブズズウンッ。
次々落ちてくる溶解し崩れ落ちる瓦礫の塊。
この毒スライムの湖は、そいつらだけじゃなく毒の水で溢れていた。
落ちた際、毒スライムの集団の間に潜り込むように沈んだ。
ここに落ちた時にああなった盗賊のように、まとわりつき毒に浸らせて、そして酸で溶かして食うのだろう。
私はどれだけ持つだろうか、さっさと脱出しなければ。
以前のスライムの体内と違ってかろうじて動けるが、今回はいきなり毒の水の洗礼? を受けた。
酸によって溶かされる痛みとは違い、さきの罠の通路の毒煙のように、身体中をじわじわと蝕む痛みがやってくる。
毒スライム「……」「……」「……」「……」「……」
そして身体中に触れていた毒スライム達が、餌だとわかったのか、まとわりついて来た。
――ftabesmono――dsdjaesada――。
いけるか?
ギリギリだが、吸い込んでいた空気を、魔力を乗せた咆哮として放った。
失せろっ!
(ッガボアアァっ!!)
毒スライム達――……ッ! Жgalj×geljヤッ¶ad§ダッ――。
?
何かやはりさっきから耳の奥に――。
毒水中の中で吐き出される空気の泡と共に、前よりよく視える、魔力を伴った衝撃波が周囲に放射される。
毒の海を振動させ、スライム達は慌てて離れていった。
動かなくなったのは気絶でもしたのだろうか?
うまくいったぞ。
装備の重さで沈み、底に足がつく前に踏んだ瓦礫塊を足場にして、痛む左腿を無視し、全力で跳び上がる。
ダッジュボボォッ―――ドバチャアアアッ!
「っぷは――!?」
なんと、大毒スライムが触手の手を広げ待ち構えていた。
やはりこいつ知能? が高くなっているのか?
両手に抜いた最後の短剣を、身体を回転しながら連続で斬りつける。
――グギィンッ。
なにっ。
触手の中に溶け残った盗賊の曲剣があり、一部、切り取れずにいた。
細い触手は斬り刻まれ海へ落ちてゆくが、効いているのかはわからないな。
直ぐくっついたり治ったりするのだろうか。
ヒュオ――そして落下しながら、素早く視線を動かし状況を観察する。
触手を伸ばした本体が水面からせり上がったまま、その巨体を蠢かせている。
あれ以上大きくなるのだろうか?
あの巨大酸スライムの半分以下の大きさだが、最初湖面から飛び出した時より大きくなっている気がする。
水面から下の体表に視線をやると、奴に触れる毒スライムが、取り込まれて行っているな。
更には、身体から次々と触手を伸ばしている、何だ?
何をしている?
取り込むのを増やしているのだろうか?
奴の魔石はあそこかっ。
中央に、魔力が集中している。
だが、遠い。
それに弓を構える前に、毒水面に落ちるな。
“ぬめって”ちゃんと飛ぶのかもわからん。
毒で体中が腫れたように痛いのだが、あとどのくらい潜っていられるだろうか。
すぐにでも湖から突き出た瓦礫に上がらなければ。
ドプ、すると、大毒スライムの水中にある下部が、潜ませ伸ばした触手を水中から上げた。
落ちる私を受け止めようと毒スライム達を押しのけ、せり上がって来た。
むぅ、やるな。
両手の刃を構える。
その時。
大鷲のアリエスタが盗賊共が撃ち飛び交うボルトを避けながらも、横から突っ込んできた。
『むううぉぉぉ、ほっておきをひへてひゃるへえ!!』
なんだって?
ルッコを咥えていて言えてない。
彼のうるうるした目と目が合った。
おい、ぶつかるぞアエリエスタ。
「っ! ――?」
激しい衝撃が来る、と思ったが、違った。
何かに、飲み込まれた。
なんだ?
見れば大鷲が変化し、大きな水球へと変わっていた。
三人の子供達も一緒に水の中に入ってて、気が付けばルッコとやらが腕の中にいた。
空中にさわやかな青い水球が出現し、私達はその内部に浮かんでいた。
リゾット「おいっ! 何だそりゃあさっきから!? 変化術か!? 何だってこう、俺の邪魔ばかりしやがるんだ!」
アリエスタ(とっておきをみせてやるぜえ!)
響き渡るような声が水球中からする。どこからともなく聞こえる。
ああ、さっきはそう言っていたのか。
ここは、アリエスタが変化した中なのだな。
ボルトが一本飛んできて、水球にめり込み止まった。
(痛ってぇ!)
痛い?
そして水球は取り込んだ私達の重さも含めてなのか、緑の毒スライムの湖へ落ちる。
ドッポオオオオオオンッ!
だが、奇妙だ。
水球の中にいる私達は漂うようにしているが、水は入ってこないし、“息ができていた”。
チャプ、手を動かしながら見ると、水が私たちをよけている。
まるで体の表面に空気の膜ができているようだった。手に持つ短剣の刃もだ。
ミウ「おみずのなか? にゃんで?」
フィン「息できる! にゃんだこれ? 溶けにゃい?」
ルッコ「うう、何これぇ? 鳥さんはー?」
皆無事なようだな。
「これは?」声が響く。皆のもだ。
抱き着きあって、狭い中で喋ってるからか。
見るとこの水球は動いているな。
スライムみたいに。
上の部分は毒スライムの湖面から飛び出ている。
そして、回りの奴らは反応していない。
あ。
これスライムなのか?
水球じゃないのか。
(お察しのとーり、スライムでござい。まだはっきりとわかんねぇけど、こいつら仲間と勘違いして、盗賊共の方に行ったぜ)
確かに、大毒スライムはしばらく蠢いた後、リゾット達に向かって進む。
手下「お、親分、こここっちに来ますぜ!」
リゾット「くっそお! ふざけんなぁ!」
「中から矢を撃っていいか」
朝から激しく動いていたが、弓の状態は問題ない。
(どっちに!? ていうかちょっ待てルーナ、“解毒”かけるぞ。あとその足の球、ほじくり出せねえのか? そのまま治療掛けたら中に埋まっちまうぞ)
む。
そうだった。耐えられるからと無視していた。
ズグッ、短剣を傷口に差し入れ、埋まった金属球をえぐり取る。
ルッコ「ひょええー」
フィン「ミウは見ちゃダメにゃ!」
ミウ「みえにゃい!」
む、刺激が強かったか。
ルッコがブルブル震えている。
というか、この子らのアリエスタとはまた違い声はくぐもっている、水中だからか。
(お、おいリスっ子! 頼むから俺の身体ん中で“ちびる”んじゃねぇぞ?)
「っ、いいぞ」
なんだか閉じ込められてた穴の中でしゃべってるみたいだ。
あと痛かった。
金属球を(いつもの回収癖で)鞄にしまう。
手を伸ばし開け仕舞うまで、水が避けてくれる。
(おっし、魔力は変化できつかったけどまだなんとかあるからな)
む、これは治療だろうか、柔らかな光が左腿に集中し、傷が治ってゆく。
そして、次はわかるぞ、解毒の魔力の流れだな。
同じように私も流して見たら、できるのだろうか?
身体中を蝕む痛みが消えてゆく。
治った。
そういえばこの中には毒は入って来ないのか。
「助かった。お前は毒の水は平気なのか?」
(一応罠通路と同様に水泡で包んでいるんだぜ。てゆうかきちいからやつらの“ドアんとこ”に突っ込むぞ! もうそんなにこの状態でいられねぇんだ)
なに。
リゾット「ふーふーっ、ほら、あっちへ襲いに行け! バカスライムがぁっ」
奴が何か言いいながら、手に持つ“煙を出す何か”に息を吹きかけている。
そして、それをこっちに投げて来た。
煙の出る袋のようだ。
何だ? はたき落とすべきか?
しかし、スライム内で上手く動けずに、見送ってしまった。
水面から出ているスライムアリエスタにポスンと落ちた。
「うぅっ!?」
(なんだこりゃ? うっわ臭っせぇ!)
ああ!
この中に居るのにいきなり感じた! 臭い!
フィン「ふにゃあ!」
ミウ「くさいにゃ!」
ルッコ「臭いよぉ!」
皆もか。
すごく強い魔物の臭いがする、なんだ?
たくさんの、いろんな魔物の臭いが袋の中からする。
燻して? あるのか臭い煙が出ている。
まさか。
融合スライムが臭いにものすごく反応し、進路を変えた。
いや、周りの全ての毒スライムまでもが一気にこちらに集まって来た。
(マジかよ!?)
「いかん、投げ返せ――」
その瞬間――ヒュボッ、ボスゥンッ!
袋が弾け飛んだ。
中身をぶちまける。
たくさんの小肉片や素材、様々な匂いの元だ。
中から破裂したのか!
火か何かが点いていて、最終的に火元が破裂したのだろうか。
(くっそ痛ぇ! “爆裂茸”入りかよボケ!)
爆裂、茸?
リゾット「くっくっくっ、見たかぁ! さぁクソ共を殺せぇ! 俺様のジャイアントスライムぅ!」
(あいつ絶ってぇーコロス!)
フィン「姉ちゃん、にゃげ返すの、無くにゃったにゃ!」
ミウ「ねぇ、これ、ありゅえしゅたにゃの? とりさんも? まほう?」
ルッコ「あぁっ来るよっ、おっきいスライムが来るよー!」
(アリエスタな! そうだよ俺だよ! 魔法魔法! っておいルーナ! あのスライムをやっちまってとっとと出ないともう変化がやばいぞ!)
「上に出してくれ」
弓を撃ってみよう。魔石の場所は見えないが、わかっている。
最悪、前みたいに突っ込んで刺し壊す。
あぁ、長剣が恋しい。
読んでくださりありがとうございます。
変化し、中に居るものを空気膜で呼吸を守り、周囲に毒除けの水膜を展開するという合わせ技、おまけに治療魔法と解毒魔法もかけてみせる。
ほんとに天才なのかもしれません。
追い込まれると色々発揮し出すのでしょうか。
※補足するとほぼ全て得意な水属性の魔法です。




