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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
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110話 怪しい水

 モード「また水ですかぁ?」


 彼女は小さな鼻の辺りにしわを寄せて露骨に嫌がった。



 ゼラ「しかも蟹の卵ですかあれ? ってここ巣じゃないの!?」


 ベル「わぁ~あの酸っぱい色したプチプチきれいだねっ、蟹の卵なの? おいしそう!」

 声を潜ませるのを忘れた彼女の声が広い部屋中に響き渡る。


 蟹がたくさんいる。

 あっという間に近くのは隠れた。


 レックス「おお、高級食材の宝庫ジャ!」


 ダロム「(オレンジのことでシょうか?)メスが産み隠スという“赤玉”がこんなにっ? ぬ、慌てるなレックス、もはや戦利品は皆の鞄に入らぬのだ」

 まるで、自分を落ち着かせるように言ったな。


 レックス「これが奥地の厳シサということなのかっ!?」

 モード「うーん、持って帰りたいですネ、他に何か出して置いとけるものは……」

 彼女は懐を覗き始めた。

 ふむ? 希少、だということかな。


 ベル「へー、おいしそうだね! あと、赤なの?」

 ゼラ「え? いやベルちゃん、似たような感じって意味で大体でそう呼んでるんだよ」


 鮫の巨大な牙を一本取り出し横の廊下に立てかけたモード、卵を取ろうと皆で部屋に入ったその時だった。


 モードは少し高揚、していたものの、慎重に警戒しつつ、さっきの浅瀬よりも浅い、くるぶしぐらいまで沈んだ廊下を歩み始めたが……。

「!」


 なんだ!?


 突然、何か、膜のようなものが広がって来て、皆を通り過ぎた。

 その途端、皆足を止め茫然と立ち尽くした。


 パシャンッ。

 突然、浮かべていた水球が制御、を失い、水に戻って落ちたぞ。


 ベル「? クモの巣突っ込んじゃった?」

 私とベル以外は無事だ。

 何だ?


 他の皆は棒立ちで口を半開きにして立っている。

 寝てるのでも気絶してるのでもない。

 手に持つ槍は握ったままだった。


 ペチペチ。

 ベル「あれ? レックス?」

 彼女が乗っかっている頭の上から彼を叩いて呼ぶが、反応しない。

 レックス「……」


 寝起きの時みたいにぼけっとしていて、目覚めないな。


 その何故か変な膜が通った時、私達だけ何ともなかったのだった。


「?」

 何か魔法をかけられた?

 抵抗とか耐性で耐えたのだろうか。

 今のは、攻撃だったのか?


 それをやった見えない奴が、向こうの水の中から顔を出すようにしてそこから何かしたのを感じていた。


「よくわからんが、攻撃するなら容赦はしないぞ」


 ???《よそもの、はいってきた、ゆるさない、うごけるのもゆるさないの》


 女の声だ。

 それは水の中に潜んでずっとこちらをうかがっていた。

 怯えと驚きと、警戒の意志を感じる。


 それと寂しげな、長い長い時間の揺らめきを感じていた。

 まるでエルフのセレナールのような深い緑色の眼のような、だがそれよりも永い揺らめきを。


 感じるその多様さから、魔物ではないと思っていたが、どうもナワバリに入ったことで怒ったようだな。


「おばちゃん誰? カニっぽいね? あたしベルだよ!」

 平気で話しかけている。

 彼女は周りと私と自分に驚くも、声のする方を見てそう言った。


 私が驚いたのは、女から魔力を全く感じないことだ。


 そしてそいつは、姿が見えなかった。

 目の前の沈んだ階段の空中あたりの位置の水面に浮かんでいる。


 波紋も出てるが、正体が透明スライムみたいに見えない。


 声や響きで人の女だと感じるが、妙に歪な感じがする。


 だが、蟹っぽい?

 ベルはいつも不思議だから、もしかしたら見えているのかもしれないが……。


 チャプ。

 更には、段々と水が高くなってきていた。

 もう、膝まで上がって来ている。


 女の仕業だろうな。


 ???《ふーけ、ずっとかにといっしょ、だからそうなったの》

 シャキン。

 ? フーケと言う謎の女の居るらしき場所から鋏のような音がした。


 ズズズズン。

 む、背後の彫刻扉が勝手に動いて閉じ込められたな。

 女の仕業か? それとも時間がたつと勝手に閉じるのだろうか。


 彼女に何かしようとするなら、即座に弓で射殺す。

 ケープに隠れ見えないように、更に手の内に出現させたミスリルの矢に魔力を籠める。


 フーケ《ようせいはゆるす、ねずみと、とかげと、おおとかげと、にんげん? もどきは、ゆるさないの》

 なに?


 チャプ、チャプ……。


 こちらに来た。

 水中階段に着地するようにして手を搔き泳いで近付いて来るのが水の揺れや気配でわかる。


 フーケ《みえているぞうごけるえるふ、えるふ? ……えるふもどきも、ゆるさないの》


 なにやらエルフかどうか疑われてしまったようだ。


 フーケとやらは私のその手の部分を明らかに見ているな。

 視線を感じる。

 バレている? ……魔力を見てる?


 はっ、セレナールのような魔力を見る魔眼か?


 チャプ。

 むっ、フーケが手を私の握る矢の方へ向けた。


「!?」

 その途端、手だけが痺れたように動かしにくくなった。


 キン。

 水中へと手から零れ落ち沈んでったミスリル矢の金属音が、廊下に落ちた音をわずかに響かせた。


 ベル「ねぇ、みんな仲間だよ? 何もしないよ? もう“おまじない”かけないで」

 彼女も上がってくる水と沈みゆく皆を見て表情を硬くし、いつもより強く言い始めた。


 ザワザワ……。

 む、穴の奥から蟹たちが騒めいているな。

 なんとなく彼女に語りかけている様に聞こえる。


 フーケ《……うそだ、ふーけはみずをよごしたり、かにをころしたりする、よそものたちをゆるさない、いっしょのようせいのことはしんじないの》


《かにたちがおぼえてる、そこのとかげたちはまえにも、たくさんころしたの》

 ダロムのメイスを指さしたな。


《ようせいはもりにかえっていい、ほかのはかにのごはんにするの》


 蟹を倒したのを怒ってるのか。

 これらは蟹の卵だから、彼女は蟹を守っているのかもしれない。

 水を汚したのはスライムなんだが、辿ってみると、原因は人間だな、納得がいく。


 しかし不思議な声だな。

 どうもさっきから彼女、しゃべる声とは別に、何か別の音を出し続けている気がする。

 かなり聞こえずらいが……。


 ベル「嘘じゃないもん! やめないとあたし怒るよ?」

 レックスから飛び立ち、前に出て来た。


 トプンッ、チャプンッ。

 水が腰まで来た。

 一番低いモードの顔の位置だ。


 まずいな、彼女が溺れる。


 待て、ベルは許す?


「私達は外に出たいだけだ、通してくれれば何もしない」


 途端、水がかすかに遅くなった。

 フーケの纏う感じにも変化が起きたな。


 今、首を傾げた気がする。


 モードがまどろんだままだが、苦しそうに顔を上げて今は鼻しか出てない。


 フーケ《たべられたくない、とおりたい、そとにでたい、わがままで、かってで、にんげんたちなの》

 水の揺らめきが周囲を回る。

 透明な彼女はぐるりと私の周りを泳ぎ周りそう言う。


 完全に間合いに入ってるから、今なら斬ることができるな。

 ケープがちゃんと動いて剣を出せたらだが。


 腰上に上がった水にケープがプカプカ浮かんでしまっている。


 どうもこの操られている水は、ただの水じゃない気がする。

 薄く、見えない、様な魔力をわずかに感じるのだ。


 私はさっきから水球を作れなくなっていた。

 この場の水全てが、フーケのもののようだ。


 セレナールが魔力で操る水を魔水と言っていた気がするが……。

 矢に込めた魔力はフーケが手を向けた際に、乱れて水に溶けてしまった。


 ベル「しょうがないなぁ、じゃあ、蟹のお肉返すよ……」

 残念そうに彼女はそう言ってモードのところへゆく。


《そんなのいらない》

 共食いになるからだろうか。


 フーケは近くの蟹の卵の粒を一つ取って食べた。

 まるで勝手に浮かび上がって消えたように見えた。


 彼女が食べるのは良いのか?

 周囲の穴の奥に潜んでいる蟹たちの気配には、特に何も変化を感じなかった。

 ただ、彼女のすぐ近くに潜む小さな生き物が驚くような意志をわずかに感じた。


「鮫の肉はどうだ?」


 ギギギギ……。

 穴の奥から蟹たちの声が聞こえるな。


 鮫の肉をおいしく食べているような感覚を覚えた。

 蟹たちの意志か何かだろうか。


 ああ、すでに鮫は、勝手に食べているのかもしれない。


《いらない、そとにたくさんあるから、えるふもどきのほうがおいしそう、めがいいな、ふふふ》

 目? 私? 人を食うのか?


 ベル「眼? だめーそんなのっ、だめだよルーナ!」


 モードの鼻がスピスピいって苦しそうだ。

 もう限界だな。


「私の眼か? 髪の毛――いや、爪じゃだめか? 後、水をそろそろ止めてくれないか? 仲間が溺れる」


 道具屋でアリエスタがやっていた、値切るというやつをやってみた。


 一瞬、ソニーの怒った顔が浮かんだので、水に揺れているまとまった長髪を触って見せた、その指の爪に眼がいったので聞いてみた。


 でなければ、もう戦うしかないな。

 なんとなくだが戦士じゃなく、魔法しか使わないような気がする。


 ベル「爪ー? ならいっか」


 チャプン。

 すると、聞いてくれたのか、水が完全に止まった。

 モードは無事だ。


《それでいいよ、ちかいをするよ》

 

 誓いだと?


「……ああ、何もしないと剣、このナイフに誓おう」

 この時点で私は戦わないことを決意した。


《ふふふ、つるぎじゃだめ》

 駄目?


 チャプ。


 むっ、姿を現したぞ。


 丁度私の前に回って来た時だった。


 透明な姿から、アリエスタの変化の様に変化して、半裸の少女が姿を現した。


 肌は青白く、この部屋の青緑の光の中では更に青く、身体は冷えてそうだな。

 その整った顔にはい長髪が顔に濡れ垂れてくっついていて、紫の唇に入っている。

 奥から揺らめきに光る眼は、今まで見たことのない紫だった。


 頭の上に乗っかっているのは子蟹だろうか? あっ、髪の中に隠れた。


 手足の爪が鋭く、そして漁師達の一族のように指の間にヒレが付いていた。

 変化が完全に溶けてないのか、元々なのかわからないが、指先がスライムみたいに半透明で透けている。


 体の一部が蟹のような甲羅と、左手が蟹の鋏と手の合いの子の様になっていた。

 さっきの挟む音はアレか。

 カニと一緒だからなったとか言っていた気がしたが……。


 ベルはこの姿が見えていたのか? 見事だ。


 服は網と、水草で出来ているものを胴体に巻き付けていた。

 腰巻に遺跡と同じような感じの作りをした古そうなナイフをむき出しで下げている。


 そして、僅かに変化の際、魔力を感じたが、なんと、巨大鮫よりも魔力が巨大だった。

 それがすぐに消えてわからなくなったのが、恐ろしい技だな。

 こちらを見てずっと暗い感じで笑っている。


「こんにちはフーケ、私はルーナだ」

「あたしはベルだよっ、街の向こうの森から来たの!」


《ふぅん、こんにちはるーなとべる、あたしはふーけなの、ねぇ、つめをちょうだい》


 興味深そうに泳ぎ、こちらに手を出して近付いて来た。


 すると、右手が勝手に動いて、中指を差し出してしまった。

 動かそうと思えば逆らえそうだが、黙って従う。


 どうも水を操っているようだ。


 この爪でいいのか?


 指先まで来て私の手を撫でるように冷たい指が這って持つと、フーケは突然、中指の爪をかじり、引っこ抜いた。

「っ」


 ブチリッ。


 ベル「うわっ……痛い?」

「少しな」

 あと、指まで食いちぎるかと思ったぞ。

 歯は鋭いようだ。


 一体何の種族なのだろうか? 耳は私の様に尖っているな、何かのハーフなのだろうか? それとも、ベルと近い種族なのだろうか?


《……》

 フーケは少し血の付いた爪を唇に咥えたまま、ゆっくり手足をゆらしてその場に無表情で浮かんでいるな。


 わずかに爪から唇へ血が滴っている。


 彼女は紫の唇から下たる真っ赤な血を指で拭い取り見つめた後で、私を見ながら爪と一緒に口に指ごと含んだ。


 私も、爪のなくなって血のにじむ中指を口の中に咥えていた。

 唾を付けときゃ治るっ、とガストンがよく言っていたからな。


 ベル「ちゅぱ、また生えてくるかな?」

 彼女も何故か真似をして指をくわえて見ていた。


《……あ、あああ、ああああっ!》


 突然、目を見開いてフーケが水を弾いて全身を震わせた。


「どうした?」


 レックス「……!?」

 ダロム「……うぅ」

 ゼラ「……はっ!? な!? 半裸の美女がっ!?」

 モード「……ブハッ! ゴホッ! ゴホッ! ~っ!?」


 あれ、皆が目覚めたぞ。


 読んでくださりありがとうございます。

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