66話 異変
食事の礼を言い、金を払って猫屋から街路樹通りに出て、冒険者組合に向かう。
ビクター「いい天気ですねー、涼しいし」
ソニー「うん、あたしこの季節が一番好きかも」
ベル「気持ちいーね! げぷっ」
ガストン曰く、今は四つの季節の、夏とやらを過ぎたあたりらしい。
一つの陽がこれから昼の高さへと昇っていくのだろう。
当たり前なのだろうが、二つの月がどこにも見当たらないな。
うん?
「あれはなんだろうか」
前に言っていた竜か?。
ビクター「へ? うん?」
ソニー「ルーナさん、見えないです」
眩しいので手で陽光を隠してよく見ると、こちらに降りてくるな。
梟より少し大きいくらいだろうか。
飛び方がおかしい、ちゃんと飛べずに落ちようとしてるみたいだ。
ビクター「あっ! 魔物だ!? あれ“大羽蛇”だ!」
ソニー「え? なんで? 街には近づかないはず」
ふむ、名の通り、蛇の細長さに大きな羽と足がある。
人の拳くらいの大きさを丸呑みできそうな口と、牙が二本あるな。
もう猫屋のてっぺんぐらいの高さに降りて来た。
奴を見かけたのか、街人の悲鳴が聞こえた。
弓で狙っているが、不規則に暴れ飛んでいて難しいな。
外したら飛んでった向こうの誰かに当たるかもしれない。
大羽蛇「……ジュアァッ!」
動きが妙で、襲いに来たと言うよりは、苦しみ落下している感じだ。
ビクター「あっ、ルーナさんだめです! 奴は毒があって、飛び散る血も毒です! ソニー!」
なにっ。
彼女が詠唱してるな。魔術でやるのか。
斬ってもだめだろうか、なら、捕まえて叩くか。
ヒュタッ。
ベル「わっ」
奴を見上げつつ、近くの民家の屋根に上る。
ビクター「!」
良く見えるな。
むっ。
この蛇、魔力があるぞ、練り始めている。
ソニーに反応してるようだな。
彼女に向いて先割れした舌をチロチロやっている。
奴は、彼女が魔術を放とうとしたのがわかったのか?
「ビクター! 奴が魔法を撃とうとしてるぞ!」
屋根上から兄に警告し叫ぶ。
「ええっ!? あっ水魔法だ!」
そうなのか。
ガシャッ。
彼は覚えがあったのだろうか、ソニーの前に出て中型角盾を構えた。
バシャッ。
その時、ソニーが奴に向かって放った跳び上がる水球を、奴は撃ち落とすかのように糸のような水を放った。
ビシューーッ。
発動が早く、速度も良い。
奴の魔術も鋭く凝縮された一撃だった。
水球が空中ではじけ飛び、水の線がビクターの盾にガンッ! とぶつかった。
ソニー「ブツブツ……っ! まだです!」
彼女は掲げた杖と手を交差する。
弾けた水球がさっきより小さく、二つ集まって現れた。
ビクター「!?」
ジャバッ!
それに反応する動きを見せる羽蛇に向かって、両側から回り込むように水球が飛び込んだ。
ジュアアアッ!
細長い身体をひねり、躱した。
バシンッ!
「お!」
いや、一つが羽に当たったぞ。
貫通まではいかないが、弾けた箇所、被膜が少し破れた。
奴は回転して錐もみ状になり落ちていく。
だが、まだだな。
魔力がまた練られ始めた。
「また何か放つぞ!」
ベル「待ってー、ルーナ!」
タタッ、タンッ。
屋根を伝って奴の方へ飛んだ。
ビュオオオオッ。
ビシューーッ!
奴は近づく石畳に向かって口から水の咆哮のような魔術を放って、浮かび上がった。
水分を含んだ空気が一帯に突風のように広がる。
まさかこれも毒を含んでないだろうな。
バサアッ。
そして、体制を直し落ちつつも、羽ばたき上がった。
今だっ。
バキャッ。
踏み上がった足元の屋根瓦がひどく割れた。
飛び去ろうとする奴の足、長い尾に手を伸ばす。
あれ?
ヒュオオオオッ。
大羽蛇「シャアアッ! ――」
兄妹「「ルーナさん!?」」
ビュオオオッ!
奴を飛び越えてしまった。
しまった、別方向に飛んでいく。
逃げられる。
ベル「捕まえたー!」
後から飛び追ってきたベルが、奴の尾を掴んだ。
あっ! 噛まれるぞ。
何事かと振り向き、鎌首をもたげ、ベルへと口を――。
くっ、毒に構ってはいられんっ、短剣を奴に構え、投げる――。
――ベル「よいしょお!」
ビタアアアンッ!
「シャアアゲペッ! ……」
民家の屋根の少し上あたりで奴を捕まえたベルが、そう言って勢いよく尾を振り回して放すと、地面の石畳へと大羽蛇が吹っ飛んで行って叩きつけられた。
平たく潰れたようにな感じになって。
見事だ。
ガッ! ガサガサバキッ――トサッ。
「っ」
高く飛び過ぎたが、街路樹になんとかぶつかってっ短剣を刺し、枝を掴んで着地した。
ベルといい、ソニーの魔術のキレといい、これは恐らく……。
街人「キャアアア! 蛇よ! 魔物だわ! 」「ひ、人が降って来たぞ!?」
「うわっ大羽蛇じゃねえか? なんだって街に?」「衛兵は何やってんだ!」
ちょっと騒ぎになったな。
その後、近くにいた衛兵が来て警戒されたので事情を話した。
集まる住民達、猫屋の皆も出て来た。
ルークは、同僚の衛兵と話してるな。
私たちは蛇を調べた。
濃い緑色で、近くで見ると結構大きかった。
これは人の頭すら飲み込むな。
口の構造は“食べた蛇”でも見た、この顎は“見た目以上に”広がるんだ。
「ベル、見事だ」
「えへへん!」
子供も二人持ち上げたし、野党もオークだってぶん投げられそうだ。
ミウ「すごおい! すごおい!
フィン「ベルすげえ!」
ビクター「びっくりした、さっきの水球、凄いねソニー」
ソニー「う、うん、それよりルーナさんが……」
「うん、すごかったね……ベルもだけど」
スン。
蛇の開いた口から焦げ臭さがする。
魚の異変と同じだ。
それで苦しくて暴れて、こっちまで飛んで来たのだろうか?
ベル「ねぇ、おいしいかな?」
ソニー「ベルちゃん、この蛇は毒がたくさんあるんだよ」
「え~」
ふむ、調べてみたいが、解体所でした方がよさそうだ。
ビクターと衛兵が話をつけている。
どうやら街の安全、守護を担っている衛兵団と、私達冒険者の仕事とで、管轄? が混じってしまっているようだな。
倒した者の手柄だとは思うのだが。
どちらでも構わないが、上の人間に見せた方がよさそうだな。
結局、死骸を持ってって良いことになった。
どのみち衛兵団が倒した魔物は、組合と解体所に持っていくらしい。
しかし、私は騒がせたのと、住民に説明をしてくれていた衛兵に礼で魔石を投げ渡した。
蜥蜴人の衛兵は畏まってどうぞと言うので死骸を持って組合に向かった。
「ありがとにゃ~、気を付けていっといでにゃ~」
レイア達に見送られた。
親たちはこんなこともあるのかって感じで付近の集まった住民より平然としている。
だが、魔物が入ってくるのはちょっとおかしいというのはわかった。
「ソニー、見事な魔術だったぞ」
「え? あはは、ありがとうございます。私も何でできたか不思議で……」
ベル「なんかね、できそうだからやるんだよね!」
ビクター「いや、ルーナさんは出来過ぎでしたよさっきの高跳び」
ソニー「飛んでっちゃうのかと思いました」
いや、全然だめだぞ。
ベルが居なかったら逃がしていた。
体の調子を確かめてモノにしないといけない。
こそこそ。
チリン。
読んでくださりありがとうございます。




