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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
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67話 朝の組合

 大羽蛇をぶら下げて組合に向かう。


 ベル「~~♪」

 道中、猫の兄妹に褒められて終始ご機嫌な彼女に、兄妹と何か話していたので聞いてみた。

 内緒らしいが。


「えっとねー、猫屋さんの裏のねー塀にねー実は穴が開いててねー内緒だよ?」

「わかった」


 長い話をまとめると、裏手を行くと臭い地区があって、そこで友達とよく遊んでいるそうだ。

 そのあたりで地下の穴を出入りする“怪しい連中”を見たらしい。

 もしかしてそれは朝に言ってた悪い奴のことか?


 それに地下の穴?

 洞窟があるのか街の中に。


 ビクター「うーん、それ、“下水道”の入口じゃないかな。あんまり近づかない方がいいですよ、“ごろつき”が多い地区ですから」

 ソニー「“治安”が悪いとこだよねお兄ちゃん」


 下水? ごろつき?

 兄妹の説明によると、汲み取った糞尿を捨てる専用の下水という人口の川があり、それが行きつく場所が地下にあるらしい。

 ごろつきは悪党のようなものらしい。


「言い過ぎじゃないかなお兄ちゃん、不良はそうだけど、だってギルドの男の人っ達だってさぁ……」

 あぁ、ああいう乱暴な連中のことを言うのか。


 ビクター「あと、“冒険者くずれ”って、先輩が言ってたような?」

 くずれ、か。


 彼が示す先に、その川があった。

 民家の間に、人口の小さな谷と川がある。“下水溝”と言うそうだ。

 ちょっと臭うな。


 ビクター「モッカ湖は実は二つあってですね、小さいほうが下水を奇麗にする為に使われてて、そこにスライムを放って浄化してるんです」

 うん?


 あっちの方です。

 と彼は指示した。西の方か、畑もあると言っていたな。

 猫屋から更に行った方向だ。


 ソニー「ロッカ湖ですね。水はそのまま畑に使ったりもしますよ。水教会では薬草とかを栽培したり。あっ故郷の村でも同じことをやってました、小規模ですけど」

 ほう。


 ベル「それでねー、きーてるるーな? いつも遊んでる子がねー、最近いないんだってー、引っ越しってなあに?」

 ああ、ちゃんと聞いてる。

 確か、すみかを移ることだと思うぞ。


 げすいどーのことはちょっと難しかったが。

 糞尿とかスライムの浄化とか。



 そうやって話していると組合に着いた。


 入ると、まだ早いようで、人が少ないな。

 だが依頼書を見ている者達はいる。

 これから受けて出かけるのだろうか。


 ガストンはまだ来ていない。


 職員に話しかけ、街にこいつが出たと手に掴んでいる蛇を見せると、すぐモードを呼んでくれた。


「あらおはようございます。朝からまた何か起きて、そしてあなた方が遭遇するとは、やはり“持ってます”ネ」

 スチャ。

 鼻先に着けてる小さな“眼鏡”を持ちながら近づいて眺めた。


 ?

 ああ、そうだぞ。

 “蛇を持ってる”ぞ?

 ビクター(“運”とかのことだと思うなあ)


 死骸はそのまま調べるからと、代金だけをもらった。

 焦げた臭いの件は報告した。


 モード「ふむ、奥地の大羽蛇が人の集まる場所に飛び込むなんて? 体内の異常のせいですかネ……」

 そう言って蛇の口の中を調べていた。



 報酬を皆で均等分けした。

 ベルにもだ。


「やふーー! ……」

「あっ」

 ヒュイインッ。


 硬貨を受け取り喜んで外に飛び出したので追いかける。

 どうやら行きに見かけたまだ空いてなかった出店が気になるようだな。


 どこへ行くか聞かれ、出店のところだと答える。


 ギィ。

 ガストンを待つ間、依頼書を見ておくと言う兄妹と離れ、私はベルについていった。


 すぐに戻るつもりだった。


 ザワザワ……外の大通りに人が増えて来たな。

 冒険者「ヒュウ♪ よぉ姉ちゃん」

 出店もそろそろ始まるだろう。

 蜥蜴人「エルフ様」

 少し行ってすぐの場所だ。


 街人「なんだよ今のちっこいの!?」「使い魔じゃないか?」

 大通りを真っすぐ言って曲って左だ。

 左は猫屋だ。


 間の股になってる道で、それは聞こえた。

 

 こちらを呼んでいるような、子供の泣き声だ。

 遠いな。


 丁度、民家の隙間の路地裏の前に立っていたから、そのはるか向こうから風に乗って聞こえたのだろう。


「……」

 ベルが気になるが、強くなってきているし、滅多なことは起きないだろう。


 私は鳴き声を探すことにした。



 しばらく行くと、匂いがまず変わった。

 途中で区画ががらっと変わったのは、小川を渡ってからだ。

 糞尿やごみや、不潔な環境のようだな。

 民家もぼろくなり、地面も石畳から荒地に変わった。


 ちゃんと確認するが、街壁内だ。

 日当たりも悪く、空気も荒んでいる感覚だ。

 傾斜が低くなり、どぶの臭いが強くなる。


 すれ違う人々や、戸口に立つ街人の服も大通りとはまるで違うな。

 痩せている者が多いし、不健康そうだ。

 だが、目付や仕草には、たくましさを感じるな。


 座って微動だにしない老人は……大丈夫だ、生きている。


 家々の中は人で密集している。

 一人で住む者はあまりいないようだな。


 ここは恐らく貧困地区、というものなのだろう。


 暗がりや、隅や端っこに潜む幾つもの小さな影達が、いじけるようにブツクサと、ぼやくように更なる影を吐き出している。

 吸い込めば同じようになってしまいそうだ。


 誰もが私を見て驚いているな。



「……」


 そして、“後を尾けてる者”は、一般人じゃない。

 あばら家の向こう側の路地も、私と並行して歩いているのがわかる。

 敵意が多少あるな。


 少し行くと空き地だ。

 何の用か聞いてみるか。


 近くなった泣き声は、その向こうで聞こえる。

 急いでいるんだがな。



 ザリ。

 空き地に着いて振り返る。

「何か用か?」


 タ、ザ、スタ、カチャ、ズズッ。

 こいつら全然忍ぶ感じもせずに尾けて来たな。

 余裕なようだが、もの凄く隙だらけだ。


「やぁこんにちはお嬢ちゃん、ちょっとおじちゃん達ん家でお酒でも飲んで遊ぼうかい?」

 まだ朝だぞ。

「へっへっへっ、こりゃあ~おったまげたなぁ、とんでもねえべっぴんじゃねぇか」

「あ、あにき、えっエルフですぜ」

「んなことはわかってんだよぼけが」

「変な眼してやがるな、ハーフかなんかか?」

「ずいぶんたくさん持ち歩いてんなぁ」


 話す二人と、遅れてさらに二人、なんでもない通行人のふりをしてた奴らだ。


「おいおい、お嬢ちゃん、危ないじゃないか、そんなすべすべの太もも見せつけてこんなとこ歩いてちゃあ、おじさん達にイタズラされちゃうよお?」

 ?

 肌は見せていないぞ、丈夫な下履きだが、何を言ってるんだろう。


「しっかし馬鹿女の旅人だよな、辺境の掃きだめだぜここは」


 ふむ、旅人、そうか、街の女たちは確か、長い“スカート”だったな。

 私のこれはパンツと誰かいって言った。だからか。

 女は足を見せないものなのか?

 いや、モードや女の冒険者は私と同じだが。


 馬鹿女に、辺境の掃きだめか。


「おいっ! どう見ても冒険者じゃねぇか、本当にやんのか?」

「馬鹿野郎ぉこっち何人いっと思ってんだ。見せかけに決まってっだろあの装備全部」

「か細い亜人女一匹に何ビビってんだ。だからてめえぇはダメなんだよ、全員で組み伏せりゃ関係ねえっ」

「ああぁ、興奮してきちゃったぜ俺」


 左の通路からも四人来た。

 裏路地にいた連中か。全員人族だな。


 ああ、挟まれたのか私は。

 通路を塞がられると、ここは行き止まりだ。

 上に飛べばいいし、弓でも狙えるが……。


 すでに抜剣しているな、欠けた短剣、短剣、棍棒、短剣、細身のハンマー、木の棒――警棒か。組合の男達も持っていたな。

 後は素手が二人だが、指に“何か”持っている。


 その短剣をひらひら振ったり、利き腕の逆に持ち替えたり繰り返すのは、何か意味があるのだろうか?

 “見せかけ”とやらは、目の前のこいつらのほうみたいだ。

 あと、私より馬鹿っぽくないか?


「おい小娘、痛い目にあいたくなきゃ武器を全部よこしな、命だけは取らねぇでおいてやるよ」

「ひひひこの後ボロッボロになるけどなぁ」

 八人か。


 冒険者のようだが、見かけない顔ばかりだし、盗賊にも見える。

 どっちだろう。

 そして、連中《盗賊》よりはるかに弱そうだ。

 顔に傷跡のある“警告した男”だけ、ほんの少しやりそうだが。


 どういうことだろう。


 こいつら多分、王蜜蜂より弱いぞ。


 長剣をなくした身で小剣や短剣も矢も抜かずに、握った拳を片方で触り、硬さを確かめ考える。

 一人が指に付け握っている、武器らしき金属が気になるな。


 連中の妙な視線も気に食わない。

 街人やゼラからもたまに感じるやつの、さらに悪く、強い感じの。

 

 わかったぞ。

 こいつらがごろつきという連中か。


 そして多分、私を乱暴? するつもりのようだ。

 ソニーと“小用”や二人きりの時にしつこく女の世界と危険性を叩きこまれたから、そういう知識? はある。


「一応言っておくが、攻撃して来るなら容赦はしない」

 パキッ。

 触っていたら指の中の骨が鳴った。


 装備、鞄の重さがある状態で、拳で立ち回る覚悟を決め、構える。

 外して置いても良かったが、ずっと身に着けたまま戦っているからあまり違いはない。


 連中の一人が息の飲んで少し下がった。


「舐めてんじゃねえぞこらあ!」

 ダッ!

 一番活きの良さそうなのが反応する様に襲い掛かって来たが。


 振り上げた短剣を隣の奴の腕に刺してしまったり、他の奴らも、揉み合いになりながら数人突っ込んできた。


 これはだめかもしれん。


 ガストンの足さばきを思い出しながら、三方向からの敵を相手する。

 遅い。

 喉、鼻、顎をそれぞれ弱めに殴った。


 全員あっという間に崩れ落ちたな。

「ひっひえええ」

 二人逃げた。

 一人は傷の男だ、後三。


 一人が背後に回り込んで囲んで来る。

 手前の一人が突き出す短剣を無視し、その腕を掴んでそのままの流れに乗せて、背後に投げてみた。

 バキャアッ! ドサアッ。


 軽々と飛んで行ったな。


「うわあ! なんだあ!?」

 中の住民が驚いている。

 

 背後の男に当てようとしたが、すぐ横の民家の壁を突き破り見えなくなった。

 軽すぎないか?


 手前の残りの一人がよそ見中の私の後頭部に細身の槌を振り下ろすが、見ずに受け止め、弱めに腹辺りを蹴る。

 だめだ、振る力が弱すぎる。


 受け止めた槌を置きざりにし男は吹っ飛んでいった。

 最後まで見ていないが、多分小川の方まで飛んでって落ちた。


 私はずっと、穴の空いた壁の横に棒立ちで、震えあがりながら小便を漏らす男の、手にしている武器を見ていた。


 手に収まる金属製で、穴が作られていて、指をそれぞれ通して握っている。

 殴る際に衝撃から指を守る為だな。


「なぁ、その武器はなんて言うんだ」


 かろうじて意識のある男達がうめき声を出す空き地で、私は壁に追い詰められるようにして、小便を漏らして震える男に問いかけた。。


「ひっ、けっ、けけけ“拳当て”、っでっす」

「着けてみてもいいか?」


「はははひ」

 カカカチャカカカ。

 震える手でなんとか外そうとするが、中々抜けないようだ。


 焦って引っ張ってる。あ、外れた。

 手渡しする際に落としてしまう、が、サッと手に取った。

「ひひいっ!」

 ちょっと怯え過ぎだな。

 

 そして、拳当てとやらは見た目より重いんだな。

 着けて見て、もう片方に持つハンマーの鉄の柄を本気で殴ってみた。

 バキンッ!


 ドグッ!

 地面に折れたハンマーが思い切りめり込んでった。

「ひひい!? ひいぎゃああああ!」


 不安定なやり方だったが見事に折れたな。

「あっ」


 返そうとしたが、逃げていった……仕方がない、このままこの拳当てとやらは頂いておこう。

 うん、仕方がないからな。


 手に持つ、半分になった柄を放り投げた。


 これはとてもいいものだ。

 今なら王蜜蜂を崖穴の向こう岸まで殴り飛ばせそうだな。


 ちょっと臭うが、倒れた連中から戦利品を取る。

 金はあまり持ってないな。それに少し臭うぞ、硬貨自体も。

 

 しかし、魔物も倒せそうにないぞこいつらこれでは。

 恐らく、港の漁師達より弱い。


 連中の言動から考えると、多分この武器は、更に弱いものに向けるためのものだろう。

 なんて連中だ。


 連中の武器を全て奪い取っておく。

 認識票も取っておくか。

 モードに見せてやろう。


 穴の空いた民家をのぞいて、奥で小さくなっている猫人族の住民に見せた。

「壊してすまない、これで弁償? する」

「ひっ」


 動かないので、手前の卓に硬化を全部置いた。

 ……怯えさせてしまったか。

 


 泣き声の方へ向かわねば。


 読んでくださりありがとうございます。

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