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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
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122話 実験体

 黒衣の男「最底辺の魔物に知能と不死性を付加したらどうなるか、というわけだ、せいぜい倒れるまで相手をするがいい」


 ゼラ「へいへい、ご高説どうも」

 ブラッダー「……」


 知能と、不死だと?


 魔力の集まっているあの場所、多分透明魔石があるはずだ。

 それを破壊すれば多分死ぬと思うが……。

 他にも何か、あるのだろうか?


 実験体とか言う、変異したスライムらしき魔物が三体、それぞれ武器を構えて近づいて来る。


 人型をしたスライムで歩いているように見えるが、実際は粘体をズラすようにしてそう見せているだけだ。

 中にほぼ全部の骨が入っていてよりそれっぽく見えている。


 オークの大柄な、斧を持ったというよりは、触手から突き出しているスライム。


 人族の上半身だけが入った、盾と剣を逸れっぽく構えたスライム。

 下半身はただのスライムで、背が低い。


 最期は囚人たちの仲間だった蜥蜴族の骨が入ったスライムで、特徴のある頭のがいこつと尾の骨や、持ち物の首飾りも見える。

 槍を三本もその体内から突き出していた。


 レックス「不気味だな」

 ゼラ「うわっ、囲んできたよ?」

 ベル「こっち来ないでー!」


 三体は、私達を囲むように連携して動き始めた。

 知能が高いかもしれない。


«……うう、やめ、止めてくれ»

«クリオス……副座長……エルフ様、お願い……殺して»

«戦う……勝って……嫁さん……もらう»


「……」


 ゼラ「僕は槍を、旦那はオークを、ルーナさんは、ルーナさん?」

 レックス「ルーナ様?」


 ベル「ルーナ……聞こえる?」

 クリオス「?」

 少年の頭上に乗る彼女が、眉を下げて悲しげな顔で私を見た。


 ベルにも聞こえたのか?


 囚われた者達の声が……。


 わかった。


 ヴンッ!

 大曲剣を仕舞い、中剣を構えた。

「私はルーナだ、行くぞ」


 人スライムに突っ込む。


 ゼラ達は驚いて出遅れる。


 横の槍スライムが妨害して槍を突き出して来た。


 普通に躱すのに違和感を感じ、一気に人スライムを飛び越えるように飛ぶ。

 突き出した槍が更に飛び出し触手の様に伸びて追いかけて来た。


 人スライムも盾を構え、剣を突いて来るかと思いきや、盾を覆うスライムが鮫の口のように触手を放射して囲い捕まえようとした。


 それら全てから飛び避けて、背後に降りながら中剣を振りきり、人スライムの背中にある透明魔石ごと、真っ二つにした。

 ザンッ! ――バキンッ。


 ゼラ「やった!」

 ブラッダー「?」


«……うう、ありが、ありが、とう»


 ベル「? だあれ?」

 彼女がそう言って、何もない場所を見上げていた。


 ボタボタッ、ドロォッ。

 瞬く間に、スライムが人の形状を保てなくなり、溶けるようにその場に垂れ溜まった。


 ゼラ「えっ? 溶けた!?」

 レックス「湖のと同ジでスか!?」


 魔石のことか?

 私は頷く。


 黒衣「何だと!? いとも簡単に倒した!? なっ“偽装魔石”に気付いたのか! 何故だ!」

 作業をしながらチラチラと見ていた奴が、二度見して驚いている。


 偽装魔石?

 あぁ、透明魔石のことか。


 オフィーキュス「?」

 クリオス「すごいや!」


 ブラッダー「スライムに、魔石? 魔石ですよねその“断面図”、 半透明? 偽装魔石って言うんですか?」

 驚いているな。

 魔石の斬った部分が見えている。


 彼は囚われていて街で起きている事は知らないから当然か。


 ガガガンッ!

 槍が三本降って来た。

 横に走り避ける。


 ブウンッ!

 槍スライムの背後に突っ込むと、蜥蜴の尾まで真似したスライムの触手が尾を鞭のように振り回すようにしなって迫り来る。

 中に蜥蜴の尾の骨もある。


 ゼラの槍が蜥蜴の骸骨を貫いたが、全く意に介してない。

「あれ?」


 レックス「ノーデント卿っ、恐らく背中辺りでス」

「見えないからやり辛いのなんのっ」


 倒れるように石床すれすれを滑りかわし、跳ねるように立ち上がり、魔石を貫いた。

 ズンッ。


«……ああ、皆、元気で……エルフ様……テルギウ……スに……気を、付けて……»


 ?

 テルギウ……テルギウスか? 大柄の人族のことか?

 よくわからんが、気を付けよう。


 ベル「ばいばーい!」

 彼女がスライムの上の方に手を振っているな?

 一瞬、何か、蜥蜴族の様な煙が見えて消えた場所だが……。


 オフィーキュス「? ……ナル、ニア?」

 彼女も何か感じているようだ。

 気のせいか、額の目の紋様が動いたようだった。


 レックス「――斧が来るゾぉ!」

 ゼラ「うわっとぉ!」

「っ!」

 バシャアッ!!


 息絶えた槍スライムと中の蜥蜴の骨ごとぶち破って、斧が勢いよく私を砕こうと飛び混んできた。


 向こうの斧スライムがレックスを無視してこちらに投げてきたようだ。

 確実に連携している。


 レックスの銛が刺さっているが、無視していた。


 やはり透明魔石を貫かないと、いくら攻撃しても倒せないようだ。

 ガシイィッ!!


 中剣をしまい、咄嗟に両腕で掴む。

 ズルルルウウウウッ!

「っ」

 中々の力だったしぬるぬるで掴みにくく、足元も滑ってかなり後退したが、肉屋の連撃よりはましだった。


 背後の見えない障壁が近づくのを空気の流れで感じた。


 ゼラ「掴んだ!?」

 レックス「相手は儂だぁっ!」


 彼は警告をしてくれた後、斧を飛ばして来たオークスライムに向かって飛び上がって、脳天から三又銛を貫き刺した。

 バキンッ。

 む、透明魔石を砕いたか。


 レックス「突いたか!?」

 ああ、見事だ。


«……ミ、見事ダ……でモ……戦将ニ、殺さレロッ……»


 戦将、ブロンコスとやらのことか。

 わかったからもう眠れ。


 ベル「あの骨スライム、オーク味なのかな?」

 ゼラ「ええ?」

 やはり彼女は昇って行く煙のようなものを見て呟いている。


 オークに戦いを認められたが、最後に怨嗟えんさを呟かれたな、戦将とは、奴らの長の、ブロッコスとかだったか、この拠点のどこかに居るのだろうか。


 三体とも倒した。

 というか、操られている元凶の魔石を破壊した。

 多分だが、これで元の死骸に戻ったようだ。


「仇は取るぞ」


 ゼラ「……え? いつもと台詞、違いますね?」

 レックス「ソうでスな、ルーナ様……」

 やはり、彼らには聞こえていなかったようだな。


 だが、言わんとしてることは汲んでくれたようだ。

 あと、私は今せりふとやらを言ってなかったらしい。

 よくわからんな。


 クリオス「すっごい! あっという間だ!」

 オフィーキュス「まぁ……どうか安らかにナルニア……」


 黒衣「フンッ“偽装魔石”を看破するとは、やはりそのおかしな眼、魔眼の一種かはぐれエルフ。いや、ハーフエルフか? どうでもいいが。しかし、“やっぱり役立たずだった”なぁ、この実験体共は」


 一同「「なっ」」

 ブラッダー(ふうん、魔眼なら見えるんですか? ってすごい殺気が――)


 ブチッ。

 

 ッガゴオオオオンッ!!

 バジバジバジジジジイッ!!


 黒衣「うおおっ!? なっ何だ小娘え!!」


 大剣と大曲剣で渾身の力で奴を斬った。

 ギリギリまでめい一杯魔力を籠めて。


 が、障壁で阻まれた。

 おのれ。


「ガアアアアッ!!」

 両手の大剣をダメにする勢いで障壁の同じ箇所を叩き続けた。

 絶対にこいつは生かしておけん。


 ガゴゴゴゴゴッ!!

 バジッバジジジッ!!


 皆の周囲の障壁が大きく揺らめき、外の研究所の光景が水中の如く歪んで見えていた。


 ベル「いけいけやっちゃえルーナ!」

 ゼラ「いっけえええ!」

 レックス「ウオオオオ!」

 クリオス「やっつけてぇ!」

 オフィーキュス「エ、エルフ様っ」


 ――バジジッ。

 ブラッダー(しめたっ……“ここ”ですよね?)


 アルマジロの獣人は、絨毯中央の裏、石床地面の奥にある場所から、“過負荷”により出た音を“感じ”取っていた。


 黒衣「フッフハハハッ! 無駄だ無駄だ! 何だ怒ったのか? 下等種族が下等種族に同情か? ハッ! 泣けてくるな、混じりものの亜人種よ」


 ガゴゴゴゴンッ! ドガガァンッ! ドコオゥッ!


 連撃も、交差斬撃も、刺突も駄目だ。

 打撃や斬撃による物理的、な力を完全に流している。


 唯一、魔力の衝撃に弾けるような反応を示したが……。


 バシャッ!

 水球をいくらぶつけても駄目だ。


 もっと強く、もっと鋭く。

 バシュッ!

 水が刃の様におぼろげに変化し、勢いも増したが、障壁に弾けるだけだった。


 強くっ!

 ブオオッ! バシャアッ!

 水球が激しくぶつけられ、魔力が吹き荒れ風が巻き起こり、創り出した水さえも、それに掻き消えて障壁に全てぶつかり、弾けた。


 ジジッ。


 フオオッ……。

 カチャカチャ。

 割れ落ちている雷撃の天井罠の破片が揺れ動いた。


 オフィーキュス「? 風が、吹いて……」

 ベル「ルーナが“呼んで”んの?」

 揺れる少年の羊毛や、ベルの羽を見る蛇の女。


 しょせん、水遊びなのか? ウンディーネ……。

 ――~~♪ ――。


 歌ってるのか?

 あの時の様に歌えばいいのだろうか?

 あれは治療だったが。


 オフィーキュス「ルーナ、様、水切りでスっ、真言マントラ、をっ、いえ、ジュ、呪文をっ! “オウス”とっ……うぅ」

 何?


 遠くから蛇の彼女がささやくように訴えて来た。

 水切り? という、魔法なのか?


 マントラ? ……呪文のことか?


 ガガガッ!

 連撃をやめる。

 もう両方ともボロボロだった。

 曲剣の方は薄いから折れるな。

 最後の一撃にかけるか。


 黒衣「なんだ、もう終わりか? 檻で暴れる鼠よ」


 行くぞ、ウンディーネ。

「オウス」

 そう唱えて大曲剣と大剣を振った――。


 その時だ。


 何かが見事にはまった気がした。


 !

 チャプ、コポポポ――シュバッ。

 水球がすぐさま刃に変じた。


 途端に水が言うことを聞いて、剣にそれが吸い付くように纏わりついた。

 何だ?


 ――ザンッ!


 バジジイッ!!

 障壁がまるごと揺れ動いた。

 斬りつけた障壁のそこが、薄くなった気がした。


 バキンッ!

 大曲剣が折れた。


 ビシャバチャガラアァンッ。


 続けて大剣を振りかぶった。

 ゴオオゥッ!

 パシャアアッ……。


 水球はない、ないが、辺りの水を弾き飛ばして剣に突風が巻き起こった。

 大剣の刃に魔力の、風の様な刃が見える。

 風の刃?

 オウスとは水の魔法じゃないのか!?


 ――バジンッッ!!!!!!

 薄まった見えない障壁に叩きこまれた風の刃をまとう大剣が、サクリと何かを切り裂いた。

 魔力のぶつかり合いが耳を壊すような破砕音を立てて、障壁が破れて弾け飛んだ。


 ボオンッ!

 そこに居た私もだ。


 一同「「わああ!?」」

 レックス「うおおっ!?」

 ゼラ「切った――わぷっ」

 ブラッダー(水切り? って言うか今のは魔法剣!?)


 黒衣の男「ぬおおお!? 馬鹿な!! 何だその“呪言”は!?」

 奴も? 呪言?


 いや、奴は自前の防壁でびくともせず、周囲の作業台の上の全てや、壁の道具が吹き飛ばされていた。

 見れば、リゾットの持っていたような蒸気銃が幾つもふっ飛んでいる。

 ここが出所なのだろうか。


 三号[……アァ~~ッ……]


 奴は咄嗟に、組み立てていた魔道具だけ素早く持ち上げ抱えている。

 障壁を破った際、影響を受けたのか、僅かにそれから魔力を感じた。


 ゼラ「こっちこっち!」

 レックス「儂がっ」

 トサッ。

 巨体の彼が受け止めてくれた。

 ゼラ「もうっ、旦那ぁ!」


 ブラッダー「……何ですか? 今の? 何が何やら」

 後方でブラッダーが目をぱちくりしていた。


 調べていた箇所から火花が弾けて鼻を少し焦がしたのだ。

 それは二度の魔法の斬撃時に起きていた。


「はぁはぁ、っ助かった、レックス」

 抱き留めてくれたレックスに礼を言う。


 レックス「お見事でスルーナ様、大丈夫でスか?」

 ベル「汗びっしょりだよルーナッ」

 ゼラ「休まないとっ、僕が膝枕をしますよっ」


 あぁ、ちょっと疲れたな。

 無理をしたせいか、また魔力の巡りが悪くなっている。


 モードが来て風魔術を掛けてくれたのかと思ったが、どうも違うようだ。

 私達しかいない。


 オフィーキュス「……あぁ、ス、スごいでスわルーナ様……ケホッ、オ、オウスは、“断ち切る”という、意味なのでス……見事に水を、操っていまシた……」

 クリオス「???」


 ブラッダー「二属性を同時にじゃないですか、風もでしたよね」

 レックス「なんとっ」


 ゼラ「ええ? ルーナさんたら、今日水球を覚えたばっかですよ? “武技”じゃないのかな?」


 レックス「儂には、帝国の連中が使う技に似ているように見えまシたが?」


 武技とは何なんだろう、そしてレックスの言うそれを聞いたことがあるな、何だったか。


 しかし、二属性?

 そうなのか?

 風の魔法を私は使ったのか?

 おい、どうなってるんだウンディーネ。


 ――フフッ♪ ――。


 まるで霞の向こう、モッカ湖の向こう側に居るようだな。


 だが、これで奴に剣が届くな。


 黒衣「作業場が、吾輩の研究室が、運び入れた機材が……小娘ぇ!」


 ガシュウウウゥッ!

 激怒した奴が魔道具の指輪から、幾つもの光弾を放った。


 瞬く間に部屋中を白い光が眩く染める。

 あの時小鬼の洞窟で、幾つもの大きな穴を作り出したアレだ。


 奴の攻撃も届くようになってしまった。


 水壁をっ!!


 チュドドドドオオオンッ!!

 ジジジジジジジイッ!!


「!」

 一同「「うわっ!?」」

 黒衣「ぬおおお!?」


 何と、すぐに復活していた障壁で、外の攻撃から守られてしまった。


 奴は目の前で炸裂した自分の魔法の余波で倒れ転がって、煙で見えなくなった。


 ゼラ「嘘だよっ、斬ったじゃんか障壁ぃ!」


 あの斬撃が、無駄だったのかっ!

 だいぶ魔力を減らして。


 ブラッダー「ふむふむ」


 黒衣「フッ、フハハッゴホゲホッ! ……どうだ吾輩の“結界障壁”は! 亜人の“魔法剣”如きで切れ目を入れても、直ぐに復旧するのだ! フフンッ」

 起き上がってせき込んでいる。


 ベル「べろべろべーっだ!」

 知らずに自分で攻撃して吹っ飛んだくせにな。


 今、私のやったことを魔法剣と言ったな。

 帝国騎士の技とかいう……。


 奴の豪華な刺繍ししゅう? の施されたローブの頭巾が背に落ちて、顔が見えるようになったな。


 その肌は青白く、眼は細く、その瞳は紫で、片眼鏡をしている。

 耳は長くはないが尖っていて、顎や顎髭もだ。


 後ろにした白髪の長髪を後ろにして額は少し広く、木製ではないが銀色をしたセレナールの様な頭輪の装身具を付けていた、これも魔道具だ。

 首にぶら下げている首飾りもだな。


 ゼラ「うわ、マジで魔族だよ」

 レックス「あれが……」


 黒衣「……おいっ、何をしているっ、そこの、小汚い土魔術士!」


 奴が言うその方向を見ると、ブラッダーがナイフで絨毯を斬っていた。


「やっぱり切れないですよね。ちょっと、レックスさん、その戦斧でここを叩き壊してください」


「? ハッ」

 彼は言われる通り、そこを見て戦斧を振り上げた。


 黒衣「!? おいっ! やめろぉ!!」

 やめるな、やってやれレックス。


「フッ!」

 ドゴオンッ!

 絨毯越しに、下の石床が砕けてめり込んだ。


 響きから、床下に空間があったようだな。

 魔石が砕けたような音も混じっていたから、やはり何かあったのか。

 全然感知できなかった……。


 ジジュゥゥゥゥゥン………。


 それが砕けた時に周りに広がった、放射する魔力から、絨毯や障壁の魔力の出どころが消失したのを感じる。


 絨毯も一瞬、毛の奥の魔術式、魔法陣か、それが光ったな。


 一同「「!」」


 障壁が消えた。


 それと同時に、拡張された広い中央が縮んで、四方の壁が突然こちらに迫って来た。


 ヌヴヴヴヴヴッ。


 ベル「わあっ!」

 クリオス「うわああっ!」

 少年の綿毛がパチパチと音を立てた。

 オフィーキュス「うぅっ」

 ブラッダー「うぅ、眩しいっ」

 彼はどうやら眩しいのが苦手なようだな。


 ゼラ「おおお!? だっ、旦那?」

 レックス「ぬ?」

 ゼラは、彼の背にする鞄の中から、何かがが反応して同じように光るのを鞄越しに見た。


 ベル「部屋が小っちゃくなった!」

 ゼラ「いやこれ、元に戻ったんだよ」


 辺りを覆っていた魔力の圧力のような気配が掻き消えたのだった。

 見事だブラッダー。


 これで、ようやく刃が届くか?


 読んでくださりありがとうございます。

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