126話 処刑
シュトレイ「ちょっと待て、人数が足りんな、他の囚人はどこだ? おいっ、オーク共っ……」
帝国の炎使いが戸口に立ってる牙が片方折れたオークに話しかけている。
人語を喋るオーク「囚人だべか? ブゥ、牢屋は空だったべ、今ブロンコス様が逃げた奴を探してるべ」
レックス「なっ……オークがシゃべってるゾ!」
驚いてるな、だが、彼ぐらいか?
少年は怯えてるだけだし。
ゼラ「え? まぁオークとあんまり会わなきゃそうですよね。喋る奴もいるんですよ旦那」
そうなのか。
ブラッダー「呪術士等、格上の個体に居ますよね」
レックス「ソうだったのか……」
ふむ、小鬼の呪術士も、女王の近くに居たり、頭が良さそうだったな。あれも喋ったのかもしれない。
レックス「シかシ、何故ブラッダー殿はソんなに落ち着いていられるのでスか!? 街も、我々も一大事なんでスぞ!?」
それに今から処刑されるみたいだしな。
ブラッダー「ねぇ、大変なこと聞いちゃいましたよね」
ゼラ「まぁまぁ旦那、焦ると出られるもんも出られませんよ」
「出られるのか?」
「ええ!? ルーナさんがそれ言っちゃうんですか?」
「いや、すまん。頑張って出るぞ」
ブラッダー「頑張って出られるなら苦労はしませんよ、僕なんて身体が全然動かないんですけどね」
彼はレックスを見上げて、そして私を見たな。
ああ、実はちょっと動ける。
ベル(あたしもだめぇ~)
ゼラ「僕もですからね」
ヴァイン「……だから、囚人ならここに居るだろうが!」
ギャレス「うん? こ奴らは黒頭巾殿に転移されて来て捕縛されたのではないのか?」
シュトレイ「そうではないヴァイン、衛兵の言うように、転移から漏れた、他の連中のことを言ってるのだ」
ヴァイン「ったく、あのオークロードは何やってやがるんだ!」
喋るオーク「だから、族長が探してるべ」
「違ええ馬鹿豚! お前ら豚共がちゃんとしてねぇから逃げちまったんだろうがぁ! ぶっ殺すぞ役立たず!」
「ブヒィ、だって、皆スライムに餌やってたし、族長は帰って来たばっかだべぇ~」
このオークを庇うつもりはないが、牢屋では敵の方が多かったけどな。
あ、遊んでたか? ブラッダーで。
リゾット「おい、変異丸は餌じゃねえぞ豚っ」
あぁ、戦将とやらは、食堂を探してるのかもしれない。
隠し扉が見つからないといいが……。
あと、ブラッダー球で遊ぶのは、拷問の一種だったのかもしれないな。
本人は寝ていたが。
とにかく私達は、柱を壊すなりして拘束を解かないと、動けないし処刑される。
カチャ……。
ギャレス「おい盗賊! 貴様も貴様だ! あの魔族を手伝ってここで働いていながら、こ奴らの侵入に気付かなかったのか!」
リゾット「うぇっ!? い、いや、俺も用事を言付かって外に出たり、これでも忙しかったもんで……」
お前、ずっとこの拠点に居ただろう? 途中で消えたが……。
しかし、何だか仲の悪い連中だな。
揉めている集団の中から一人、抜けてこちらに歩いて来た。
リコア「はぁ、あんたももう終わりだねぇ、ざーんねん……?」
何かまた、挑発するようなことを言いに来たようだな。
「……?」
何故だろう、彼女から下水道に囚われていた、リスの子供、ルッコの臭いがするぞ。
彼女も鼻をヒク突かせ、そう言った後で、疑問げな顔になった。
湖で濡れたが、ずっと首に巻きついていたルッコの匂いが、残っていたのだろうか。
同じリス獣人で、貧民地区出身だからか?
「あれ? ねぇエルフちゃん、あんた――」
ゼラ「リコアちゃん! 何でこんな連中と!? ただのギャレスの秘書じゃなかったの?」
「あら、そうですよノーデント様? 私はただの秘書ですからぁ、上司の言う通り、証拠隠滅や暗殺、何でもこなすんですよぉ? お金さえ払い続けてくれる限りは? フフフ」
皆「「!」」
「ええ!? そ、それじゃ、今度お茶しようって約束は!?」
「あー私ぃ、仕事優先なんですぅ、それに、あの時はただの“社交辞令”ですから。あらっ、本気にしちゃってましたぁ? ごめんなさぁい」
「そんなぁ~」
しゃこうじれい? 嘘のことか?
レックス「ケイラッド様を害ソう等、返り討ちに会うだけだゾ獣人!」
リコア「まぁやり方は色々あるしぃ~」
ブラッダー「またろくでもない女に引っ掛かったんですね? 恐らく手配中のローグですよ、その“傭兵”とやらは」
彼はそう言って、リコアの腰の黒い刃を見た。
手配中?
組合のリゾットの手配書と同様のあれか。
……別の街でか?
レックス「犯罪者を衛兵団は雇っているのか?」
ゼラ「そんな……あでも、別の街か外国の、人相書きのない手配書ならありえますよ旦那、一応調べはするんですけどね」
ブラッダー「ずいぶん良く調べて雇ったみたいですね?」
あ、これは皮肉、というやつだな?
ギャレスはそういうの調べなさそうだな、というか知ってて雇ったかもだ。
ヴイイイイイイッ。
リコア「~♪」
ニヤニヤ。
一番近い柱に近づいて破壊したいが、リコアが柄に手をかけて見ている。
連中が話してる隙に“密かに動いていた”が……彼女はそれを察したようだ。
私だけなんとか動けるのも、恐らくバレている。
ヴァイン「……オーケー、まぁいいや、さっさと片付けて皆と合流しましょうシュトレイさん」
オーケー? 奴がこちらを見た。
シュトレイ「大使館を“引き払う”頃合いだな」
たいし館? 連中の拠点か?
奴はそう妙に強調して神父を見たな?
マイケル神父「……おや、やっとこの街から出て行く気になりましたか?」
シュトレイ「……あぁ、“空に”してな」
意味深に笑ったな。
大使館、とやらに何かあるようだが。
多分、何かあるなこれは。
抜け出たら行ってみるか?
帝国は完全に敵だから街に戻ったら容赦しないぞ。
ギャレス「おっ、おい! 儂の方を手伝わんのか!? 詰め所はすぐ隣であろう!」
髭の仕事はケイラッドを倒すことだったな。
大使館とやらは衛兵詰め所の傍にあるようだ。
シュトレイ「手筈が進んでおるのだろう?」
そう言って奴はリコアの方を見たな。
リゾットも頷いている。
手筈とは、暗殺の手筈なのだろうか?
ギャレス「剣はともかく、奴は生身でも十分危険なのですぞ」
ヴァイン「シュトレイさん、俺もケイラッドと戦ってみたいです」
「好きにするがよい、黒頭巾の計画通りなら、もはや止めることはできんからな」
ギャレス「そっちこそ計画通りなのだろうな?」
「ハンッ、魔道具が紛失して候補が減ったが、他には仕掛けてある、問題ない(邪魔な組合と魔法協会以外にも、こいつの水教会も爆破したかったが、仕方あるまい)」
ヴァイン「間違えて捨てちまったんじゃないんすか?」
マイケル神父「……」
リゾット「そっちも俺が手伝ってるんですよ、忙しくて手が回りませんよ 痛えっ!?」
ガッ!
ヴァイン「黙って働いてりゃいいんだよてめえは」
鎧の靴で蹴ると折れるぞ。
マイケル神父「一体何の話ですかな?」
うん? 囁くのが小さ過ぎたのと、魔封じのせいでまるで聞こえなかった。
魔道具の紛失? 帝国の連中の計画か? ソレに神父が僅かに反応したな……。
帝国製の機械を崖の巨大スライムから拾ったが、関係あるのか?
シュトレイ「貴様には全く関係ないことだ、いつも通り施設と物資を用意しておればよい」
マイケル神父「……」
ブラッダー「ちょっと、そこのかっこいい帝国の魔道師さん、処刑する前にほんの少しで良いですから教えてくださいよ、じゃないと気になってちゃんと死ねなくて、アンデッドになって蘇っちゃいますよ? 魔族が怒るかもなぁ? 材料が変質しちゃって」
ゼラ(滅茶苦茶言ってるよこの人)
シュトレイ「ハッ! 我々帝国が魔族なんぞの言うことなどを聞くとでも、本当に思っていたのか? 安心して消炭になるがいい、薄汚い亜人共」
リゾット「ちょっ、どこで聞いてっかわかんねーすよ? って――」
バシュウッ!
そう言うなり、シュトレイが短杖を抜いて、火魔術をいきなりこちらに放った。
ゼラ「な!?」
ジュウッ!
近かったゼラの目前の床の方へだ。
短剣の投擲のような、火線が杖先から飛び出して行ったが、床に当たる前に魔封じの柱の波動に寄って掻き消えた。
詠唱がなかったな……魔道具か?
シュトレイ「チッ、小賢しい光だ、魔法を消し去りよった」
ヴァイン「俺のムチなら! ウィップ!」
シュボボボウッ!
む、ヴァインが魔法剣を鞭に変化させて振り上げたな。
恐らく、あの炎の鞭もこの波動内に入れば消えるはずだろうが。
ボシュウ~ッ!
「あぁ!? くっそ! これもか?」
やはり鞭が私達に届く前に、掻き消えた。
鞭を戻すように奴が短剣を振ると、波動の向こうに戻った鞭の先が復活して見えるな。
「……」
私は傍にある、肉屋の首なし死体の手が握る、“鞭”を見た。
シュトレイ「ふむ……まとめて焼き払おうと思ったが駄目なようだな……おいオーク共、弓矢を持てっ、そこの斧持ちも入ってこい!」
それで処刑するのか。
このままではいかんな。
ブラッダー「魔法で殺せないなら、物理的な手段ですよね」
彼は色々考えているようだが、身体をだるそうにして動きが鈍いままだ。
レックス「ぬぐぐっ……動けええっ!」
彼は唯一立った状態を保たせているが、柱までは歩けそうにない。
ゼラ「くっそ! 街にさえ知らせられりゃあっ!」
ベル「られりゃれ? え~ん、動けないよルーナぁ~っ」
クリオス少年「ひっ」
オフィーキュス「……あぁ、ソんな……せっかく救出サれたと、思っていたのでスが……」
ドカドカ……。
弓矢や、戦斧を持ったオーク達が入って来たぞ。
シュトレイ「ハッ! 昨晩の宿の礼がやっとできるな」
ヴァイン「チッ、弓矢でかぁ? おいオークッあの亜人女をこっちのとこまで引っ張って来い! 俺の剣で斬り殺すんだ!」
オーク達「ブウ? ……プギィーー!」「ゴフゴフ!」
ガラアアンッ!
言うう通りにしようとした数体のオーク達が私の元に近づき、波動の照射されている位置に入った途端、崩れ落ちたり、斧を落とした。
オーク達「なんダ? 力が入ラなイ!」「ムりむリ!」
仲間のオークが驚き引っ張り戻している。
ギャレス「何じゃ? 何が起きた? そう言えばこれは魔封じであるな? 何故オークが倒れたのだ? 見ればこ奴ら、あの漁師蜥蜴も、ゼラも倒れておるな気付けば……?」
ゼラ「今頃かよっ」
リコア「なんか改良したってさっき言ってましたけどぉ?」
リゾット「流石魔道具使いの黒頭巾様っすね、ヘヘヘ、こいつは便利そうだ」
魔道具使い。
シュトレイ「ええい何をやってるヴァイン! 余計なことをするな!」
ヴァイン「なんだよ畜生! その弓を寄こせ豚!」
弓矢を持つオーク達だけでやるようだな。
リゾット「くっくっくっ、やっとイカれエルフの最後が拝めるぜ。あぁそう、俺様の銃ならここからでも殺れますよ」
カチャ。
オークに並んで、奴も蒸気銃を抜いて構え、私を狙っている。
シュトレイ「偉そうに、盗賊っそれは魔族がいじりはしたが、元は我々帝国が提供した品だということを忘れるなよ」
「へへぇ~、わかっております」
にこやかな表情だが、憎らし気な眼が内心を物語っているな。
ギャレス「ぐっふっふっ、とうとう貴様も終わりだな、孤児貴族めが、貴様の死体から剥ぎ取った“貴族証”は、儂が受け取り引き継いでくれるわ。礼金や褒章は確実だろうが、ひょっとしたら儂がノーデントの名を引き継ぐかもしれぬしな」
貴族証? 冒険者認識票みたいなものか?
ゼラ「これは、あんたなんかが持っていていい物じゃない!」
彼は座り込んで動けない状態にもかかわらず、その手を胸にやって髭を睨んだ。
おぉ、貴族っぽいな?
リコア「ばいばぁーい……」
クリオス「ひいっ!?」
奴が私に笑顔で手を振るが、怯えた少年と目が合った。
ほんの一瞬、リコアの眼に、動揺が走ったな。
同じ獣人族だからか?
マイケル神父「獣人は材料に生かしておくのでしょう? 子供だけでもとっておくべきですな」
努めて冷静に言っているが、彼の胸中が、高鳴っているのが僅かに聞こえる。
ヴァイン「はぁ? 何で? 亜人は全部処分しないとだろ、爺さん」
毎回驚くが、こいつは本心でそう言っているな。
奴にとってそれが当たり前のことなようだ。
レックス「帝国人が!」
蛇女「どうか……子供だけでも……どうか、お助けを!」
ブラッダー「……生き延びたにせよ、実験材料にされるだけですよね……」
彼はそう言って、部屋に転がる、特殊な変異スライム兵の、骨となった蜥蜴族の死骸を見た。
マイケル神父「やめなさい! やめるのです!」
ヴァイン「うるせぇうるせぇ」
リコア「……」
神父の背後に彼女が陣取ったな。
柄を握っている。
彼を斬る気か?
シュトレイ「構えろオーク共」
奴の指示を聞いた牙折れが、オーク達に合図した。
ギリギリギリ……。
蒸気銃を抜いていたリゾットと、オークから奪った弓矢を持つヴァインも、武器を構えた。
他は見てるようだな。
レックス「おの……れぇっ」
ゼラ「ルーナさん、愛しています」
うん?
まだ余裕そうだな? 見ると密かに槍を構えている。
弾くつもりか?
クリオス「あ……あ……」
オフィーキュス「クリオス、眼を閉ジていなサい」
彼女は少年に覆いかぶさった。
背中の炎の剣の、酷い切り傷が見えた。
彼女の細い体では、矢は貫通し少年まで届くだろうな。
ブラッダー「……私だけ丸まってもどうなんでしょうね、何か策はありますかルーナさん?」
彼は硬い鱗の鎧があるから、何とかなるのかもしれないな。
だがそうしないで私を見ている。
「皆死なないし、させない、貴様らは斬る」
最早一刻の猶予もない、やるしかない。
グググッ。
ヴァイン「何言ってんだこいつ?」
ギャレス「……その小娘、妙な術を使いますぞ、さっさと処刑した方が良いですぞ!」
シュトレイ「ハッ! この状況でか?」
リゾット「そ、そうっすよっ! このイカれエルフがキレれたら、絶対に変なことになりますって!」
魔術歌か浄化か何か知らないが、猛毒に抗がえる、魔力に抗がえるなら、魔封じに抗がってみせよう。
あの時ミウを助けた時に感じた、体の奥にある、樹の枝を探すんだ、その根元にある力を。
「スゥーー」
魔力が滅茶苦茶に乱れているが、水槽の部屋に入る前に瞑想して抑えたことを思い出せ。
早く、早く、矢や球が飛んで来る前にっ――。
部屋の者達「「!?」」
一帯の空気が変わった。
見ると膝を付いて動けない中で、何故かエルフの娘が普通に立ち上がり、中剣を握っていたのだ。
――集中すれば集中するほど、感覚が研ぎ澄まされて来る。
――戸口の向こうの廊下を、こちらへ近づく巨体のオーク、肉屋より強い。
――マイケル神父がかなり興奮し、汗を多く出している匂いがする。やはり完全に敵側ではないかもしれない。
――リゾットが外套の内に下げているいくつかの蒸気銃の、新しい物らしきところから、魔封じと同じ魔力を感じる。
――石床の下を流れる水の流れと、どこか遠くで歌う、フーケの声や、彼女の所で聞いた謎の歌う声も、ほんの微かに聞こえる。
――魔法のケープの中の絵も見えて来た、そこに仕舞われている、ミスリルの矢や、折れた剣や、転がっている二つの偽爆裂茸の絵を。
――レックスの背の鞄内の魔力の塊、魔道具の魔力、転移に近い何かな気がする、何故かわかる、転移を食らった身だからかもしれない。
魔力の、魔術文字? 何だ? 入れ替え? ケープの絵の様に、文字が、魔道具の効果が一瞬ちらつくように浮かんだ……。
上手く使えるかもしれない。
そして分かった、魔封じの範囲外の天井に、“モードが潜んでいる”ことを。
読んでくださりありがとうございます。




