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竜眼のハーフエルフ  作者: 二砂音
二章 湖の街編
110/133

106話 洞窟1 鱗

 ――スイレーン湖上――


 バサッバサッ。

『ったく俺が付いて行きゃさっさと始末できてたのによぉ……』

 ガストン「そうだな、頑張れアリエスタ、よくやってるぞお前さんは。ほら、もう港が見えて来たぞ」

 ビクター「頑張れーアリエスタさん」

 ソニー「先輩、がんばっ――ふわぁ~ってくらさい」

『おいっ、なんかだんだん投げやりになって来てない?』


 ぼやくアリエスタへ話し相手か励ますかするガストン。

 

 大鷲に変化した彼は、鳥の足とゴミの寄せ集めの様な即席のいかだを縄で繋ぎ引っぱり飛び、上に乗る皆を港へと運んでいた。


 元気な蜥蜴族の漁師達は背後から押し泳ぎ手伝っていた。


 バサアッ、バサアッ。


『おーい、港に着いたぞお前らぁ! 有難く思えよ! ったく、さっさと置いて、あいつを探さねえと……』


 無意識に彼は焦っていた。

 ルーナにかばわれ大怪我する彼女を見てから、“自責の念”を抱き始めていたのだ。


 この自信家の自称天才魔術士のハーフリングの青年は、功を焦った己にいらだっていた。


 失敗と借りを取り戻そうとするかのように勝手に早期の捜索と合流をしようと帰路を急いでいた。


 行方不明者が多い為、ほぼ捜索が開始されるだろうと踏んでいた。

 

 チャック「あっ、港だ! ひゃっほうっ、生きて帰って来たぜい! おい起きろラプトっ」

 ジャパァッ。

 ラプト「んぁ? 着いたのか? ……いや、お前が邪魔で見えねえんだけど」

 彼は先輩漁師達と共に泳ぎ押しながら、起用に眠っていた。


 ガストン「襲撃もなしにやっと着いたな。あれ? 守護隊長が出迎えかよ」


 ビクター「池鰐の匂いでも残ってたんですかね? 守護隊ですか?」

 ソニー「え? どこお兄ちゃん……あっ、あの鎧の人達かな?」


 チャック「守護隊長? レガリアさんが来てるってよぃラプト!」

「げっ! 親父が!?」


 ガストンと兄妹「「は? おやじ!?」」


 レガリア「……おーいっ無事かー?」

 港の人々「おい帰って来たゾ!」「一体何があったんだ!?」「船がバラバラジャねえか!」「エンジンは沈んでねえねえだろうな!?」「あの引っ張ってる鳥、魔物ジャねえのか?」「若頭が見当たらねえゾ」「姉サんもだ!」「ルーナ様ー?」「ノーデント卿もいないゾ?」

「モード様!? モード様ー!?」


 レガリア率いる衛兵守護隊が崩落現場が落ち着いたのかこちらへ来ていた。


 騒ぎになる港は、持ち帰った湖の汚染の原因とそれを解決する方法で沸きに沸いてさらに賑やかになった。


 港の者達「なんだあの小僧!?」「鷲がハーフリングになったぞ!」「魔術士か?」


 レガリア「おいっ説明シてもらえるんだろうな?」

 ガストン「わかってるって、とりあえず一服させてくれ、うぅ、丘は最高だぜぇ~」


 ドサァッ。

 ソニー「い、生きて帰れたぁ」

 ビクター「あはは」

「ルーナさぁん、ベルちゃん……」


 港に帰還した一行が事情を話す中で、重要な人物達が奥地へ消えた為、急遽レガリアの判断で騎馬隊を編成し、比較的安全な陸路で奥地へとそのまま向かうことになるのであった。


 レガリア「スぐに荷馬の背を空けろっ、冒険者が乗る分を確保シろっ! 急げ! ルーナ様達の捜索が最優先だ!」


 ガストン「おう、陸路なら大歓迎だぜ」

 ビクター「また出遅れる前に、合流しなきゃ!」

 ソニー「で、でも奥地っていったって、見つかるかなぁ?」


「ああ、ずっと水ん中にいるわけじゃあるまいし、怖さは重々承知だろ?」

 なるほどであった。


 まさか更に奥底に潜っていったことなど知る由もなかった。


 アリエスタ「さっさと行こうぜ! ボヤボヤしてるとまたあいつ、無茶して獲物を横取りするからな!」

 そう言いながら、彼は鮫の一部らしい素材を、ローブに取り付けていた。


 ビクター「うん!」


 ソニー「うふふ、そうですよねっ、先、輩っ」

「あん? 何ヨその言い方?」

「なんでもないでーす」


 ラプト「今度はお、奥地だとよ? 心配とかジャないんだ!?」

 チャック「オイラは行かねぇからな!」


 そんな皆の上空を、青い鳥が飛んでいた。



 ――洞窟――


 ブルブルブルッ。


 モード「やれやれ、びしょびしょですネ。レックスさん、彼女の背中を見せてください」


 ザバァッ。

「元々破損シていた所へ、鰐の牙が傷つけたようでス」

 ルーナを助け抱いたまま振り向いた彼は、慎重に彼女を動かし背をモードに見せる。


 ザバッザバッ。

 ゼラ「はぁ、はぁ、っ魔法薬なら俺のを!」

 鞄から衛兵団の支給品を取り出して彼女に手渡す。

 モード「感謝します、ゼラ様」


 横倒れる瀕死の巨大鮫から離れ、半ば浅瀬に浸りつつも近くの岸辺に辿りつき上がった彼らは、早々にルーナの治療を急いだ。


 ベル「ルーナ! ルーナ!」

 レックス「ルーナ様! お気を確かに!」


 ダロムはこちらを気にしつつも背を向け、まだ生きている鮫を警戒していた。


「……ぅ……」

 レックスに抱えられ、下半身の半ばを水に浸かっているルーナの背中は血にぐっしょりと染まり、流れ落ちる血の雫がポタリと水面に落ちた。


 キュポンッ。

 トクトクトク……。


 モードが魔法薬の蓋を開け背中の傷跡へゆっくりとかける。


「? レックスさん、彼女の口を開いてくださいネ(背中に妙な痣がありますネ)」

「はっ」


 ベル「ルーナ飲んで? どう? おいしい?」


 ゼラ「……ベルちゃん、ポーションはすごく苦いんだからね」

「うわぁ、ルーナかわいそう! 頑張って!」


 ポチャンッ。

 モード「?」

 半分までかけ、残りを全て飲まそうと考えていた彼女は妙なことに気が付く。


 魔法薬の半分をかけ終わる前に、すでに肉を割いた大きな裂傷れっしょうふさがりつつあったのだ。


 薬は何故かそれを完治させることに効いていた。


 これは、体内に薬液を含ませて“しばらくした後に”起こるはずの、魔法薬の通常の治療結果であった。


 ゼラは心配しつつも、瑞々しく美しい少女の唇に流し込まれる赤い液体と、わずかに口の端から零れ頬を伝る煌めきを、惚れ惚れと凝視していた。

 頬は赤みがさし、目覚める予兆を感じさせたのもあったからだ。


 モード「……少しだけにして、残しておきましょうかネ。皆さん薬はいくつありますか?」

 キュッ。

 魔法薬は半分と少し減った状態で残し、ゼラに返すモード。


 治療魔法を持たない、ローグと防御魔術専門の、冒険者組合の実務的なトップでもあるこの冷静な女性は、これから先の生存方法を模索もさくしていた。


 未だここは危険地帯、モッカ湖の奥地であった。。


 ゼラ「他のは下水道で猫幼女に使ったんで、もうないですね。あっ、薬草がありました、古いやつですけど」

 衛兵団の支給品と思しき小型の鞄から水を落としながら、底の方に枯れかけた葉の束を彼は見つけた。

 レックス「儂は非常用の丸薬と、後は塗り薬くらいシか……」


 ダロム「……恥ズかシながら、私は持ち合わセておりまセぬ、面目ない」

 離れたところから彼が背中越しにそう答えた。


 ゼラ「いやいや、ダロムは御者だし、お使いで港に来ただけでしょ? しょうがないですよ」


 何やら、薬、の話をしてるな……。

 薬なら、鞄に……。


「ルーナ! ルーナ起きて!」

 ゼラ「ベルちゃん、鮫もいるからもう少し静かにね」


「……う……ん」


 魔法薬が血を洗い流し、皮鎧の破損部から完治した白い背が、差し込む光にあらわになった時、それは皆の視界に見えた。


 レックス「!? も、モード様、ル、ルーナ様の背中にっ」

 モード「はい? 部下からは痣があると聞いてますけどネ? あらら?」

 ゼラ「え? これって……」


 ダロム「うん?」

 妙な様子に流石に気になり彼女の方へ振りむいた、丁度その時だった。



 巨大池鮫「……」

「……」


 ルーナの覚醒と、怪物が餌の匂いを嗅ぎつけ飢えと共に意識を目覚めさせたのはほぼ同時だった。


 それは、何ゆえの理由か、彼女の感覚の鋭さゆえか、感じる殺気と感情と、回復し強く巡った魔力のなせる業だったかもしれない。


 鮫は弱ってるように見える今が一番危険、レックスがそう言っていた。


 ――「ハッ!」


 ヴンッ!


 レックスの腕の中で飛び起きた彼女は瞬時に銛を構えながらレックスの顔面を掴み、肩を再び踏み台のようにして、背後にこちらを振り向くダロムに飛んだ。

 一同「「うわ――!?」」

 ダンッ!


 ザバアアアアッ!!


 その向こうから、巨大な鮫が水を弾き飛ばしながら飛び起きるようにして身をひねり、巨大な口を開き彼に食いつこうとしていたのと同時だった。

 ――ダロム「っ!!」


 一同「「なっ――」」


 足りないっ、魔力を込めるのが。

 だがっ!


 ルーナは最低限に魔力を貯め銛を投げようとしたが、鮫を止めることはできそうにないと瞬時に察した。


 ダロム「のおっ――」

 そして咄嗟《咄嗟》に銛の返しを利用し、伸ばした槍にダロムを引っかけ、入れ替わるようにして彼に食らいつく牙からのけた。


 ゼラ「ルーナさ――」


 ドオオンッ!

 ――レックス「ガアアッ!」


 グジュッ!


 そこへなんと、レックスが足場を粉砕するかの如く弾け飛び出し、ルーナに降りかかる牙より上に飛び上がって、自らを盾としたのであった。

「グゴブッ!」


 ダロム「レエエックスゥ!」

 彼も遅れて片腕に持つメイスを、ルーナを突き刺し上げんとする鮫の下顎向けて叩き下ろした。

 バガアアアアアンッ!


 巨大鮫「ッボオオオォッ!」


 ヴオンッ!

 モード「――風壁!」

 彼女は遅れて、レックスの強靭な体表の鱗を砕き肉を貫こうと更にめり込むその巨大な歯と肉体の間に、風の防護を展開する。


 バキッ。

「っく、ガアアアア!!」

 返す銛を構え、魔力が爆発的にそれに籠った時、銛の刃に亀裂が僅かに走った。


 そして構わずに――。


 ビシュウウッ!!


 それはブラストタートルの水の放出の様な分射線のように、巨大鮫の喉奥へと吸い込まれるように線を描いて消えていった。


 水と風をまき散らすようにほとばしらせて。


 ブバドガアアアアアアアアンッ!

!

 そして貫通し、巨大鮫の背中から飛び出て、岩壁を砕いて消えたのであった。


 ゼラ「旦那っ! ぐえ」

 ズブウッ。

 咄嗟に彼が飛び出して上顎の牙に刺さるレックスを引っ張り抜き戻し、そのまま巨体が倒れ覆い被さり、地面に挟まれた。


 ドオオオオンッ!


 ザバアアアアンンッ。


 巨大鮫「ォォ……――――」


 喉奥の向こう側が見える穴が開いた巨大鮫が、力を失いその巨体を、今度こそ永遠に横たえた。


「「おおおお!」」「仕留めたゾ!」


 モード「……」

 彼女はルーナの鎧の破れた背中を見ていた。

 そして、次にゼラを下敷きにして倒れる、鮫の噛み跡に血を流すレックスの外皮の鱗を見た。

 治療しないと、魔法薬を残しておいてよかったと考えながらも、冷静な彼女はぐるぐると考えに囚われていた。


 おかしい、彼女はおかしいことがあり過ぎる。


 肩を上下に激しく息を上げる剛腕の片腕のダロムの鱗も見る。

 もがいて砂場から出ようと苦渋の顔のゼラの目元のわずかな鱗も見る。


 同じ鱗だ。


 ベル「やったー! 倒したー! お肉たくさーん!」


 最後にまたルーナというハーフエルフの娘の背中を見た。


 報告では幻の竜人族の血ではないかと守護隊から聞いている、不思議なエルフの少女。


 何故かセレナール様より高貴な雰囲気を持っていた。

 蜥蜴族達の崇拝ぶり、エルフに対してのいつものあれ。

 少々熱を入れ過ぎだと感じていたが無視してきた。


 おかしい。


 そこにある小さな数枚のそれは、痣でも、蜥蜴族の鱗でもなかった。

 そう、まるで鱗鎧、スケイルメイルのようにキラキラと光沢がある。


 おかしい、彼女の竜の様な眼もそうだ。


 けれど、その鱗は竜とも違った。


 それは禁域の主たる恐ろしい竜の鱗でもなかった。


 まるで神話に、伝説に、噂に目撃される、おとぎ話の“古代龍”の様な、金属の鱗だった。


 その力を、魔力を籠めて槍を投げて巨大鮫を貫通し、岩壁に穴を開けた稀有けうな技も滅多にないものであった。


 他の者達もばっちりと気が付き、あんぐりと口を開けて見てしまっていた。


(うーん、見なかったことにしたいですネ)

 彼女は思考を放棄した。他にもやることは山積みだ。


 ベル「やったねルーナ! すごいすごい!」


「……ベル」

 今、私は何をした?

 夢中で槍を投げたが、効き過ぎている。

 咄嗟に魔力を籠め過ぎて、変な音がしていた。


 土砂煙が落ち着いた向こうの壁穴を見ると、めり込んだ槍の、少しだけ突き出ていた柄が丁度、バキンと音をたて落ちていくところだった。


 刃と柄の継ぎ目でも折れたのだろうか、穂先のない、巻かれた赤い布だけが見えて砂辺に落ちていった。

 よい槍、いや銛だった。


 鮫を見ると、何も聞こえてこないし気配も魔力も感じない。

 横たわる巨大鮫は完全に死んでいるようだ。

 魔石を砕いたのだろうか?


 ここはどこだ?

 池鰐は!?


 背中の怪我が、痛くない?


 うっすらと、意識の中で、空気のある場所にたどり着いたような感じはしていたが……外? いや、洞窟の中の浜辺か。

 水中に大きな出入口らしき穴がある。


 あと、口の中が苦いんだが。

 様子を見るに、魔法薬を飲ませてくれたのか。


 ついでに水球を作り出して浮かべる。

 もうわずかな魔力で指を動かすように簡単にできるようになってきた。

 どんどん大きくしよう。



 ベル「レックスへーきかな?」

 そうだ!


 皆は無事か?

 彼は大丈夫か。


「ダロム平気か、レックス!」

 ザッ。


 見ると、私を守ろうと飛び出した彼が酷い傷を負っていた。

 

 ダロム「おいレックスっ、シっかりシろ!」

 レックス「……ウゥ、こ、この程度」


 彼の大きな硬い表皮の背中を、幾つもの歯傷がをえぐっていた。

 何故か下にゼラが挟まれてもがいている。


 モード「残しておいてよかったですネ」

 丁度彼女が魔法薬をかけていた。

 

 血が止まった。

 僅かに奥から傷が塞がって行くが、治療魔法と違って完全に塞がらないようだ。

 跡が残っている。


 ゼラ「ひぇ~旦那は重いのなんの……はっ、ルーナさんすごかったですね今の!」

 レックスは片膝をつきつつもなんとか起き上がる。

「失礼、ノーデント卿、ソシて魔法薬を使っていただき感謝いたシまス」


 モード「もうこれで終わりですネ、半分は飲んじゃってください、もう皆さん大怪我しないで下さいネ?」


 レックス「ふぅ、ルーナ様、大変見事な投擲でシた」


「レックスもありがとう、助かった、皆よく戦った……あと、私も背中をやられたはずだが」

 鋼鉄製の胸板が横に割けるように亀裂が入っているのを触り、背中の破れた皮鎧も触ってみるが、背中の大けがが全然なかった。


 モード「今使ってたのの半分を、あなたに使用してたんですよ」

 ゼラ「こほんっ、それ……僕の魔法薬なんですよね」

 そうなのか。

 モード「……衛兵団の支給品ですけどネ」


「でもホント、滅茶苦茶重傷だったんですよ? 団のポーションがあってよかったですよほんと」

「ありがとうゼラ」

「いやいやいや~、全然かまわないんですよぉ~? ウフフフ」


 モード(……治りも滅茶苦茶早いですけどネ)


 指に触れるこれは、薬と、僅かに甘い匂い? 鼻の奥がツンとする。

 レックスにかけていた魔法薬と同じ匂いだ。


 舐めて見るととても苦かった、それにヒリヒリする。

 ベル「苦い?」

 苦そうな顔をしながら聞いてきた。

「マズい」


 ベル「ふーん、ねぇねぇ、サメはおいしいかなー? 全部は持ってけないんだよね?」

「そうだな」

 おいしいところだけ持って帰ろう。


 ……どうやって帰るんだろうか?


 む、ざわめきを感じる。

 この岸、奥が薄暗いが、何かいるな。

 ん? あの岩壁、何だか……。



 ダロム「気が付いたかレックス」

 彼はルーナに気付かれぬようにレックスやゼラ達に目配せして彼女の背中を視線で訴える。


 レックス「……モード様、ひょっとシて、魔法袋をお持ちでスか? ならば布切れか何かで」

 モード「……ええ、よくお気付きで、どうぞ」


 ダロム「寄こセレックス、いいから先に魔法薬を飲め」

「わかっているわい」

 飲んでおけと言われた残りの魔法薬を持ち上げ、落とすように彼が飲む。


 ダロム「……ルーナ様、背中が開いておりまスゆえ、気休めでスがこちらで締めて差シ上げまシょう」

 む?


 見ると、割と丈夫そうな厚手の布だな。

「ん? ありがとうダロム」

「いえ、失礼シまス」

 ゼラ「あっダロム、俺が巻きま――あぁ~出遅れた」


 シュルシュル……。

 手を上げて、大人しく布井を胴体に巻いてもらう、ちょっと奥が気になってそれどころじゃなかった。


 それにこの岸辺、どうもざわざわしている。

何もないのに、そこら中から、とても静かに、何かが囁き合っている……。


 ゼラ「ルーナさんどうかしましたか?」


「……何か居るぞこの岸」

 モード「え?」

 エルフの娘が警戒した表情で見る奥の岩壁を振り向く。


 その時、岸の奥の暗がりに集中し過ぎていて、足元を注意していなかった。


 連中は浅瀬にも居たのだ。


 ザバアッ!


 丁度、レックスとダロム、ゼラにモードも注意が向いていなかった。

 浅瀬は静かで広く、暖かい光が唯一射しこんでいる一行の居る一帯は、恐るべき水中の脅威とは無縁であったのが油断を誘ったのだろうか。


 その砂の中が急に盛り上がるように膨らみ、大きな牙の様な二対の刃が飛び出し、魔法薬を飲み干し瓶を空にしたレックスの腕辺りを挟もうとした。


 その線上に、たまたまベルも飛んでいた。


 ガチイィィンッ!!


 ベル「ぐえっ」


 レックス「うぐっ!?」


 それは大きな鋏だった。

 彼の巨体を挟むほどではないが、分厚い肩と腕に食い込んだ。

 だが、それは彼の腕を断ち切ることなく、浅くで止まった。


 ボチャンッ。

 急激に揺れ水が跳ねる浅瀬の水に空瓶が落ち跳ねる。


 何故なら、先の方が細く、先に閉まってしかも途中で止まったからだ。

 ベルの胴体を挟んで。

 ィィィィンッ。


 魔法障壁がまるで魔力を籠めたミスリルの矢のような甲高い高音を立てる。

 王蜜蜂女王の顎を特殊加工した街一番の強度を誇ると言う胸当てが、見事に鋏を止めていた。


 その鋏とほぼ同時に、ルーナとダロムの傍にも砂が盛り上がり、鋏が飛び出す。

 ガシィッ!


 だが、ルーナが上げていた両腕にたまたま鋏が閉じて来たので、見事に食い止められ抑えられた。


 ダロムは屈んで布を巻いていた為無事であった。


 ゼラ「!? なっ!」

 モード「鋏? 蟹?」


 ザバアザバアザバアアアッ!


 立て続けに浅瀬の砂が盛り上がり、レックスぐらいの巨体の蟹が、次々と砂の中から現れたのであった。


 読んでくださりありがとうございます。

 痣の正体がわかってきました。

 そして痣は初期の頃とはどうも違っているようです。

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