71話 緑の湖
リゾットは猫屋の幼子達を猫質にとり、ルーナ達を弩で狙い殺そうとし始める。
「ええいくそっ、ちくしょうがぁ! 妙な威圧なんぞかけやがって、俺様を完全に馬鹿にした罪を償いやがれ。動くなよぉ?」
弩で狙うリゾット。
アリエスタ「チッ、うっぜーな (ボソボソ……)」
背後で彼が作戦を話している。
手下たちは壁に刺さりめり込む小剣を引っこ抜こうとしているが、ビクともしなかった。
「うるせえぞお前らっ! 集中できねぇだろが!」
おまけにバランス? を崩し、不安定な崩れた足場から落ちかけて騒ぎ頭目に怒鳴られていた。
「毒のスライムにさっさと飛び込めなんて甘いことは言わねぇ、どこまで耐えられるか的当てゲームといこうやイカれエルフ」
げえむ?
「当たればな」
さっきから周囲のスライム達の様子がおかしい。
妙に落ち着きのない気配を感じる。
この瓦礫から、離れている?
「おいっ! もしよけたら猫ガキの指をへし折るからな!」
ミウ「るーな! はやくやっつけて!」
フィン「にゃあんっ! やだあ! 姉ちゃあーん!」
アリエスタ「ってめ殺す!」
いいから作戦の続きを話してくれ。
「……大人しくするから、子供たちを解放すると約束しろ」
「あぁん? ……ああ、いいぜ、このリゾット様が約束してやろう。手足の一本や二本は折れてるかもしれねぇがなぁ? くっくっくっ。そうだお前ら、小娘がボルトでそのままおっ死ぬか、それとも立ってられなくなって池にドボンか、どっちか賭けようぜ」
手下達「いいっすね親分!」「そりゃあいいや!」
ドヒュンッ!
弩が放たれ、ボルトがルーナの右耳をかすった。
「おい! 今よけ――『よけてない、ちゃんと狙え』――……チッ」
ミウ「にゃあ! るーなっ! よけてっ、あぶない!」
フィン「避けたらだめにゃの! びええーん!」
「大丈夫だ。必ず助ける、一緒に帰ろうな」
???「……だもん」
む。
例の子供がとうとう私達に気が付いたか、起き上がって泣き腫らしたつぶらな目でこちらを見ている。
これだけ騒いでいればさすがに気が付くか。
連中の戸口の左の壁に倒れ掛かった大きな瓦礫のてっぺんに居て、私達を、丸めた尾の下から恐る恐る見ていた。
リスの獣人だろうか。
ああ、ふさふさの正体はやはり尻尾だったんだな。
リスの子「嘘だもんっ、ここを見ちゃったから、“もくげきしゃは生かしちゃおかない”って言ってたもん!」
ミウ「あっ! ルッコだ!」
フィン「ルッコ? ルッコっ、助けに来たにゃ!」
アリエスタ「いやいやお前ら捕まってんだろ! あとやっと気付づいたんかルッコっての! そんでやっぱり生かす気ないんかよ!!」
ほう、鋭いな。
リゾット「うおっ!? なんだお前生きてやがったのかリスガキ!?」
手下達「あんな所に居やがる!」
――アリエスタの視点――
彼女の背後、半身に満たない背のアリエスタは、口元を連中から見えないよう位置取ってルーナに話しかけていた。
(……と、言うわけよ、お分かり?)
ルーナが首をわずかに横に振る。
だめだ、わかってねえ。
どーもこいつは物を知らないとこがあるな。
あとリスっ子が気付いて警告してくれたな。
だろ?
こんなもん見せて生かして帰すわけねぇよな。
衛兵が全員押しかけてくるぜ。
ボルトがすっ飛んできてルーナの腕に思い切りカスって肉をえぐった。
俺の頭の上をだ!
「うわっ! おい! 気を付けろこら!」
「うるせえクソチビ! 大人しく順番を待ちやがれ!」
手下達「チビでよかったじゃねぇか仲良く貫通してたとこだったぜ」「がははは」
チッ、殺す! ぜってー殺す!
マジで下衆野郎共だな。なぶり殺しにする気まんまんじゃねぇか。
(だからぁ、スライムが暴れ出したらとにかく投げてくれりゃあいいんだよ、その後はどうにでもなんだろ俺達なら)
ルーナ「……コク」
少ししてわずかに頷いた。
でもまだちょっとわかってなさそうだな?
よし、早くスライムが暴れてくれねぇとルーナがハリネズミみたいになって動けなくなっちまうぞ。
時間稼ぎするか。
「おい! リゾットさんよ! このスライムの湖は一体何なのか、俺達を殺る前にそんぐらいは教えてくれよ! 気になって“アンデッドになっちまう”ぜ!」
お、しめしめ、撃つのをやめやがった。
「ああん? それもそうだな。くっくっくっ、“冥土の土産”が欲しいってか。そうだなぁ、ここはよ、俺様自慢の“スライム養殖場”なんだよ。馬鹿なてめえのとっから盗んだ薬と、“あるお方”から頂いてる薬を混ぜて、出来上がりさ」
へいへいそーですか。
誰が馬鹿だ、まんまと見つかったくせにバーカ。
あのお方とかヤバそうなことをべらべら喋ってやがるな。
一体何を話し始めやがったんだ。
チビ達が聞いてるんだけどなこの話、こりゃ約束なんて守る気ねぇで、全員殺されるか、ただの馬鹿だな。
お、そろそろか?
スライムが次々融合し始めたぜ。こいこいこいこい!
「養殖場? スライムなんか増やしたって金になるかぁ?」
リゾット「はっ、お前、見たまんまガキなんだな『俺はガキじゃねぇ!』うるせえ、世の中のことをなーんもわかってねぇよ」
カチャ。
弩が重てえのか肩に乗せたぞ。
「はぁ。しょうがねぇから教えてやんよ? このリゾット様お手製の“第三養殖場”はなぁ、毒スライムを増やしたんだよ? わかるか? 毒だよ毒? てめえらがここまでぶっ壊して来てくれた毒罠の毒!」
リゾットは手を振りスライムの池を示す。
手下「お俺が集めた鼠を全部やっちまいやがって!」「大変だったんだぞこらあ!」
あの馬鹿どもまだ剣引っこ抜けてねーでやんの。
「うるせぇ! 俺様にしゃべらせろ! わかんねぇだろうなぁ? 文字通り半人前の冒険者程度にゃあ、闇の世界の需要ってもんが」
何だとこの野郎。なーにが闇の世界だボケ。
ん、待て。
「は? 毒なんて、売れんのか?」
まじか。
このスライムの湖が金に見えて来たぞ。
やべぇ、ルーナが睨んでる。
(もう少しだって、時間稼いでんだよ!)
「おい! 聞いてんのか! 目上の者にする態度じゃねえぞこら、ったく。当たり前だろぉが、逆に売れないと思うか? お宝なんだよこいつは!」
「いいか? あの方に従ってこそこそと微々たる報酬をもらってるだけじゃあだめだ、俺みたいなチンケな盗賊は使い捨てにされんのがオチなんだよ」
なんだなんだ。力説し始めたぞこいつ。
「だから頂いたこの“変異丸”をよ、“湖にばらまくスライム”なんぞにちまちま全部使っちまわないで、バカ魔法協会に“誤発注させた”増幅薬で、大量に薄めて増やして、俺様だけのスライム養殖場で使ってやってな? 老後の為の蓄財を――何だ?」
誰だよあの方って。知らねぇっつうの。
なんか取り出して見せて来たな。鼻くそか?
遠くて見えねぇよ馬鹿。
馬鹿がベラベラ自慢しやがって、“湖にばらまくスライム”に使ってるだ?
何言ってんだこの三下の盗賊野郎は。
普通に上のやつの眼え盗んで勝手なことしてねえ?
ってかなんであいつが発注間違いを知ってやがんだ。
させただ?
おいまさか――あ、合体したスライムがとうとう動き始めたぜ。
――――
キレそうなところに、急にアリエスタが小声で作戦を言ってきた。
内容がちょっとよく分からないが。
おかげで熱くなっていたのが目が覚めた。
子供達をさっきの男ような目に合わせまいと、冷静さを欠いていた。
感謝するが、リゾットはもはや生かしては帰さん。
ガストンが言っていたように、逃がした先で、別の犠牲者が出るから。
奴は弩で私を狙う際に、猛毒の小瓶を大事そうに外套にしまった。
子供達を湖の上へと手をやっていた手下は、(手が)疲れて戸口に戻り、兄妹を捕まえたままその手を降ろしていた。
ボルトが飛んで来た。
下手くそめ。
よけてないぞ、ちゃんと狙え。
“耳はわざとじゃない”、勝手に動くんだ。
手下共は私の小剣を抜こうとして諦めたり、リスの子供に石を投げて落とそうとしていたが、あの子はずいぶん賢いようで、素早く避けて当たらない位置に隠れた。
ルッコという名なのか、よく生き延びていたな。
この子の鳴き声を聞きつけてここまで来たのだったな……。
天井の穴からわずかに漏れる光、ああ、そういうことか。
さっきはこの上を歩いていたのか。
しかし、興味深いことを次々とリゾットがしゃべっているな。
冥土の土産とやらを子供達も聞いてしまっているが、ちゃんと帰してくれるのだろうか?
怪しいな。
決定的なのは“変異丸”とかいう代物だ。
ほぼ確実にあの方、ボス様、とかいう言う奴の正体が“黒衣の男”だとわかったぞ。
この街のボスのケイラッドに教えてやろう。
あれは変異をさせるあの肉塊と関係してる薬に違いない。
アリエスタはまるでわかってないようだが。
前は話しの途中で変化して助けを呼びに行ってくれてたし、ゴブリン関連の話はそもそもしていなかったな。
養殖場、まさか、あの崖下の巨大スライムもそうだったのだろうか……酸でも採っていたのだろうか。
毒が売れるという話にアリエスタが食いついた。
金目の話に目がないなこいつは。
まぁ私も少し驚いたが。
毒を買う奴なんているんだな
別に睨んでいないぞ、お前のしょっちゅう変わる表情が面白いから見てただけだ。
またボルトが飛んで来た。
痛い。
腕にかすった。
そうしていると、木箱の中身の影響で、スライム同士がくっつきあって、魔力が集中し大きな一体に融合、した。
これは変異とは違うのか。
だが、こいつらは元々変異丸を薄めて増やしたとか言っていたようだが。
大スライムが、スライムの湖から噴き出るように蠢きだした。
場所は奴らの足場に近いな。
今か?
よし。
やるぞ。
アリエスタを掴んで、思い切り連中の方へとぶん投げた。
読んでくださりありがとうございます。
それぞれの視点でスイッチしてみました。




