121話 部屋
――黒い炎の様なものが消えるのが見える。
気が付くと、景色が変化していた。
靄は嘘のように消えていた。
辺りはごちゃごちゃした部屋で、魔石灯が照らし明るかった。
う、気持ち悪い。
ベル「うえ~、ぐるぐる~」
彼女もか、ふらふらと飛んでいる。
腹もだが、魔力の巡りががひどく乱れている。
何が起きた?
そうだ、転移、転移だ。
ドオオンッ!!
何だ?
レックス「何だ!? うっ痛ぅ」
傍の彼は、膝にめり込む棘を抜き、大きな音を立てた“それ”に驚いていた。
肉屋の首なし死体が倒れた音だ。
首から黒い、濃い青か、明るいのでわかるようになったが、それが流れ出ている。
石床じゃないな、何か敷いてある。
絨毯、か。
ブラッダー「な!?」
ゼラ「ええ?」
クリオス「ひいいっ!?」
オフィーキュス「……ゲホッ、ゴホッ! ……ぅ?」
少し離れた場所から皆の声がする。
皆で転移したのか?
あれ?
モードが、ダロムや、隠し倉庫に入っていた他の囚人たちが、居ない?
確か、棚の隠し扉のとこに居た皆は転移されてない。
肉屋の首もないな?
どういうことだ?
あの靄の範囲までだったのか?
ベル「なあに? なんか光ったよ? あれ? 明るい? ここどこ?」
ゼラ「何だ? “調薬室”?」
彼は部屋に広がる品々を眺めてそう言った。
空の魔法薬の入れ物や様々な匂いのする材料が幾つも入れ物や皿にあった。
ブラッダー「ちっ……罠? 分断されましたよね」
オフィーキュス「……クリオス? あぁっ!?」
「あっ座長っ」
蛇の彼女が気が付いて、向こうを見て目を見開いて震えた。
そして、他にも誰かが居る。
カチャカチャ……。
ごちゃごちゃとした細かい、様々な物が置かれた作業台のところに、カラクリのような物をいじっている者が。
???「……ほう、その実験体を殺ったのか、やるじゃないか。あぁ、絨毯を汚しおってっ」
何だと?
作業の合間にこちらをチラリと見るや、嫌な顔をした。
奴が、黒衣の男が居た。
マルコが魔物を率いる者、魔人と呼んでいた、小鬼の洞窟で出くわした魔族だ。
ベル「やーっ!」
彼女が奴を見るや隠れたぞ。
黒衣「ま、そんな雑魚、どうでもいいがな……だが、だからこそ貴様らが入り込んでいるのを発見できたわけだが……」
?
肉屋と戦っていたので居るのが知られたのか?
何故? ……変異しているからか?
奴の得意な転移を、今回は離れた私達にかけたようだな。
チラとこちらを、私達と実験体と呼んだ肉屋の死骸を見て、すぐに視線を戻し手元の作業の続きに戻りながらそう言った。
奴は何かの機械を組み立てている最中の様だ。
魔術文字が細かく彫られた、小さな金属の球の様な、中に複雑な機械と、更に奥に、宝石のようなものが埋め込まれているのが少し見える。
その周囲や、近くの仕掛けには小さな魔法陣が幾つも浮かんでいた。
魔法の何かだろうか。
魔道具か?
ベル「誰あれ?」
ブラッダー「ありゃ、“捕捉”されてましたか、参りましたよね」
そのほそくは付け足すあの“補足”とは違う意味だな?
レックス「黒衣……はっ! 話にあった例の奴でスかルーナ様!?」
オフィーキュス「あぁ……逃げ、逃げて皆」
クリオス「あ……あ……」
ゼラ「あれが例の魔族か!」
ブラッダー「首領に召喚されたわけですか」
ベル(お話してた、悪い奴?)
ああ。
ジャキッ!
戦えるものは、肉屋に刺さった武器を抜いて構える。
全ての元凶の魔族がいた。
前に殺されかけたな。
小鬼を変異させ異常に強くして増やし、ベイリ村の皆も。
そして、この街でも多くの人を殺そうと企んでいる張本人か。
今回はオークと盗賊のようだが。
完全に隙だらけだ。
作業台は邪魔しておらず、私と奴の間には何もない。
ジャキ――。
ダッ!
――黒衣の魔族「フンッ、“※※※※”(“拡張”)」
何だ? 聞いたことない言語だ!
だが、拡張と言ったのは解る?
私が奴に突っ込むのを見るや否や、そう言った。
ヴヌヌヌヌヌヌッ。
皆「「!?」」
「!?」
中剣を奴に突き刺そうと突っ込むが、やはり体が途中で止まってしまった。
いや、違う!
前の様に剣が止まったわけじゃない。
体が、突撃し剣を突いたその場所から、奴が離れたんだっ。
部屋が、広くなった!?
拡張と言ったか?
魔法?
魔法袋でモードが言っていた、空間魔法とか言う魔術か?
気が付くと部屋が広くなり、壁や様々な、研究室とやらの道具類が離れて、私達の居る部屋の真ん中がとても広くなっていた。
出入口らしき扉は奴と私達の間にある。
恐らくボス様の部屋とやらかここは。
扉を出たら、水槽の部屋に続いているのかもしれない。
ベル(あれ? 大っきくなった?)
ゼラ「何だ今の? 壁が遠くなった?」
オフィーキュス「く、空間の……広く、スる、魔術でス」
詳しいのか蛇の彼女は。
ブラッダー「ええ、やりにくい相手みたいですよね」
彼は今までで一番緊張しているな。
カチャカチャ、キリキリ……。
驚く皆の中で、淡々と奴は作業をしていた。
黒衣の魔族「ええい、煩わしい、今作業中なのだ……この部品は失敗できない……しかし随分、大人数だな? 道理で捕捉に時間がかかったわけだ」
ブラッダーや蛇女と少年を横目で見てそう言った。
クリオス「ひいっ!」
黒衣魔族「……わざわざその小汚い囚人共を解放したのか? 絨毯が汚れるではないか、どうでもいいがな」
レックスやゼラも見たな。
ベル「フ、フンっだ!」
彼女は私の影に隠れて、少し怯えている。
ブラッダー「それは失礼しました、と、おや? 中々上等な品ですよね……」
その片手間で私達を転移魔術か何かで引き寄せたのか?
相変わらずデタラメな魔力と、魔道具をいくつも身に付けている。
今まであった中で一番魔力が多いな。
以前はわからなかったことだ。
強大な相手に汗が流れるが、奴は私達なんて何でもなない様な感じで、呼び出しておいてそのまま放置し作業をしている。
レックス「貴様ぁ! 貴様が彼らをサらい、スイレーンを汚シている黒幕かぁ!」
彼は黒衣魔族を見てから激怒している。
クリオス「み、皆、消えちゃったの!?」
オフィーキュス「……うぅ、て、転移に、私達、だけ、巻き込まれたのよ……」
ブラッダー「そうですよね、落ち着きましょうね皆さん」
ベル(うん……)
ああ。
ゼラ「くそっ、ガストンの奴、こんなバケモンだってのは聞いてねえぞっ」
初めてブラッダーから脂汗が出ているのを見た。
表情も険しい。
む、私もか。
だが、最初にあった時ほど恐ろしくは感じないな……。
ブラッダー「……ふむ」
彼は足元を見ている。
やはり拡張とやらの原因はこの絨毯か。
魔術文字があちこちに羽毛の下から、肉屋の首から溢れる黒い血が沁み込む中から、僅かに光って見える。
そして、奴が拡張と言った際、魔力が放射されるのを感じたぞ。
これ、魔道具か?
全く気が付かなかった。
魔道具には必ず魔力があると思い込んでいた。
天井にある妙な球体もそうなのだろうか。
キィンッ!
鎧から短剣を抜き奴に投げつけるが、奴の元に飛んでいく途中で、跳ね返って落ちた。
ゼラ「ルーナさんっ」
ビシャッ!
遅れて投げつけた水球もだめだった。
黒衣魔族「フンッ、水遊びか? 下賤な者は魔術も低級だな」
ベル(あれ? なんで?)
障壁もあるようだなこの魔道具。
レックス「全て弾かれた!?」
ブラッダー「囚われましたよね、また。恐らくこの絨毯が魔道具ですよね、魔法陣が織られている? う~む」
ゼラ「や、やばいじゃないですか!」
辺りを見回すと、周囲の様々な物が置かれた壁の器具の中で、水槽の様なガラスの筒が並んでいる。
中に入っているスライムの中に、溶け残った骨が沈んでいるな。
……オークや、人族や、蜥蜴族の。
レックス「あの容器……あれは、同族の骨か!? お、おのれ!」
彼も気が付いたようで、怒っている。
黒衣魔族「……うるさい下等種族共だな、うん? はぐれエルフ、貴様“位階が随分と急上昇しておる”な? ふむ、どうりで大暴れしているわけだ?」
“片眼鏡”越しに私を長く見つめてきた。
急上昇だと? それに、何故わかった?
「それと、そこに隠れたのはフェアリーか? どうでもいいが、貴重な材料が手に入ったぞ、フフフ」
あの眼鏡、鑑定のやつみたいな魔道具だろうか。
魔力のみならず、位階も奴には見えるのか?
ベル「やーっ!」
ゼラ「何何?」
ブラッダー「あの眼鏡型の魔道具で見てるんじゃないですかね」
それに、ベルを材料だと?
「彼女に触れたら殺す」
カチャカチャピタッ……。
黒衣魔族「……おいっ、三号、起きろ」
私が言ったことに奴が反応し手を止め、こちらを睨んで何かを言った。
すると、作業台の上にあったカンテラのような、奇妙なガラス容器がガタガタと揺れ、中のスライムらしき液体が容器の蓋の穴、いや、色の付いたガラスの様なものを通過して、伸びあがって出て来た。
スライムの中に、人らしき骸骨の顔が浮かび上がっている。
幻みたいだ。
こいつが三号とか言う奴か?
使い魔か何かだろうか。
三号[……ゴヨウハナンデショウカ?]
くぐもった響きでしゃべったな、蓋の部分から声がした。
カラクリの出した声か?
驚いている周りを見るに、皆にも聞こえているようだ。
ベル「あれがサンゴオ?」
あと、三号とやらから恨みの感情が漂ってくるな。
多分、黒衣魔族に対してだ。
なんとなくだが、ただのスライムじゃない気がする。
黒衣「そこの操作盤の、紫の突起を押せ」
三号[……ドノ、操作盤デスカ?]
「そこにあるだろうっ、それだマヌケっ」
[……コノ操作盤をオシマスネ]
スライム、いや、突起の蓋辺りから声がする。
そして、伸び出したスライムが操作盤とやらに触手を伸ばし、横にずらした。
押したんだな。
隠れてそっと覗き見ていたベルが、小さくクスクスと笑っているのが耳の傍から聞こえる。
黒衣「それを押すのではないっ、紫の――ええいっ、もういいわマヌケが!」
諦めて本人が操作盤とやらを取り上げこちらに向けてから、紫色の突起を押した。
バチバチバチバチッ!
何か来る!? ――。
ベル「わっ!?」
咄嗟にベルを掴んで投げた。
投げ渡すというか、少年の綿毛に受け止めてもらうつもりで。
クリオス「っ! まかせてっ」
ポフンッ。
――その一瞬後。
チュドオンッ!
「っぐうぅっ!?」
身体中に鋭い痛みが走った。
そして、熱い。
バヂヂヂッ。
辺りが強烈な真っ白な光に満ちた。
一同「「うわあっ!?」」「ひいいいっ!?」
「っ」
熱、き、金属が、火花、がっ!?
ジュウ~~ッ。
黒衣「やれやれ、どうでもいいが、魔法生物とは何と使えないのか……」
そう呟きながら、奴は押していた青白い指を離した。
痛みが止まる。
魔法、生物?
使い魔、みたいな、ものか?
三号[“アイ”、ノ受容体ニ高負荷、マブシイ、ト認識シマシタ、ヨッテ受光量ヲ調整、制限シマス]
シュウウ~~~。
ドサッ。
ゼラ「ルーナさん!」
レックス「ルーナ様!?」
ベル「ルーナ!」
クリオス「お、お姉ちゃん!」
ブラッダー「まっ、眩しいっ、目が……」
何が起きた?
天井から、あの球体、か?
“雷”? が、飛び出して、降って来た……。
ベル「ルーナ平気? 燃えたの? 焦げてるよっ」
飛んでった彼女が戻って来る。
ゼラ「大丈夫ですかルーナさん!?」
レックス「ルーナ様っ、お気を確かにっ!」
「……ぅ」
身体中が焼けるように痛い、服が少し焦げている。
カタカタ。
剣を握る指が震える、そして、痺れて動けない。
麻痺というやつか?
だが、しばらくすれば治るようだ、指が動いて来た。
ベル「むぅ~っ、ちょっとあんた、何すんのよ!」
レックス「ガアアッ!!」
ゴオンッ!
ゼラ「んのやろっ!」
ゴウンッ!
ベル「こんにゃろっ! きゃあ~!?」
ボゴウンッ!
ジジッ!
皆が思い切り三又銛や戦斧を振り降ろしたり、拳を叩きつけるが、障壁の透明な壁は、波打つように波紋を広げるだけであった。
最後のベルのが一番揺らめいたな。
ベル「見えないの、全然壊れないよっ!」
ブラッダー「随分強力な障壁ですよね」
黒衣「……相変わらず生意気な小娘だな、ゴブリンの研究を潰し、吾輩の研究所にこそこそ入り込んで、作業の邪魔までするか」
奴は彼らの攻撃を完全に無視し、作業をしながら私に話しかけていた。
研究だと?
何人傷ついて、犠牲になったと思ってるんだこいつは。
目的は何なんだ。
黒衣「貴様ら全部、後でたっぷりと切り刻んで余すことなく実験材料にしてやるからな、光栄に思うがよい」
何だと。
オークが話してたのと同じだ。
黒衣「……だが、人族はいらんな、おい三号」
ゼラ「え?」
彼は見回しながら、自分の事かと自分に指をさした。
実は蜥蜴族とのハーフらしいが、見た所、人族に見えるのは彼だけだ。
三号[……ナンデショウマスター?]
黒衣「今の操作を見ていたな? あの人族の男に今のを黒焦げになるまで押し続けろ」
そう言って、ゼラに操作盤を向けて、三号とか言うスライムの前に置いた。
ゼラ「へっ!?」
いかんっ!
ガッ。
指先が何か触れた。
地面に転がっていた、柄? 大剣の柄かっ。
ゼラ「は?」
三号[……カシコマリマシタ]
スライムの触手が細くなって、紫の突起に伸ばされる。
動けっ!
「……がぁっ!」
ブウウゥンッ!
しゃがんだときに手元に触れた大剣の柄を掴み、そのまま天井に向けて投げる。
落雷を落とす、魔道具に向けて。
バキャアアンッ!
バチバチバチッ!
一同「「わあっ!?」」
球体が弾けるように破裂し、火花がたくさん飛び弾けた。
レックス「熱っ!」
巨体のレックスの頭に火花が少し当たった。
雷石もこんな感じなのだろうか。
奴に、投げつけて見るか?
黒衣「ああっ! 何をする小娘!! 何故動けるのだ!?」
パラパラパリンッ!
破片が落ちて来るが、ゼラが、身に付けていたオークの盾をかざして防いでくれた。
「ルーナさんっ、愛してます!」
ベル「うふふ、ゼラ、あとちょっとで黒焦げになってたね!」
ブラッダー(身代わりになる必要はなかったみたいですね、甲皮で多少防げると思ってたんですけど)
どうやら彼も動こうとしていたようだが、先に壊させてもらった。
まだ満足に動けず、膝をついた。
雷の罠を破壊できた。
ふふふ、“上は障壁がない”ようだな?
“アレ”、大剣が天井に刺さったまま落ちてこないから。
そして天井は障壁に守られていなかったようだ。
ブラッダー「天井は“いける”みたいですよね?」
ああ。
レックス「クソッ、ここから抜け出セんのか? ハッ! 天井は壊セるようだな?」
彼も気付いたぞ。
ゼラ「爆弾でもなきゃ無理でしょ旦那」
ブラッダー「うーん、この絨毯を傷つければ壊れるのでは?」
爆弾? あ。
カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
三号がボタンを押し続けているが、もう仕掛けは動かない。
黒衣「クソガキめがっ……おい! もう押さなくてもよい! やめろ!」
三号[……ナニヲヤメマスカ?]
黒衣「いいから動くなマヌケっ、ええい、改良が足りないか! ……むむ、天井は盲点だったか、上空の展開領域を狭める改良をする必要があるな? 良い結果を得たな……ふむ」
カラクリをいじる手を止め、一旦持ち上げたり、回したりして眺めながら言う。
黒衣「……そうだ、今作っている実験体の追加試験をするとしよう、貴様ら随分と活きが良いからな」
何?
奴が壁の、水槽の方を見て手を振る。
ガコンッ。
そこから音がした。
何をした?
念動魔法か?
ボコボコボコッ……。
見ると、並ぶ水槽の仕掛け、からくりが音を立てて動き、ガラス内に溜まるスライムの中をいくつも泡が昇った。
ゼラ「何だあれ!? スライム?」
彼は今、気が付いたようだ。
周囲の壁は様々な機材でごちゃごちゃしているからな。
レックス「同胞と、オークと、人族!?」
ベル「みんな溶けちゃったの?」
ブラッダー「……妙ですね、中の液体がスライムなら、骨も解けるはずですよね」
ベル「え?」
彼の言うとおりだな。
あれはただのスライムじゃないかもしれない。
羊の少年クリオス「が、ガイコツだっ」
蛇のオフィーキュス「……まサか、ナルニア? あの、ペンダント、あぁ、ソうなのでスね……」
ベル「誰?」
蜥蜴族の骸骨と一緒に、確かに首飾り、ペンダントとやらが浮かんでいた。
オフィーキュス「きゃ、キャラバンの、仲間なのでス……」
連れていかれて、すでに犠牲となっていたのか。
レックス「シューーッ、己っ!」
ブシューッ。
仕掛けから蒸気が噴き出す。
ブゥンッ。
そして、ガラスが突然上に昇った。
ドロォッ……。
ガラス上の蓋が光って振動してるな、それの仕業か、ガラスが上にずれて行って、中のスライムが床に中身ごと零れた。
黒衣「……“ここ”ではスライムに凝っていてな、どれも役立たずばかりだが、改良を重ね続けた結果だ」
ここ? ……湖でか?
ジュル、ビチャ。
三つのスライムが動き出し、なんと中の骨の形に起き上がった。
蜥蜴と、人と、オークの骸骨が中にあるスライムだ。
ゼラ「あのスライム、妙ですね」
ベル「スライム人間だ!」
レックス「おのれ、同族を……」
黒衣「ああそうだ、おい三号、何か武器を渡せ」
三号[……カシコマリマシタ]
レックス「!?」
ゼラ「嘘でしょ」
武器だと?
盗賊団の街の地下アジトの、変異巨大酸スライムの様に武器を使うのか?
三号とやらは、作業台の奥に置いてあった剣や斧を持ち上げスライムの元へ運ぶ。
奥の壁に掛けられている道具類の下の台や、樽にあったものだ。
作業台の向こうに一瞬降りて、回り込むようにこちらに出て来た三号は、出どころの容器を浮かべるようにして、触手をいくつも動かして床を移動していた。
幾つもの武器は軽々と触手が持ち上げぶらぶらと垂らし揺れていた。
ヴンッ。
シュヒィィィィィンッ!
ベル「いっけー!」
ケープの影に出し魔力を貯めていたミスリルの矢を、ケープから出した弓につがえて、三号の容器部分に向けて放った。
障壁の外ギリギリを進んでいるが、呑気に眺めている気はない。
黒衣「うん?」
バジジジジッ!
ゴオオオオオォンッ!
ベル「当たったのに当たってないよ?」
ゼラ「ああっ! くっそ!」
レックス「あの矢を弾いた!?」
ブラッダー「あの魔法矢も防ぎますか」
だめだった。
障壁に当たった時矢が底でしばらく障壁と戦ったが、当たっている箇所から魔力が雷のような音をたてて弾け、弾かれた。
今までで一番障壁が波打ったな。
ブラッダー「ルーナさん、あなた、魔力はどれだけあるのです?」
「まだたくさんあるぞ」
オフィーキュスが私を興味深く見ているな。
今起きたことを完全に無視し、三号がスライムにもうたどり着く。
水槽から出たスライムは、ゆらゆらと障壁の向こうに突っ立ったままだ。
黒衣「今の矢の素材は、ミスリルか? 中々興味深い現象を見たな。その“忌々しいマントも久しぶりに見た”ぞ、親のお古か何かか小娘? “雑兵の生まれ”とはやはり下賤な血だな」
む、一瞬で矢や、ケープの存在を看破したぞ。
エルフのレンジャーの装備だったはずだ。
ついでに生まれもそれだと言われたが、嬉しい反面、馬鹿にされて気分が悪いな。
ゼラ「なんだと魔族野郎! こんな美人なのに――」
ビュウンッ!
ガイィンッ!
奴に三又銛が飛んでったが、跳ね返った。
レックス「ルーナ様へ、なんたる侮辱か!」
ゼラ「旦那無駄だって、力を温存しないとっ」
ベル「べーっだ!」
あえてではないが、ギリギリまで隠していたのはあまり意味がなかったな。
だが、障壁の魔力の出どころはわかって来たぞ。
ブラッダーも鼻や耳をヒクつかせて、絨毯の中央辺りを探っている。
黒衣「フンッ、魔力を籠める術を自慢したかったようだが、その程度では吾輩の作成した魔道具には及ばんなっ、どうでもいいが」
作業の合間みたいに奴はいじってるからくりから少し目を離し、布巾で手の汚れを拭きながら話している。
「加えて戦士の覚えもあるのならば“武技”の一つでも見せてみろ。ほれ、スライムが動くぞ?」
何だ?
ゼラ「言ってくれるぜ」
ブラッダー「あ、やはり彼女は“まだ”ですよね」
“武技”?
ベル「ル-ナの方が強いもん!」
スライムがスライムの使い魔から武器を受け取り、障壁に簡単に入って来た。
奴が手を振り指示したことで動き出したようだな。
幾つも嵌めている指輪の魔道具の、どれかの仕業だろうか。
クリオス「ひい入って来たよお!」
オフィーキュス「……クリオス、サ、下がっていなサい」
ベル「あたしがついてるからダイジョブだよっ!」
ゼラ「来ますよ旦那っ」
レックス「実験だと? 試験だと!? ふザけるなぁ!」
ダアンッ!
巨体の足を絨毯へ踏み鳴らすレックス、地面が僅かに揺れ、ゆらりと近づくスライム人間の、蜥蜴族の首の粘液から外に出ていた首飾りが、揺れた。
ブラッダー「頑張ってくださいね、私はちょっと調べ物があるので」
ふふ、彼はやはり、モードの弟子だな。
彼女達は無事だろうか? 隠し部屋でダロムと共に囚われた皆を守っているのだろう。
モードは潜むのが上手いから、もしかしたらこっちに来ているかもしれないな。
ダッ。
ズズッ……スタンッ。
ジャキン!
天井に飛び、大曲剣を掴み抜き、着地して構える。
肉屋に比べればだが、どうも妙な感じだ。
ベル「うぇ、なんか、怖いよ!」
油断はできないな。
ズル……ズル……。
読んでくださりありがとうございます。
とうとう見つかりましたね。
とっくにだったようですが。




