132話 抗う6 走り茸
ヴイイイイイイッ。
魔封じの柱はあと二本だ。
戻って来たギャレスに襲われたが魔法の剣を奪い、そしてベルがオークの大戦斧を投げて壁の中まで吹っ飛ばした。
「柱ならちょっと疲れちゃったけど、あたしが壊してあげる!」
ゼラ「ベルちゃん、光に気を付けて!」
「うんっ」
ベルがギャレスが飛んでった側の柱へ飛ぶ。
少しふらついているな。
この魔法封じ、抜け出た後にも引くのかもしれない。
ベル「もう中がぺこぺこだよぅ……」
違った、お腹をさすっている。
空腹だったようだ。
ゼラ「あっ、ベルちゃん、武器は?」
柱まで行って、直接抱き着くように掴んで折ろうとし始めた。
できるだろうか?
「んむぅ~~~っ」
ヴイイイイイイッ
クリオス「がんばれ!」
ゼラ「っ頑張れベルちゃん!」
レックス「頑張れえ!」
ブラッダー「何か、殴りつけるものとか、ないんですかね?」
ベルはもう、傍に落ちている巨大斧は持てそうにないな。
落ちている鞭も離れていて、拾ってもあそこまでは届かない、矢やこの剣を渡すか? 短剣を投げても、だめか、柱の光はこちらに向いていて、今の力では投げ飛ばしても届かないだろう。
「頑張れ!」
チャキ。
私も這い出よう。
もうすぐ外だ。
ガッ。
ベル「うん~~~っ! はぁ、硬~い!」
ミシ、ピキ、パキ……。
ヴイイイイイイッ。
そうだっ!
「帰ったらご馳走たっぷりだぞ!」
一同「「!」」
カッ!
彼女の眼が大きく開かれた。
ベル「フンッ!」
バキイッ!
ヴイイイイイイィィィン……。
一同「「おお!!」」
柱が壊れた、残一本。
……バチバチバチッ!!
ベル「キャッ!?」
何だ?
柱の中の、魔石か何かか、カラクリも壊したのせいなのか、柱の周囲に雷石の炸裂の様な紫の電が走って、それが彼女にも当たった。
まるで強力な魔法封じの一撃のようだ。
「きゅぅ……」
ポテッ。
ベルが落ちて、倒れる。
「ベル!」
ブラッダー「大丈夫っ、あの胸当てがほとんどを弾きましたよっ」
レックス「!? ……例の障壁でスか」
ゼラ「でも……ちょっとくらっちゃいましたよ?」
ベル「ね~、もう力が入らないよぉ~、ルーナ、干し肉ちょうだ~い」
小さな手を振っている。
「ほっ」
鞄が彼らの方に置いてあるから取りに戻れない。
あと、一瞬、肉屋の死骸を見たな。
ゼラ「……お腹が減っちゃっただけみたいですね? 柱はあと一本ですよ皆!」
ベル「え~もう無理だよぉ」
レックス「我々がっ」
ブラッダー「ええ」
ああ、とりあえず魔法封じから這い出よう。
もう光の照射のすぐ外だ。
ヴンヴンヴンヴン……。
何だ? 最後の柱か? チカチカと光が点滅している。
ヴォンヴォンヴォンヴォン……。
ゼラ「ちょっと! 最後の柱が変だよ皆!」
ガッ。
いい、もう出る!
剣を杭にして――。
ヴォウヴヴヴヴヴヴッ!
一同「「わあっ!?」」
光が更に眩しくなって、強力になった!?
残りの最後の一本が急に別の動きをし始め、部屋中が魔法封じに照らされてしまった。
なっ!?
もう出られたのに、全部が紫になってしまった!
ブラッダー「! 強力になって更に、部屋全体に?」
レックス「まるで手負いの獣のようでスな?」
ゼラ「手負い? じゃあこの威力なら……すぐに魔力切れになるんじゃ!?」
ブラッダー「可能性はありますけど、敵の方が戻って来そうですよね?」
いや、だが。
「迷宮の力を吸ってるとか言ってたぞ」
ブラッダー「ああ! そうでした、ずっとこのままかもですよね」
だめだ。
短刀も、この魔法剣も投げても、多分破壊は出来そうにない。
いや、直接あそこまで這って行けば!
ゼラ「くっそ! あと少しでルーナさんが抜け出してぶっ壊せたのに!」
レックス「あと一本なのでスが」
「? ブラッダー、その塊は」
彼の手元の魔力塊が、光を瞬かせていた。
ブラッダー「? ええ、この塊……魔道具のような性質を感じるんですけどね」
レックス「何でスと」
?
あの錆び食いのとこで拾った塊をブラッダーが調べていた。
彼も何か感じたのか?
ハッ!
「その塊から何か、入れ替えとかいう、魔術文字、が浮かんだ」
ゼラ「ええ?」
ブラッダー「浮かんだって……実際に、この塊にですか?」
「頭の中だ」
レックス「?」
オフィーキュス「……ブラッダーサん、私も……占いの、時に、魔道具を扱う、時に、……魔術文字が、現れるのをみ、見まス」
ブラッダー「ええ、そうですねオフィーキュスさん……ちょっと使ってみましょう」
レックス「気を付けてくだサい、誤作動スるかもと、確かモード殿が言っておりまシた」
「でしょうね、高熱で溶けたんですかね」
ブラッダーがその手を塊に添えた。
ゼラ(それ錆び食い虫の糞なんですけどね)
そういえばどうやって魔道具を使うのだろう。
ああ、僅かに魔力を流し込んだのがわかる。
魔法封じ内でも、直接触れれば使えるんだったな。
ジジジ……ジジジ……。
ゼラ「? 何にも――」
バチッ!
ブラッダー「熱っ!」
彼の魔力を吸った瞬間、魔法封じで乱れたようだが、二つの線が塊から出て飛び出して一瞬で消えた。
セレナールとアリエスタの誓約の時の様な透明な糸の、更に太い、縄の様な感じだった。
シュパッ!
何が起きた?
ブシュウッ!
レックス「ぬおお!?」
彼の足元に、黒い血が噴き出た。
何だ? 肉?
ゼラ「え? 何? 旦那っ!?」
レックス「いえ、儂は無事でス。クン……オークの肉? ゆ、床に、床が突然オークの肉に!? い、いや、嵌っておるのか?」
クリオス「あっ、座長っ、み、皆っ、あのオークのとこ……」
肉屋の死骸か?
ドロ……。
ブラッダー「あちち、ん? 肉屋とやらの一部が? ……あれ、床石ですよね?」
ゼラ「え、旦那の足元に埋まってる肉って、肉屋のあそこの肉? じゃ、じゃあ」
「入れ替えか」
レックスの足元の床が四角く穴が空いて、ぎっしりと肉が詰まっている。
そして肉屋の死骸横腹の一部に同じ大きさらしき四角い穴が空いていて、床石がぴったり嵌まっていた。
さっき一瞬伸びた線の先と同じ場所だな。
彼の足元と、肉屋の横腹だ。
これは、上手く使えばあの柱を壊せるかもしれない。
その柱の力がどうも邪魔していたようだが。
あの光の線がもし皆の誰かと何かを結んだら、恐ろしいことになるな。
レックス「むぅ? では、この石床が、あのオークへ転移シたのでスか?」
ブラッダー「確か“相転移”と呼びます。まぁ簡単に言うと“入れ替え”ですよね」
私を見た。そうなのか。
浮かんだのはそれだ。
ゼラ「すげえ! けど、もう少しズレてたら、旦那の足と入れ替えてたんじゃ?」
レックス「な!? むううう……」
そんな彼の足元の床にはまった四角い肉が、徐々にずり落ちて行って、穴が空いた。
ズズ……ボチャンッ。
レックス「落ちて穴が……」
するとその下に、小さく水のような流れの音が聞こえた。
ほんの小さな川の様な、水路だ、それがあったようだ。
キィ~……。
幻聴が聞こえる。
ブラッダー「更に問題がありますよね」
ゼラ「ええ? なんか無事に帰れる気がしなくなってきましたよ……」
「塊から魔力がなくなった」
ブラッダー「えぇ、ルーナさんに先に言われちゃいましたよね」
レックス「で、ではもう使えないということでスか?」
ゼラ「旦那、ちょっとホッとしてません?」
「そっちにある私の鞄に魔法薬があるぞ。違う、魔力薬、が入ってるぞ」
ブラッダー「おぉ、それは良い物をお持ちで」
ゼラ「え? この糞――塊にマナポーションを使うんですか?」
あぁ、そうとも言うな。
ブラッダー「……もしくは、オフィーキュスさんに飲んでもらえば、僅かですが治療術を受けることができます、ここから出られたらの場合ですけどね」
やはり彼女も魔法使いか、どれに使うのか選ぶのか。
オフィーキュス「……だ、だめでス、私の、私の水魔法なんて、とてもお役には立てまセん……かスり傷程度シか、癒セないのでス」
そうなのか……そうだ、彼女に魔力譲渡をすればモードを更に治療して、起こせるかもしれないな。
魔力譲渡?
そうか。
「ちょっと試してみたい」
――少し前――
帝国炎術士シュトレイ「どっちだ? さっさと案内しろ!」
盗賊リゾット「は、はいっ、こっちが水槽の部屋っす」
ザアアアアッ!
ヴァイン「うわっ、溢れてんじゃねえか!」
水槽部屋に入ると、全ての穴から水が溢れ出ていた。
足首上ぐらいまで水が溢れてかえっていた。
オーク達「プギィー!」「痛ぇえエ!」「たっ、タスけテェ!」
逃げ遅れたのか、問題を解決しに入って来たのかは定かではないが、数体のオークが大小の透明スライムに取りつかれ、酸によって爛れ溶かされていた。
牙折れオーク「あっボスだべか! 助けてくれろぉっ」
ヴァイン「あんなとこにいやがった」
見ると、人語をしゃべるオークが水槽の蓋檻上で立ち往生していた。
水槽から溢れる水が流れ広がっている地面よりも、高い位置に取り付けてあったのだ。
ザバアンッ!
シュトイ「むぅ……」
そして、戸口に立つ彼らの床の水よりも、水槽の部屋は数段低くなっていて、もはや火魔術でも退けられない水深となっており、中に入ることは戸惑わられた。
マイケル神父「これは、水神様の思し召しなのですか……」
リゾット「……一体何で、グララスの馬鹿デブはどこ行きやがったんだ!?」
ヴァイン「馬鹿共がぁ! スイッチを入れっぱなしにしてたんだろがよ!」
シュトレイ「何をしている! 早く水を止めろ盗賊!」
リゾット「はっ、はいい! でっでも……」
盗賊は仕掛けの場所に行くのをためらった、確実に魔術が及ばず、水に濡れるからだ。
汚れた水の中にはうようよと透明スライムが居るのを誰よりも知っていた。
ヴァイン「いいから行けよボケ!」
ドカッ!
「あ痛ぁっ!?」
ボチャアアンッ!
「ぶはっ、ひっひいい!」
尻を蹴られ盗賊は頭から水に突っ込み、直ぐに起き上がったが、頬にねっとりとスライムが吸い付き、見る間に酸を出されて、焼けるような痛みに襲われ引っぺがす。
すぐさまがむしゃらに仕掛けの元へ漕ぐようにして水を掻いて行きついた。
ギギギギッ、ガシャアン!
慌てて仕掛けを動かす。
ザアアアアアア……。
リゾット「ひいっ、あぷっ、し、神父っ、助けろ! 引っ張って!」
マイケル神父「しょうがないですね……」
戻って来たリゾットが足を引っ張られてるのか、中々皆の居る壇上の戸口の場所に上がって来ない、神父が軽々と彼の背を掴み、手助けして上がらせた。
シュトレイ「何を戻って来ておる馬鹿者! 排水せんかぁ!」
リゾット「ええ?」
ヴァイン「あ、おい! なんだよ!」
リゾット「ああー!」
バチバチボシュ!
ボオンッ!
見ればその仕掛けが急に火花を出して爆破し、黒い煙を出してグシャグシャに壊れた。
マイケル神父「な? もしや……スライムが入り込んで酸を出したのでは?」
おまけにその炎で変異が進んだのか、透明スライム達が危機感を抱いて融合し、黒いスライムが誕生してその触手を伸ばし始めた。
オーク「プギイイイィーーッ!?」
彼らの元へ泳ぎ集まって来た生き残りのオーク達の一体が捕まり、飲み込まれる。
生者に群がる亡者の群れの様に、スライムが彼らの元に近づき集まって来た。
皆気が付いていなかったが、変異した黒いスライムが、司令塔の様にエサの場所を知らせているような信号を発しているかのようであった。
ここにルーナが居れば恐らく感知していたかもしれない。
リゾット「はあ、はぁ、これじゃあ、(湖に)放流どころじゃないっすよ……」
マイケル神父「……」
彼は直接手動で排水口を開ける術を知っているが、あえて黙っていた。
そもそもスライムだらけの水中にある排水門で行う必要があるし、それをできるのは水魔術を扱える自分しかいないのもあるからだ。
そして、自分から手伝う気等、さらさらなかった。
ヴァイン「あーもう、滅茶苦茶じゃねえかよ! 畜生!」
シュトレイ「チイッ! 全て焼き尽くすぞ!」
ボシュウウウーーッ。
見る間に彼から高熱がほとばしり、彼らの周囲の水を更に蒸発させる。
ポッ……詠唱を始めたシュトレイの手の平から火種のような小さな炎が灯って揺らめき始める。
まるで、小杖の宝玉から零れ落ちたかのように。
ヴァイン「!!」
リゾット「え? ででも……(炎でこいつら、さっきのみたいになっちまうんじゃ?)」
ヴァイン「おいっ、後ろのてめえら下がれ! もっと後ろだばか! いいから離れてろ! 焼け死にてえのか!」
灯った小さな火を見るやいなや、ヴァインは背後について来たマイケル神父やリゾット、オーク達や幾人かの盗賊達を下がらせた。
ボオオッメラメラメラッ。
あたりの水気が瞬く間に消え去ってゆき、乾いた熱波に変じ、その温度差異によってか、辺りに風が吹き荒れ始めた。
リゾット「ええ? で、でも命令が、ももっと増やさないとっ!」
ヴァイン「水を減らしてからなり湖にバラ撒いてからなりやり様はあんだろうが! ここはもう閉めるんだよ!」
リゾット「っグララスっ! こっち来い! そんなとこ突っ立ってると丸焼きにされちまうぞ! (貴重な通訳だぞ馬鹿ブタ!)」
牙折れオーク「ええ!? うぅ、わかったダァ!」
ドボオンッ。
それが合図の様に、シュトレイが手の平の火球を押し放った。
カッ!
辺りが真っ赤に灼熱し照らされる。
肌を焦がすかのような熱波と高温度の空気が広がり、あっという間に全員の皮膚から汗の球が噴き出した。
ボオオオオオッ!!!!!!
リゾット「……なっ!?」
白い煙が充満する部屋の中に、水が僅かに部屋の底に、各水槽の底には浅瀬程度に水が、いや、熱湯が残っていた。
シュトレイ「ハッ! スライム如きに使わせよって、これでもう“今日はあと一回”だな」
マイケル神父「……?」
リゾット(これほどの炎術士なのかよっ、こいつも大概にばけもんじゃねえかっ)
ガバっ!
牙折れオーク「あっ、あっついだぁ~、おら、茹で上がっちまったダヨ」
リゾット「おおっ!? おまえ、生きてやがったんか!?」
マイケル神父「水の中に居たからですかね? 真っ赤になって……ほぼ丸焼きですね」
牙折れ「(ギョッ!)オッオラ食いモンじゃねえどっ!」
ヴァイン「喋れる豚だっけか? 運が良いなおめぇ、おいっ、この不始末をやらかした豚を探して、連れて来いよ! 処刑してやっから」
牙折れ「ブヒィ!?」
マイケル神父「うん? 煙の向こうに何かいますよ!」
見ると、煙の充満する部屋の、水槽の奥底から、幽鬼のように伸びあがって来る大きな黒い塊があった。
それは、更に融合して巨大化したスライムであった。
ズリュリュッ……。
マイケル神父「大きい、水槽満杯ですよ!?」
ヴァイン「なんだありゃあ!? あれも変異丸の仕業か!? 聞いてねえぞ!」
リゾット(チッ、また妙な変異しやがったな)
ボオウッ。
シュトレイ「ハッ! スライムなのには変わりはないであろう、火に弱いのは知れておるのだ」
この時、彼らは変異した黒いスライムが火に耐性を持っていることを知らなかったが、強力な炎の使い手の彼には、関係なかったかもしれない。
その時、それは現れた。
カチカチカチカチカチカチ……。
一同「「?」」
次々と背後で事を見ていた者達が後ろを見て、こちらに来て足元を通り過ぎるそれを目で追った。
そして誰かが叫ぶ。
「うわっ、“爆裂茸”だあ!!」
マイケル神父「何ですか? 爆裂茸系の“走り茸”? こんなところに?」
リゾット「何だ!? うおお!? いっ、今のまさか!」
その時奇妙なことに、盗賊の頭目だけ、爆裂茸らしきものが走り回るものより、自分の懐をまさぐってなにか震える魔道具らしきものを驚いて見ていた。
ヴァイン「馬鹿な奴らだなぁ、あんな茸、ただのガキのオモチャだろうがぁ?」
騒ぎ始めた彼らを帝国人達は笑った。
シュトレイ「ハッ、火の扱いをまるで知らん野蛮人共だからだろう、指は吹っ飛ぶかもしれんが、扱いに注意すれば――」
そう言って彼は小杖の先端の宝玉を撫でる。
メラメラと火が灯っているそれを。
カチカチカチ。
「ん? これは――」
――マイケル「む?」
神父は身をひるがえして一行から離れてどこかへ走り去るリゾットを訝しんで振り返り見た。
カチカチカチカチカチカチ……。
コロンッ。
その奇妙な歩く爆裂茸は皆の居る通路の足元を横切り、戸口を出て来て、先頭に佇むシュトレイの足元の先の段のとこまで行って、下になっている水槽部屋に落っこちて消えた。
……カチャンッ!
落ちた下をのぞき込む二人。
シュトレイとヴァイン「「なんだこr――」」
――カチリ。
そして大爆発した。
――ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ……。
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