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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
141/145

137話 隠し部屋

 その部屋は物置らしき部屋のようで、色々置いてあった。


 蜘蛛の巣が張った椅子や家具、机が所狭ところせましと重ねてごちゃごちゃとしてて、狭苦せまくるしく埃っぽい。

 灯りは机上に逆さのそれを合わせて乗せた、そこに置いた蝋燭一本だけが灯っていた。


 私達が階段から出て来たこの封鎖されていた扉のすぐ横に、穴がある。

 ヒュオオ……やはり竪穴があった。

 縄も落ちているから、多分それを使ってここに上がって来たんだろう。


 ブラッダー「ここが恐らく、倉庫の隠し部屋の、昇った先ですよね……」

 ああ。


 部屋には他に、出口らしき扉は見当たらなかった。

 だが、あそこの本棚の裏に空間があるのがわかる。


 別の向こう側にはそれらが乱暴にどけられ倒れていて、隠してあったかのように奥に木箱が開いてあった。


 蝋燭の灯を反射し、大量の効果や宝物、宝玉、金の装飾品などがのぞいていた。


 そんな隠し部屋の中央に、ヴェッサが血を流して死んでいたのだった。


 オフィーキュス「シュルっ!? ソっソんな!? ヴェッササん!」

 クリオス「ひっ! おばちゃんっ? どうしたの!?」

 駆け寄る二人。

 彼女は尾で這い、少年は怯えて躊躇したが。


 困惑する皆。

 ブラッダー「一体何が? 皆はどこに……」

 ゼラ「そんなっ、ヴェッサさん!」


 レックス「は、早く入れてくだサいっ、ソんな……ダロムは何をやっていたのだ!」

 戸口で茫然ぼうぜんと立つ皆の肩を持ち、大柄な彼も狭かった階段から部屋に入ってその光景を見た。


 ベル「えぇ、死んじゃったの? この人」


 レックス「この部屋はなんだ? 物置? いや、あの宝箱は一体?」


 一体なぜ……はっ、リゾットは水槽でオーク達をドヤした後、どこかに変異丸や研究室、奴は実験室と言っていたが、そこでかすめたものを隠し場所にしまいに行くようなことを言っていたな。


 それが、ここだったのか?


 ゼラ「あのお宝満載の宝箱見て下さいよっ、多分、盗賊か誰かの宝の隠し場所だったんじゃないですか? 鉢合はちあわせしたんですよきっと」


 彼の言う通りのことが起きたのかもしれない。


 ブラッダー「ゼラくんの言う通り、盗賊の可能性が高いですね。宝箱と付近の様子からすると、何か罠が動いて敵が来たのかもしれません」


 オフィーキュス「……ヴェッササん、何故!? ……これは、何故“この短剣”が?」

 レックス「どうシまシた座長殿」

「……まサか、いえソんなっ、うぅ、どうシまシょう……」


 クリオス「ねえあのナイフ、おじちゃんのナイフだよっ」

「もうクリオスったらっ」


 ゼラ「おじちゃん? って、あのでかい御者の人だっけ?」

 レックス「何っ、では、まサかあの人族が!?」


 ブラッダー「まぁまぁ皆さん。御者頭のテルギウスさんですよね。他の皆さんが盗賊に連れ去られたとするなら、敵が奪って使ったのでは? とりあえず今は落ち着きましょう皆さん、休んでください、ほらっ座りましょう」


 オフィーキュス「で、でも……」

「あなたが一番弱っている筈ですよね、皆さん少しでも休めることを喜ぶべきですよ」

 彼は彼女と私を見てそう言った。

 ゼラ「死体があるんですけどね」


 ふむ。


 レックス「シ、シかシ、ダロムや囚われた皆がっ」

 ゼラ「……旦那、今だけ少し休みましょう、作戦も練らないとですからね」

 彼はヴェッサの死体に寄りそう蛇の彼女と少年の傍に、拳を握りながら暗い表情で座った。


 そうだな。

「何か来たら知らせる」

 一度来て皆をさらったというのなら、もう来ないと思うが。

 ふむ。


 イイイ……。

 抜いていた魔法の剣が“妙に震える”のは、何でだろうな。


 私はヴェッサの遺体を見た。


 ……何故ヴェッサの死体から未だに“例の魔力”が感じられるのだろうか?


 もしかして、魔道具でも持っているのか?


 クリオスが知り合いの死体に衝撃を受けていて、オフィーキュスも動揺しながら抱きしめているな。

 ベルも慰めてくれている。


 ブラッダーはヴェッサを調べている。


 複雑な表情でレックスとゼラはひとまず座って休んでいる。


 地面に幾つか布を敷いてから、ゆっくりモードを背から降ろして寝かせた。

 まだ目を覚まさないな。


「ベル、何か食べておこう。おいで」

 鞄から水筒と干し肉を取り出す。

「……うん、ねぇクリオス、干し肉食べよ? 蛇おばちゃんにも持って来てあげるね」

 クリオス「……うん」

 オフィーキュス「あ、ありがとうごザいまス、ベルサん」


 ゼラとレックスは持ち合わせがないようだから、視線で聞いて、投げて渡した。

 ブラッダーにもだ。

 全員だな。


 礼を言われたが、たくさん買うのを決めたのはベルだから、彼女の手柄だな。


 ブラッダー「バキッ、ングング……むぐ、おいしい干し肉ですね……ダロムさんを守りに付けて、恐らくモード隊長は私達を探しに来たんですよね? 彼女は小柄だから、あそこの床下の換気口に潜んで、研究室までたどり着いた……」

 と言って指差した。


 お、本当だ。


 ゼラ「隊長――いやモード室長、起きないっすね……」


 何が起きたのか、周りを観察すると、埃のたまった場所と、そうでない場所がある。


 ……この足跡、リゾットか?


「埃に争った形跡と、引きずった跡、本棚の向こうに通路があるな? ブラッダー」


 ベル「はむもむ? むっむーむ! (すっごーい)」


 ブラッダー「ええ、素晴らしい観察眼ですねルーナさん、僕にも感知できました、通路の先は配置的に……魔石灯をこっちにやってもらえませんか? 描きましょう」


 彼がまた地図の羊皮紙を出して魔法の筆で配置図を書いてくれている。


 ゼラは戸棚を見ている。

 そこの扉を開閉した感じの埃汚れの跡が出来た床に目をやっている。

 彼も気が付いたな。

 やはり扉のようだな。


 レックスは宝箱を見ているが、罠か何かを警戒してか近づこうとはしない。


 イイイ……。

 ギャレスの剣がほんのわずかに、魔力を込めたミスリルの矢みたいな音を立ててるな。


 魔法の剣だからなのだろうか?

 刃部分は鋼ではないようで、どちらかと言えばミスリルみたいな銀の色合いをしている。


 ベル「……」

 彼女はそろそろと飛んで行ってヴェッサのナイフの刺さった血塗れの衣服に顔を近づけなにか嗅いでいた。

 おいしそうとか言うのだろうか。


 蜥蜴族の足跡はダロム、一番小さい靴跡はコーギーで大きいのはテルギウスだな。

 中くらいの片足を引きずったような跡はステラか?


 細めの少し小型の女の靴跡、これがヴェッサだ。

 同じ靴裏のそれを履いた足が、こちらに向いていて見えている。


 ふむ。集中して足跡や、周りの様子を見てみると、まるで何が起きたか動きや状況がわかるようだ。


 そして更に集中すると。

 壁際に落ちている血の跡、ダロムの臭いがする。


 宝箱付近で争った跡、切られて落ちている縄。

 

 遠くの気配を探ると、通路の向こう、恐らく、大きな部屋がある。


 騒がしく、水音も混じってよくわからんが、オーク達が居るようだ。

 特に近付いて来る気配はない。


 いや、床下の、換気口とやらの狭い通路を走る鼠の足音が聞こえた。


 感知を隠し部屋に戻すと、すすり泣くクリオスの声。

 黒衣との戦いで傷む体を気遣きづかうレックスやゼラの僅かな声色。


 干し肉を噛み、飲み込む音。


 モードの静かな寝息。


 ヴェッサの衣服から漂う血の匂い……。

 調べるブラッダーの小声、傍に浮かぶベルの羽音。


 そして……。


 トクンットクンッ……。


「……」

 スクッ。


 チャキ。


 ゼラ「ルーナさん? え? きゃっ?」

 ボソボソ……。

 気が付けば立ち上がりギャレスの剣を構えるエルフの娘は、ゼラ達の傍に行き彼に耳打ちをした。


 ブラッダーとレックス「「ルーナさん/様?」」


「さて……ヴェッサだったか、何故死んだふりをしている? ……何者だお前は」


 と言って、ルーナは死んだ女性に剣を付きつけたのであった。


 一同「「え?」」


 イイイイッ。

 途端、彼女に近づいた刃が、音を出して震えていた。



 ――少し前、転移から取り残されたモードたち――


 食堂への道、厨房や倉庫らしき場所で肉屋に見つかり戦闘となり、ルーナが肉屋の頭を斬り飛ばした瞬間、それは起きた。


 ルーナ達が突然、黒い炎に包まれ一緒に消え去ったのだ。


 彼女を最初に、次にゼラとブラッダー、そしてベルが。

 隠し扉の戸口に立つ彼女の目の前にいたオフィーキュスとクリオス、レックスもだ。


 ダロム「なっ!? レックス!? ルーナ様!?」

 ステラ「なんだい今の真っ黒い火は!?」


 モード「集団転移した?」


 ヴェッサ「ええっ! 今……そんなっ、皆さんが消えましたわ!」

 コーギー「座長がいないわん! クリオス君もいなくなっちゃったわん!?」


 テルギウス「何だ何だ!? 俺は見てなかったぞ? どけっ、消えただって!?」

 隠し扉の中に入っていたのが戻って来て、皆茫然として戸口に顔を出した。


 ――ドチャッ!

 すると急に空から肉屋、変異オークのグロテスクな生首が落ちて来た。


 一同「「ぎゃああ!?」」


 ザワザワ、ガタアァンッ! ドオォンッ!

 倉庫の向こう、来た道の、牢屋の方で大きな騒ぐ音が聞こえる。


 恐らく、ブラッダーの固めた扉を破ろうとしているのだろう。


 モード「ひとまず隠れましょう、追手が来ますからネ、頭引っ込めてください、閉めますよ」

 彼女は何度も周囲を見渡し、不自然さがないか確認してから、隠し扉となっている重たい棚を閉める。


 ガコンッ。


 テルギウス「おいっ真っ暗で何位も見えないぞっ! あいてっ!」

 ガチャンッ!

 ステラ(静かにおしテルギウス!)


 ヴェッサ(まっ、真っ暗で私も全然見えないですわっ)

 コーギー(全然灯がないから、あんまり夜目も効かないわんっ)


 ダロム(ソうでスな、なのでジっとシててくだサい、スぐ明かりが点きまス)


 真っ暗な中で灯火の魔術を唱え辺りを照らし、皆を落ち着かせる。

 モード(これで見えますネ、落ち着きましょう皆さん。慌てても仕方がありませんネ……)


「……(やれやれ、分断されましたネ)」

 ダロムと頷き合う。


 この時。

 灯の魔術を掛ける際、モードは皆の眼の反射に、違和感を感じた。


 夜目の効く種族 (獣人、蜥蜴、ドワーフ族)は瞳が特殊で、闇夜の中僅かな光を反射し目が光って見えるものだが、夜目を持たない人族の二人の内一人の眼が、何故か皆の様に強く光っていたのだった。

(おや? ……? 気のせいですかネ、灯の反射でしょうか)


 テルギウス「お、松明、じゃねえや、灯火の魔法か?」

 ステラ(そうだよ、だから静かにおしって)


 棚の隠し扉には鍵があった。

 ガチャンッ。

 なので施錠して入って来れないようにする。


 ダロム(シ、シかシモード様、隠れてシまっては……)

 コーギー(ざっ、座長とクリオス君が~)


 モード(いいんですよこれで、囚われていた方々の安全が第一ですネ⦅転移した者が戻って来るということは、まずないでしょう、黒衣の男の仕業でしょうか? 最悪戻って来るとしたらそいつですよ⦆……それにしても狭いですネ)


 棚に隠れた隠し倉庫とやらは狭く、大柄のテルギウス等はずっと屈みこんでいた。


 倉庫を調べると、包み紙が落ちており、中に多きな肉の塊がのぞいていた。

 コーギーが近づいて匂いを嗅いで尾を振っている。

(わふっ、大ミミズのお肉ですっ)


 テルギウス(ミミズぅ? うえっ!)

 ヴェッサ(えっ……お、おいしいんですの?)

 ステラ(ここらへんで獲れる魔物かい?)


 コーギー(はいっ、ちゃんと処理すれば味が染みてておいしいですよ、こんな大きいのは奥地でしか取れないので得した気分ですわん)

 ヴェッサ(ゴクリ……)


 テルギウス(ふざけんなっ! 今がどういう状況かわかってるのか!? それに歯形が付いてるじゃないか! きっとオークが食い残して隠したんだよっ)


 ステラ(いいじゃないかテルギウス、ずっとここに居なきゃだめかもしれないんだ、食べ物は大事にしないと駄目だよっ)

 コーギー(その部分は取り除きますわんっ)

 肉を抱えて離さない。


 ステラ(おやまホントに食べる気かい? たくましい子だね)


 モード(まぁ、好きにさせときましょうネ)

 ダロム(いやはや……)


 そうやってその後、周囲を調べる。


 隠し倉庫の奥に、“封鎖された戸口”がある。


 そして、そのすぐ横に換気口らしき穴があり、格子を外し中を覗くと、上下に長い竪穴があった。

 下は砂で埋まっていたが。


 モードは偵察の為昇ることにした。

 風の魔術で上の方に、ここよりは広い部屋の存在を感知したのだ。


 ドサッ。

 懐の魔法袋から、縄のぐるぐる巻きの束を取り出す。

(これで昇りましょうネ)


 ダロム(……モード様、キャラバンの女性達は壁伝いにこの長さを昇るのは少々難シいかと、あなた様も)


 竪穴は狭く大柄のレックス等では詰まる程の小ささだった。

 御者の男やドワーフ族の女性も突っ張っていけば登れるだろう。


 だが、冒険者というわけでもない旅の女性らに昇らせるのは無理があった。

 アリエスタよりも小柄な彼女も難しいのではないかと言った。


 テルギウス(そうだよっ! だから上に昇って結んでぶら下げないと、昇れっこないだろうが! 俺は絶対に嫌だからな!)


 モード(大丈夫、この“ロープが”昇るんですよネ)


 コーギー(アルマジロさんの(縛ってた)縄わん?)

 ステラ(うん? 違うと思うよ?)


 ダロム(はっ、もシやソれは……)

 テルギウス(はあ? あんた何言って……)


 彼女が縄の端をつまみ、縦穴にやると、スルスルと縄がモードの手の中を通り抜けるように独りでに動いて、竪穴を登って行った。


 スルスルスル……。

 その際、僅かにモードの手の内を通る縄目の隙間に、魔術文字が浮かび上がって仄かに光るのを、注意深く見ればわかっただろう。


 テルギウス(なあっ!?)

 ステラ(あれま驚いたねっ)

 コーギー(わんっ、蛇みたいですっ、魔法のロープだぁ!)


 モード(ちょっと行ってきますネ、よいしょ)

 ダロム(いってらっシゃいまセ)


 テルギウス(なんだよそれならそうとさっさと言ってくれよっ、早く戻って来いよなっ)

 ステラ(あんたちょっといい加減におしよっ、モードさんを知らないのかい?)


 ロープを掴むと、モードが引っ張られるように勝手に昇って行った。


 彼女がぶら下がった状態でもロープは平然とスルスル縄束から昇って行った。


 灯火の魔法の光球は残って蛍の様にゆっくり浮かんでいた。


 皆 ((おお……))

 見送る彼らの背後で、ただ一人だけ、コーギーの抱える肉を凝視して舌なめずりしている人物が居た。


 反射する光に目を光らせて。


 しばらくすると、縄が揺れ動いて、急にピタリと止まり、力なく竪穴を垂れさがった。


 ダロムがのぞき込み見上げていたが、ひっこめると、モードが降りて来たのだった。

(ただいまです。なんと上に絶好の隠れ場所がありましたネ)



 彼女の説明で皆それぞれ昇ってゆき、そうして隠し部屋にたどり着いたのであった。


 魔法の縄が手伝うとはいえ、しっかり握ってしがみついておかねばならない。

 ダロムは片腕でもなんとか昇りきり、コーギーは肉を手放さないため、彼の鞄に一旦入れておいた。


 ステラは足を痛たそうにして顔をしかめながらも、スルスルと昇る腕力は見事だった。


 ヴェッサだけが、ただの一般人の婦人らしく、苦労していたが、何とか上までたどり着いて息を切らして汗を垂らしていた。

(ぜえ、ぜえ……)


 モード(……お疲れ様ですネ)

 全員が昇りきった跡、最後まで残っていたモードは竪穴の格子を戻し、痕跡を消して縄束を持って昇り、皆の元へ戻った。


 そして、落ち着いた頃に、モードは偵察に出ることになったのである。


 床下に換気口を見つけ、風魔術で、各部屋の下や、更には下の階層の天井にまで潜り込めることが分かったのだ。


(ではちょっと行ってきます、他の人達を探してきますネ)

 ダロム(ハッ、お気をつけて下サれ、ここはお任セくだサい)



 そしてしばらくした後、テルギウスが家具の下にある物に気が付いた。


 テルギウス(きっ、金貨か!? 金貨だ! 金貨が落ちてるぞ? んん?)

 そしてその奥に隠されていた箱を見つける。


 隠し部屋の一角、そこに積み重なった家具の奥に宝箱らしき木箱を発見した。

 邪魔な家具を動かし始めて、ようやく皆が止めに入る。


 ダロム(やめなサいっ)

 ステラ(いい加減静かにおしよ! 奴らに見つかって食われたいのかい!?)


 テルギウス(邪魔すんなっ! きっとここにあるに違いねえんだよっ、俺達から奪った荷物が!)


 ステラ(おやめよ馬鹿! ⦅また口の悪いのが戻って来てるねこの男はもうっ⦆)

 コーギー(わ、わうっ、やめてくださいっ)

 ヴェッサ(え……商隊の盗まれた荷が、ここにあるんですの?)


 ダロム(罠があるやもシれまセんっ、開けてはだめでスっ)

 コーギー(わぅ、テルギウスさん、落ち着いてくださーいっ)


(うるせえっ俺がどんだけ苦労してっと思ってやがんだ! ここにアレが入ってるに違えねえんだよ! リゾットの奴め!)


 ダロム⦅さっきから何でシょうかこの人族は、モード様が居なくなった矢先にこんな……⦆

(ん? 今なんて言いまシたかその男?)


 テルギウス「くそっ、汚い手で触んじゃねえっ亜人がっ!」

 キンッ。

 ダロム「っ!? (ぬおお!?)」

 突如ナイフを抜いて振りかぶった。


 慌てて避けるダロム。

 ただの威嚇のつもりだったのか、それを使い鍵か何か壊すつもりだったのか知らないが、宝箱に取りついて開けると、案外簡単に開いた。


 カチッ。


 だが、罠が起動した。

 一同 ((わぁっ!?))

 ダロム(罠がっ!?)


 テルギウス「ヒィ!? …………あり? ははっ、何だ、何も起きやしねぇじゃねえか!」

 何かの作動音に皆ギョッとして身をすくませじっとしたが、特に何もなかった。


 ダロム(確かに何か作動シまシたが……? ハッ、コーギー殿?)

 ステラ(ちょっとコーギー? どうしたんだい?)


(ひぅっ、え? み、皆さん……今の、聞こえたわん?)


 犬娘はどこかが痛むかのような表情で目をつぶり、手で耳を覆いふさいでいた。


 ステラ(あんたまさか、なんか聞いたかなんかしたのかい? あたし達はなんともないんだよ?)


(もの凄い音が鳴りましたぁ~すっごく大きくて耳が痛かったわん!)


 ダロムやステラ((音?))


 テルギウス「はん? っておいおいおいははははっ、すごい! すごいぞ! お宝の山じゃないか! どこだ? どこだぁ~ははは!?」


 ヴェッサ「え? まぁ、まあまあっ、すごい量の金貨ですわよ、宝飾品も! 見て下さい皆さん!」

 ガシャジャラァッ。

 チリンッ!


 カラアアァンッ!


 ダロム(なっ……シっ、静かになサいっ!)

 ステラ(馬鹿! 静かにおしっ! それどころじゃないだろう!?)

 コーギー(あわわ……オークが来ちゃいますよきっとここに!)


 その時だ。


 ズズズズウウウウウンンッ……。


 一行「「!?」」


 どこかで大きな爆発音がして、砂埃がパラパラと落ち、歓喜恋や竪穴からも煙になって大気中に舞った。


 ダロム(今でスっ――ハァッ!)

 彼はモードが置いていった、魔法の縄を手に取った。


 テルギウス「! ほらあった! やっとこの手にできたぞお!」


 宝箱内の金貨の山が崩れ、目当てのものが姿を現したのに気が付き、拾い上げる。

 豹変した大柄な男が、両手に持つそれを持ち上げた。


 それは銀色に輝く、見事なガラス製の水神を模した、水銀像であった。


 ビュルウンッ――テルギウス「ぬおっ!? なっやめっ何をすんだあ!」

 縄を男に巻きつける。

 ダロム(大人シくシていなサい! ⦅水神様の像?⦆)


 縄は片腕のダロムでもスルスルと吸い付くように言うことを聞いて、巻きつける傍から手伝うように巻きつけを繰り返し、独りでにテルギウスをグルグル巻きにした。


 両手に像を持ち暴れるテルギウスの腕を掴むダロム。

 カシャンッ!


 一緒に持っていたナイフが零れ落ちた。

 だが像は頑なに誰にも渡さんと守っていた。


 傍のヴェッサが咄嗟に傍に落ちたナイフを拾う。


 ダロム(誰かっ手伝ってくだサい)

 ステラ(あいよまかせなっ)


 ドワーフ女性も参加し、縄を締め付け、結んでテルギウスを大人しくさせた。

 その為簡単に縄を巻きつけることができた。

「くそっ! 何しやがんだ! 味方だろう!? 像を奪う気か!」


 ステラ(しいっ! あんた何言ってんだい? それはキャラバンの大事な荷物であんたのじゃないだろうにっ)

 コーギー(一体どうしちゃったわんテルギウスさん)


「うおおおおっほどけええっ!」


 バアンッ!


 リゾット「ほらいたぁーー!!」


 その時だ、突然戸棚が動き出し、隠し倉庫の棚のように開かれて、中の通路からリゾットと、盗賊達が現れたのだった。


 ドアドタバタッ。


 リゾット「そこの蜥蜴だっメイスを奪っちまえ! ゴキブリがうじゃうじゃ群がってやがったなぁ! 俺様のお宝を盗もうったってそうはいかねえぞ!」

 盗賊達「「へいっ」」


 ダロム「なっ!?」

 ドカドカドカッ。

 瞬く間に押し入って来る盗賊達。


 その瞬間、何故かテルギウスの縄がほどけてしまい、暴れ始めた。

 テルギウス「うおおおリゾット貴様ぁ!」

「なんっおい! その像を離しやがれのっぽ野郎! 俺様のお宝に触るんじゃねえ!」

 

 ステラ「あんた!?」

 ドワーフ女性は見た。


 ナイフを持つヴェッサが急にテルギウスの縄を切ったのだ。

 ヴェッサ「……」


 暴れるテルギウスにぶつかり、壁際に押し込まれ、ダロムはメイスを抜く間もなく、盗賊達に掴みかかられる。

 皆もだ。


 ダロム「っく! おのれ……」

 盗賊達「くっそ」「馬鹿力がっ」バシッ! 「あいてっ! この蜥蜴野郎っ」「その尻尾ぶった切っちまえ!」


 バキィッ!

 盗賊の振り下ろした硬そうな木の棒で頭を殴られる。

 ダロム「!! ……ぐぅっ」


 盗賊達「大人しくしやがれっ!」「へっへっへっ、よりによってここに隠れやがるとは運の悪い奴らだぜ」


 コーギー「嫌だあああ!」

 ステラ「汚い手で触るんじゃないよ!」

 瞬く間に体格の良い手下達に捕まる二人。


 リゾット「やれやれ、“警報”のおかげで命拾いしたぜ、俺様って奴は幸運に恵まれてるわ、悪運なお前らと違ってなっ」

 ボッ、ジュウ~。


 ほぼ盗人たちを捕え終わり始めたので、落ち着いて煙草を吸い始めるリゾット。

 プハァ~。


「……痩せ魔族さんもよぉ、転移だかなんだか知らねえけど取り零し過ぎなんだよったくしょうがねえよな、俺らがいなきゃなーんもできねぇんだから」


 転移漏れだけではなく、今までこき使われた下っ端仕事をぼやく。


 盗賊達「……お、親分、帝国人達、死んだんすかね?」

 リゾット「馬鹿、あんくらいで火魔術士が死ぬか……」


 どうやら騒ぎがあったようで、悪党たちはその話をしていた。


「さて、てめえらは痩せ魔族からは特に何も言われてねえからなぁ? ……そこのホールで火炙ひあぶりにして、オーク共に食わせてやるか、“そろそろ船が着く頃”だろうしな」


 ヴェッサ「! え、ええい!」


 盗賊「なんだおい姉ちゃんよぉっそんな果物ナイフで、オデの髭でも剃そってくれんだべか? ほいっ、ほいほいっ、こっちだ! 刺してみれほれっ」


 テルギウスのナイフを彼女は腰だめに構えて盗賊に抵抗し差し突っ込むが、簡単にかわされ、遊ばれる。


 コーギー「わう! やっつけるわん!」

 ステラ「? (なんだい? だってさっきこの、わざとテルギウスを――?)」


 ヴェッサ「くっ! えいっ、えい!」

 リゾット「おい! 遊んでねぇでさっさと捕まえろ!」


 盗賊「あ、へい。っあいでっ! ……この尼ぁ!!」

 バキッ!

 ヴェッサ「きゃあっ!」


 ドガラアアンッ!


 コーギー「ヴェッサさん!」

 ステラ「ああっ」

 ダロム「……ヴェ、ヴェッサ、殿っ」


 頭目が叱りそちらに盗賊が目をやった瞬間、僅かにナイフが頬に当たり、キレた盗賊が彼女を殴り飛ばした。

 盗賊「あ、いけね」


 リゾット「おいっ、血が出てんぞ! 刺さったのか? あ~あ、殺しちまいやがったよバーカ」

 盗賊「お、俺じゃねえっすよ! 勝手に自分でっ」


 仲間達「「ああ!?」」

 見ると、倒れた際にナイフが刺さってしまったようで、腹から血が広がり動かなくなった。


 テルギウス「なあ!? ヴぇ、ヴェッサ……」


 リゾット「おいノッポ野郎、お前もああなりてえのか? 大人しく“囚人ごっこ”に戻るか、裏切ったコイツラと一緒に焼け死ぬか選べよ?」


「ぐうっ! リゾットてめえ!」


 仲間達「「……え?」」


 ダロム「……な、なんと、う、今、何と言った? ……」


 ステラ「なんだって!? テルギウスあんた!?」

 コーギー「え? え?」


「あぁ? このリゾット様がお情けに教えてやろうか? くくく、マヌケなツラしやがって、そうだよ、このノッポ野郎がてめえらキャラバンを襲う段取りをしてくれたのさ、いわゆる裏切者ってやつだな? くっくっくっくっ」


 煙草を吸いながらそう高笑いするのであった。


 盗賊「あ、お頭、そこの片腕蜥蜴はキャバンの奴じゃ――リゾット『うるせえわかってらぁ!』……」


 ステラ「あんた、あたしたちを裏切ってたのかい!!」

 コーギー「そんなあ!」


「へっ、騙される方が悪りぃんだよ! 魔物に怯えて貧乏商隊なんかやってるより、今回の仕事でがっぽり大儲けだぜ! ペッ」

 ビチャッ。

 驚く皆を尻目に更に唾を吐き捨て言ってのけた。


 ダロム「……は、恥を、知れっ」


 パンパン。

 リゾット「はいはいかわいそうにかわいそうに、ほらっ、さっさと行くぞ! 帝国人共もブチ切れて今頃イカレエルフやこいつらを探し回ってるだろうからな」


 盗賊達「うぇ? イカレエルフ達ゃあ捕まえたじゃないすか?」


 仲間達「「!?」」


「あんな爆発起こすくれえだ、とっくに逃げ出してんだろ? 頭を使え頭をったく」


 盗賊達「で、でも親分、あの拘束からは絶対に出らねえって、ま、魔族も、帝国の奴らも自慢げに言ってたじゃねえっすか……」


「……いーや! 偉そうなだけでクソ帝国のクソクズ共も、痩せ魔族もなあんもわかっちゃいねえんだよ! あのイカれエルフは絶対何かやらかすに決まってんだ……てめえらはあの暴れ様を見てねぇから呑気にったくブツブツ……」


 ダロム「……ぅ(ル、ルーナ様も、捕まっておられるの、でスか?)」


 盗賊達「あ、あと親分、俺達、スライムの仕事もなくなって、どうすんですかい?」

「あの爆発じゃあ風呂は滅茶苦茶ですぜきっと」「風呂? すいそーだよすいそー!」

「親分の魔道具のおかげで命拾いしやしたが」


「なぁに、こいつらを盾にして出入口で張ってりゃ、必ず出くわすだろうさ、俺様の人質作戦で一網打尽にしてやるぜ(オーク軍と帝国野郎共が)甘ちゃん揃いだからなぁ」


 テルギウス「お、俺も一枚噛んでるだからなっ! 忘れるなよリゾット!」


 盗賊達「うるせえ!」「調子に乗んなよてめえ!」「ちょっとでけえからって見下してんじゃねえぞコラ」


「あぁ、手引きしたのは忘れてねえぜ? だが、てめえら役立たず共の中で一番あの御方――痩せ魔族に貢献できるのは、やっぱり俺様ってわけよ? ご褒美が楽しみだぜ、くっくっくっくっくっ!」


 コーギー「うわあああん、うわあああん!」

 ステラ「ヴェッサ……(何がしたかったんだい、せないよ……)」

 ダロム「(モード様、ルーナ様)……む、無念……」



 ――そして現在――


 ジャキッ。

 ヴェッサの死体に剣を向ける。


 イイイイッ。

 魔法の剣は、彼女に近づけるとよりはっきり刃を震わせ音を出した。


「その血、牢屋でオークが食っていた(犠牲者の)肉のと同じ臭いがする、お前の血ではないだろう? なぜ流血を偽っている?」


 ヴェッサの身体の下に流れる血だまり、それは牢獄でオークの喰っていた、元座長の調理されていたそれと酷似していたのだった。


 ベル「やっぱり? この人の(臭い)じゃないよね?」

 彼女もわかっていたようだな。


 ……答えないな、腹の魔力を調べるか?

 何かの魔道具か、魔物の類だったとするなら魔石か?


 それとも……。


 ジャキッ。

「貴様の体内の心臓の音も聞こえているぞ、死体のふりを続けるなら……本当にするぞ」

 そう言って、剣を逆手にして心臓の位置を狙った。


 クリオス「何!? や、やめてよお姉ちゃんっ」

 オフィーキュス「な……え?」


 ゼラ「!? ちょ、ちょっと皆、下がっておきましょうね?」

 ブラッダー「……」

 レックス「ごくり……」


 ベル「なんか“被ってる”のってそういうこと?」


 ゼラ「え? ベ、ベルちゃん、どういうこと?」

「えっとね、ベッサ? はね、ずっとね、“皮を着てる”んだよ? 鎧じゃないの?」

「は?」


 皆「「?」」

 レックス「皮……を着てる?」


 ブラッダー(着てる? ……“ヴェッサ”を、着てる?)


 疑問を持ちながら、皆がヴェッサらしき死体に視線を戻したその時だ。


 カッ!


 突然、死んだはずの女の眼が開いた。


 読んでくださりありがとうございます。

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