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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
123/133

119話 潜入5 副隊長

 ザワザワ……。


 レックス「ルーナ様、モード殿、階段上が騒がシくなってきていまスゾ」

 扉を少し開き外を探っていたレックスが警告した。

 そうだな。


 実はずっと聞こえていたんだが、そろそろ報せようかと思っていたら、彼が教えてくれた。


 ダロム「向こうの扉は確か、食堂でシたか」

 ゼラ「あっちに逃げますかね?」


 ベル「寝てるー」

 ペチペチ。

 ブラッダー「……スゥ……」


 また彼が眠ってしまったので起こして事情を聞くなりして脱出しなければならない。


 モードがとっておきがあると魔法袋から何かの草を出してゼラにまた頼んで、少し開かせて、ブラッダーの鼻先に草を持っていってスリスリとくすぐりながら揺らした。


 鼻がスーッとする匂いがしてきてるな。


 どこかで出たお茶に入っていた草の匂いがする。

 ああ、モードが出してくれた茶だ。


 ブラッダー「はっ! はむっ! むしゃむしゃむしゃ……ちょっと古くなってますよねこれ」

 急に飛び起きて食いついたな。

 食べれるのかそれ。


 羊少年「わっ」

 皆「「!?」」


 ブラッダー「うまぃ、むぐむぐ……? 師匠? ――じゃなくて、モードさんじゃないですか、何故こんな奥地の未発見遺跡に?」

「目が覚めたみたいですネ」


 ゼラ「副隊長副隊長、僕もいますからね?」

「“第二”のゼラ君? ……それに次期網元のレックス殿に、片腕のあなたは、確かケンウッド商会の若様付きの、ダロム殿ですよね?」


 草を食べながらだんだん目が覚めて来てしゃべり始めた。

 指さしながら確認して自分に言い聞かせるように言っている。


 しゃがんだまま見上げている。

 モード並に小柄だ。


 持ち物は、首に小袋を下げているだけだ。

 手足の爪は鋭く、小さい。

 甲皮もすごいが、内側の体も蜥蜴族のように鱗だった。


 そして、よく見ると鼠族に似ている、彼女と近い種族なのかもしれない。


 指差された当人たちは手を上げたり挨拶して頷いてるな。


 レックス「……お久シぶりでスな、ソれと儂はまだ(網元に)なるとは決めてないゾ」

 知り合いか。

 ダロム「ご存ジとは、光栄でごザいまス」


 モード「しっかりなさい、まだ敵地ですからネ」

 ゼラ「そそ、一応、救助隊です」

 今ボソッと言ったが、囚われた人々がギョッとして見てるぞ。


 漁師のレックスとかダロムがいるからだろうか。

 衛兵には見えないからな。


 救助隊か、私達も実はさまよっているんだが。


 ブラッダー「救助隊……あ、囚人仲間の、キャラバンの副座長オフィーキュス殿、助手のコーギー殿、料理番のステラ殿、“御者頭”のテルギウス殿、丁稚でっちのクリオス君、乗り合いのヴェッサ嬢、無事、ではないですが皆無事の様ですよね、そして……」


 キャラバンは商隊だったな、でっちとは何だろう。

 順番に、蛇族の弱ってうつ伏せになっている女が長、副長か。


 怪我は治療したが、まだせっている。

 恐らく、体力が戻って来ていない。

 皆干し肉をすごい勢いで食べてたからな。


 乗合いは……商隊の客だろうか。

 いちいち教えるように言ったから、私達も彼らの事が知れれた。


 そして最後に私達を指した。

 多分わかってて最後にしたな。

 というか、視界に入ってはいるが信じられない、といった感じだ。


「エルフ族? にフェアリーですよね? ……エルフにフェアリー!? はぁぁ、こりゃちょっとたまげましたね、何故か瞳が通常のエルフ族のとは違いますよね」


 モード「ええ」

 ゼラ「ええ?」

 一同「「!?」」

 ふむ?


「こんにちは、私はルーナだ」


「こんち! ……(あたしはベルだよー)」

 声を途中で抑えて言った。


「初めましてルーナさん、ベルさん。そして皆さんも、私達を助けて頂いて大変ありがとうございます。私はブラッダー、アルマジロ族で、そこのゼラ君とは同僚で衛兵団第二中隊副隊長を務めております。あと土魔術士で、師は一応そこのモードさんですよね」

 ふむ、一応?


 囚人達「え、モードって、“風壁”?」


 モード「あなたの“暴れ球”の方が有名ですよネ」

 そうなのか。


 ステラ「ありゃあ! ブラッダーさんがそうだったのかい? 何だってずっと“暴れ”なかったのさ」

「はは、あれ、魔法封じの縄だったんですよ。そんなのでぐるぐる巻きにされたら、ただの球なんですよね」


 これから見ることができそうだな?


 ブラッダー「ちなみに、ここの首領の魔族の魔道師はご在宅ざいたくですか? 絶対にかなわないのでさっさと脱出しましょうね」


 彼の声は甲高いが、はきはきと早口でしゃべった。

 そう言って立ち上がる。


 皆「「!」」


 魔族の魔道師、黒衣の男か。

 今度会った時、剣は通用するだろうか。


 ガヤガヤ、ザワザワ……。

 階段の方から増援の気配がする。


 大柄男テルギウス「お、おいっ奴らが来ちまうぞ!? どどうすんだよっ」


 急いで反対側の食堂へと逃げることになった。


 ギイイイッ。

 ゴト、ガタ。

 テーブルをレックスとダロムがずらして、扉を封鎖した。


 なんとブラッダーはこのアジトの構造を全部覚えていた。

「一体の食いしん坊のオークが、棚の奥に隠し倉庫をみつけたようなんですよね」


 ほう、えと、マルゴスだったか。

 食堂に行ったきり戻って来ないが……。


 モードと話し袋から出してもらった羊皮紙と魔法筆を受け取り、スラスラと遺跡の構造を描き始めた。

 シャシャシャッ。


 テルギウス「そんなことしてる場合かよおい! お……」

 ステラ「早いねぇ」


 ベル「わわわっ、お絵描きうまいねっ、ブラダー!」

 異様に早いな、これも魔法か? 


 ブラッダー「いいですねぇ、色々たくさん入れられて、僕のは全然容量がないんですよね」

「ぜいたくを言うんじゃありません、その品でさえ大変高価なんですからネ」


 テルギウス「何っ!?」

「魔法袋か」

 ベル「何が入ってんの? 食べ物かな?」


「ええ、まぁ武器と非常食ぐらいしか入ってないですから、ちなみに全然おいしくないですよね」

「なぁんだっ、ねぇ、食堂に行くんでしょ? 食べ物あるかなっ」

 急に彼女は彼の小袋に興味を失ったな。


 しかし何故彼はマルゴスの隠し事を知ってるんだ?

 それに、何故遺跡の構造にそんなに詳しい?


 モード「うふふ驚きましたかルーナさん? ブラッダーは魔物の声や部屋や壁の“振動”を感じ取ることができるんですネ」

 何?


「振動……声は、声も振動か」


 そう言われると、スライムの声じゃない声も理解できるな、あれは振動だったのか?

 壁の中の空洞が解るなら、オークがそういった場所をうろうろして、肉を隠すのもわかるわけだ。


 レックス「? サっぱりわからん」

 ダロム「恩寵でスかな」

 ベル「ほえー?」


 ゼラ「簡単に言えばブルブル、ってやつだよ」

 ああ。


 ブラッダー「……というわけで食堂の奥にも階段が……上は大ホールでですね……敵オークは出入りが多いですが、大体中隊規模でまだ数十体が……盗賊らしき連中も以前はうろついてましたよね……」


 構造を描きながら敵の規模や配置も話している。

 オークはまだ十体以上いるようだな。


 テルギウス「なあっ早くズラかろうぜったらよおっ」

 ステラ「あんたちょっと黙ってておくれよ」

 大柄男がイラついてるな、御者だったか。

 怖いのはわかるが、ちょっとごろつきっぽいぞ。


 女性陣はドワーフ女の彼女以外は固まって不安そうにしてる。

 蛇女は俯いてる。


 扉は一応塞いでるが……。


 把握? が終わると、彼はこちらの事を聞いて来た。


 ブラッダー「……師匠、簡単にここまでの経緯を聞かせてもらっても? 多分、その様子とパーティ構成を見るに……事故的に、この遺跡に辿り着いたようですよね?」

 すごいな、わかるのか?


 ふむ、レックスはどうみても漁師の姿だものな。

 組合や衛兵の幹部であるモードやゼラが居るのも、おかしいのかもしれない。


 普通の冒険者のパーティとは違って見えるのだろう。


 モード「ええ、それが、湖で変異による汚染が起きていてですネ、スライムが……変異……盗賊拠点……洞窟に閉じ込められて……遺跡の入口を発見し……」


 ブラッダー「うわ……面倒臭そうですよね……」


 そうしながらも、私達が来た経緯を簡単にモードが説明してる。


 スイレーンで起きた出来事を外の盗賊拠点辺りから今日の事まで話したな。

 湖の戦いも。


 大柄テルギウス「そ、そんな馬鹿な話が……」

 羊少年クリオス「……そうなんだ、お兄ちゃんが……」

 少年がこちらを驚いた顔で見てるな。


「?」

 ゼラ「お兄ちゃん? こんななりでもルーナさんは見眼麗しい美女じゃないのっ」

 レックス「ノーデント卿、落ち着いて下サれ」


 モード「……多分、アリエスタさんのことでは?」

 ゼラ「え? あ、そう言う意味か、勘違いしちゃったよ」

 ダロム「ノーデント様、恐らくこの少年、守護都市の……」

 ?


 囚人達「「ノーデント卿!?」」

 旅装女ヴェッサ「ノーデント卿? あなた様、貴族なんですの?」

「ハハ、まぁ一応、気軽にゼラって呼んでくださいね、肩書だけのただの元孤児ですからね?」

 囚人たちが驚いて私達を見ているな。


 モード(……皆さんが驚いているのはルーナさんの戦歴なんですけどネ)


 ブラッダー「サッと聞いた感じでは話を盛る必要がないくらいの武勇伝ですよね。ルーナさんは英雄の類ですかね……ですが、魔族の魔道師はケイラッド様を連れてこないと勝てないですよ?」


 うむ、まだ私は未熟者だ。


 モード「あらあら」

 蜥蜴族達「「なんとっ」」

 ゼラ「う~ん、聞いてた通り以上なの?」


 奴の凄さをブラッダーは正確に感じ取ったようだな。

 私もそう思う。


 副座長の蛇女オフィーキュス「シュ~……あ、あの男が、仲間のっ、蜥蜴族をっ、つ、連れて行きまシた……」

 ステラ「座長、無理すんじゃないよっ」


 蛇族の女が意識を朦朧もうろうとさせる中、それだけ言ってまたうつむいた。


 レックス「何ッ!」

 ダロム「なんでスと」

 他にもさらわれたのか。


 犬娘コーギー「でっでもオフィーキュスさん、きっともう……」

 テルギウス「“ナルニア”ならとっくに食われちまったって! 閉じ込められた時真っ先に黒い奴に連れてかれただろ!? なぁさっさとここから逃げないとっ」


 ふむ、食われた? 黒衣の男が連れてったなら、実験に使うのでは?


 ブラッダー「一応聞きますけど、魔法薬の予備は持ってますか?」

 モードが首を振る。


 テルギウス「おいっ! 嘘をつくな! そのエルフ女が持ってただろが!」

 ゼラ「まぁまぁ旦那、落ち着いて」

 蜥蜴族らの喉から小さく不機嫌そうな音が出てるな。


 モード「……それは冒険者の私物ですし、“提出する義務”はありませんネ。彼女の緊急時の為の物です。それに、まだ“この女性に使う段階ではない”と判断しましたネ」

 ふむ。


 レックスのような時に取っておくのが正しいか。

 戦える者がいないと生きて出られないからな。


 ブラッダー「あぁ、すいません、言い方が悪かったです隊長。テルギウスさんもありがとうですが、どうか抑えてください」

「あんたがそう言うなら……」


 モード「さっきの水に薬草は混ぜて飲ませましたネ」


 オフィーキュスという女は怪我でもしているのか、さっき卓で休んでいた時、モードが調べていたようだが。


 ゼラ「ナルニアって?」

 モード「話によると、料理にされたミゲルという方の、前の犠牲者ですかネ?」


 ベル「さっきオークが食べてたやつー?」

 ゼラ「ベルちゃん、しーっ」


「オークの話すのを聞いたが、食事ではなく、何かに使うから獣人は取っておくように命令されてると話していたぞ」

 ベル「他にもいるの? 助けに行かなきゃっ」


 囚人達「「?」」


 旅装の女ヴェッサ「え? オークの話、ですの?」

 テルギウス「はぁ? なん、何だあんた、オークの話なんて、そんなのわかるわけないだろっ」


 ブラッダー「へぇ、恩寵か何かですか? ……僕から言えることは、あの魔族は研究的目線で、材料とかなんとか“仲間”に言っていましたね。場合によっては料理にされるよりひどいことになってる可能性もありますが……今は全員の帰還が重要ですよね」


 皆「「!」」


 ヴェッサ「そ、そうですわ、その、大変申し訳ないですけど、その恐ろしい方のところに、生きているかもわからない人を探しに行くのはちょっと……」


 オフィーキュス「……よシなに……」


 それを聞いて、同族の危機を知ったレックスとダロムもうなだれた。

 ベルも羽が下がってしまった。

 ふむ……。


 この時、ベルと羊のクリオス等が、無意識にだがルーナを見ていた。


 ブラッダー「ちなみに僕もちょびっと連中の言うことは大体なんとなくわかるんですよね……というわけで、“脱出が第一”で構いませんよね?」

 ほう? オークの言葉をか?


 モード「ええ、食堂の“そこ(隠し倉庫)”へ退避しましょうネ」


 助けを呼ぶ煙筒の話もしたが、煙を出す為地上か、地上が見える場所に行く必要があるようだ。


 隠し倉庫は構造的に、全階層を水槽部屋の排水口の竪穴のように通っているようだとブラッダーが推測したからだ。


 レックス「……むぅ、見事だ」

 ダロム「流石、第二中隊の作戦担当でスな」

 ほう。


 ゼラ「了解」

 早速、彼は食堂への扉を少し開け中を覗き込む。


「強力な魔力を感じる、奥に敵がいるぞ」

 一応報せておこう。


 ゼラ「って、ええ!?」

 モード「やれやれですネ」


 ブラッダー「へえ、魔眼、いえ魔力感知ですか、場所は奥の厨房、ですよね?」

「ああ、そこらへんだな」

 彼が示した地図の食堂の奥部分を指さす。


 ゼラ(すっご、ローグも魔法もいらないじゃないの)


 ブラッダー「やはり……ずっと厨房から出てこないんですよね、そして何故か皆、そいつを恐れてる様子でした……」


 囚人たちが不安そうな顔になる。

 クリオス少年はステラの服にまた隠れ始めた。


「オーク達は魔族――奴らの言う“ボス様の部屋”から戻って来てから“変”になったと話してたな」


 テルギウス「なんだそりゃあ、でたらめだあそんなの」

 ステラ「黙ってなって」


 モード「ひょっとしたら、変異したオークかもしれませんネ」

 ブラッダー「ああ、話にあった変異性の“加工魔石”ですよね?」

 ふむ?

 モード「いえ、まだ加工魔石とは判明していませんネ」

 ブラッダー「ですが師匠、(それを捕食した)魔物が進化するなら、ほぼ確定では?」


 うん? 魔石の話か? 散々魔石を食って進化した鮫と戦ってきたからな。

 変異がそれだということか?

 だが、変異丸の出どころらしきあの肉塊と魔石が、どうも同じとは思えない。

 でも、あの時は魔力や魔石の事はあまりわからなかったから、肉塊の中に魔石があったのかもしれないな。


 モード「その証拠がようやく手に入りましたから、続きは街に帰ってからゆっくりやってくださいネ」

 ブラッダー「帰還ができれば、ですよね……(全員の)」

 彼はモードと目配せするが、けが人を引き連れていくのは厳しいと目が言ってる気がする。


「皆で必ず帰るぞ」

 まぁ、多分大丈夫だと私は考えているが。


 ベル「あたしお腹減って来た~」

 ゼラ「ですね!」

 レックス「ソの通りでス、ルーナ様。水中の化け者共よりはやりやスいでスな、なぁダロム」

 ダロム「ええ、湖では生きた心地がシまセんでシたからな」


 ここち?

 居心地か。鮫の口の中はちょっとあんまりだったな。


 ブラッダー「ふふふ、これは頼もしい」

 彼は私の指輪に気が付き、続けて私の耳の所に浮かぶ小さな水球を見ながらそう言う。

 練習の球はついくせで小さいものだが作り出してしまっていた。


「……師匠、ルーナさんはどのくらいの魔術士ですかね、僕の見立てでは全然読めないんですが」


「うふふ、流石のあなたでもですか。そうでしょうネ、私もわかりません。ただ、お昼前に突然“浄化”を発現させました。その後セレナール様にその(指の)発動体を受け取って魔法を“師事”されたばかりの、今日初めて新人認定された魔術士ですネ。この眼で確かに見ましたよ」


 ブラッダー「は?」


 囚人達「「はあ?」」


 ダロム「なんと、ソれは、今日の昼前のことでスか?」

 ゼラ「うんうん」

 彼はもう驚かないな、目撃者の一人だしな。

 レックス「サ、流石、ルーナ様でス」


 やはり異常なのか、彼らにまで引かれている。

 正直、私もそう思っているぞ。


 ブラッダー「……はぁ、そういうことにしておきましょう、では、攻撃魔術は師匠にお願いしますよね」


 あ、攻撃にはまだ使えないと看破? されたな、見事な見立てだ。

 もっと精進しよう。


 なんとなく水球をぶつけるやり方が合わない気がするから、風刃のようにできないか挑戦したい。


「激戦が続いて私は魔力がもうないです、期待しないでくださいネ」

 ブラッダー「えぇ……あまり良い状況じゃないですよねこれ」


 ドラバタ、ガチャガチャ……。


 階段扉の方からオーク達が降りてくる音がしてきているな。


 そうやって話しながらも、ブラッダーは牢屋を横切り、階段扉を塞ぐ卓ごと、土魔術をかけ始めていた。

 詠唱がかなり小さく、そして早い。


 杖なしでできるのか、いや、私と同じで、指輪をしている。

 あれが発動体だろうか。


 パキパキパキッ。

 床や、周囲の壁の石材がさらさらと砂のように崩れ始めたかと思うと、瞬く間に扉と卓に集まり、あっという間に洞窟の壁の様に包んで周囲が石化した。


 これは、もう入れないな。

 オーク全員で突進を続ければいけるかもしれないが。


 レックス「なんとっ!」

 ベル「わーっすっごいねブラダーっ」


 む、彼の魔力の巡りが他の皆と違うな。


 先程減った魔力だが、足元から上がるように流れて、僅かにだが目に見えて回復し続けていた。

 瞑想もしていないのにだ。


 ブラッダー「さぁ、てきぱきと食堂に進みましょう」


 ゼラ「……ばけもんがいるって話ですけど?」

 モード「見つからなければ、何が居ても関係ないですネ」

 それができるのは多分モードだけだと思うぞ。


 ブラッダー「それができるは師匠ぐらいですよね」

 ほらな。



 少し状況把握で話し込んだが、食堂へ向かう。


 モード(密かに進みましょうネ)


 中は暑かった。

 そして暗い。


 その中から、奥の赤い火の明かりと熱だけが辺りを照らしていた。

 棚が両脇にあり、様々な食べ物や、樽が置かれていた。


 ブラッダーの地図の通り、ここは物置の様だな。


 割と広めの部屋に色々なものが置かれた棚がたくさん並んでいる。

 敵の居るらしい厨房は、この少し先だ。


 少し進むと、空間が開いていた。


 そこの調理台らしき大きな板に、拾った大剣のように巨大な、薄いか配った形の刃の、幅広の包丁が叩きつけられていた。


 そして、オークのマルゴスの上半身がそこにくっついていた。

 下半身だけないな。


 旅装女ヴェッサ(ひっ、ひいいっ!)

 大柄男テルギウス(バカッ! 静かにしろっ)

 ドワーフのステラ(静かにおしよヴェッサっ、ただの調理中のオークだよ、よく食べてるだろ?)

(そんなのっ、お料理になった状態でしか見ませんわよっ! 嫌っ、血がそこら中にっ)


 ダロム(なんと大きな出刃包丁でスか)

 レックス(ソうか? 港に大魚用のこれの細いのがあるゾ)

 出刃包丁というのか。


 ゼラ(え? これさっき水槽のとこにいたオークだよね? ……なんだって“調理”されちゃってるの?)


 レックス(ソうなのでスか?)

 ああ、彼は手鏡越しにマルゴスが出て行くのを見てなかったな。


 しかも、包丁で出血が止まっているからなのか、真っ二つのままでまだ生きてるな。

「……お、オデの、隠シた、トッテおきノ、に、肉ゥ、白い棚のぉ、トコ、腐っチャゥ……アァ、はらぁヘッタなァ」


 一部 ((ひええっ!?))(いっ生きてるぅ!?)

 私達に気が付いて目を少し開けて喋り始めた。


 白い棚? そこが隠し倉庫か。


(ちゃんと食べておこう、これを食え)

 代りに、鞄から塩漬け干し肉の欠片をマルゴスの口に入れる。

 ベル(あっ)


「んぐ、ニク、上手ィ、も、モウ一回だけ、ニンゲン、クイタかった、ナぁ……」


 干し肉をうまそうに食ってから、マルゴスは死んだ。


 レックスとダロム((ルーナ様……))


 ブラッダー(敵に“死に水”をやるのも別にいいんですけど、最期の言葉が最悪ですよね)

 ああ、彼もオークの言葉がわかるんだったな。

 そうだな、だが、マルゴスらしい。


 あと、最期の食事を死に水をやると言うんだな。

 そしてこいつが持ってった筈の鞭が見当たらない、下半身ごと肉屋とか言うやつの居る厨房だろうか?


 一同 ((?))

 ブラッダーはわざわざ皆に何を言っていたか訳して話してやっている。


 私はベルが服を引っ張るので、干し肉を彼女にも渡して、自分も少し齧った。

 クリオス(はむっ)

 羊の少年も欲しそうな眼をして見つめて来ているので、食べるか干し肉を持つ手を伸ばしたら、食いついた。

 

 ゼラ(……えぇ~)

 話を聞いた彼は微妙な表情をしている。

 

 犬娘 (白い棚を探せばいいんですねっ、わふっ)

 そう言って尾を振っている彼女は、蛇女の長い尾を何故か持っているな。


 引きずってると、傍の棚下に置いてあるような、鍋の取っ手に引っかかって、音を出してしまうからだろう。

 ちなみに、彼女を支えるのはダロムが引き続き代わっている。


 ブラッダー(いえ、コーギーさん、もう場所はわかってるんですよね、そこの角を左ですよ)


 ゼラ(あれ、右じゃなかったですかね)

 モード(逆ですネ、逆さに地図を見たのでは?)

 うっ、私もそうだった、気を付けよう。


 レックスとダロムは彼女の表情で察したが、あえて黙っていたのであった。


 ズッ。

 ドバドバドバアッ。

 ビシャアアッ!

 出刃包丁を引っこ抜くと、マルゴスの上半身の断面から中のモノがあふれ落ちて来た。

 ベル(滝みたいだね)


 旅装の女ヴェッサ(……うえっ、し、失礼)

 ボタボタと内臓と血が嘔吐物の様にまき散らされる様を見て、彼女は本物を吐きそうになったが、なんとかとどまった。

 コーギー(臭いわんっ)

 獣人も鼻が効いてきついか。蜥蜴族も。


 彼女以外はそれほど驚いていないな?

 ただ、クリオスの眼をステラがさっと塞いだな。


 このヴェッサという女、なんだか、品、が良いな? 商人宿に居た客の様だ。

 今はぼろぼろの姿だが、服装はそれに近く、生地も良いものに見える。

 話し方や物腰もそうだが、商隊の皆とは少し毛色が違うな。


 オフィーキュス「……うぅ」

 そして、蛇の商人が支えられうなだれつつも、口から蛇の下をシュルシュルと出しているのが見えた。


 それを横目で見つつも、出刃包丁を調べる。

 さっきの大剣程長くも重くもないが、刃が薄く、肉を切るのに優れているようだ。

 まだケープには入る、回収しておこう。

 ヴンッ。


 ブラッダー(!?)

 大柄男テルギウス(……まっ、また消えたっ)

 犬娘コーギー「魔術? いや、やっぱり魔法袋です?」

 ドワーフ女ステラ「しっかし便利な魔法袋だねぇ」

「武器しか入らないぞ」


 ブラッダー「ちょっとルーナさん、こんな時にすみませんが、ちょっとだけお背中を見せてください……おぉっ!」

 む?


 彼は始めて見たか、球になって縛られていたからな。

 そして、武器をしまったのに驚いていたが、背中を見て更に驚かれた。


 ブラッダー「……黄金の世界樹、これは中々のレア物です、流石エルフ族ですよね」

「よくわからんが、さっき道具屋で買った」

 ベル(ジミー爺ちゃん?)


「ええ? こんなお宝を置いてる道具屋は王都にだってないですよね、これ一着で家が買えちゃいます、多分。ホントならジミーさんの心臓が止まっちゃいますよ」


 大柄男テルギウス(何だってぇ!?)

 皆の背後から背の高い彼がゴクリと喉を鳴らしのぞき込んでいた。


 ベル(止まってないよ? 驚いてたっ)

 ブラッダー「ええ? ホントにホントなんですか? これは大変驚きました、掘り出し物ですよね」


 モード「ブラッダー、世間話は帰ってからにしてくださいネ」

 ブラッダー「ハッ! ……失礼しました師匠」

 ゼラ「相変わらず珍しい物に目がないですねブラッダーさん」


 話しながらも、角を曲ると突き当りに他とは違う、小さめの白い棚があった。

 壁の上が斜めに飛び出ているからだろう。


 レックス「何だ行き止まりか?」

 ダロム「あソこ、梁の下に他より小サな棚が」


 天井の構造で、この部屋の天井に横切るように太い木が反対側マデ設置してあった。梁と言うのか。


 コンコン、ガサ、ゴソ。

 地図によると棚の背後に隠し倉庫があるようだが、棚を調べ始めた前にいる皆の出す音で、棚の裏に空間があるのを感じる。


 ベル(お肉が隠してあるんだよね?)

 ゼラ(ああ、そんなこと言ってたらしいねあのオークが)


 モード(? ああ、この棚、仕掛けがありますネ)

 ブラッダー(この棚全体が扉みたいですよね、師匠、多分こっちが開くようです)


 影になって見え辛いが、棚の側面の奥に、扉の付け根のあれ、金属のあれがあったようだ。

 ドワーフ女ステラ(ホントだよ、よくできた蝶番だね、これ、開くのかい?)

 それだ、蝶つがいだ。


 ドカンッ!

 部屋の奥で大きな音がした。

 唸り声も聞こえるな、肉屋か?


 通路の棚越しに見える、右手の部屋の奥に大きな扉があった。

 音はその奥からだ。

 

 地図で見た、厨房とやらだな、奴の気配がする。


 同時にではないが、入って来た牢屋の方でも、オーク達が封鎖した扉を叩く音をここからでもわずかに感じる。

 魔封じの檻にとり残されたオーク達も騒いでるな。


 そして、“更に向こう”から、何か、得体の知れない何かを感じる……。

 何だ?

 よくわからないが、何か、“見られているような感じ”がしてそれを意識すると、気分が悪い。


 ダロム(ルーナ様?)

 少し警戒を強くし明後日の方を見ているエルフを、彼はいぶかしんだ。


 ゼラ(何、今の?)

 レックス(例の、肉屋とか言う奴では?)

 彼は扉の方を向いて答えた。


 大柄男テルギウス(ひいっ、はっ、早く開けて、中に入れてくれよぉっ)

 ドンッ。

 犬娘コーギー(あうっ)

 焦った彼が、蛇女の尾を持っている犬娘を押しやって棚の方へ割れ先へ迫った。


 その時、通路の両脇にある棚に体勢を崩した彼女が手をやった拍子に、置いてあったものに触れたか、棚板を揺らしたのかわからないが、その影響でヤカンのような金属の物がぐらりと転がるように石畳に落ちる。


 ゼラ(開いたっ)

 白い棚を開けることができたのと同時だった。

 ギイイイイッ。

 丁度こちらを見た彼女が気付く。


 モード(ダロムさん後ろっ)

 ダロム(むっ!?)

 それを見た彼女が、コーギーの丁度前に居たダロムに訴えるが、不運にも、転がり落ちるヤカンは、彼の伸ばせる腕がない右側だった。


 カアアアンッ!


 ガラアアンッ!

 ガラアアカチャッ! ――……。

 大急ぎで転がるヤカンをドワーフ女ステラが覆いかぶさるように止めた。



 一同 ((……ゴクリ))


 通路の棚と棚の間から、背面のない、棚に置かれた物々ごしに、奥のその扉が見えていた。


 ズンズンズン……。


 奴がいる、こっちにぐんぐん近づいて来る。


 バタアンッ!!


 厨房の大扉が、勢いよく飛び開いた。


 鼻をヒクヒクと鳴らし、奴のギラリと光る双眼がこちらをねめつけた。



「新鮮ナ肉だアアア!!」


 読んでくださりありがとうございます。

 来たよヤツが。

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