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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
133/134

129話 抗う3 紛失

 様子のおかしかったルーナが正気を取り戻したと思ったら、倒れてしまうのであった。


 リゾット「……なんだぁ? 撃つ前に倒れやがった?」

 神父「ちょっと、あなた何ですかその妙な銃は? 」

「え? いやぁ……」


 ゼラ「い、一体何がどうなってんの? 旦那、何か知ってんですか?」

 レックス「……わかりまセんが、恐らく背中のアレやも……激痛に我を忘れたとシか言えまセぬ」

 ブラッダー「あの気の失い方、“魔力干渉の症状”に似てるんですけどね」



 シュトレイ「……死んだのか? 何なんだあの小娘は」

 マイケル神父「かなり出血してますね、これは行けないっ」


 ヴァイン「おいっ、余計なことすんなよ神父プリースト! シュトレイさん、近付かない方がいいですよっとお!」


 騎士は傍に落ちていた鞭を拾い見た後、おもむろにルーナにむけて振りかぶった。

 ビュルウウンッ!


 シュトレイ「ぬおっ! 気を付けろヴァインッ」


 シュルルウッ、ビシイッ!

 崩れ落ちかけていた彼女の首に見事に巻きついた。


 ゼラ「こらあ! 何しやがるてめえ!」

 レックス「その鞭を離セ無礼者!」


 ヴァイン「俺だって扱えるんだぜ! そらあっ!」

 さらに鞭を引き絞り、角度を変え、魔法封じの波動を照射されている彼らの方向へ腕を振った。


 ビュウンッ!

 ルーナが鞭に投げ飛ばされるように皆の元へ吹っ飛んだ。

 モードをその場に残して。


 ヴァイン「中に戻ってろ化けモンスター!」


 ベル「落ちて来るよ!」

 ブラッダー「受け止めて下さいっ」

 ゼラ「はいよっ! あ痛っ!」

 満足に動けないゼラが転ぶ。

 レックス「儂がっ!」

 彼の方が近かったのもあり、ぎこちなく動いて受け止めた。

 魔封柱が減った影響によってか。


 ドサッ!


 ゼラ「ルーナさん!」

 レックス「ルーナ様っ」

 ベル「戻って来ちゃったルーナ」

 クリオス「お姉ちゃん!」

 オフィーキュス「……意識は、ないのでス、か?」


「……」


 ブラッダー「斧の傷を見せてください」


 レックス「ハッ!?」

 ゼラ「……あっ! ブラッダーさんっ、あの、背中のことで、あいや、何でもないです」


 ブラッダー「? ……酷いあざですよね、恐らくこの丈夫そうなケープによって背骨ごと割られるのは防げたようですが……血まみれで出血の形跡があるのに、傷が塞がっている?」


 浜辺でルーナの背中の“鱗”の存在を隠したのが見つかると二人は思ったのだが、血に塗れていて目立っていなかった。


 彼がケープと、血の染みた胴体に巻いた布をめくり背を見ると、巨大戦斧の武技をくらった重症の筈の傷跡は、赤黒い痣止まりの状態であった。


 レックス「あの光、治療魔法を自分にかけたのでスなっ?」


 ゼラ「じゃあ隊長も?」

 魔封じの向こうに倒れているモードを見る。


 敵達は驚きこちらを眺めている状態であった。


 ブラッダー(治療魔法? あの光からして、違うようだったのですけどね……)

 レックス「?」

「可能性は高いですが、術中にこの子は倒れましたし、この痣のように半端で止まった状態ですよね、恐らくモード隊長の方が重症なので、大至急更なる治療が必要なはず」


 ベル「よかった~、ねぇ、モードは隊長なの?」

 ゼラ「ベルちゃん、違うけど、今はそれどころじゃないのよ」

 ブラッダー「おやいけませんね、モードさんを隊長と呼んでいましたか私達?」


 レックス「ソんなことより、本当に魔法薬はないのでスか!」


 ベル「まほうやく? あれ?」

 彼女は道具屋でルーナがたくさん買ったものの中にそう言うのがあったかもと思い出そうと頑張った。


 ブラッダー「それなら――」

 クリオスから離れ、ベルがいつの間にか彼の元へ低空飛行で来ていた。


 彼はこのフェアリーの少女が魔封じ内で動けることに驚くと共に、お互い同時に気が付いた、ルーナの持つ魔法薬のことを話そうと彼女を見た。



 ヴァイン「あれ? ねえ! どこに行きやがった!?」

 シュトレイ「おい、まさか、剣を失くしたのかヴァイン!?」

「どけネズミっ! くっ」

 ドカッ!


 ヴァインが瀕死のモードを蹴飛ばして下を見て何か紛失したものを探していた。

 皆「「ああ!? やめろ!」」


 シュトレイ「貴様、剣を失くすということが、どういうことかわかっているんだろうな!?」

 ヴァイン「だからあ! 今探してるってんですよお! くそが! チッねえ! ……おいっ亜人デミヒューマン共っ俺の剣を返しやがれ!」


 ヴァインはルーナが倒れていた場所を見渡すが、巨大斧と瀕死のモードしか見つけられなく、彼らの方へ怒鳴った。


 ゼラ「知るかボケ!」

「あぁん? チッ! 何だその口の利き方は! これでも言えるか? オラ! 偽貴族野郎!」


 ピシュッ!

 モード「……ゥぅっ」


 ヴァインは瀕死のモードの大きな耳の片方をつまんで引っ張り持ち上げ、腰のナイフを抜き、躊躇ためらいいなく彼女の頬を斬る。


 床に血が飛び散った。


 皆「「!?」」

 マイケル神父「何てことを! やめなさい!」

 ベル「ちょっとあんたいい加減に――」


 ゼラ「っやめろクズやろ――『ブラッダー「はいはいすいません、何でしょうか帝国の騎士様?」』――うっ!?」


 ブラッダーが咄嗟に彼と口元に尾を当てて塞ぎ、ベルを包み込んで、にこやかに返事をした。


 ヴァイン「……気色悪い魔物モンスターもどきには聞いてねえんだよっ、ケッ、まぁいい、その化けもんエルフの身ぐるみいで、俺の剣を探せ! 赤い小剣だぞ!」


 レックス「シューーッ……おのれ、ゲスめがっ」


 ブラッダー「はいはいかしこまりました、皆さん、探しましょうか(後で必ずぶっ殺しますよね)」


 ルーナを調べ探すフリをするが、当然見つからない。

 レンジャーマントの中に仕舞ったのだろう。


 ゼラ(許さねえ、あの野郎、モード隊長……ルーナさん)

 ブラッダー(落ち着いてゼラ君、必ず助けましょう、機会を探るんです、柱はあと二本だけなんですからね)


「……(まずいですよね、指も震えてますし、ゼラ君の余裕があまりなくなってきてます。二人が心の支えだったのですかね?)」


 ゼラ(……ルーナさん、けっこう肉付きがいいっすね……)

((前言撤回しますね!!))


 鞄の中を調べたり、魔法のケープをめくるが、見つからなかった。


 その際、ケープを掴んだ自分の親指が、布の内側にめり込み消えるのを見た。

 指先から魔力がほんのかすかに吸われたのも感じた。


((ハッ! そうですよ、このケープですよね! そう言えば奪った際に腰に差したと思ったらないんですよね、これだけ見つからないということは、魔法のケープの中にしまったからですよね! ……知ってるのは私達とすでに見た魔族だけですかね? 魔法薬もこの中ですか?))


 ブラッダー(皆さん、ちょっと思いつきましたよっ)

 ゼラ(え?)

 レックス(む?)

(……だから……で……彼女を)

 話した後、皆でベルを見つめた。


 ベル(え?)


 ヴァイン「おいっ! さっさとしやがれ畜生共が! 次はドブネズミの耳を切り取っちまうぞ!」

 シュトレイ「いい加減にしろヴァイン! もう我慢ならんぞ! その汚水のような言動を気を付けろっ! 相手がなんだとしても、その下卑げびた振る舞い、貴様帝国人としての品位を落とす気か!?」


「……(チッ)はい」


 モード「……う、ケイラッド、が、あなた達を、殺します……よ」


 自分の体重で引っ張られる片耳の痛みか、血はかろうじて止まったが深く切り刻まれた全身の焼け斬り傷の痛みなのかはわからないが、激しい痛みに苦しみながらも目覚め、なんとか吐き出した。


 ゼラ「隊長っ」

 レックス「気が付かれたゾっ」


 シュトレイ「ハッ、まだ生きてたのか“風壁”、大したものだ。調べでは短命種でもう老齢手前の筈だが……さすが元衛兵団精鋭部隊長、そして冒険者組合の実質的トップだな?」

 ゼラ(チッ、けっこー調べてるんだな)


「安心しろ、“水蛇”の対策はできておる、先にあの世で待っているがいい」


 そう言って、シュトレイはリゾットの持つ新型の“魔道銃”に視線をやった。

 リゾット「! へ、ヘヘ」


 ブラッダー(? あの銃が、対策? ……)


 ゼラ(まさか、団長に魔法封じを? いやでも効くかなぁ、現に改良したこの魔封じってやつでもレックスの旦那は立ってるし……団長なら筋肉で全てを解決しそうだよね……)


 モード「ま、マイケル神父、あなたは……ま、まだ……まだ、間に合いますネ」


 マイケル神父「モードさん……」


 ヴァイン「うるっせえ! ドブネズミ!」

 ガシャアンッ!

 耳がちぎれそうな勢いで振り回して、彼女を壁際に溜まった瓦礫に投げつけた。


 皆「「ああ!?」」


 モード「っ……」


 レックス「シューーッ、奴は生かシておけんっ!」

 ゼラ「隊長ぉ! いい加減にしろよお前!」

 ブラッダー「くっ(ゼラ君っ、いいから作戦通りにしてくださいっ)」


 オフィーキュス(わ、私も、手伝い、まスわ……)


 ベル(ここに入ってればいいの?)

 ブラッダー(しーっ、そうですっ)

 何やらフェアリーの少女が、ルーナのそばでゴソゴソやっていた。


 マイケル神父「やめろ! むやみに人を傷つけるな馬鹿者!」


 ヴァイン「人? じじいお前、馬鹿か!? こいつらは人間じゃねえんだよ! 亜人デミヒューマン! 汚ねぇ家畜なんだよ! そこにいるピッグ共と同じさぁ!」


 のぞき込んでいるオーク達「「ブゥ?」」


 シュトレイ「やめろと言ってるだろうヴァイン!! 貴様もだ神父! (これ以上邪魔をすれば水教の人間がさらに姿を消して、また湖に死体が浮かぶことになるぞ! 貴様のせいでな!)」

 シュトレイは大柄な神父の眼前まで迫り、見上げながらも彼を圧倒する気迫でそう囁いた。

 ルーナも気絶し、誰もそれを聞くことはなかった。


 マイケル神父「ぐうううっ、ギリッ……」

 今までになく怒りに震える巨体の神父。


 ゼラ「なんだってんだよ」

 ブラッダー「……(よく聞こえませんでしたけど、まさかのやはり……人質でも取られてるのですかね?)」


 クリオス「こ、怖いよぅ」

 オフィーキュス「うぅ、大丈夫、クリオス、きっと」


 ゼラ「そうそう、魔族も処刑も切り抜けたしね? もう少しの辛抱だからね?」

 レックス「ルーナ様が目覚めれば……」


 敵達が魔法封じに囚われた連中を見ると、例の得体のしれないハーフエルフの衣服を脱がして調べていた。


 ゼラ「あぁっ、もうっ! みっ見つからねえな! おかしいなー? ……服の間に挟んでたのが、落ちて中に入ったんじゃないの? ちょっと脱がして――ブラッダー『その手を離しなさいゼラ君っやり過ぎですっ、後で言い付けますよ!?』――……はい」


 人質で脅したのが効いたのか、脱がした衣服を投げ放って、慌てているように見える。


 トサッ……。

 ……(ふべっ)……。


 放り投げる衣服や荷物の中で“深緑のケープ”が一着、石床に落ちた。


 そこは、魔法封じの紫の光の、照射の外であった。


 ……。


 盗賊リゾット「まったく、ちんたらしてやがりますね。しっかしこれだけ必至ってことは、そんなに良い品なんですかぁ? シュトレイ様?」


「……それ以上詮索するなら、そのうるさい口を焼き溶かして、二度と開かんようにするぞ?」

「!? すっすいやせんっ!」


「ハッ! ただの支給品だ、失くせば我の責任問題になるからな」


「クソッ! ちんたら何やってんだっ、中に入れねえからなぁ……(チッ、シュトレイさんも探すの黙って待ってるけど機嫌悪ぃな)」

 ヴァインは焦っていた。


 何故ならば、彼に支給された帝国製の小剣は、魔法剣に特化した特殊な製法で作られており、門外不出の品だからだ。


 更には“帝国騎士の証”でもあり、紛失することはあってはならない。

 発覚すれば騎士資格をはく奪され、最悪、“審問官インクイジター”の処分――処刑か暗殺されるだろう。


 シュトレイにも無関係ではない。

 それは護衛騎士を預かっている帝国役人としての彼の地位すら危ぶまれる不祥事だからだ。


 ……もぞ。


 ベル(外だぁ! 動く動くっ)

 血に汚れたそのケープの塊の中から、ベルが密かに抜け出した。


 ヴァイン「おいっ! いい加減にしねぇと、鼠を殺しちまうぞ! ――何だ盗賊シーフ!」

 リゾット「あ、あのぅ、なんか大変そうですけど、処刑はいいんですかね? あのイカれエルフが起きたらやばいんじゃ?」


 この時帝国人達は連中の処刑や、この街での計画どころではなくなっていた。


 ありえない事件が起きていた。

 損壊はあっても、紛失など起きる筈がない。

 敵地で希少な軍需品、技術を失くすなど。

 ましてや、奪われた等、口が裂けても報告はできない。


 ヴァイン「何びびってんだチンピラがっ、あんぐらい狂暴な亜人デミヒューマンなんて幾らでもいんだよ! 皆焼き斬り殺したけどな!」

「い、いやでも、あいつはやばいですよ、さっき見ましたでしょ? どんどん強くなってきてて……」


「はぁーー、お前全然わかってねぇなぁ、これだから“三下”の盗賊シーフはよぉ。だからぁ、あんなしょぼい剣しか持ってねぇレベルじゃ――」


 シュトレイ「……ええぃもういい! あの異様なエルフを亜人デミヒューマン共々すぐにでも処刑すべきだ、得体が知れんし、ケイラッドと同類の可能性もある。“魔道剣”は死体から探せばいい」


 オフィーキュス「た、大変でスわ」

 クリオス「お姉ちゃん! エルフのお姉ちゃん! 起きて!」


 少年は力なく倒れながらも、離れた彼らの元で意識を失っているエルフの娘に呼びかけた。


「……ぅ」


 ……誰だ? 誰かが、呼んでる。


 ニコ?


 ヴァインは、どこにも見当たらず、いつまでたっても見つからないことから、魔法袋にでも仕舞っているのではないかと考えていた時、それは起きた。


 戸口のところにいるオークが騒ぎ始めた。


 シュトレイ「何だ? 騒々しいな」


 リゾット「んん? どうしたっ、豚共? 何を騒いでやがんだ? うおっ」


 ザアアアア……。

「水? おいっ水漏れか!?」

 オーク達「プギィ、溢レタ」「水槽ガ……」「痛い! 噛まレタ!」

 戸口から水が流れて入って来ていた。


 ギャレス「ぬおお!? なんだ! ブハッ! お、溺れる! 誰か儂をこのデカブツから引っ張り出せえ!」


 壊れた壁の向こうで倒れるブロンコスの下敷きになって気絶していたギャレスが廊下中にあふれ出した水で目覚め、騒ぎ始めていた。


 ザバアアッ……。

 盗賊リゾット「うわっ何が起きてやがんだ!?」


 戸口から研究室に流れ込む水も、だんだん勢いが増して来た。

 ピチャ……。


 マイケル神父「……?」


 ヴァイン「おいおい今度は何だよ?」

 シュトレイ「水? おい! 一体何が起きてる! 話せる奴はどこだ!」



 ゼラ「何だ何だ、水? でも戸口からこっち、少し段になってるから俺達は別に大丈夫じゃない?」

 レックス「ここが古い遺跡なのと、地下だからでシょうか?」


 クリオス「み、水だよ座長……」

 オフィーキュス「……何でシょう?」


 ブラッダー「なんか汚ったない水ですよね……」


 ゼラとレックス「「ああっ!」」

 彼らは自分達がここにやって来た場所を、思い出した。


 盗賊リゾット「グララス! どこ行きやがった! おい豚! さっさとあの“通訳”を呼んで来い! 寝てるブロンコスなんて放っとけ馬鹿野郎共!」



 ゼラ「誰よ? グララスって?」

 ブラッダー「話の流れからして、恐らくあの“共通語”をしゃべる牙折れのオークのことじゃないですか?」


 マイケル神父「……これはっ!? その水に触れてはだめです! 離れて!」


 水は、黒くにごっていた。

 その流れの中に、僅かに目立つ大きさの、透明な丸い物体が散見しているのを神父は察知した。


 ヴァイン「はぁ? あ! これスライムの水かあ!?」

 シュトレイ「何だと!? では、水槽が溢れたのか!?」



 ベル(こそこそ、うん? なに騒いでんの?)


 読んでくださりありがとうございます。

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