114話 上昇
一同「「わっ!?」」
バシャッ。
足元の板が割れ、それごと、レックスと私は大水球に沈み込んだ。
浮かばせた水球を通り過ぎて、縦穴を落ちようとしていた。
ゼラ「うわ――ガボッ」
モード「えぇ、また水――ゴボッ」
ダロム「なっ……ドボンッ」
掻き泳いで上に上がろうにも、上に居たゼラ達が落ちて来た。
全員、水球とベルを置いて、このまま落ちるっ。
「っ」
咄嗟に、フーケが水を操り、掴み、捕まえ、乗っているのを思い浮かべた。
セレナールがアリエスタを捕えた時もそうだ。
魔水、靴裏に、板にくっつけた水球、できるはずだ、やるんだ。
(ウンディーネッ!)
バシャアアアッ!
レックス(ゴボボボッ!?)
大水球が全員を落とさず捕まえた!
激しく水球全体が揺れ動き、上にそのまま浮かび上がった。
ものすごく魔力が減ってゆく。
ゼラ「ぐっ、ぐるじぃっ……」
いかん、中の彼らを絞め付け過ぎたのか? 急で息継ぎが出来なかったのか?
すまん、我慢してくれ、調節できない。
(ふぇっ!? はわわっ、や~)
上にそれを飛んで見ていたベルに向かって突っ込んでゆく、慌てて逃げる彼女。
モード「ルーナさん止めなさいっ、ぶつかりますネっ」
風防で顔を覆ったモードが警告した!
いかんっ、上に、天井に激突する。
止まれっ。
パシャッ。
寸前で止まった。
ピチャピチャ……。
その縦穴の天井は直角で、横に明るい、格子の付いた小さな出口があった。
そこから縦穴まで斜めに坂の様になっていて、真下は暗黒の穴が空いていた。
坂のすぐ下に、小さな横穴が開いていて、そこから水が流れ出ていた。
しかし、魔力がかなり減った。
もういい加減、魔法を解きたい。
ベル(こっちこっちっ)
出口の格子ぎりぎりまでまで水球を動かし、魔法を解いた。
この出口付近は、坂がなかったからだ。
ザアアアッ。
解けた水が坂を流れ落ちていった。
キ~~……。
ん?
今、何か小さな蟹のようなものが見えた気がした。
「ふぅ~っ、皆、無事か」
ゼラ「はぁっはぁっ、おっ、お見事ルーナさん」
モード「……またびしょびしょですネ」
レックス「ゴホッ、ゴホッ」
彼は指を立てて返事をしている。
ダロム「お疲れサまでシたルーナ様」
ちょっと疲れたな。
しかし、なんとか昇れたようだ。
モード「ルーナさん、すごい汗ですよ!?」
ゼラ「ええっ、だっ、大丈夫ですかルーナさんっ」
蜥蜴達「「ルーナ様!?」」
無理をしたせいか、魔力の巡りがあまり良くない。
瞑想をせねば。
「少し休む、すぅー……はぁー」
皆で狭い場所で固まっている中、瞑想の形を無理やり組んで目を閉じ、呼吸を整える。
ベル(ルーナ?)
ダロム「ベル殿、ルーナ様は少シ疲れたようでス」
ゼラ「こりゃよっぽど消耗したんですね」
レックス「だ、大丈夫なのでスか?」
「……なんでしょうか、向こうはとても広いですネ」
モードはルーナを見て、自分のすべきことに集中する。
ガシャ。
「ちょっと狭いんだけど、この格子、開かないのかな?」
ゼラは金属でできた格子を掴んで揺らす。
一行は固まって格子のすぐそばに着地したが、すぐ後ろは坂になって、後は落とし穴であった。
「ルーナ様は大丈夫なのか!?」
ダロム「落ち着けレックス、(専門家である魔術士の)モード様 (の落ち着き用)を見ろ」
「むぅ……」
そう案じる一番後ろのレックスは半ば坂に出てしまっており、窮屈そうに両壁を手で押さえて踏ん張っていた。
(しっ、向こうで物音がしますネっ)
「……」
む、格子の向こうを気にしていなかった。
何だ? 四角い、部屋?
天井がないな。
上から明りが漏れている。
そして、モードの言う通り、音が壁の向こうからする。
水音と、人の気配、何人かいるな。
だが、魔石の集まりの様な魔力を感じるから、魔物かもしれない。
ふむ、この臭いは……。
どうも大量の小さな魔力がひしめいているようだ。
スライムか?
モード(誰か向こうに居るようですネ)
ベル(くんくん、あれ? オークの臭いがするよ?)
ゼラ(ええっ、ほんと? ベルちゃん)
(うん、まだ焼いてないお肉の臭いっ)
ああ、オークの臭いだったか。
モード(オークが? ……だとするとやはり、拠点にたどり着いてしまったようですネ、レックスさん、これ、静かにどかせられますか?)
(む、畏まりまシた、おい、どけっ、ダロム)
(何、待てレックス……申シ訳ありまセんゼラ様、ソちらに詰めて頂けまセんか)
(はいはい)
(痛いですっ、私の尾を踏んでますネダロムさんっ)
(これはっ、シ、失礼シまシたモード様)
ゼラ(ダロム、そっちじゃないよ、こっち、僕はルーナさんの隣だからね、そっち移ってって)
(はぁ……)
(ゼラさん、いい加減にしてくださいネっ)
(シュー! ダロムっ、詰めるなっ儂を潰ス気かっ)
(シュアーッ、ソの巨体で何を言うかっ)
ベル(ちょっと、しぃーっだよ?)
モード(皆静かにっ)
狭いところでもみくちゃになってるな皆。
体の大きいレックスが前に来るだけで一苦労だ。
この間、魔力の巡りを整える。
いつ戦いが始まるかわからないから、早く、正確に。
毒を飲んで調子が良くなったと思ったが、どうも違うようだ。
それか、無理をし過ぎたのかもしれない、下水道からずっと、(歌ったみたいだがそれみたいな)“変な力”を取り出し続けた影響なのか。
モードがあの時、“眼を開き過ぎた”とか言っていた気がするが……。
体も無理させると痛むからな。
ほんの僅かだが失った魔力が戻るのが判る。
一晩寝たら全快するが、まだ夜は先だ。
そろそろ夕方に入る頃だろうか。
だいぶ良くなったが、目を開けると、創り出した水球がまだ落ち着かず、振動したりしていた。
練習は今日はもう控えた方がよいかもしれない。
(……すまない、もう大丈夫そうだ)
ベル(ほんと? よかった~)
彼女が頭を小さな手で撫でてくれた。
ゼラ(あ、よかったルーナさん)
彼はほっとした表情になったが、視線が一瞬、不安定な水球を見て、また心配そうな表情に戻ってしまった。
しかし、ずっと私を見ていたようだな、ちょっと近いな?
格子の方を見ると、レックスが格子を両手に持ち、ゆっくりと力を入れ外そうとしていた所だった。
ダロムも手伝っている。
……ガガ、ギギ……。
それでも、大きな音が出るな。
ダロム(! いったん待てレックス、今モード様が音を消シてくだサる)
モード(纏え……衣を……風防)
フォンッ。
お、彼女が風の障壁を出した。
レックスとダロム(いいか? せーのっ)
ガキンッ!
パシュッ!
風防が意外と早く消えた、というより、もう少し格子を外すのが遅かったら、音が漏れていたな。
ゼラ等がそういう顔をしている。
モード(?……すみません、集中が足りなかったようですネ)
首を傾げていた。
彼女も失敗することがあるのか。
ちょっと安心した。
パラパラ……。
格子が外れた。
多分、外れるようなものじゃなかったのだろう、周りの石材ごと破壊し外した。
凄い音がしたが、多分、格子の外に風防の風があるから、向こう側には聞こえてないはずだ。
……カタ。
ゆっくり格子を石畳に置き、皆、こっそりと外に出る。
やはり、あの黒い水の様な焦げ臭い匂いが漂っているな。
(ちょっと魔力が残り僅かですネ、鮫の時みたいなのは期待しないでくださいネ)
ゼラ(ええ? そう言って、ホントは割とあるんじゃないですかぁ?)
(……いざという時の分を取っておいてますから、その分は“計算外”ですからネ、これは対魔術士戦の基本として、教えた筈ですがゼラ副長?)
けいさん?
(すいませんでした)
モードの魔力は、大げさにも無理してにでも言っていなく、本当に残り少ない。
だが、もしもの時は、魔力譲渡で渡そう。
ゆっくり静かに出て見ると、そこは、空の水槽だった。
だが一つ違うのは、上全体に、天井みたいに格子状の蓋がしてある。
今さっき外した縦だけの格子とは形や材地質も違う。
太く丈夫そうなのが縦横に交差? していて、どこかで見たことがあるような、黒ずんだ金属だった。
ホントの天井はその向こうの、この水槽の底からは高いところにあって、水槽の底越しに、壁に取り付けられた松明や、床に置かれた篝火の明かりが焚かれているのが、僅かに見えていた。
周囲と同じ構造、遺跡か。
レックスは大きいから一番見えるんじゃないだろうか。
彼はそれらを見るや、人の気配もあるので、びっくりしてその巨体を小さく屈ませた。
水槽の壁越しで見えない向こうでは、大量の水の気配がしていた。
それに、石材の天井に見える“光の揺らめき”がある、あれはフーケと蟹の卵部屋の、水の反射と同じものだ。
横を見ると、今触っているのとは別の壁に、縦穴で水が流れ出ていた穴と似たものが見える。
そしてこの水槽、深いからレックスが飛んで格子に手がなんとか届くくらいだ。
私は届くが。
ゼラもかな? 鮫の時よく跳んでいた気がする。
ひそひそと話した後、レックスの上に昇って、モードがこっそりと暗い場所から水槽の上を覗き見る。
格子の蓋は一番小柄な彼女も通れないようだが、手は出せるらしく、懐から出した手鏡のような小さい品を使い、それ越しに向こうを見ていた。
中々よいものだなそれ。
やるな。
彼女の鞭のような尻尾がピクピクと動いている。
ベルも行こうとしたが、彼女は明るく光っているのでやめさせた。
弓を出して構える。
私達は周囲の壁上を警戒している。
近くに気配はないが、気配のない奴がたまにいるから油断はできない。
ダロムの見ている反対側の方向は壁が近いな。
そして、そこから右手にずっと壁が近いまま向こうまで続いている。
それに比べ、こっち側は天井しか見えない、空間も広そうだから、覗いてるこっちは恐らく通路がある。
空間の響きと構造を考えると、長方形、の大きな部屋で、ここは奥の端っこかもしれない。
向こうはオークの気配がして灯が多く、ここは少ない。
この中《水槽》を見ると、そいつらのいる側の壁の一部が扉の様になっている。
港の入り江の門に構造が似てるな。
上に動いて“隣の槽”と繋がりそうだ。
あ、手招きしてる。
大丈夫そうか?
何だ、私達も見た方が良いのか?
皆でレックスの上に昇る。
ゼラ(ほらダロムっ、来なよっ)
(いえ、私は、あ、はい)
レックス(……今だけだゾ)
ベル(う~、あたしもっ)
(顔は出しちゃダメ、一緒に鏡を見よう)
ほう。
彼女に渡された鏡を使い、うまいこと斜めにやって向こうを見てみると、やはりここみたいな水槽がいくつも並んでいる、長方形の広い空間だった。
右手に廊下があり、一番向こうの突き当りに出入口が、反対側にも同じ入口があるな、こちらは扉があるが、ボロボロで外れそうだ。
感じた通りだった。
ベル(水だっ、お魚いるのかな? あっ、オークが居るよルーナっ)
幾つかの水槽には水が入っていて、オークが見えるだけでも五体、何やら作業をしている。
さっき感じていた魔力の通りだ。
ふむ。
以前は見えなかった魔石の場所がわかるな?
胸の中心の少し上、首の付け根辺りだ。
感じ方、感知もやはり成長してるのか。
ゼラ(この格子、さっきよりすごく硬そうですね? )
彼は格子を調べている、あ、待ってるのか、鏡を渡そう。
モード(あら、もう一枚ありましたネ、ゼラさん、ダロムさんこれ)
ゼラ(あっ、どうも“隊長”、ダロム見える?)
(お借りシまスモード様、ええ、見えまスなノーデント様)
二人でうまく使って見てるな。
レックス(どうなってまス? おいダロム教えろ)
自分だけ見れず足場になっていた彼がとうとうダロムに聞いてきた。
(オークが五体居る、四体武装シておる)
確かに四体は腰や背に棍棒や曲剣、中剣や短剣を差している。
残り一体は腹をさすって壁にもたれかかっていた。
傍の壁に、縄、鞭か? それが掛けられているな。
そして、壁に棒のような、機械が幾つも設置されていた。
ゼラ(あっ、今のっ、あれ、変異丸ってやつじゃないですか?)
ダロム(水が随分とドス黒いでスな)
見えた奴は今、何か小さな黒い丸いもの、多分変異丸を水槽に放り込んだ。
そして皆、先の平たい、港で見かけた棒でかき混ぜていた。
シュウーッ。
支えてくれているレックスの方から、蜥蜴族特有の高音が聞こえる。
これは怒っている時の音だな。
モード(水槽の中は透明スライムが入ってるんですかネ?)
(全部の水槽に、大量にいるぞ)
魔力でしか見えないが。
水音は、かき混ぜる音や、透明スライムが蠢いている気配かもしれない。
例のスライムプールの連中の騒々しさを思い出すが、あまりそういう声は聞こえてこなかった。
この水槽だけ空だが。
スライム「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
モード(それで、出入口は――)
む!?
急いで彼女を止めた。
(誰か来るっ、皆降りてそっちの壁に寄れっ)
ベル(ふぇっ!?)
彼女を捕まえケープに隠し、皆と壁の方へ、大急ぎで、静かに通路側の壁に移動し、ぴったりくっついて口を閉じた。
カツン、カツン、カツン……。
遠く、オーク達の反対側、私達よりも奥の壊れた扉の向こうから誰か来る。
何だろう、棒を突いて歩いて来る。
杖?
バキャアッ!
ガラアァンッ。
扉を蹴っ飛ばした音か?
???「ブツブツ……~~れやれ、また崩れやがっておんぼろ遺跡め。一体どんなばけもんがいるんだこのクソ湖には……水漏れしてなくて良かったぜ。せっかく貯めこんだお宝が~~……」
むっ、何だか聞いたことのある声だな。
こちらに近づいて来た。
ベル(んむぅ~?)
(しぃっ)
モード(手鏡を伏せてくださいっ灯を反射していますっ)
何っ。
ゼラ(やっべ)
見ると、ゼラの持つ手鏡が、上の明かりを受けて、水槽の壁に丸い光を反射していた。
鏡はそれも映し出すのかっ。
私も気を付ける。
そして、レックス越しに、鏡を二つ、回収してモードへ返す。
カツン、カツン、カツン……。
「……はぁ……“イカれエルフ共”に稼ぎを潰され……“痩せ魔族”には文句言われるし、厄日だな……フンッ」
何だ?
痩せ魔族だと?
あと、レックス達から怒気が発せられた。声が漏れそうだな、落ち着いてくれ。
ガッ!
今、何か蹴ったか?
カラァァンッ。
皆「「!」」
上からいきなり木片が飛んで来て、私達が張り付いている水槽の反対側の壁に落ちた。
木や埃の粉が真下の私達に少し降りかかる。
ゼラ(っ!?)
さっき見た、壊れた扉の破片か?
ガッ。
「……ん? こっち側の水槽はほとんど水入ってねえじゃねえか!? おい豚共!」
うわっ、この水槽をのぞき込んでいるぞ。
足の先が真上に見えた。
半分、格子蓋に乗っている。
パラパラ……。
ゼラ(……っ……ぅっへぇっ……)
いかんっ、(落ちた)塵で彼がくしゃみを出しそうだ!
モード(っ!?)
皆で彼の口を塞いだ。
見つかるか?
弓と矢を意識し、ケープから呼び出す準備をゆっくり動き始める。
呼び出すのは音が出そうだからまだだ、こちらを覗きこんだ瞬間、顔面に撃ち込むつもりだ。
ベルは少し暴れていたが、声に気が付いてじっとしている。
というかこの声、話も、もしや……。
リゾットか?
オーク達「フゴ、あレ? ボスがイル」「アァ、サッキからズットウロウロしてるゾ」
「でっかいオトがしてたカラ、みにイッテたんだナ」
「もうシゴトおわりカァ? オデ、ハラヘッタゾォ」
「タブン、またムチャクチャ言わレルにきまっテル」
奴らがこちらに気付いて喋り出したのが聞こえる。
「何を呑気に見てやがるんだ? ここに水を入れろっ! もっとスライムを増やすんだよ! 急げ! あの“痩せまぞ”――御方は進捗? が遅れてるとお怒りだぞグズ共っ」
あの御方? さっきは痩せ魔族と悪態? をついていたな。
オーク達「ほらナ」「エエぇ~」「エっ、ボスさま、オコっテルの?」
「わかるか? し・ん・ちょ・く・だよ、貴様ら豚共がグズグズしてるから全く計画が進みやしねぇ、約束の軍団はいつになったら降りて来やがるんだ? そもそも……」
軍団?
オークの軍団か? 降りてくる?
ボリボリ……。
「ナンかきげんわるイナボス」「ブゥ、いつモノことダロ」「テキトウにきいテおけバいいブゥ」
む、足が消えた。
カツ、カツ。
歩く音、杖、しゃべり方、気配……リゾットっぽいな。
私の顔を見たモードが、口だけ動かして問うてきた。
――リゾット? ――。
そうだ。
頷いておいた。
「……あっこの水槽だけじゃないっ、全部だよ全部! 湖に流し終わったのを空にしたままにするんじゃねえよ? ったく使えねえなあ?」
何?
指示を出してるな、空の水槽を使うのか?
「こいつらに食わせる変異丸ならこのリゾット様が今たんまりあの御方から貰って来たからな! どんどん増やしてクソ広い湖をスライムだらけにして汚ったなくすんだよ!」
やはり、リゾットだった。
話の内容も今までのと合っている。
しかしこいつは話す傍から、企みを漏らし続けているな。
どうやら増やした透明スライムをここから湖に流していたようだ。
鮫が変異、進化? してここまで来るはめになったな。
シューッ!
湖を汚すと聞いてレックスらが怒っているな。
巨体の筋肉がみっしりと膨らんでいる。
他の皆も、良い気ではない感じだ。
しかし、今貰って来ただと?
あの御方、痩せ魔族……黒衣の男がこの近くにいるのか?
フーケの言っていた“わるもの”とは、やはり奴か?
事情を知るモードとゼラは目を丸くしていた。
「そこの、それ、そうだよ、早く動かせ! 水溜めんだよ。水門も開けてクソスライムを移せっ――うおおおいっ! まだだ豚あ!! 門は水が溜まってからだよ! 全く、覚えが悪い連中だぜ」
ガコンッ。
バザアアアッ!
モード(水ですっ)
ガガコンッ。
壁に背を向ける私達の右手の壁の一部が、突然上に動き出して、すぐ止まった。
あれが水門か。
そして隣の水槽から水が流れ込んできた。
ザバアァァァーッ。
レックス(スライムだっ、ダロムっ、見えてるか?)
(うむ、悪党共め……)
ゼラ(てゆうか、水がどす黒いんだけど?)
ベル(泥水ー?)
黒く汚れた水が空の水槽に流れ広がる中に、大小の透明なスライムが蠢いているのがよく視えた。
「ったく。ほらっ、変異丸だぞ! 落としたら水槽にてめえを落とすからな豚ぁ」
ヒュッ、パシッ、ジャラッ。
何か、投げ渡した音がする、黒衣の男から受け取って来たという、変異丸だろう。
「今日中に全部やって増やすんだぞ豚共! 明日か明後日か知らねぇが、お待ちかねの人肉を大量に食わしてやっからな!」
!?
大量だと?
街の人々の事か?
何て奴だ。
ここは叩き潰さなければいかんな。
今飛び出したいくらいだが、蓋が邪魔だ。
そもそもここから出られるかもわからないな。
それと、モードの魔力もわずかだから、考えて戦わないといけない。
ザアアアアアアアア。
「俺様は忙しいからな、ちゃんとやっておけよ! ……まぁこの五、六個は頂いちまって構わんだろう、手間賃だぜ、くっくっくっ、あの方の実験室からちょろまかしたこいつも、隠し場所にしまっておくか……」
後半、聞こえ辛かったが、なにやら盗んだものを隠しに行くようなことを言っていたな。
向こうの出入り口から出て階段を昇って行ったのか、去ったようだ。
ザアアアアアアアア。
(リゾットが出て行ったぞ)
モード(よい耳です、私にはよく聞こえませんでしたネ)
レックス(聞いたかダロム!? あのクソ野郎、オークの軍団で街を襲う気だゾ!?)
(……ソれは確定ではないように聞こえたゾ。目下の問題はスライムを増やシ放たれてシまうことだ)
ゼラ(ちょっとっ聞きました隊長!?)
モード(“降りてくる”ということが、この奥地の川“上流域”の“荒れ山”のことだとすれば、オーク集落の情報を確認していますので現実的ですネ)
なに。
ゼラ(それがホントなら滅茶苦茶大事になってくるんですけどっ!?)
ふむ、本当に軍団が攻めて来るのか?
あと、ゼラはさっきから彼女の呼び方が昔のに戻ってるな。
オーク達「やっトどっかイッたゾ」「イロイロたくさん言ってて、オレよくワカらなかっタァ」「ナぁ、交代はマダか? 牢屋にイッタ連中、戻って来ナイゾ」
「マダあの“丸い囚人”デ遊んデルんダロ」「イイなぁ、俺モ丸いノデ遊びタイッ」
「壊れる前ニ遊びタイナ」「ゼンゼン壊れナイから、マだダイジョウブだロ」
?
丸い囚人? 囚人だと?
ベル(どうかしたのルーナ?)
ゼラ(ルーナさん?)
手でちょっと待ってくれと合図する。
まだ奴らが何か喋ってる。
「ブフゥ、なぁ、オレ、ハラァへったから休憩してクルゥ、食堂の棚のトコに、食いカケの肉をカクシてアルンダァ、取って持ってキテやるゾォ」
「フゴゥッ、マたかマルゴス! おマエさっきカラ休んデるダケダロッ」
「肉? 早く持っテコイッ!」
マルゴス?「ブヒッ、うンッ、行っテくル」
モード(オーク達が騒いでいますネ?)
ゼラ(リゾットの奴が言ったこと、理解してんですかね? あっ、一体こっちに来ましたよっ)
オーク達「オイッ、バカッ、マルゴスっ、ソッチはボス様のヘヤダロっ、コッチノ階段の下だバカッ」「ボス様にチカヅクと、“手伝イ”させラレて、帰ってコレなくなルゾッ」
「ソウダぞっ」
マルゴス「アれぇ? ブヒヒヒッ」
こっちの奥には黒衣の男の部屋があるようだな。
リゾットはそこから出て来たとこだったのだろうか。
別のオーク「オイ、途中の牢屋デ、遊んでナイデ早く交代シロって、連中に言っトイてオけヨッ」
「“肉屋”に気を付ケロー、怒らセルと、おマエが食わレルぞ、ブフフッ」
マルゴス「ウン、わかっタァ、行ってクルゥ」
?
肉屋?
レックス(む、戻ってったゾ?)
ダロム(何だったのでシょう)
ザアアアアアア。
水も入って来てて皆不安げだ。
だが隣の黒いスライム水をこっちに引き込んでるだけみたいだ。
あっちの水槽の床にゆっくり広がってるくらいだな。
まだ足元までは来ない。
階段下に食堂があるのか、途中で牢屋があるらしいな? 他のオークも。
音からすると、リゾットは上に上がって行ったが、マルゴスとかいうオークは降りて行った。
囚人という言葉が気になる、誰か捕まっているのか?
水とスライムがどんどん溜まって来た。
さっさとここから出なければ。
読んでくださりありがとうございます。




