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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
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111話 誓い

 非戦を誓う為フーケに血と爪をあげた。


 ゼラ「なんだ、まだ夢の途中か、やぁお嬢さん初めまして、僕はゼラと申します、中々凝った格好も素敵ですね。あれ? どうかしましたか? 寒いのかな? んん? 水ってこんなに多かったっけ?」


 フーケは震えながら、両腕で肩を抱いてうつむいている。


 髪の毛の中に隠れていた子蟹は驚いて飛び逃げていたが、また戻って来て何やら心配そうに肩の上に乗って彼女の横顔をのぞき込んでいる。

 この子蟹、他の甲羅蟹は大人だからかもしれないが、この子だけ甲羅が青いな。


 レックス「シっ、ノーデント卿っ、あれは水妖でス! 儂らは魔法をかけられてたのでス」


 ダロム「むぅ……皆無事でスか? モード様大丈夫でスかっ」


 モード「げほっげほっ、え、ええ、いつの間に水がこんなに? レックスさんすいませんが乗せてもらって構いませんか? これも彼女の仕業ですかネ」


 水妖……。


 気が付けば、フーケの出していた妙な“音”が消えていた。

 これで皆半ば眠っていたようだな。


 それとは別に今度は、蟹たちや水自体も、何やら騒めき始めたんだが……。


 本当にまずかったのかもしれないな。

 そういえばミナトスの炉に私の素材を入れた際、火花がすごく弾けていたな……。


 ベル「みんな起きたよ!? 大丈夫フーケ? やっぱりおいしくなかった?」


 皆「「フーケ?」」

 いかん、皆警戒して武器を構え始めた。


 特にモードが腰に手を伸ばした、風刃を出すその羽短剣はまずい。

「すまないが皆、戦わないと誓をたてたところだ」


 振り向いて手を出し止める。


 皆「「え?」」


 フーケの髪の影から子蟹がダロムのメイスを見ていた。


 モード「なにやら戦いになってたようですが、とにかく今は大丈夫なようですネ? 頑張って説明してくださいネルーナさん」

 む。


 ベル「えっとねー、この子はフーケって言ってね、多分ネレイド? だよ?」

 ねれいど?


 ゼラ「あー、水妖の別名? ですね、海のニンフだったと思いますけど?」

 彼はそう言って指に浸けた水を少し舐めて確かめる。


 水で分かるのか?

 にんふ?


 ダロム「失礼ながらノーデント様、海だけとは限りまセぬ、水辺にもこ奴らは出まスゾ」

 む、メイスを握る手から警戒を解いていないな。

「あそうそう、そんな感じそんな感じ」


 モード「えと、ルーナさん、ベルさんのような妖精族のくくりの中に、妖女、またはニンフと呼ばれる美女の姿をした、ちょっと厄介な方々が居てですネ」

 ほう。

「彼女は水の妖女、ネレイドと我々は呼んでいるわけです。ここまではいいですネ?」


「ああ、助かる」

 なるほど、ベルとフーケはそういう種族の繋がりだったのか。

 フーケはやはり、魔物とはちょっと違うみたいだな。


 バシャバシャ。

 ゼラ「ねえ、なんか調子が悪そうだし、彼女水から出してやった方がいいんじゃないの? あれ? 扉閉まってるじゃん」


 彼はそんな中、水に佇むフーケを心配し近づいていた。

 だが、皆無視してるな。


 というか警戒して近寄らない。

 近寄るゼラは、油断し過ぎなのかもしれない。


 レックス「ルーナ様、連中は魔物程敵意はないでスが、怪シい術や言葉で儂らを騙シ、時には命を奪うことがあるので、近ヅかないのが一番良いでス、良いでスな? ノーデント卿」

 ゼラ「え? え、ええ、勿論わかってるっすよ旦那」


 ベル「あたし別に、変なことしないよー?」


 ゼラ「本当かなぁ、ベルちゃん? 若い頃に妖精の輪に入っちゃって、爺さんになってもずっと眠りこけたままの商人の話とか、聞くんだけどね?」


 なにっ、私も輪に入った気がするんだが。


「えー? ジョンのことかな? あのキノコの粉はねー、あたし達じゃない子が吸うと夢の世界に行っちゃうから……お爺ちゃんになったのジョン?」

 うん?


 皆「「え?」」

 モード「あらまぁ」


 道具屋で聞いたような……。


 ゼラ「うん? なんでジョン爺さんのことを知ってるのかな?」


 ベル「変だなー? えっとね、この前ね、虫籠に閉じ込めようとして追っかけて来てね? 奥まで入って来ちゃって輪の中にずっこけちゃったの……起こしてあげないとね?」


 この前? あと、ベルは虫じゃないぞ。


 あ、道具屋のジミーが彼女の粉を瓶に入れてたな、そういうことかもしれない。


 ゼラ「ええ? そ、そうなんだ、あ、いや、もう爺さんは十年ぐらい前に永眠しちゃったから……」


 レックス「???」

 ダロム「? ベル殿は、一体おいくつなのでスか……」


 ベル「変なのー、ジョンに追っかけられたのはこの前だよ?」

 ?


 ゼラ「……?」


 随分と不思議な話だな。

 噛みあってないようにも聞こえるが。


 時間が変だな。


 ゼラ「ベルちゃん、ちなみに聞くけど、起こし方って?」

 ベル「? 知らないよ?」

 アリエスタが知らねえのかよっ! と叫ぶ幻聴が聞こえた気がする。


 おお、巨体のレックスが驚いたのか? のけぞったぞ。


 モード「こほん……レックスさんの言う通り、妖精の方々は我々人間種族とは考え方や決まり等、住む世界さえもがまるで違います、それが悲しい事故をもたらす原因なのですが、それで誓いって、何をしたんですかネ?」

 む、モードに短杖でとうとう足をつんつんされた。


 ベル「? 変なのっ」

 ゼラ「えぇ……」


 私はちらりと黙ったままのフーケを見ながら、頑張って説明した……。


 モードは私の舐めていた中指に爪がないのを逃さず見ていたので、察してるとは思うが。


 ゼラ「ふぅん、ルーナさんの血ってすごいみたいですね?」

 ベル「ねー」

 ? あぁ、鍛冶屋の時の話を聞いたのだろうか。


 大体話し終わった頃、気が付けば静かにフーケがこちらを見ていた。

 まるで自分が魔術にかかったように半目で呆けているな。


 ? なんだかさっきと雰囲気が変わっている気がする。


 パキッ。

 彼女の、蟹の鋏のようになっている手のあたりから割れるような音がした。


《これのんで》

 ゼラ「うわっ、びっくりした」

 レックスとダロム「「むっ!?」」


 モード「皆さん落ち着いて下さいネ、蟹が周囲で見張ってることをお忘れなく」

「戦わないからな」


 見るとフーケがその手に変な花を持っていた。

 揺れ動いているように見えるが……。


 部屋の底にくっついているやつと同じだ。

 それをこちらに差し出して来た。

 

 飲んで?

 少し触れると、急に花びらが引っ込んで筒のような茎だけになったな。

「花……生き物かこれ」


 モード「これは……ルーナさん、花ではなく珊瑚の一種ですネ。珊瑚は硬い岩や木みたいな小さな生き物の塊らしいのですけど。これは南海に生息する珊瑚花、イソギンチャク、ですネ? 要するにスライムの親戚みたいなものです。真水に生息するこれは、亜種かなにかでしょうかネ」

 ほう。


 レックス「長いこと湖でやってまスが、儂は初めて見かけまシたな」

 ダロム「奥地の環境は未だわかっていない事が多いでスからの」


 ゼラ「え? あれ、これ、昔海で……確か、猛毒出しますよ? 飲んでって何を? それを!?」

 モード「ええ、耐性がある人でも直接飲み込んだりしたら大変危険ですネ。私は反対します」


 ダロム「フーケ殿、私が代りに飲みまシょう!」

 レックス「! いやっ儂が代りに飲むゾ!」


《ねずみはくわしいね、そうだよ、ちかいだから、のまないとだめだの》


 ゼラ「だからなんで!? ――むぐっ!?」

 ダロム「なっ!?」

 レックス「ぬぅっぐぐぐ、、馬鹿なっ! 動けぬ!」


 フーケがまた何かしたな。


 ゼラの身体に急に水が昇って来て、口まで行って鼻を除いて塞いだ。

 レックスとダロムもついでに体に水が巻きつくように包み、身動きが取れなくなった。


 モードだけは無事だ。

 多分、実はそんなに反対じゃない感じだったからだと思う。

 むしろ飲んでほしそうに私とイソギンなんとかを見ている。


《よそものがだすおとはうるさくていや、ちかいはことばじゃだめなの、こうかんするの》

 不機嫌な顔をしてフーケが言う、寝起きのソニーに似てるな。


 ……ああ、確か、盃、だったか。

 よくわからないが、爪と汁を交換するということなのだろうか。

 それとも、お互いに飲み合うということか?


 ゼラ「むぐんぐむぎゅ!」


 フーケはそう言いながら、イソギン――珊瑚花とやらを少し強く握った。

 途端に、花の中心から黄色い汁が垂れ落ちる。

 卵にそれを垂らし、また一つ詰まんで舐めるように食べた。


 子蟹「キィッ」

 ちっこいのが何やら抗議しているようだが……。


《おまえはだーめ、はい、るーな》


 ペロリと青い舌で紫の唇の汁をなめとりそう言い、珊瑚花をこちらに差し出した。

 美味そうに食べたな。

 そして、舌の先が二つに割れていた。


 ベル「おいしそう! あれ、卵は?」

 あれは別なんだろう。食べることは許されない。


 モード(猛毒ですよそれ……)


 ポタリ。

 垂れた汁が水中に落ちて薄まり消えていったが、たまたまそこを横切って泳いだとても小さな魚が、急に死んで力を失い浮かんで来た。

 子蟹がさっと鋏で掬い取って、口の中に飲み込んで、こちらを見ながらもぐもぐ食べている。


 おいしいよ? と言う意思が伝わって来るな。

 彼女らには平気なようだ。

 毒汁をタレ代わりか。


 ゼラ達は目をまん丸にして見ている。


 見ると、フーケが出したのは汁の垂れる珊瑚花だけだ。

《“かにのこ”をもらっていいのは“まもりて”のフーケだけなの、るーなはちかいだから、これをはやくのむの、すぐみずでわるくなるの》


 ふむ、ということは、水で毒は薄まるのか? さっきからそこら中に垂れているからな。


 まぁ、やってみるしかないな。

 今更誓いを違えるわけには行かない、これも戦いだ。

 負けたら死ぬだけだからな。


 その気はないが。


 珊瑚花を受け取り、垂れる汁をさっきレックスが魔法薬を飲んだように、上にして、開けた口に猛毒の汁を垂らし入れた。


 モード「あっ」

 ゼラ「むうまなあぁぁんっ!」

 レックス「ルーナ様っ!」

 ダロム「水神様、どうかご加護を……」


 この時、水妖の女がその言葉に反応し、祈るダロムを見つめたが、エルフの娘は気付いていなかった。


「!」


 これは、きついな。


 口内だけが途端に巨大鮫の尾ひれで叩かれた時の様に痺れたと思うと、喉がぎゅうっとしまり、呼吸ができなくなった。


 そこから全身に痺れが広がり、力が抜けて動けなくなる。

 口内からは血の味がし始めた。


 必至で口の中に魔力を巡らせ、水を作り混ぜる。


 だめだろうか、ならば、アリエスタの時の様に、解毒の魔術を再現、できるだろうか……。


 立てずに力の抜けた体が、水面に浮かぶ。

 同時に意識もゆらゆらとし始めた。

 まるでさっきのフーケや、皆のようだな……。


 モード「もうっ、自ら死地に入るなんて……」

 レックス「ルーナ様シっかり!」

 ゼラ「んむむうんむむっ!」


 ジャプ。

 片腕の蜥蜴族がひざまずいてこう言う。

 ダロム「フーケ様、解毒の為、水を飲まセても構いまセぬか?」


 モード(ルーナさんの耐性ならもしくは……それに水妖は手助けをダメとは言ってません、解毒薬ならいくつか袋に仕舞ってますけどネ……)


《……るーなならじぶんでできるの》

 フーケは鬼気迫り談判する蜥蜴族達の圧力に、嫌がる表情で身をすくめるようしながら、彼らと反対側のルーナの傍らに移動し彼女の頬を撫でた。


 その視線は、ルーナの耳から垂れ水に浮かぶ、貝殻に留まっていた。


 ポチャンッ。

 ルーナの手から落ちかけている珊瑚花を取り上げ、ぽいと向こうの水に放り投げた。


 彼女の腕に捕まっている子蟹が、珊瑚花から垂れる猛毒らしき汁を鋏ですくって口に入れていた。

 ほんの僅かに、ついた鋏をおっかなびっくり舐める感じで。


「キョッ!?」

 ポチャンッ。

 痺れて落っこちて沈んで行ったが、誰も見ていなかった。


 ベル「ルーナしっかり!」

 彼女もルーナのおでこに降り座り、ぺちぺちと小さな手で叩く。


 意識を失いそうな、眠りに入るときの、夢の中に潜るときの様な感じがする。


 皆の声が遠くなる……毒の症状か、薄めるのは、遅かったようだな。


 解毒を、あの青い、浄化、を、思い出せ……。


 魔力なら、この状態でも、巡らせられ……。


 ベル「すごく冷たくなってるよ!」

 モード「いけません、解毒薬を飲ませますっ」

 レックス「むっ!? いえモード殿、ルーナ様を!」


 ダロム「!? 青い?」


(大丈夫、大丈夫よ、良く聞いてルーナ? 彼女の歌が聞こえるでしょう? さぁ、名を呼んであげて? あらゆる水を司る彼女のことを)


 誰だ、フーケ? 喋り方が? いや、頭の中に直接……。


 わかっ、た、ウン、ディー……ネ……。


 ――ウフフッ♪ ――。


 チャプチャプッ。

 ベル「はえ?」


 突如、ルーナの身体が最初はぼんやりと、だが徐々に青く光り始める。

 朝方にも起きた、あの浄化の光だった。


 ルーナの体を中心に水面に波紋が何度も走り広がる。


 モード「まぁっ、これは下水道の時の」

 ゼラ「んもむぉおおお!」

 レックス「ルーナ様!?」

 ダロム「なっ、なんと強い治療魔術の光!」

 モード(浄化ですけどネ)


 外の明かりが底の穴から漏れ出て部屋を幻想的に照らしているとはいえ、薄暗い部屋を、まばゆい青い浄化の光がほとばしり明るく照らした。


 子蟹「キイイイイイッ!?」


 読んでくださりありがとうございます。

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