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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
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128話 抗う2 逆鱗

 モードを殺させまいと立ちはだかったが。


 巨大な斧が降って来る――。


 ――何だ!? 背中が熱いっ。

 魔封じで乱れに乱れた魔力が解放され、爆発する様に巡ったかと思うと、いつもの時以上に体の調子がおかしくなった。

 また魔力の刃を出して反撃しようと思っていたのに。


 プチプチプチピシャッパシャポシャパシュッ……。

 辺りを幾つもの水球が高速で作られ、大きくなり、小さくなり、消え去り、また作られ。

 異常なことになった。


 魔法が操れない、魔力を巡らせることができない。


 ずっと力を引き出そうとしていたからか?


 ――だめだ、モードごと斬られる、鞄の甲羅を向けて――だが魔力を通してないっ――彼女を遠くにどかせて、間に合わんっ――おのれっ。


 ――彼女だけはっ!

 モードに覆い被さるように抱き込み、背を向け守る。


 バキャアッ! ズガアッ!!


「ぐうっ!!」

 鞄内の甲羅が魔力を通っておらず、やはり簡単に割られ、背中に少しも威力を落とせなかった巨大な斧が食い込む。


 ズグゥッ!

 止まった。


 ケープだっ。

 魔法のケープが真っ二つになるのを防いでくれた。

 丈夫だと言っていたなケンウッドが。


 だが、意識が遠のくほどの痛みと衝撃が背中に炸裂した。

「……っ」

 だが、まだ、動けるぞ! 背の、左の肉がやられたのか、左腕がうまく動かせないが……。

 

 仕舞った剣を、出して……。


 その時だ。


 ――パキッ。


 ズキィッ!


 背中の、熱いかゆかったところが、切れたのか、想像もできない、貫くような痛みがそこからした。


(ぐああああああああーーーー!! …………)



 そして、ルーナは意識を失った。



 ゾクッ。



 ――レックス――


 まず最初に蜥蜴族の彼が感じた。

 次いで蛇族のオフィーキュスも。


 尾が反応して立ち、そこから体中が震えだし、急な体の異変に動揺と衝撃を覚える。


 目の前で起きた血塗れにされたモードと助けに動き出した主の行動に驚き思考が止まっていた所へ、得体のしれない恐怖が湧き上がり、疑問しか浮かばなかった。


 何故?

 何が?

 いや、違う、割れた音がシた。

 ルーナ様の背中だ。

 鱗だ。


 あの金属のような鱗が割れたのだ。

 隠シておいたのに。


 何?

 儂は、どうシてそう思った?

 何故かはわからんがあれは触れてはならない。


 それに触れたのだ。

 “逆鱗”に触れたんだ。


 逆鱗だと? 何で儂はソんなこと……。

 竜の伝説にある、逆鱗が?


 触れれば竜が激怒シ、全てが炎に滅ぼサれるというあの……。

 いや、待て、何故今ソんなことを考えてる?


 直感だ。

 池鮫や池鰐と出くわシた時と同じ、いやソれ以上のものだ。

 危機の際に感じる直感が、ルーナ様から離れろと言っている。


 ソんな、馬鹿なことが。

 隣のゼラ殿を見ると、彼の槍を持つ手も震え困惑シた表情をシていた――。


 ――――


 ゼラ「っ!?」

 僅かに遅れてオフィーキュスも感じ取った

「……あぁ、あああお、お許シをっ……」

 クリオス「……え? 座長? どうしたの?」


 ブラッダー「ルーナさん! 隊長! って、え?」


 近くに居たヴァインをはじめとする敵達にも、背筋に悪寒が走った。

 ヴァイン「ひっ! なっ!?」


 リコア「ひっ!」

 シュトレイ「何だ!? この威圧プレッシャーは!?」

 マイケル神父「水球がこんなにも? ううっ!?」

 ギャレス「ひっ! なんっ何だ!?」

 オーク達「ブヒイイイ!?」「怖イ!」「ウワアアあっ!」「ブゴオオッ!?」

 リゾット「うぇ、ぺっ、ぺっ……切れやがった……ついに切れやがったぞぉ!」


 ベル「あれ? ルーナ、怒ったの? …………“ルーナ”なの?」



 ――ブロンコス――


「んんン!? ナンだ!? 潰レナい?」

 潰レたトころを見ると、間に入ッテ来たメスが平気デ立ち上ガッた。


 布キレが風モなイのニ揺れテテ、そンで、力ヲ入レテるノに逆ラッテ立ってキタ。

 細枝のクセに強イ。

 変ダ。


 マタあレをやロウ。

 力溜めダ。

 コレデ俺は一族ノ長にナった――。


 ――――


 ブラッダー「ルーナさん!? 様子が変ですよね!?」

 ゼラ「はっ! ルーナさん! また奴が武技を仕掛けてきますよ!?」

 レックス「……は、離れろ皆」

「え? 旦那?」


 クリオス「やたっお姉ちゃんが助けてくれたよっ! ……座長? すごい震えてるよ!?」

 オフィーキュス「……く、クリオス、は、……離れる、のでス」


 ――リコア――


 背中に巨大斧をめり込ませたままうつむいてたエルフの姿をした化け物が、ゆらりと立ち上がった。


 オークロードの腕は痙攣けいれんし巨椀の紫の皮膚にスジが浮かんでる。

 岩すら砕きそうなのにあいつは普通に立った。


 抱え込んでいたズタボロに焼き切られてる鼠が放り落ち倒れて、血の海を作っていた。

 その付いた血が影になった女の頬から垂れてる。


 こんな気味の悪い光景、見たことがなかった。

 それに見たくもない。

 ――タッ。

 すぐさまこの部屋から逃げる。

 戸口で震えるオークを頭を飛び越えて。


 報酬外の仕事はしない。


 ――――


 彼女が戸口を通り抜け研究所を出た瞬間――ルーナの周囲に浮かぶ全ての大小の水球が、急にまるごと一緒に弾け飛んだ。


 バシャアアンッ!


 ???「ガアアアアアアッ!!!!」


 ブロンコス「潰レろ――」


 ドゴオオオオンッ!!


 ギャレス「ひぃあ――」

 彼女が魔力の溜まる巨大斧のめり込む背中を無視して振り向くや否や、ブロンコスが殴り飛ばされ、ギャレスを挟んで壁に突っ込んだ。

 バガアアアガラアアアアンッ!


 ドガッ――リゾット「ぎゃあうっ!?」

 破片が盗賊に直撃し倒れる。


 ズズウウンッ!

 そのまま、壁を崩壊させ、戸口向こうの廊下に二人して崩れ落ちた。

 外のオーク達「「ブヒイイイ!?」」


 ガラアッ、バラバラ……。


 奴の棘だらけの胸当ては拳の跡をつけて大きくひび割れ凹んでいた。


 ズウウンッガラアアンッ!

 オークの手から離れた巨大斧が足元に音を立て床を割り落ちる。


 一同「「おお!?」」


 シュトレイ「!? っ化け物がぁ!」

 炎術士は溜めていた魔力を解き放ち、火線よりも太く勢いのある炎の放射を、小杖に手を添え放ち続けた。


 ボボオオオオッ!


 だが、そこに立っていたはずの娘は火炎が瞬いた瞬間に消えていた。

 倒れたモードと、そこに落ちていたはずの巨大斧と共に。


 シュトレイ「!? 消え――ガッ!?」

 バシンッ!


 彼の顔側面に蹴りがぶつけられていたが、それは空中で止まっていた。

 ブブブブッ。


 ドザアアーッ!

「ううっく!」

 そのまま勢いよく弾き飛ばされるシュトレイ。

 床に頭をぶつけ、一瞬意識が遠のく。


 最後に一瞬見たのは、魔法障壁の魔道具に防がれたブーツ。

 

 そして血まみれの鼠、“風壁”を抱きかかえ、もう片手に巨大斧を掴む、野獣の様な表情の、竜眼のエルフだった。


 ゼラ「な!? え、あれ!?」

 レックス「なんと、あの巨体がっ、ソれにルーナ様が消えた!? モード様も? どこに!?」


 ベル「あっちだよ! クリオス見えないよぅ」

「え? こ、こう?」

 クリオスに掴まれていた彼女は、ルーナが見え辛いとうったえた。

 そばにいるオフィーキュスは震えていた。


 ブラッダー「あそこのすみですっ」

 彼はシュトレイ付近に滴り続く血痕と振動で、速やかに行き場を感知した。

 

 ゼラ「あっ、何で隠れ……ル、ルーナさん?」

 レックス「い、いつの間にあんなところへ」

 ブラッダー「あの巨大斧を持ったままですよ?」


 ヴイイイイイッ。


「フーッ、フーッ」

 モードを抱きかかえて、かがむように四つんいになって、部屋の角の魔封じの柱の影にうずくまっていた。


 ボタボタと血がしたたっていた、それがどちらの女の血なのかは不明だったが。


 こちらに紫の魔封じの波動を照射する光の向こうの、影になったそこで、体が光っているかのようにぼんやりと彼女らを包んでいるように見えた。


 ゼラ「? なんか光ってない?」


 マイケル神父「……治療術!?」


 ブラッダー「治療術、いえ光がなんだか違う……彼女が使えるとは聞いてないですけどね」

 レックス「モード殿の流血が、止まったように見えまスゾ?」

 ゼラ「しかも隊長ごと治療をしてるっ、よし!」


 ブラッダー「隙ありですっ魔封じの照射を壊すチャンスでは!?」

 彼は素早く状況を見てそう言った。


 帝国人二人は倒れており、ギャレスを巻き込みオークロードは壁の向こうに吹き飛びリゾットも破片で倒れた。

 傭兵も消えていた。


 茫然と神父だけが佇んでいる状態であったのだ。


 マイケル神父「……っ」


 レックス「おお!」

 ベル「ルーナッ! それ壊して!」


「フーーッ!」


 ゼラ「ルーナさん!? なんだか聞いてないよ全然? どうしちゃったのよ?」

 レックス「……」


 ググッ!

 モード「っ! ……ぅうっ……」

 抱きかかえる力が強すぎるのか、モードが苦しんでいた。


 ゼラ「隊長っ!」

 ブラッダー「ルーナさん、気をしっかり持ってください!」


 ベル「ルーナ! そんなぎゅっとしたらダメだよっ!」


「ッ! ……」

 グ――……。

 モード「――けほっ」


 大声を出したベルの声がルーナの心に届いたのか、締め付けが弱まった。


 ヴァイン「~~痛ってぇーな……てめえ!」

 シュトレイ「お、己、本性を現したか。混じりものの亜人デミヒューマンめが!」

 リゾット「いっつ、へへ、こうなったら……」


 そうしてる間に、敵が動き出した。

 シュトレイは立ち上がり、額に流れる血を見て、驚愕きょうがく憤怒ふんぬの表情が消える。


 高まり過ぎて逆に。


「! フーッ」

 反応して豹変ひょうへんしたルーナが彼を見る。


 炎術士は、完全に殺意の塊となった。

 ボオオオウッ!


 そして奴から周囲に向かって高熱が発せられる。

 知る者は、昨晩の商人宿で彼がやろうとしていたことだとわかるだろう。


「スコーチング……スワロウ……フレイムウェイブ」

 だが今回は限定的な、一方向に向けて放った。


 ヴァイン「!? うわっ、シュトレイさんキレやがった」

 リゾット「あっち、熱い! ひえぇ」

 マイケル神父「……っく! 大技ですかっ逃げなさい!」


 ボボボボワアアアアアッ!


 ゼラ「なっ! 放つのが早い!」

 レックス「だっ、大魔術なのか!?」

 ブラッダー「ルーナさん逃げて!」

 クリオス「熱いよ!?」

 オフィーキュス「あわわ……」

 ベル「ルーナ!」


 火炎の波が彼女のいる周囲に囲うように迫り来る。

 彼から放たれ通り過ぎていった地面は真っ黒に焦げ付いていた。


「スゥーーーッ……ガアアアアッ!!!!」


 一同「「わっ!」」


 ボシュウウウンンッ!


 ルーナの咆哮により、燃え盛りながら迫る火炎の壁が、放たれた衝撃に水を掛けられたようにしてかき消された。


 ヴイイイイイ――バキャアアッ! …………。

 その余波で、彼女の目の前の柱も砕けてバラバラに飛び散った。


 クリオス「やった! 壊れたよ!」

 レックス「おお! 柱も!」

 ゼラ「よっしゃあ!! あとはあっちの二本か?」

 彼らは少し、動けるようになった体に喜ぶ。


 ブラッダー「“ウォークライ”? 魔術をかき消した!? ……そんなの聞いたこともないですよね」


 バシュウッ!

 シュトレイ「そっ、そんな、馬鹿な!?」

 余波の炎が跳ね返ってきたが、払うようにはじき、目の前で起きたことを必死に見ようと前かがみで驚愕する炎術士。


 ヴァイン「……化けモンスターかよ」


 リゾット「くっ、これならっ」

 奴が新型の蒸気銃を構えて狙う。


 ベル「ルーナ! まだ柱あるよっ!」


「フゥーッ、ハァッ、ハァッ、……う……べ……ベル?」


 ゼラ「ルーナさん!?」

 ブラッダー「気が付きましたか!?」


「……柱……モード……オークが」

 レックス「ルーナ様シっかり!」


「はぁっ、はぁっ」


 ゼラ「汗びっしょりだよ!?」

 レックス「気配も元に!?」

 ブラッダー「ひどく消耗しているようですね」


 オフィーキュス「え? え?」

 クリオス「お姉ちゃん!」

 ベル「ルーナ!」


 ガラアアアンッ!

 巨大斧が落ちる。


 ルーナはその手につかむ巨大斧を持ち上げ、まだ動いている他の柱を向いたが、そのまま倒れた。


 ドサァッ。


 一同「「ああっ」」

 ベル「ルーナぁ!」


 モード「……むぐっ」

 彼女を抱いたままその上に倒れて。


 読んでくださりありがとうございます。

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